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167.編集長誘拐事件(前編)

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。
 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。
 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。
 江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。
 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。
 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。
 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
 青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。
 渡伸也一曹・・・陸自からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当の事務官。
 草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向。特別事務官。
 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。
 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
 橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。
 久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。
 中津警部・・・警視庁テロ対策室警部。
 中津健二・・・中津興信所所長。
 中津(西園寺)公子・・・中津興信所所員の1人だが、中津健二と結婚している。愛川静音の剣道部後輩。
 中津敬一警部・・・中津健二の兄。捜査一課、捜査二課、公安課、EITOとの協同捜査等を経て、副総監付きの特命刑事となる。警視庁テロ対策室所属。村越警視正の部下。
 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。
 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。
 那智めぐみ・・・みゆき出版社編集員。
 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。
 みゆき出版社副編集長西村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の副編集長。
 本庄尚子弁護士・・・本庄病院院長の姪。
 本郷隼人二尉・・・海自からEITOに出向。普段はEITO秘密基地に勤務するエンジニア。
 須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。
 藤井康子・・・伝子のお隣さん。モールで料理教室を営む。EITO準隊員待遇。
 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。伝子に「クソババア」と呼ばれることもある。高遠のことを「婿殿」と呼ぶ。
 池上葉子・・・池上病院院長。高遠の中学卓球部の後輩彰の母親。彰は故人。
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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 午前9時。中津興信所。
 表には、お祝いの「花輪」やバルーンが飾られていた。ここは実は、伝子達が仮住まいしていた店舗付き住宅だった。奥には、EITO秘密基地に通じる通路があり、裏山から秘密裏にオスプレイが離着陸している。
 花輪を眺めていた、中津健二は、中に入って言った。「安い家賃だと思ったら、EITO秘密基地カムフラージュ物件だったとはね。」
 中津警部は言った。「事務所も家も部下も揃えた。理事官の慧眼も凄いだろう。」
「ああ。元巡査なら、簡単には辞めないだろうしな。秘密保持もばっちりだ。大阪の南部興信所とも連携を取りやすくなった。この仕事、バイト君、長続きしないんだよな。」
「で、長続きしそうな所員を永久就職させて、拘束した。」
「兄貴。拘束は言い過ぎだよ。」「お義兄さん、時々SMプレイしていることをどうして
 ご存じなんですか?盗聴器があったのかしら?」
 2人の会話に公子は冗談で割り込んだ。
「所長夫人は、冗談も一流ね。私も誘惑していいかしら?」とあきは言った。
「誘惑するなら、俺だろう?なあ、泊。」と、高崎が言うと、「答えに困ります。あ。所長、所長夫人。よろしくお願いします。」と泊は中津と公子の方に言った。
「戸籍上は確かに所長夫人だけど、私も所員だから、公子さんでいいわ。あ。先輩は『きみちゃん』でいいわよ。」
「先輩?」「ああ、高校の先輩なんです、お義兄さん。」「あ。そうなんだ。」
「盛り上がっているみたいだね。」と、奥から秘密の通路を通って、本郷隼人と本庄弁護士が出てきた。
「EITOからの依頼がない限りは、通常の調査を優先してくれ、と理事官から伝言です。」と、本郷が言った。
「理事官は?」と中津健二は中津警部に尋ねた。
「目黒区の連続レイプ殺人事件について、久保田管理官と協同リモート記者会見を行っているよ。ああ、先生。椎橋の弁護、断ったんですって?」
「勿論よ。女の敵、ですからね。例え、公選で回って来ても断るわ。接見して損した。」
「素敵です、先生。」あきと公子は同時に言った。
 午前9時。シネコン。専用映画館で協同記者会見が行われていた。
「はい、茨城新聞さん。」と、久保田管理官が言った。
「今回の連続レイプ殺人事件は、ダークレインボーとは関係無いんですか?」
「まだ。黙秘を続けています。それと、犯人は警察官だった、と早とちりで報道してしまった社があったようですが、違います。目黒署の椎橋刑事に成り済ました、那珂国人の通称シーモンス・リーが犯人です。恐らく椎橋刑事はもう殺害されています。」と、久保田管理官は応えた。
「はい。とどろき新聞さん。」と、久保田管理官は指名した。
「3人目の犠牲者が出なかったのは何故ですか?」「囮捜査の成果ですね。3人目の時は、相棒が出てきましたが、囮捜査官はレイプされなかったでしょう。」
