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第二章
滲まぬ想い、綴られて
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屋敷の奥、障子で仕切られた静謐な一室──香月流道場の「書の間」は、剣の修練場とは異なる時間が流れていた。凛と張り詰めた空気のなかに、余白の美と静けさが満ちている。
夕暮れの光が障子越しに淡く差し込み、室内に橙色の陰影を落としていた。
文机の前には、直熙が筆を執り、ゆったりとした所作で墨を含ませている。その傍ら、智久が正座し、慎重な手つきで初めての筆に挑んでいた。
ぎこちないながらも誠実な指先。筆先に込められた丁寧さは、真木智久という青年そのものを映しているようだった。
「……息を調えるんだ。呼吸は筆の芯と繋がっている。焦らず、流れに身を任せてみるといい」
直熙の声音は穏やかで、深い静けさを湛えていた。
「はい……えっと、こう、でしょうか……」
そっと筆が半紙に触れる。
細く揺れる線が、たどたどしくも真っ直ぐに、紙面に命を宿すように描かれてゆく。
「うむ、悪くない。……文字は姿ではなく、心を映す。丁寧であろうとする意思が、すでに筆に宿っている」
「……ありがとうございます」
智久の頬がわずかに緩む。微かな照れ笑いに、心からの誠実さが滲んでいた。
──と、そんな静謐な空気を破るように、廊下を歩く足音と、間延びした声が近づいてきた。
「ん? なんやこの部屋……やけに静かやな……」
障子の隙間から顔を覗かせたのは、桐原篤哉だった。
次の瞬間、室内の様子を見て、見開いた目を瞬かせた。
「……な、な、何やお前ら!? 何してんねんっ!? 書道!? 正座!? お行儀よく!? 真木まで!?!?」
真木が目を瞬かせる。直熙は一切動じることなく、淡々と筆を置いた。
「香月家の書の間だ。筆を執る時間があっても、不思議ではあるまい」
「いやいやいやいや! おかしいやろ!? ここ剣術道場やぞ!? いつから“筆道場”に変わったんやっ!?」
畳に突っ伏すように大袈裟に崩れ落ちながら、桐原は肩を震わせる。
「しかも真木っ! お前まで……! そんな真面目な顔で筆握って……なに!? 御影に何か盛られたんか!? 妙薬とか!?」
「えっ、いえ……違います。あの、直熙さんが……その、誘ってくださって……」
「“直熙さん”て……何やその馴染みきった呼び方ぁぁ……!!」
わちゃわちゃと喚く桐原に、直熙が黙って筆を一本差し出した。
「どうせなら、お前も書いていけ。人を笑わせるだけでなく、たまには“己の姿”を筆に映してみるのも悪くない」
「……はあ? アホ言え。俺は筆より刀が性に合っとるんや。こういうのは坊ちゃん剣士の嗜みでな──」
ぶつぶつと文句を言いながらも、どこか照れたように笑い、桐原は筆を受け取った。
「しゃーないなあ……。ここで逃げたら、西の男が泣くっちゅうもんや。ほなまあ、篤哉様の秘技でもお見せしましょか」
冗談めかして言いながら、半紙に向かうと──桐原の表情がすっと静まった。
まるで、仮面を脱ぎ捨てたように。
いつもの軽薄な笑みが消え、指先の動きが研ぎ澄まされたものへと変わる。
眉間に微かな皺。深い呼吸。筆を持つ手は揺るがず、ひと筆、またひと筆と、音もなく線を綴っていく。
──それは、誰もが息を呑むほどに、美しかった。
滲まず、濁らず、筆の運びは淀みなく。
まるで時を止めたような静寂の中、筆先に宿ったものは──威厳、誇り、そして過去の記憶。
何かを語ることなく、ただ一枚の半紙に、彼という存在の片鱗が刻まれていった。
「……」
直熙は目を細め、言葉なく見つめる。
智久もまた、動くこともなく、ただその一筆に見入っていた。
──だが次の瞬間。
「──っとっと! やっべ、手ぇすべったぁ~~!!」
桐原は、わざとらしく墨の器を倒し、墨を見事な筆文字の上に豪快にぶちまけた。
