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謁見
謁見④
しおりを挟む木の皮で編んだ飾りが施された卓と二客の椅子が窓辺に置かれていた。窓から入る光の中、穏やかにそこにある。碧琉は重たい足取りでそちらに向かいどんと腰を掛けた。
「疲れた」
誰もいない、いや、正確には浴室に計がいるのだが、からか思った事がほろりと口から零れた。
本当に疲れた。旅の疲れ、他国の王へ謁見した気疲れだけじゃなく今ここに疲れた、暑いよ、と愚痴を零せる人がいない事に疲れを感じる。
本当に、巻は帰されたのだろうか。
煌のように若くして他を圧倒する空気感を身に着けている人物には他国に人質として送られた者の気持ちなど、考える範疇に入らないのだろう。それともわざと一人にしようとしたのか。
碧琉の胸を煙幕のような不安が広がっていく。ぼんやりと庭を眺めながら先程見た煌の姿を思い出す。優しげな笑みを浮かべながら目は笑っていなかった。
なんらかの計略を巡らせているのだろうか。自分はここでどのような扱いを受けるのだろうか。答の分からない疑問が浮かんでは消え、また浮かぶ。
椅子の端にかかとを乗せ碧琉は膝を抱いた。そして膝頭に顔を伏せる。今日は本当に疲れた。
「気分が優れませんか?」
計が傍にいた事に気が付かなかった碧琉ははっと顔を上げた。
「あ、いえ、」
「よその国に来られたんだもの、疲れて当然ですね。おかしなことを聞いてすみませんでしたねえ。どうぞ、茶です」
何か聞かれてはならないようなことを呟いていなかっただろうか。もごもごと口を動かす碧琉に大椀と言ってもいいくらいの大きさの茶碗が出された。
慌てて足を下ろすと計は目じりの皺を深くし「ここは碧琉様のお部屋ですから多少お行儀が悪くても構いませんですよ」と囁いた。微笑んだ計の顔は優しげだ。
「あ、りがとうございます」
茶碗を受けとり中を見るとその茶は琥珀色だった。凛茶とは全く違う色。
「これは、黄でよく飲まれているお茶ですか?」
「ええ。一般の家庭でもよく汲まれる唐花茶です。少々苦みがありますが慣れるとそれが美味しく感じますよ」
「そうですか」
茶碗を口に運ぶ。碧琉は一度飲み、もう一口飲む。
確かに一口目の口当たりは少々苦味があった。しかし二度目はもう感じない、いや感じなかったというよりそれに勝る甘い芳香がこの茶にあった。こってりと甘い、これはなんの匂いだろう。
「匂いがとても甘いですね」
「唐花という木の葉から作ります」
「これ、好きです。とても」
「それはようございました。あ、碧琉様湯あみの用意が出来ております」
「あ、ありがとうございます」
計が部屋を出るとまた碧琉の口からため息が零れ落ちる。
風呂には入りたい。身体は汗でべとべとだし、頭は結った髪の毛が引き攣って痛いから洗いたい。
でも髪は結える碧琉だがここまでの完成度には持っていけない。だからといって垂らしたままというのは失礼じゃないのだろうか。
着物ももっと薄くしたい、上着を脱いで過ごしたい。でもそうした恰好で宴に出ていいのか分からない。
碧琉はまた膝を抱えた。髪飾りの金具がちゃりちゃりと鳴る。どうしていいのだろう。計に聞くべきだろうか。樹はそのような教育もしていないのかと嗤われるだろうか。
煌は嫌いだ、と思う。巻と引き離すなんて、酷い。
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