「何故ですか?」「手口が判明したからです。これ以上は捜査上のことなので申し上げられません。それでは・・・はい、列島新聞さん。」
「もう図書館は襲われませんか?」「御池都知事に申請して、各区の図書館のシステムセキュリティー強化、そして、行き帰りの注意喚起をするポスターを貼っています。不安な方には、カラーボールを配布したり、図書館からタクシーを呼んで、乗車確認を図書館員が行う、という方法を選択したり出来ます。また、最寄り署から警邏を強化します。」
「次の敵幹部からの声明は届いていないんですか?」久保田管理官は、不規則発言なので、無視して、会見を終えた。そして、シネコンにいる部下に指示した。
 悪い奴ほど、自己顕示欲が強い。特に、ダークレインボーは。ひょっとしたら、サンドシンドロームの部下が「かまをかけた」のかも知れない、と思った。
 午前9時。EITO本部。会議室。
「あの西園寺公子というのは、愛川の後輩だったのか。」と、あつこが言った。
「はい。国枝大学の剣道部後輩です。それに、中学高校も。あのー・・・。」
「どうした、愛川。言ってみろ。何か気にかかることがあるのか?」と夏目が優しく言った。
「西園寺が結婚したって、さっき筒井さんが。」と、恐る恐る静音は言った。
「ああ。中津興信所の所長中津健二と結婚し、籍を入れたそうだ。」と、筒井は言った。
「不躾ですが、中津所長はイケメンですか?」皆困っているので、あつこが「イケメンと言えなくもない。中津警部よりは男前かな?」と応えた。
「西園寺は、メンクイなんです。しかも、飽きっぽい。結婚って、信じられない。」
「つまり、中津所長は捨てられる?あつこ。」と、なぎさは、あつこを見た。
「分かったわ、なぎさ。私から中津警部を通じて言っておくわ。何となく総子ちゃんと同じ年の差結婚みたいに思ってたけど、一波乱起きたら大変ね。」
「愛川。もし、彼女が暴走しそうなら私たちに言え。1人で悩むな.分かったな。」
「はい。了解しました。」
 なぎさの言葉に、静音は大きく頷いた。
「じゃ、今日の会議は終了。サンドシンドロームの、何らかの動きがあったら緊急招集する。解散!!」
 皆が出て行った後、筒井が「一佐。引き締まってきたなあ。」と言い、「すっかり隊長代理ですね。」と青山が言った。
「しかし、メンクイだからって、心配するかなあ。」と言う高木に応えて、「きっと、過去に何かあったんだ。そうですよね、副司令官。」馬場は、言った。
「女のカンって奴は侮れないですよ。親父の受け売りですけどね。」と井関は、言った。
「それは、鑑識のカン、か?鑑識の息子。」と、言いながら、須藤医官が入って来た。
「井関、内視鏡検査だ。」「痛くしないでくださいね。」「そうは、いかん。検査室で思い切りわめけ!」と、須藤は井関を無理矢理連れて出て行った。
「馬場、済んだ?」「痛かったです。」と、筒井と馬場は同調して笑った。
 午前10時。池上病院。
「お義母さん、代わります。お疲れさまでした。」「婿殿。痩せた?」「え?気のせいですね、きっと。」
 笑いながら出て行く綾子を高遠は見送った。「かあさんらしい、労いだな。」
「婿いびりしないと、落ち着かないのかな?」
「今夜から、ご飯よ。やはり、ワンダーウーマンは体力免疫力が違うのね。」と言いながら、入って来て、そっと伝子にスマホを見せた。
 池上家の、特別乳児室の、看護師の世話が見て取れた。
「学、いつか成長記録を皆にみせてやろう。」「そうだね、伝子。」
 午前10時。伝子のマンション。
 藤井が掃除機で部屋の掃除をしているとチャイムが鳴った。
 藤井は警戒心を露わにしながら、インターフォンの画像を覗いた。
 入って来たのは、山村編集長だった。
「相変わらず、ボランティアで家政婦やってるの?隣にいないようだから、念の為に寄ったのよ。」「誰かと思って緊張して損した。」
 山村は、後ろにスーツ姿の女性を従えていた。
「紹介するわ、藤井さん。ウチの新人。」
「那智めぐみです。よろしくお願いします。家政婦ですか?」
「違うのよ、めぐみ。お隣さん。モールで料理教室を開いておられるの。まあ、実質、大文字君と高遠ちゃんを世話しているから、家政婦兼ねてるようなものだけど、ボランティアよ。あ、これ。レシピ本の原稿料よ。」と、山村は封筒を差し出した。
「定期的になれば、引き落としも可能よ。じゃ、病院に行ってくるわ。」
「了解しました。」と、何故か藤井は山村に敬礼した。
 正午。池上病院。伝子の病室。
 高遠のスマホが鳴動した。「ああ。副編集長。ご無沙汰しております。編集長ですか?来てないよね?」高遠は伝子に同意を求めた。
「ああ。どうかしたのか?」「どうしたんですか?」と言いながら、高遠はスピーカーをオンにした。
「朝イチ、マンションの方に行って、藤井先生にレシピ本のギャラをお渡ししたことは確かなんです。で、池上病院に寄ってから、モールのアテロゴに行く予定だったんです。連絡がないから、おかしいなと思って。物部マスターは、まだ来ていないとおっしゃって。実は、今日はウチの新人の那智を連れて行っているんですが、那智から連絡がないし、那智に電話しても繋がらないし、勿論、編集長にも繋がらない。午後3時から会議がありますが、連絡がないままというのはおかしい、し。え?何だって?」
「どうしたんです、西村さん。」「受付がかりが、『編集長山村と編集員那智は預かった。また、連絡する。サンドシンドローム』ってコンピュータ合成音の電話を受け取ったって。どう、どうしまっしょう。」
「落ち着いて、西村さん。まず、警察に連絡。テロの幹部名が出たからには、ダークレインボーの新しい幹サンドシンドロームの連絡に間違いないでしょう。EITOには、こちらから連絡します。警察には、2人のスマホ番号を教えて下さい。」
「了解しました。」
「学。」もう高遠は、PCを出していた。
 EITO本部の司令室に繋がった。
 池上院長が看護師を従えて入って来たが、状況を察して、高遠に目配せして、昼食を一旦下げさせた。
「理事官。みゆき出版社山村編集長と編集員那智さんが誘拐されました。サンドシンドロームを名乗っています。」と伝子は言った。
「おねえさま。今度は本物の誘拐のようね。」と、なぎさが言った。
 実は、編集長は以前、誘拐と勘違いされたことがあった。偶然、立てこもり事件に巻き込まれていたので、皆で協力して事件を解決したが、今回は、敵が名乗っている。
「しかし、大文字君を通じてEITOと繋がっていると考えても、何故、編集長を誘拐する必要があるんだろう?」
 夏目は、首を傾げた。
 ―完―
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