「うわ~~っ!! 誰や! こんな綺麗な字に墨こぼしたんは~~!? 台無しやで!? これは怒られるやつや~~!!」
「……お前だ」
直熙の無表情な一言に、桐原は「あ、せやったわ」と肩をすくめ、へらりと笑って筆を返した。
それ以上、誰も何も言わなかった。
だが確かに、ふたりの眼差しにだけは残っていた。
あの一筆に込められていたもの──仮面の奥にある“真実”と“誇り”を見た者の証が。
ふざけることで己を隠す男。
だが、どれほど笑っていても、決して手を抜かない矜持がそこにはあった。
墨の香がかすかに漂う静けさの中、真木智久はただじっと、篤哉が書き遺した一文字の余韻に、胸を満たされていた。
──驚いた、なんてひと言では到底言い表せない。
普段の彼は、軽妙な冗談と飄々とした笑顔で周囲を煙に巻き、まるで風のように掴みどころのない存在だった。
人懐っこくて、明るくて、誰にでも距離なく接する男。
けれど──あの刹那、筆を取ったその姿はまるで別人だった。
墨を滑らせた筆先に生まれた、わずかな震え。
それすらも未熟さではなく、感情や思念を研ぎ澄ませた末に生まれる、静かな気迫のように見えた。
(……あの人、いったい何者なんだろう)
喉の奥までせり上がったその言葉を、智久は呑み込んだ。
軽口と笑いに覆われたあの仮面が、どこか「踏み込むな」と言っているようで──その先には触れてはならない気がしたのだ。
けれど、それでも確かに感じた。
あの筆跡には、言葉にできない何かが宿っていた。
誰にも明かさぬ憂いの影と、どれだけ覆い隠しても消せない、誇りのようなものが。
(……たぶん、俺なんかじゃ到底追いつけない何かを、あの人は背負ってる)
それでも──と、智久は静かに息を吸った。
(それでも、追いかけてみたいと思った)
彼のようにはなれない。
けれど、自分にしか書けない“何か”が、この手から生まれる日が来るのなら──
その想いが、まだ火種のように小さくても、確かに胸の奥で息づいていた。
ふと隣に目を向ければ、直熙が沈黙のまま、半紙の上に散った墨の跡を見つめていた。
こぼれた墨に隠された下から、かすかに浮かび上がる筆の流れ。
その痕跡を、まるで言葉の代わりに語りかけるかのように、直熙は見逃すことなく読み取ろうとしている。
「……やはり、あの男は只者ではないな」
その声は低く、静かに、けれど確かな確信を帯びていた。
「笑いの仮面を被る者は、時に真実をもっとも巧みに隠す。軽口とは、痛みを覆うための術でもある。
……桐原は、それを“己の武器”として使いこなしている」
智久は反射的に声を漏らした。
「……直熙さんは、桐原さんの“本当の姿”を……わかってるんですか?」
「いいや。わかってなどいない。だが、“そう思わせる”ほどの深みが、あの一筆にはあった。
それだけで十分だ」
直熙の言葉には、感情的な断定ではなく、観察者としての冷静な実感が滲んでいた。
彼はゆっくりと筆を置き、視線を宙に泳がせるように遠くを見る。
「いずれ──あの仮面の下に秘められた“剣”の本質が、白日のもとに晒される日が来るだろう。
そのとき、彼が“誰の味方として立つのか”。それを問われるのは……我々自身だ」
その声音に、強い調子はなかった。
けれど、奥底には“覚悟”に近い静かな決意が宿っていた。
智久はふと、自分の掌を見つめる。
墨を握ったばかりの指先には、まだかすかに震えが残っていた。
書いた文字は頼りなく、未熟なものにすぎない。
けれど──あの一筆に宿った仮面の隙間に、たしかに何かを感じ取った。
その温度が、胸の奥でじんわりと、消えずに残っていた。
◆
──その騒ぎは、つい先ほどまで静寂と余韻に包まれていた書の間の空気を、まさに“吹き飛ばす”かのようにして、突然巻き起こった。
「──きゃああああああっ!!」
それは、香月美織の鋭く透き通った悲鳴。屋敷中に響き渡るその声に、空気が一瞬で凍りつく。
間を置かず、
「うわぁああああっ!? なんやあああっ!!」
