世界で一番幸せな呪い

一字句

文字の大きさ
33 / 54
2章:贋作は真作足りえるか

誤算

しおりを挟む
屋敷内部の様子は、外から見た時のような不穏な様子はなく、いたって普通の富豪の屋敷であった。特質する点と言えば、人物を描いた絵画が多く飾られているという点ぐらいであろう。

「ほぅ、これはまた立派な絵画だねぇ」

アリスは広間に飾られている絵画を見ながら感嘆の声を上げた。トゥーラはふふふと上品に笑うと

「お褒めの言葉ありがとう。この子たちはね、私にとって命と同じくらい大切な物なんですのよ」

トゥーリは絵画のことをこの子たちと呼び、愛おしげに眺めていた。

「それにしても、どの絵もどことなくもの悲しい雰囲気ですね」

クロウは絵画たちを見た率直な感想を述べた。アリスはそう感じなかったようで、そうかい?といった。トゥーリは少し驚いたような顔をした。

「良くお分かりですね。この屋敷に飾られている絵はすべて“憂い”をモチーフにしたものなんですのよ。ええと・・・、クロウさんと言いましたか。何か芸術を嗜んでいらっしゃるのですか?」

クロウは肩をすくめて

「いえ、芸術とは縁遠い生活を送っていたので、たまたまですよ」

「そう、ならきっとあなたは直感が優れているのでしょうね。とてもうらやましいですわ」

そんな世間話をしながら廊下を歩くいていると、大きめの扉が見えてきた。その扉もふちの部分に彫刻が彫られており、この館の主が芸術にこだわっていることがうかがえた。そして、その扉の前にはスーツを身にまとった白髪の老人が立っていた。その人物はトゥーリを見ると、左手を胸に当て、右手を後ろに回し静かに礼をした。その動きはとても洗練されており、その挙動だけでも彼がトゥーリに長年仕えていることが察せられた。トゥーリはくるりと振り返って、クロウ達の方を見て

「ご紹介いたします。私の父の代から長年バティスト家に仕えているネブラです。もし、何か要望があれば、彼に伝えてくだされば、大体のことにはこたえられると思いますわ」

そう紹介された、ネブラという初老の紳士は、一歩前に出て

「只今ご紹介にあずかりました、ネブラと申します。御用の際には遠慮なくお申し付けください」

と彼は言いながら、右手を腹にあて礼をした。一瞬ネブラの青い瞳がクロウとアリスを値踏みするような目で見たのをクロウは見逃さなかった。まぁ、見ず知らずの者たちが突然訪ねてきたのだ、主の心配をするのは当然だろうとクロウは考え、できる限り柔らかい物腰で話そうと決めた。

「それではこちらの応接間でお話ししましょう」

トゥーリは笑顔のまま、応接室と呼ばれる部屋に入っていき、これまた豪奢な彫刻が彫られた椅子に座った。そして、クロウ達も席に着くのを見届けると、小さく手をぱん、と叩いた。すると、部屋の奥の扉から、メイドであるスキアがティーポットやお菓子の乗ったワゴンを押しながら、クロウ達のもとへ来た。

「紅茶でも飲みながらお話ししましょう。何か、好みはありますか?」

そう聞かれたが、何分紅茶などのまないクロウは、お任せしますといった。アリスもそれほど紅茶に興味がないのか任せるといった。トゥーリはほんの少し残念そうな顔をした後、分かりましたと言い、

「スキア、ダージリンを淹れて頂戴」

そうメイドに言うと、彼女は小さい声でかしこまりましたと言い、紅茶を淹れ始めた。数分もすると、蜜のような甘く、華やかな香りがし始めた。スキアはまず、主人であるトゥーリに紅茶を淹れると、体面に座るクロウ達のもとにも紅茶を淹れるべく、テーブルを回ってきた。その時、突然スキアの足元の影が浮き上がり、彼女の足を引っかけた。すると、スキアはバランスを崩し、倒れそうになった。クロウは、すぐさま立ち上がると彼女が倒れる寸前に彼女の体を受け止めた。アリスと同じくらい小柄なだけあって、受け止めた時に重さをほとんどクロウは感じなかった。

「大丈夫か?」

クロウがそう聞くと、スキアはぺこりと頭を下げて謝った。クロウは彼女がどこもけがをしていないのを確認すると、再び椅子に座った。

「うちのメイドがとんだご無礼をしてしまい、申し訳ありません」

とトゥーリもクロウに謝罪した。

「いや、別に大丈夫ですよ。誰にだって失敗はありますしね」

クロウは何でもないような口調でそう言った。

「物覚え自体はとてもいい子なんですけどね、どうもにも魔法の制御ができないらしくて、時たまああいったことになるんですよねぇ」

トゥーリは困ったような笑みを浮かべていった。

「そこのメイド———スキアはエディカスなのかい?」

唐突にアリスが質問をした。

「エディカスっていうと、ふつうの魔法から派生した結構珍しい特殊な能力のことだったか」

「あぁ、よく覚えているね、クロウ。さっき見えた影は普通の魔法にはとても見えなかったからね」

トゥーリは笑みを浮かべながら、ほんの少し誇らしげに言った。

「良くお分かりになりましたね。スキアの能力は影を操る能力で、エディカスの中でもかなり珍しい部類に入ると思いますわ」

「あとで、ちょっと彼女と話させてもらってもいいかい?私自身、少しエディカスには興味があるんだ」

そうアリスが聞くと、ええかまいませんとトゥーリは言った。

「ありがとう。では、そろそろ本題に入らせてもらうとするよ。下手に隠してもしょうがないから、これまでの経緯を話そうと思うんだが、少し長くなりそうだけれど大丈夫かい?」

「ええ、先ほども申しましたように、この屋敷には使用人もほとんどおりませんゆえ、人と話す機会があまりなく、人との会話に恥ずかしながら飢えておりますの。なので、気にせずどんどん話してください」

それを聞くとアリスは、居住まいを正し、真剣な表情で話し始めた。

「私たちは旅をしている最中、この迷いの森付近にある小さな村へと立ち寄ったんだ。そこで、――——」

アリスは要点をかいつまんで、話した。向かいに座るトゥーリはふむふむと、少し楽し気に話を聞いている。淹れてもらった紅茶がぬるくなったころ、アリスはすべてを話し終えた。トゥーリは先ほどとは違い真剣な表情をしつつも、落ち着いた口調で言った。

「なるほど、それでそのティアという女の子を一度村へと連れ帰るために、この屋敷を訪れたということなんですね」

そして、少し考えるそぶりを見せた後、かぶりを振り

「せっかく来ていただいて、すごく申し訳ないんですが、そのティアという女の子はうちでは働いてはいませんわ。もちろん、ここ数年間でその容姿をした女の子がこの屋敷を訪れたことは私の知る限りございません」

トゥーリはそう言いながら、後ろに控えているネブラを見て

「あなたは何か心当たりがあるかしら?」

と聞いたが、ネブラは申し訳なさそうな顔をしていった。

「いえ、お力になれず大変申し訳ありませんが、そのような少女は見たことがありません」

「・・・・勘違いしているということもあるかもしれないから、ここで働く他の者の顔を見せてもらってもいいかい?もちろん、君たちを疑っているわけではなく、こちらが思っている容姿とは変わっている可能性もあるだろう」

アリスがそう食い下がったが、トゥーリは静かに首を振った。

「いいえ、それは万に一つもございませんわ。・・・なぜならこの館に住んでいるのはわたくしと、ネブラ、そしてスキアだけなんですもの」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...