AR Chronicle

黒鳥カラス

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第1章―放課後のログイン―

決着の一撃

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広場は血と砂煙に包まれていた。
 村人たちの悲鳴はすでに遠く、誰もが必死に逃げ去っている。
 残ったのは、陽斗たち二人と美咲、そして東城高校の神谷たち。
 そして、瀕死ながらなおも咆哮を上げる漆黒の獣——レイスウルフ。

「はぁっ……! まだ立つのかよ……!」
 陽斗は肩で息をしながら、剣を構え直す。
 剣先は震えていたが、眼差しは決して揺らがなかった。

「ちっ、しぶとい獣だ……」
 神谷は舌打ちしつつも口元に笑みを浮かべる。
「だが、これで仕留めれば“俺たちの勝ち”だ」

「勝ち……?」
 蓮の槍が地を叩き、鋭い音を響かせる。
「違うだろ。これは生き残るための戦いだ」

 言葉を交わす間もなく、レイスウルフが吠えた。
 傷だらけの身体から血を滴らせながら、それでも牙を剥き、最後の力を振り絞るように突進してきた。

「——来るぞ!」

 瞬間、全員が同時に動いた。

 陽斗は正面から剣を構え、獣の突進を受け止める。
 膝が折れそうになるほどの衝撃。
 背後で美咲が必死に詠唱を紡ぎ、光の膜を陽斗にまとわせる。

「プロテクション! 絶対に折れないで!」

 重圧に押し潰されそうになりながら、陽斗は歯を食いしばった。

 その横を駆け抜けたのは神谷。
 氷の槍を両手に顕現させ、獣の首筋を狙う。
「ハハッ、トドメは俺がいただく!」

「させるかっ!」
 蓮の槍が神谷の軌道を遮るように突き出された。
 刹那、二人の武器が火花を散らす。

「邪魔すんじゃねぇ! 討伐権は俺のもんだ!」
「ふざけるな! こいつはチーム全員で倒すんだ!」

 その口論の隙を突くように、獣が大きく跳躍した。
 狙いは——無防備に呪文を唱える美咲。

「美咲!」
 陽斗が叫ぶ。

 時間が引き延ばされたように感じられた。
 獣の牙が迫り、美咲が振り返る。
 その瞬間、陽斗は全力で剣を投げた。

 ——ズガァン!

 光をまとった剣が、獣の口腔を貫き、頭蓋を突き破る。
 黒い血と共に断末魔が広場を揺らし、レイスウルフの巨体が地に崩れ落ちた。

 静寂。
 ただ、息を切らす音だけが響く。

「……やった、のか……」
 陽斗が膝をつき、荒い呼吸を繰り返す。

 その時、システムウィンドウが淡い光を放ち、討伐ログが全員の目に映った。

——【討伐者:水城陽斗】——

「……な、に……?」
 神谷の表情が歪んだ。
「ふざけるな! 俺がトドメを刺すはずだったんだ!」

「陽斗が……守ってくれたんだよ」
 美咲が震える声で言った。
「もしあの一撃がなければ、私は……」

「黙れ!」
 神谷が怒鳴り、陽斗の胸ぐらを掴み上げる。
「お前、わざと横取りしたな!? 俺の経験値と報酬を奪いやがって!」

「横取り? ……あんた、本当にそれしか見えてないのか」
 蓮が低く吐き捨てるように言った。
「仲間が死ぬかもしれなかったんだぞ」

 神谷の仲間たちも一瞬ためらったが、やがて彼の背後に立った。
 空気は一気に険悪になる。

 剣を握り直す陽斗。
 杖を構える美咲。
 槍を地に突き立てる蓮。

 そこに、冷酷なシステムメッセージが重なる。

——【レイド討伐完了報酬:パーティ間の分配は討伐者に優先権があります】——

「……へぇ。やっぱりそういう仕様か」
 神谷が歪んだ笑みを浮かべる。
「だったら、やることは一つだな」

 血塗られた広場に、新たな殺気が生まれた。
 強敵を倒した直後、彼らは——次なる敵を互いに見据えていた。
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