今度は桐原篤哉の、裏返った甲高い声が台所の奥から爆ぜた。
突如として交錯した二つの絶叫。それは、誰の耳にもただ事ではない混乱を告げるのに十分すぎるものだった。
屋敷内は瞬時に緊張を帯びる。
縁側を歩いていた香月悠臣は即座に反応し、鯉口に手をかける。
中庭で木刀を振っていた天城朔也は、気配を一気に潜めて身を翻し、
書の間にいた御影直熙も、ほんのわずかに眉を動かしただけで即座に席を立った。
さらに、帰り支度をしていた智久も、抱えていた道着を取り落とし、驚愕と困惑のまま皆の後を追いかける。
男たちが駆けつけた先──そこは、誰もが予想だにしなかった「台所」だった。
立ちのぼる湯気の中、場の中心に立ち尽くしていたのは、腰に手ぬぐい一枚というあられもない姿の桐原篤哉。
その前には、しゃがみ込み、両手で顔を覆った美織が、身を小さく縮こまらせながら震えていた。
「……っっ、ど、どどどどいてくださいっ……っっっ!!」
細い声が、火照った頬の隙間から必死に絞り出される。
耳の先まで真っ赤に染まり、身体を震わせる美織の姿は、もはや限界そのものだった。
一方の桐原は、目を白黒させながら、ぐるぐると視線を彷徨わせていた。
「ち、違うんや! ちゃうねんっ! 俺は風呂行こう思ててな? けど洗い粉が見当たらんくて! ほんで、美織ちゃんにちょっと場所だけ聞こ思て──なんでや!? なんでこんな騒ぎに……!?」
手ぬぐいをぎゅうと握り締め、涙目になりながら必死に訴える。
その言葉には、言い訳でも弁解でもなく、本気で「なんでこんなことに」と困惑する気持ちがにじんでいた。
「桐原……せめて、服を着ろ」
静かに、しかし呆れきったような声が響いた。悠臣の声だった。
その言葉に、桐原はようやく我に返る。
「──あっ……」
視線を自らの腰に落とした瞬間、ようやく“今の自分の姿”に気づく。
「……あ、そら悲鳴も出るわな……」
情けない声で呟きながら、美織に向けかけた視線を慌てて逸らした。
「いやでもな! 兄貴二人おるし! 男所帯の道場やし! 裸の男なんて見慣れてると思てたんや……!」
「そんな格好で屋敷内を歩いた記憶はないな。俺も兄上も」
悠臣は呆れるように息を吐き、眉間に手をやる。
「もし父上がそんな姿で廊下を歩けば──母上に投げ飛ばされて、門前払いだ」
「……うちの母ちゃん、そんな強ないけど!? てか、母上……怖っ……!」
それでもまだ言い訳を探していたのか、桐原は声を上げる。
「美織ちゃんかて、年頃やし! 恋人ぐらい……いてるやろっ!? 恋人の裸ぐらい──」
「やめておけ」
悠臣が即座に遮った。語調はきっぱりとしていて、深いため息が混じる。
「もう何も言うな。墓穴掘るぞ」
「……十五の娘に言う言葉ですか」
直熙が、冷ややかに、しかし静かに呆れを滲ませて言い添えた。
「……えっ? 十五……? まじで? ……嘘やん……」
ようやく自分が放った言葉の非常識さに気づき、桐原はがくんと肩を落とす。
「お前……どういう神経してる」
低く冷えた声が響いたのは、朔也だった。
その手は既に鞘口に添えられ、目は笑っておらず、むしろ静かな怒りと警戒を孕んでいる。
「いやほんまに、これは不可抗力やって! 下心なんて、かけらもなかったんやって!」
「……いっそ、切った方が静かになるのでは」
朔也がぼそりと呟いた言葉に、悠臣が即座に制する。
「朔也、物騒なことを言うな」
しかし直熙は静かに補足する。
「……とはいえ。罪状は“無配慮による突発的無謀行為”ですね。反省は、必要かと」
「えっ!? なんで!? 俺も被害者やで!? なんでみんなして責めてくるの!?」
「……俺、早く帰らなくてよかった……」
智久が呆れたように、けれどどこか安堵の色を浮かべてぽつりと呟いた。
──こうして、香月家の台所にて巻き起こった“入浴未遂騒動”は、美織の純真な悲鳴と、桐原の哀れな狼狽を中心に、屋敷中の面々を巻き込んだ、ちいさくも壮絶な一騒動として記憶されることとなった。
