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海の洞窟とはそういうことみたいです。
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その日の夜はミラー様とマーク様と夕食を取った。ユーリはミラー様と一緒だと美味しくないからと町の方まで食べに行ったようだ。……相変わらず王子に対しても態度が悪くてヒヤヒヤするが、ミラー様達は気にしてないようだ。
「食事の件で迷惑を掛けているのはこちらだからね。この前は近況を知りたくて一緒に食事を取ったが、危険がないならどこで食べても構わないさ」
「ミラー様が気にしないなら良いんですけど。毎回態度悪くてすみません。あの後はどこに行かれたんですか?」
「ああ。漁師に話を聞きに行ったんだよ。やはりこの辺りの魚の様子がおかしいと言っていた。いつもは群れで泳いでいる魚が岩場の陰に隠れて過ごしていたり、普段見かけない魚を見かけたりしてるそうだ」
「そうなんですね。何か原因はあるんでしょうか」
「……それを今調べている所だからまだ何とも言えないかな。君達にも明日海の洞窟のダンジョンに行ってもらって魔物の様子を見てもらいたい。今日ユーリにはギルドへ話を聞きに行ってもらっているからまた彼に話を聞いてくれ」
「分かりました。明日お役に立てるように調査頑張りますね」
「普段より危険が高まってる可能性もあるからあまり無理はしないでくれ」
「はい、ご心配ありがとうございます。気をつけます」
「ああ。君に何かあったらと思うと気が気じゃないよ。本当は一緒に行けたら良いんだけど悪いね」
そう言ってウインクするミラー様。やっぱりイケメンには癒し効果があるのだろう。少し不安になっていた気持ちも穏やかになる。そうして食事を終えると自分の部屋に戻って来た。
「どうかみんなが無事でいられますように、何も起きませんように」
そう願いを込めて、以前お祭りでユーリからもらったネックレスを月光にかざす。月夜の晩はこうしてネックレスに祈りを捧げるのが日課になっている。
何か嫌な予感がしている。何か良くないことが起こっていると。どうかみんなが無事で居られますように。そう願いを込めると僅かに魔石が光った気がした。
◇
「待って、何で水着を買わなきゃ行けないのよ!!」
「海の洞窟なんだ。水着着用が当たり前だろう。あんな普段の防護服を着ていたら溺れるぞ」
そう言ってビキニを渡してくるユーリの手を叩く。
「別に水が多いダンジョンなら水耐性の服を買えば十分でしょ! 海の中を泳ぐんじゃあるまいし」
「何を言ってるんだ? 海の中を泳ぐに決まってるだろう。そうしないとダンジョンの入り口にたどり着けないぞ」
「へ? そうなの……? ムリムリムリムリ! そんなの絶対無理よ!!」
そんなこと聞いていない。海の中を泳ぐなんて……私には無理!!
