世界で一番幸せな呪い

一字句

文字の大きさ
32 / 54
2章:贋作は真作足りえるか

しおりを挟む
クロウが霧の中を進んでゆくと、ガサガサっという音が前方から聞こえてきた。クロウは、魔物が出てきたのかと身構えながら、草むらを注視した。クロウが目を凝らすと、そこには金色の刺繍がなされた漆黒のドレスを身にまとった少女———アリスがいた。この漆黒の髪には、葉やクモの巣が付いており、けもの道をひたすらに歩いてきたことが、その早々から察せられた。

「おぉ!アリス無事でよかった!」

クロウが笑いながら彼女に声をかけると、アリスは一瞬びくっとしたが、振り返りクロウの顔を確認すると、少しほっとしたような顔をした。

「あぁ、君か。まったく、迷子になるだなんてだらしがないな。もう少しシャキッとしてくれないと困るよ」

アリスは尊大な口調でそう言った。

「いや・・・、どっちかっていうと迷ったのはアリスなのでは?」

ボソッとクロウが言うと、アリスに睨まれたのでクロウは口を閉じた。気を取り直してクロウは

「この道をまっすぐ進むと、礼の館に着くらしいぜ」

クロウがそう言うとアリスは不思議そうな顔をしていった。

「どうしてそんなことがわかるんだい?」

そんなアリスの疑問に対して、クロウは先ほどあったプロメノという女について話した。

するとアリスはとても胡散臭そうな顔をして

「・・・かわいそうに、迷いの森の高濃度の魔素にあてられて、幻覚を見てしまったのか」

といった。

「いやいや、ほんとに見たんだって」

とクロウは反論したが

「魔素を含んだ霧を服どころか、体に一切浴びないだなんて、ありえないよ。それこそ、幽霊ぐらいのもんだろうよ」

とアリスに反論された。それ以上クロウに反論する余地もなく、ぐぬぬと言葉に詰まった。その時、アリスが急に立ち止まった。

「どうしたんだアリス?急に立ち止まって」

「いや・・・、君の見た幻も案外馬鹿にできないなと思ってね」

そう言うアリスの視線は一点に注がれていた。アリスの見ている先を見ると、そこには古めかしい洋館があった。その建物はレンガ造りで、丈夫な作りになっていたが、建てられてかなりの年月が経っているのであろう、建物のいたるところに蔦が張っており、また、ところどころひび割れていた。

「これが、アンネさんの娘さんが奉公に言っていた館で間違いないのか?」

と隣に立つアリスにクロウは思わず尋ねた。

「確かに、思ったよりも古めかしい建物ではあるが、間違いはないだろうさ。こんな辺鄙な場所に館を立てるもの好きがそうそういてたまるかい」

アリスはそう言いながら、不穏な気配のする屋敷にずんずん近づいていった。そして、アリスは大きな扉の玄関の前に立つと、コンコンとノックをした。

 すると数秒後、ギィィというきしむ音と共に、扉が開かれた。そして、中からメイド服姿の女が現れた。その女は、アリスよりも少し年齢が上程度の見た目の、切れ長の目をしている金髪金眼の容姿をしていた。

 その女は、扉を開けた時と同様に、無表情の顔のまま聞いてきた。

「本日は、いかがな御用でしょうか?」

「あぁ、私たちは人探しをしていてね。その人物がこの館で働いているとのうわさを聞いて、尋ねてきたんだ。ところで、君の名前は何というんだい?」

アリスがその質問をしたのも、もっともであった。なぜなら、そのメイド姿の女の容姿はアンネとかぶるところが多々あったためである。

「申し遅れました。私の名前はスキアと申します」

その女は淡々とアリスの質問に答えた。

「君はこの森から東に行ったところにある小さな村の出身だったりするのかい?」

そんなアリスの質問にスキアは首を傾げ

「質問の意図が分かりかねますが、私は幼子の頃親に捨てられ、それ以来、本館の主人に仕えておりますゆえ、出身は分かりかねます」

そんな、スキアの感情のない平坦な声を聴いていると、コツコツとこちらへ歩いてくる足音と共に、扉の奥の方から女の声が聞こえてきた。

「スキア、どちら様がいらしているの?」

そう言って、やってきたのは見た目が30前後の妙齢の婦人であった。その青みがかった紫色の髪は、毎日丹念に手入れをしているのであろう、一般人とは比べ物にならないほど艶めいていた。

「どうやら、人探しをしているようでして、その探し人がこの館で働いているという情報を受け、尋ねてきたようです」

とスキアは事実を淡々と述べた。その女は、クロウとアリスの様子を一瞥すると

「わたくし、本館の主人をしておりますトゥーラ=バティストと申します。どうぞ、気軽にトゥーラと呼んでくださいまし。立ち話もなんですから、お茶でも飲みながらお話ししましょう。何分、こんな辺鄙な場所に館があるものですから、来客も少なく、話し相手を欲していましたの」

トゥーラと名乗る女性は、艶めく紅色の唇に笑みを浮かべながらそう言った。クロウとアリスは案内されるまま、その玄関をくぐり、中へと入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...