なお、この出来事は後に「台所事件」と密かに名づけられ、以降──洗い粉の所在を尋ねる際には「必ず服を着てから」という、香月家の鉄の掟が静かに制定されたのである。
騒ぎの中心にいた張本人──桐原篤哉は、顔を真っ赤に染め上げたまま、うわずった息を吐き、ほとんど逃げ出すようにして湯屋の方へ駆け去っていく。その背に翻る手ぬぐいが、どこか哀れで、どこか滑稽だった。
悠臣と直熙は、その後ろ姿を呆れ果てた表情で見送り、智久も肩をすくめて小さく苦笑を浮かべた。
「……まったく、どこまでも騒がしい人ですね……」
ぽつりと呟かれたその声が、騒動の熱気をすっと冷ますように響く。
だがその傍ら──台所の床に膝をつき、ひとり小さく震えている香月美織の姿があった。
部屋の空気はすでに落ち着きつつあったが、美織だけが、未だ深く息を詰めたまま、うつむいて動けずにいた。
そんな彼女のもとへ、すっと音もなく歩み寄ったのは、天城朔也だった。
足音を忍ばせ、まるで小鳥を驚かせぬようにそっと腰を落とす。無言のまま、彼女の隣に膝をつき、柔らかな声音で語りかけた。
「……大丈夫。もう大丈夫ですよ、美織さん。……びっくりしましたよね」
その声は、まるで春の風のように穏やかで優しかった。
はっとして顔を上げた美織の瞳に映ったのは、いつもの快活で頼もしい“兄貴分”ではなく、静かに彼女を気遣う朔也の姿だった。
その眼差しの奥に、揺るぎない優しさとあたたかな思いやりが宿っているのを見た瞬間、胸の奥に押し込めていた感情が、ふっと堰を切りそうになる。
「……わたくし、あんな……大きな声……初めてで……」
ぽつりと零れたその声には、羞恥と戸惑い、そして何より、強い自責の念がにじんでいた。
香月家の娘として、いつも穏やかに、慎ましくあるべきと育ってきた彼女にとって──先ほどの取り乱しは、誰より自分自身が許せない“恥”だったのだ。
「……ごめんなさい、わたくし……」
震える声でそう言いながら、美織はそろりと立ち上がろうとした。
──その瞬間。
ふらり、と小さく身体が揺れた。
「──っ!」
朔也の腕が、即座に伸びる。
倒れかけた美織の身体を、静かに、しかししっかりとその腕の中に支え留める。
「立ちくらみ……無理しないでください」
耳元に届いたその囁きは、驚くほど近く、優しかった。
美織ははっとして顔を上げた。目の前には、どこまでも静かで、どこまでも優しい朔也の表情があった。
彼は責めもせず、からかいもせず、ただ寄り添うように──そっと彼女を見つめていた。
「悠臣さん、彼女を部屋で休ませてあげた方がいいと思います」
朔也の言葉に、悠臣が静かに頷いた。
「ああ。美織、部屋で休め。夕餉のことは、後で構わん」
「……はい。すみません……」
か細いながらも、芯のある声でそう応えると、美織は朔也の肩を借りながら、ゆっくりと立ち上がり、離れの私室へと戻っていった。
背筋を伸ばし、朔也に寄り添われて去っていくその背を、三人の男たちは黙って見送った。
「……我が妹ながら、純真に育ったな」
悠臣がぽつりと呟く。
それはどこか誇らしげでもあり、同時に守らなければならないという決意をも孕んだ声音だった。
直熙はふと口元を緩め、柔らかく応じる。
「……良いことです。過剰な世慣れより、よほど美しい」
智久もまた、微笑を浮かべて続けた。
「可愛らしい方ですね……」
──そのとき。
静寂の中に、ぷくぷくと泡立つ音が響いた。
「……鍋がっ!!」
突然、智久が目を見開き叫んだ。
その視線の先、台所の隅で、湯気を勢いよく吹き上げながら、鍋が今にも吹きこぼれんばかりに煮えたぎっている。
「うわっ、ごめんなさいっ、鍋、火かけっぱなしでした……!」
慌てて駆け寄る智久。続いて直熙も鍋を覗き込み、眉をひそめた。
「これは……何を作っていたんでしょうね?」
「美織の作るようなもの……俺には到底、真似できないな……」
悠臣は湯気越しに鍋を見つめながら、どこか呆然とした声音でぽつりと漏らす。