「さっきダンジョンの入り口見ただろう? あそこは船で行っても停めておく場所もないし、泳いでしか行けないんだ」
「さっき見たのってあの島のこと?」
「そうだ。あれがダンジョン」
確かにこの海辺の店に入る前に、海に浮かぶ島が見えた。浜から数百メートルは離れた所にポツンと浮かぶ小さな島があり、そこに大きな洞窟があるのが見えたがあれがダンジョンだったのか……。確かにあそこは泳がなければ辿り着けない。
「そんなに水着を着たくないなら別に俺1人で行っても良いけど。これは俺たちパーティーへのミラーからの正式な依頼だけど俺1人で行って良いんだな?」
「ゔ……」
そうなのだ。海の洞窟の魔物について調査することがギルドを通して正式に王子であるミラー様から依頼を受けているのだ。
基本的にはギルドに貼ってある依頼はどんな人でも受けられるのだが、個人やパーティーを指名しての依頼も受け付けているのだ。
今回は私的な調査をしてもらうからとミラー様が正式に私達のパーティーへ依頼をしてくれて、報酬を出してくれるのは勿論のこと、この依頼をちゃんと達成することによって私達のパーティーが王子からの信頼を寄せられているという評価も貰える。
だから出発前は色々意気込んでいたんだけど……。
「お前がそんなに水着姿を恥ずかしがるとは思ってなかったんだが」
「別に水着を恥ずかしがってる訳じゃないよ。だって……なんだもん」
「何だよ。よく聞こえない」
「だから……かなづちなのよ。かなづちで泳げないの!」
「はっ? お前泳げないのか? あんなに川や温泉にジャブジャブ入ってるのに」
「川と海じゃ全然違うじゃない! 一緒にしないでよ。そうよ泳げないの!」
そう私が言うと驚いた様子のユーリ。そんなに泳げないのが珍しいのか。こんなことならちゃんと学校で真面目に練習するんだった。プールの授業ほとんどサボってたんだよね。
「この国の周りは全て海で覆われてるからな。子供の頃から泳ぎの特訓をさせられるんだ。だから泳げないやつなんて初めて見た」
「悪かったわね」
私だって島国日本の出身だが泳げない。泳げなくたって普通の生活に何ら支障ないもの。
「泳げないなら浮き輪でも買うか」
「そうじゃん! 浮き輪を買えば問題ないじゃない!」
「でもほら見ろよ。子供用しか基本ないんだよな。子供の練習用でしか普段使わないから」
「…………とりあえず無いよりマシ?」
私は子供サイズの浮き輪と、ウエットスーツタイプの水着を買う。その場で着替えもさせてもらい、お店の外で待っているユーリに見せると文句を言われる。
「お前ビキニじゃなくてそれ買ったのかよ」
「ビキニなんか防御力ない物着れないわよ!!」
私は別に海水浴に行く訳じゃなくてダンジョンに戦いに行くのだから。そう言うユーリもウェットスーツを着ているが下半身のみのタイプで上半身は何も着ておらず引き締まった肉体を曝け出している。
以前見た時も良い身体つきだと思ったが、明るい所で見ると鍛えられているのが良く分かる。腕は程よく筋肉が付いており、腹筋は割れていて余計な肉がない。毎日鍛えているだけある。
「そんなにジロジロ見て何だよ」
「いやぁ、前も思ったけど良い身体してるなって。ちょっとお腹触っても良い? おぉ、ちゃんと硬い! さすが毎日鍛えてるだけあるね」
「おい。許可出す前から触ってるじゃねぇか。金取るぞ」
「この身体ならお金出しても良いって言う人居そう。でもそういう商売に手を出しちゃダメよ? お母さんは反対です」
「はあ。もうそれ良いから。ほら行くぞ。俺が浮き輪を引いて泳ぐからちゃんと持っとけよ」
「ありがとう」
本当は海に入るのも怖いのだが、ユーリが引いて泳いでくれるのならそれを信用して全てを任せよう。そう思って意を決して浮き輪にしがみつきながら海へ入るのだが……。
「…………ってムリーーーー! 足つかない! もうここ足つかないよ!!」
思ってたよりも水深が深くなるのが早くて思わずパニックになってしまう。海に入るなんて本当に幼少期以来なのだ。怖いものはやっぱり怖い!!
「バカ。変に力入れるな暴れるな! とにかく力抜いてぶら下がってろよ。慣れてきたらバタ足してくれ」
「力を抜くってムリよーー! どうやったら力抜けるのよーーーーーー!」
チュ。
は? え、今このタイミングでおでこにチューされた??
ユーリの顔がゆっくりと私の顔面から離れていく。それを見ながらも意味が分からずフリーズしてしまう。
「は? え?? 何今の」
「ほら、力抜けた。そのままプカプカ浮いてれば良い」
「なっ!!」
力を抜かせるためにデコチューをしたと言うのかこの美青年は! 先程の肉体美を見た後だからか無駄にドキドキしてしまう。確かに力は抜けたがまだ心臓はドキドキと煩い。
してやったりという顔のユーリを睨みつけながら、私は黙って浮き輪にしがみつくことしか出来なかった。絶対この借りはいつか返してやるんだから!
