番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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第8話「誓いの刃」

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王宮地下、旧議事堂の空気は、息が詰まるほどに重かった。

 セイルは石床に膝をつき、背後には二人の武装した男が控える。
 前にはクラウス卿。長年、王政に君臨してきた老貴族が、冷たい瞳で告げる。

「この国を乱す番など、未来の王妃にふさわしくはない。
 ──お前が死ねば、殿下も目を覚ますだろう」

「そんな勝手な理屈……」

 声を上げかけた瞬間、刃が首元に当てられた。
 息を飲んだ瞬間だった。

 扉が、爆ぜた。

 強風のような気配とともに、レイグランが姿を現した。

 その眼は燃えるような怒りを宿し、剣を抜く。

「貴様ら……この俺の番に、手をかけたな」

 ただ一言。それだけで空気が凍りついた。

 クラウスが冷笑を浮かべた。

「王太子殿下、自らご降臨とは。では、お聞かせください。
 この“実験体”を守るために、国家を裏切るおつもりか?」

 レイグランは答えず、静かにセイルへと歩み寄る。

「セイル」

「……レイグラン……!」

 彼の名を呼ぶ声は、かすれていたが、確かに届いた。

 剣を持つ手が、わずかに震えた。
 その震えが、怒りではなく“恐れ”であることを、セイルだけは気づいていた。

 この人もまた、必死に“自分を守ろうとしている”のだ。

「国家を裏切る? 違うな。
 この腐った制度こそ、国を腐らせる元凶だ」

 レイグランはクラウスに向き直り、剣を構えた。

「制度ではなく、愛を守ることが、この国の未来を創ると信じている。
 そして、たとえ全てを敵に回しても、俺はこの人を守ると決めた」

 その宣言に、場が静まり返る。

 クラウスはわずかに顔を歪めたが、すぐに嘲りのように笑った。

「では、その信念とやらで、私を止めてみせよ──」

 刃と刃が交錯した。

 レイグランの剣は、鋭く、速く、美しかった。
 だがそれ以上に、守るものがある者の一撃は、重い。

 数合で、クラウスの護衛たちは倒れ、ついにレイグランの剣が彼の喉元を突く。

「……もう、終わりだ」

 レイグランがそう告げた時、クラウスはうすら笑いを浮かべたまま、剣を捨てた。

「いずれ貴様も知るだろうよ……“番制度”の真の意味を。
 その時、お前の信じた愛がどれほど脆いものか──な」

 その言葉を残し、クラウスは拘束された。

 ようやく拘束を解かれたセイルは、レイグランに向かって駆け出した。

「レイグラン……僕、本当に……あなたが……」

 涙が溢れ、言葉にならなかった。
 レイグランは、そんなセイルを強く抱きしめる。

「もう、誰にも触れさせない。
 たとえこの手が血に染まろうとも──お前だけは、守る」

 その誓いは、戦いの始まりを意味していた。

 制度を壊し、王太子としてではなく、一人の人間として愛を貫くために。
 これから先、もっと深い闇と痛みが待っている。

 それでもセイルは思った。

(もし、この人の隣にいられるなら。
 たとえ番じゃなくても、“選ばれた”と信じたい)
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