三人の男たちは、先ほどまでの騒動の余韻と、ふたたび現れた“危機”──今度は、吹きこぼれ寸前の鍋と格闘することになるのだった。
夕暮れの光が障子越しに淡く差し込み、室内に橙色の陰影を落としていた。
文机の前には、直熙が筆を執り、ゆったりとした所作で墨を含ませている。その傍ら、智久が正座し、慎重な手つきで初めての筆に挑んでいた。
ぎこちないながらも誠実な指先。筆先に込められた丁寧さは、真木智久という青年そのものを映しているようだった。
「……息を調えるんだ。呼吸は筆の芯と繋がっている。焦らず、流れに身を任せてみるといい」
直熙の声音は穏やかで、深い静けさを湛えていた。
「はい……えっと、こう、でしょうか……」
そっと筆が半紙に触れる。
細く揺れる線が、たどたどしくも真っ直ぐに、紙面に命を宿すように描かれてゆく。
「うむ、悪くない。……文字は姿ではなく、心を映す。丁寧であろうとする意思が、すでに筆に宿っている」
「……ありがとうございます」
智久の頬がわずかに緩む。微かな照れ笑いに、心からの誠実さが滲んでいた。
──と、そんな静謐な空気を破るように、廊下を歩く足音と、間延びした声が近づいてきた。
「ん? なんやこの部屋……やけに静かやな……」
障子の隙間から顔を覗かせたのは、桐原篤哉だった。
次の瞬間、室内の様子を見て、見開いた目を瞬かせた。
「……な、な、何やお前ら!? 何してんねんっ!? 書道!? 正座!? お行儀よく!? 真木まで!?!?」
真木が目を瞬かせる。直熙は一切動じることなく、淡々と筆を置いた。
「香月家の書の間だ。筆を執る時間があっても、不思議ではあるまい」
「いやいやいやいや! おかしいやろ!? ここ剣術道場やぞ!? いつから“筆道場”に変わったんやっ!?」
畳に突っ伏すように大袈裟に崩れ落ちながら、桐原は肩を震わせる。
「しかも真木っ! お前まで……! そんな真面目な顔で筆握って……なに!? 御影に何か盛られたんか!? 妙薬とか!?」
「えっ、いえ……違います。あの、直熙さんが……その、誘ってくださって……」
「“直熙さん”て……何やその馴染みきった呼び方ぁぁ……!!」
わちゃわちゃと喚く桐原に、直熙が黙って筆を一本差し出した。
「どうせなら、お前も書いていけ。人を笑わせるだけでなく、たまには“己の姿”を筆に映してみるのも悪くない」
「……はあ? アホ言え。俺は筆より刀が性に合っとるんや。こういうのは坊ちゃん剣士の嗜みでな──」
ぶつぶつと文句を言いながらも、どこか照れたように笑い、桐原は筆を受け取った。
「しゃーないなあ……。ここで逃げたら、西の男が泣くっちゅうもんや。ほなまあ、篤哉様の秘技でもお見せしましょか」
冗談めかして言いながら、半紙に向かうと──桐原の表情がすっと静まった。
まるで、仮面を脱ぎ捨てたように。
いつもの軽薄な笑みが消え、指先の動きが研ぎ澄まされたものへと変わる。
眉間に微かな皺。深い呼吸。筆を持つ手は揺るがず、ひと筆、またひと筆と、音もなく線を綴っていく。
──それは、誰もが息を呑むほどに、美しかった。
滲まず、濁らず、筆の運びは淀みなく。
まるで時を止めたような静寂の中、筆先に宿ったものは──威厳、誇り、そして過去の記憶。
何かを語ることなく、ただ一枚の半紙に、彼という存在の片鱗が刻まれていった。
「……」
直熙は目を細め、言葉なく見つめる。
智久もまた、動くこともなく、ただその一筆に見入っていた。
──だが次の瞬間。
「──っとっと! やっべ、手ぇすべったぁ~~!!」
桐原は、わざとらしく墨の器を倒し、墨を見事な筆文字の上に豪快にぶちまけた。
「うわ~~っ!! 誰や! こんな綺麗な字に墨こぼしたんは~~!? 台無しやで!? これは怒られるやつや~~!!」
「……お前だ」
直熙の無表情な一言に、桐原は「あ、せやったわ」と肩をすくめ、へらりと笑って筆を返した。
それ以上、誰も何も言わなかった。