「食事の件で迷惑を掛けているのはこちらだからね。この前は近況を知りたくて一緒に食事を取ったが、危険がないならどこで食べても構わないさ」
「ミラー様が気にしないなら良いんですけど。毎回態度悪くてすみません。あの後はどこに行かれたんですか?」
「ああ。漁師に話を聞きに行ったんだよ。やはりこの辺りの魚の様子がおかしいと言っていた。いつもは群れで泳いでいる魚が岩場の陰に隠れて過ごしていたり、普段見かけない魚を見かけたりしてるそうだ」
「そうなんですね。何か原因はあるんでしょうか」
「……それを今調べている所だからまだ何とも言えないかな。君達にも明日海の洞窟のダンジョンに行ってもらって魔物の様子を見てもらいたい。今日ユーリにはギルドへ話を聞きに行ってもらっているからまた彼に話を聞いてくれ」
「分かりました。明日お役に立てるように調査頑張りますね」
「普段より危険が高まってる可能性もあるからあまり無理はしないでくれ」
「はい、ご心配ありがとうございます。気をつけます」
「ああ。君に何かあったらと思うと気が気じゃないよ。本当は一緒に行けたら良いんだけど悪いね」
そう言ってウインクするミラー様。やっぱりイケメンには癒し効果があるのだろう。少し不安になっていた気持ちも穏やかになる。そうして食事を終えると自分の部屋に戻って来た。
「どうかみんなが無事でいられますように、何も起きませんように」
そう願いを込めて、以前お祭りでユーリからもらったネックレスを月光にかざす。月夜の晩はこうしてネックレスに祈りを捧げるのが日課になっている。
何か嫌な予感がしている。何か良くないことが起こっていると。どうかみんなが無事で居られますように。そう願いを込めると僅かに魔石が光った気がした。
◇
「待って、何で水着を買わなきゃ行けないのよ!!」
「海の洞窟なんだ。水着着用が当たり前だろう。あんな普段の防護服を着ていたら溺れるぞ」
そう言ってビキニを渡してくるユーリの手を叩く。
「別に水が多いダンジョンなら水耐性の服を買えば十分でしょ! 海の中を泳ぐんじゃあるまいし」
「何を言ってるんだ? 海の中を泳ぐに決まってるだろう。そうしないとダンジョンの入り口にたどり着けないぞ」
「へ? そうなの……? ムリムリムリムリ! そんなの絶対無理よ!!」
そんなこと聞いていない。海の中を泳ぐなんて……私には無理!!
「さっきダンジョンの入り口見ただろう? あそこは船で行っても停めておく場所もないし、泳いでしか行けないんだ」
「さっき見たのってあの島のこと?」
「そうだ。あれがダンジョン」
確かにこの海辺の店に入る前に、海に浮かぶ島が見えた。浜から数百メートルは離れた所にポツンと浮かぶ小さな島があり、そこに大きな洞窟があるのが見えたがあれがダンジョンだったのか……。確かにあそこは泳がなければ辿り着けない。
「そんなに水着を着たくないなら別に俺1人で行っても良いけど。これは俺たちパーティーへのミラーからの正式な依頼だけど俺1人で行って良いんだな?」
「ゔ……」
そうなのだ。海の洞窟の魔物について調査することがギルドを通して正式に王子であるミラー様から依頼を受けているのだ。
基本的にはギルドに貼ってある依頼はどんな人でも受けられるのだが、個人やパーティーを指名しての依頼も受け付けているのだ。
今回は私的な調査をしてもらうからとミラー様が正式に私達のパーティーへ依頼をしてくれて、報酬を出してくれるのは勿論のこと、この依頼をちゃんと達成することによって私達のパーティーが王子からの信頼を寄せられているという評価も貰える。
だから出発前は色々意気込んでいたんだけど……。
「お前がそんなに水着姿を恥ずかしがるとは思ってなかったんだが」