だが確かに、ふたりの眼差しにだけは残っていた。
あの一筆に込められていたもの──仮面の奥にある“真実”と“誇り”を見た者の証が。
ふざけることで己を隠す男。
だが、どれほど笑っていても、決して手を抜かない矜持がそこにはあった。
墨の香がかすかに漂う静けさの中、真木智久はただじっと、篤哉が書き遺した一文字の余韻に、胸を満たされていた。
──驚いた、なんてひと言では到底言い表せない。
普段の彼は、軽妙な冗談と飄々とした笑顔で周囲を煙に巻き、まるで風のように掴みどころのない存在だった。
人懐っこくて、明るくて、誰にでも距離なく接する男。
けれど──あの刹那、筆を取ったその姿はまるで別人だった。
墨を滑らせた筆先に生まれた、わずかな震え。
それすらも未熟さではなく、感情や思念を研ぎ澄ませた末に生まれる、静かな気迫のように見えた。
(……あの人、いったい何者なんだろう)
喉の奥までせり上がったその言葉を、智久は呑み込んだ。
軽口と笑いに覆われたあの仮面が、どこか「踏み込むな」と言っているようで──その先には触れてはならない気がしたのだ。
けれど、それでも確かに感じた。
あの筆跡には、言葉にできない何かが宿っていた。
誰にも明かさぬ憂いの影と、どれだけ覆い隠しても消せない、誇りのようなものが。
(……たぶん、俺なんかじゃ到底追いつけない何かを、あの人は背負ってる)
それでも──と、智久は静かに息を吸った。
(それでも、追いかけてみたいと思った)
彼のようにはなれない。
けれど、自分にしか書けない“何か”が、この手から生まれる日が来るのなら──
その想いが、まだ火種のように小さくても、確かに胸の奥で息づいていた。
ふと隣に目を向ければ、直熙が沈黙のまま、半紙の上に散った墨の跡を見つめていた。
こぼれた墨に隠された下から、かすかに浮かび上がる筆の流れ。
その痕跡を、まるで言葉の代わりに語りかけるかのように、直熙は見逃すことなく読み取ろうとしている。
「……やはり、あの男は只者ではないな」
その声は低く、静かに、けれど確かな確信を帯びていた。
「笑いの仮面を被る者は、時に真実をもっとも巧みに隠す。軽口とは、痛みを覆うための術でもある。
……桐原は、それを“己の武器”として使いこなしている」
智久は反射的に声を漏らした。
「……直熙さんは、桐原さんの“本当の姿”を……わかってるんですか?」
「いいや。わかってなどいない。だが、“そう思わせる”ほどの深みが、あの一筆にはあった。
それだけで十分だ」
直熙の言葉には、感情的な断定ではなく、観察者としての冷静な実感が滲んでいた。
彼はゆっくりと筆を置き、視線を宙に泳がせるように遠くを見る。
「いずれ──あの仮面の下に秘められた“剣”の本質が、白日のもとに晒される日が来るだろう。
そのとき、彼が“誰の味方として立つのか”。それを問われるのは……我々自身だ」
その声音に、強い調子はなかった。
けれど、奥底には“覚悟”に近い静かな決意が宿っていた。
智久はふと、自分の掌を見つめる。
墨を握ったばかりの指先には、まだかすかに震えが残っていた。
書いた文字は頼りなく、未熟なものにすぎない。
けれど──あの一筆に宿った仮面の隙間に、たしかに何かを感じ取った。
その温度が、胸の奥でじんわりと、消えずに残っていた。
◆
──その騒ぎは、つい先ほどまで静寂と余韻に包まれていた書の間の空気を、まさに“吹き飛ばす”かのようにして、突然巻き起こった。
「──きゃああああああっ!!」
それは、香月美織の鋭く透き通った悲鳴。屋敷中に響き渡るその声に、空気が一瞬で凍りつく。
間を置かず、
「うわぁああああっ!? なんやあああっ!!」
今度は桐原篤哉の、裏返った甲高い声が台所の奥から爆ぜた。
突如として交錯した二つの絶叫。それは、誰の耳にもただ事ではない混乱を告げるのに十分すぎるものだった。
屋敷内は瞬時に緊張を帯びる。
縁側を歩いていた香月悠臣は即座に反応し、鯉口に手をかける。
中庭で木刀を振っていた天城朔也は、気配を一気に潜めて身を翻し、
書の間にいた御影直熙も、ほんのわずかに眉を動かしただけで即座に席を立った。
さらに、帰り支度をしていた智久も、抱えていた道着を取り落とし、驚愕と困惑のまま皆の後を追いかける。
男たちが駆けつけた先──そこは、誰もが予想だにしなかった「台所」だった。
立ちのぼる湯気の中、場の中心に立ち尽くしていたのは、腰に手ぬぐい一枚というあられもない姿の桐原篤哉。
その前には、しゃがみ込み、両手で顔を覆った美織が、身を小さく縮こまらせながら震えていた。
「……っっ、ど、どどどどいてくださいっ……っっっ!!」
細い声が、火照った頬の隙間から必死に絞り出される。
耳の先まで真っ赤に染まり、身体を震わせる美織の姿は、もはや限界そのものだった。
一方の桐原は、目を白黒させながら、ぐるぐると視線を彷徨わせていた。
「ち、違うんや! ちゃうねんっ! 俺は風呂行こう思ててな? けど洗い粉が見当たらんくて! ほんで、美織ちゃんにちょっと場所だけ聞こ思て──なんでや!? なんでこんな騒ぎに……!?」
手ぬぐいをぎゅうと握り締め、涙目になりながら必死に訴える。
その言葉には、言い訳でも弁解でもなく、本気で「なんでこんなことに」と困惑する気持ちがにじんでいた。
「桐原……せめて、服を着ろ」
静かに、しかし呆れきったような声が響いた。悠臣の声だった。
その言葉に、桐原はようやく我に返る。
「──あっ……」
視線を自らの腰に落とした瞬間、ようやく“今の自分の姿”に気づく。
「……あ、そら悲鳴も出るわな……」
情けない声で呟きながら、美織に向けかけた視線を慌てて逸らした。
「いやでもな! 兄貴二人おるし! 男所帯の道場やし! 裸の男なんて見慣れてると思てたんや……!」
「そんな格好で屋敷内を歩いた記憶はないな。俺も兄上も」
悠臣は呆れるように息を吐き、眉間に手をやる。
「もし父上がそんな姿で廊下を歩けば──母上に投げ飛ばされて、門前払いだ」
「……うちの母ちゃん、そんな強ないけど!? てか、母上……怖っ……!」
それでもまだ言い訳を探していたのか、桐原は声を上げる。
「美織ちゃんかて、年頃やし! 恋人ぐらい……いてるやろっ!? 恋人の裸ぐらい──」
「やめておけ」
悠臣が即座に遮った。語調はきっぱりとしていて、深いため息が混じる。
「もう何も言うな。墓穴掘るぞ」
「……十五の娘に言う言葉ですか」
直熙が、冷ややかに、しかし静かに呆れを滲ませて言い添えた。
「……えっ? 十五……? まじで? ……嘘やん……」
ようやく自分が放った言葉の非常識さに気づき、桐原はがくんと肩を落とす。
「お前……どういう神経してる」
低く冷えた声が響いたのは、朔也だった。
その手は既に鞘口に添えられ、目は笑っておらず、むしろ静かな怒りと警戒を孕んでいる。
「いやほんまに、これは不可抗力やって! 下心なんて、かけらもなかったんやって!」
「……いっそ、切った方が静かになるのでは」
朔也がぼそりと呟いた言葉に、悠臣が即座に制する。
「朔也、物騒なことを言うな」
しかし直熙は静かに補足する。
「……とはいえ。罪状は“無配慮による突発的無謀行為”ですね。反省は、必要かと」
「えっ!? なんで!? 俺も被害者やで!? なんでみんなして責めてくるの!?」
「……俺、早く帰らなくてよかった……」
智久が呆れたように、けれどどこか安堵の色を浮かべてぽつりと呟いた。
──こうして、香月家の台所にて巻き起こった“入浴未遂騒動”は、美織の純真な悲鳴と、桐原の哀れな狼狽を中心に、屋敷中の面々を巻き込んだ、ちいさくも壮絶な一騒動として記憶されることとなった。
なお、この出来事は後に「台所事件」と密かに名づけられ、以降──洗い粉の所在を尋ねる際には「必ず服を着てから」という、香月家の鉄の掟が静かに制定されたのである。