「別に水着を恥ずかしがってる訳じゃないよ。だって……なんだもん」
「何だよ。よく聞こえない」
「だから……かなづちなのよ。かなづちで泳げないの!」
「はっ? お前泳げないのか? あんなに川や温泉にジャブジャブ入ってるのに」
「川と海じゃ全然違うじゃない! 一緒にしないでよ。そうよ泳げないの!」
そう私が言うと驚いた様子のユーリ。そんなに泳げないのが珍しいのか。こんなことならちゃんと学校で真面目に練習するんだった。プールの授業ほとんどサボってたんだよね。
「この国の周りは全て海で覆われてるからな。子供の頃から泳ぎの特訓をさせられるんだ。だから泳げないやつなんて初めて見た」
「悪かったわね」
私だって島国日本の出身だが泳げない。泳げなくたって普通の生活に何ら支障ないもの。
「泳げないなら浮き輪でも買うか」
「そうじゃん! 浮き輪を買えば問題ないじゃない!」
「でもほら見ろよ。子供用しか基本ないんだよな。子供の練習用でしか普段使わないから」
「…………とりあえず無いよりマシ?」
私は子供サイズの浮き輪と、ウエットスーツタイプの水着を買う。その場で着替えもさせてもらい、お店の外で待っているユーリに見せると文句を言われる。
「お前ビキニじゃなくてそれ買ったのかよ」
「ビキニなんか防御力ない物着れないわよ!!」
私は別に海水浴に行く訳じゃなくてダンジョンに戦いに行くのだから。そう言うユーリもウェットスーツを着ているが下半身のみのタイプで上半身は何も着ておらず引き締まった肉体を曝け出している。
以前見た時も良い身体つきだと思ったが、明るい所で見ると鍛えられているのが良く分かる。腕は程よく筋肉が付いており、腹筋は割れていて余計な肉がない。毎日鍛えているだけある。
「そんなにジロジロ見て何だよ」
「いやぁ、前も思ったけど良い身体してるなって。ちょっとお腹触っても良い? おぉ、ちゃんと硬い! さすが毎日鍛えてるだけあるね」
「おい。許可出す前から触ってるじゃねぇか。金取るぞ」
「この身体ならお金出しても良いって言う人居そう。でもそういう商売に手を出しちゃダメよ? お母さんは反対です」
「はあ。もうそれ良いから。ほら行くぞ。俺が浮き輪を引いて泳ぐからちゃんと持っとけよ」
「ありがとう」
本当は海に入るのも怖いのだが、ユーリが引いて泳いでくれるのならそれを信用して全てを任せよう。そう思って意を決して浮き輪にしがみつきながら海へ入るのだが……。
「…………ってムリーーーー! 足つかない! もうここ足つかないよ!!」
思ってたよりも水深が深くなるのが早くて思わずパニックになってしまう。海に入るなんて本当に幼少期以来なのだ。怖いものはやっぱり怖い!!
「バカ。変に力入れるな暴れるな! とにかく力抜いてぶら下がってろよ。慣れてきたらバタ足してくれ」
「力を抜くってムリよーー! どうやったら力抜けるのよーーーーーー!」
チュ。
は? え、今このタイミングでおでこにチューされた??
ユーリの顔がゆっくりと私の顔面から離れていく。それを見ながらも意味が分からずフリーズしてしまう。
「は? え?? 何今の」
「ほら、力抜けた。そのままプカプカ浮いてれば良い」
「なっ!!」
力を抜かせるためにデコチューをしたと言うのかこの美青年は! 先程の肉体美を見た後だからか無駄にドキドキしてしまう。確かに力は抜けたがまだ心臓はドキドキと煩い。
してやったりという顔のユーリを睨みつけながら、私は黙って浮き輪にしがみつくことしか出来なかった。絶対この借りはいつか返してやるんだから!
応援ありがとうございます!
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