騒ぎの中心にいた張本人──桐原篤哉は、顔を真っ赤に染め上げたまま、うわずった息を吐き、ほとんど逃げ出すようにして湯屋の方へ駆け去っていく。その背に翻る手ぬぐいが、どこか哀れで、どこか滑稽だった。
悠臣と直熙は、その後ろ姿を呆れ果てた表情で見送り、智久も肩をすくめて小さく苦笑を浮かべた。
「……まったく、どこまでも騒がしい人ですね……」
ぽつりと呟かれたその声が、騒動の熱気をすっと冷ますように響く。
だがその傍ら──台所の床に膝をつき、ひとり小さく震えている香月美織の姿があった。
部屋の空気はすでに落ち着きつつあったが、美織だけが、未だ深く息を詰めたまま、うつむいて動けずにいた。
そんな彼女のもとへ、すっと音もなく歩み寄ったのは、天城朔也だった。
足音を忍ばせ、まるで小鳥を驚かせぬようにそっと腰を落とす。無言のまま、彼女の隣に膝をつき、柔らかな声音で語りかけた。
「……大丈夫。もう大丈夫ですよ、美織さん。……びっくりしましたよね」
その声は、まるで春の風のように穏やかで優しかった。
はっとして顔を上げた美織の瞳に映ったのは、いつもの快活で頼もしい“兄貴分”ではなく、静かに彼女を気遣う朔也の姿だった。
その眼差しの奥に、揺るぎない優しさとあたたかな思いやりが宿っているのを見た瞬間、胸の奥に押し込めていた感情が、ふっと堰を切りそうになる。
「……わたくし、あんな……大きな声……初めてで……」
ぽつりと零れたその声には、羞恥と戸惑い、そして何より、強い自責の念がにじんでいた。
香月家の娘として、いつも穏やかに、慎ましくあるべきと育ってきた彼女にとって──先ほどの取り乱しは、誰より自分自身が許せない“恥”だったのだ。
「……ごめんなさい、わたくし……」
震える声でそう言いながら、美織はそろりと立ち上がろうとした。
──その瞬間。
ふらり、と小さく身体が揺れた。
「──っ!」
朔也の腕が、即座に伸びる。
倒れかけた美織の身体を、静かに、しかししっかりとその腕の中に支え留める。
「立ちくらみ……無理しないでください」
耳元に届いたその囁きは、驚くほど近く、優しかった。
美織ははっとして顔を上げた。目の前には、どこまでも静かで、どこまでも優しい朔也の表情があった。
彼は責めもせず、からかいもせず、ただ寄り添うように──そっと彼女を見つめていた。
「悠臣さん、彼女を部屋で休ませてあげた方がいいと思います」
朔也の言葉に、悠臣が静かに頷いた。
「ああ。美織、部屋で休め。夕餉のことは、後で構わん」
「……はい。すみません……」
か細いながらも、芯のある声でそう応えると、美織は朔也の肩を借りながら、ゆっくりと立ち上がり、離れの私室へと戻っていった。
背筋を伸ばし、朔也に寄り添われて去っていくその背を、三人の男たちは黙って見送った。
「……我が妹ながら、純真に育ったな」
悠臣がぽつりと呟く。
それはどこか誇らしげでもあり、同時に守らなければならないという決意をも孕んだ声音だった。
直熙はふと口元を緩め、柔らかく応じる。
「……良いことです。過剰な世慣れより、よほど美しい」
智久もまた、微笑を浮かべて続けた。
「可愛らしい方ですね……」
──そのとき。
静寂の中に、ぷくぷくと泡立つ音が響いた。
「……鍋がっ!!」
突然、智久が目を見開き叫んだ。
その視線の先、台所の隅で、湯気を勢いよく吹き上げながら、鍋が今にも吹きこぼれんばかりに煮えたぎっている。
「うわっ、ごめんなさいっ、鍋、火かけっぱなしでした……!」
慌てて駆け寄る智久。続いて直熙も鍋を覗き込み、眉をひそめた。
「これは……何を作っていたんでしょうね?」
「美織の作るようなもの……俺には到底、真似できないな……」
悠臣は湯気越しに鍋を見つめながら、どこか呆然とした声音でぽつりと漏らす。
三人の男たちは、先ほどまでの騒動の余韻と、ふたたび現れた“危機”──今度は、吹きこぼれ寸前の鍋と格闘することになるのだった。
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