番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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第10話「秘密の血統」

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王妃ユリエルとの謁見は、王宮西館の応接間で行われた。
 花も絵画も飾られない静謐な空間は、まるで時間の止まった部屋のようだった。

 だがその静けさとは裏腹に、セイルの心臓は不規則に脈打っていた。

 王妃が、どんな言葉を口にするのか。
 なぜ、今になって自分と会いたいと言ったのか──。

 レイグランが席につき、セイルもその隣に腰掛ける。
 王妃は、まっすぐにセイルを見つめた。

「……あなたの顔を見て、すぐに思い出したわ。二十年前に姿を消した、“あの子”のことを」

 その一言で、室内の空気が揺らいだ。

「“あの子”……?」

「あなたの母は、かつて私に仕えていた侍女。
 そして彼女は、“前王家”の血を引く、最後の生き残りだった」

 セイルの瞳が見開かれる。

「王家……の、血……?」

 ユリエルはゆっくりと頷いた。

「番制度が正式に導入される以前、旧制度下では“番を拒む王族”もいたの。
 彼らは愛する者を選び、制度に抗った。だが、その多くは粛清された。
 あなたの母は、処刑を逃れたそのひとり。亡命先で、あなたを産んだのよ」

 自分の母親が、処刑を免れた旧王家の血筋──。
 セイルはまるで地面が崩れ落ちるような感覚に襲われた。

「じゃあ……僕は……この国にいてはいけない存在、なんですか?」

「違うわ」

 その言葉を遮るように、ユリエルの声音が強くなる。

「この国の制度が歪んでいるの。
 “番”という形にすべてを押し込め、本当の愛や選択を否定してきた。
 あなたの存在は、その呪縛を壊す“鍵”なのよ」

 セイルは、混乱の中にいながらも、ひとつだけ確信できたことがあった。

(僕が“番”であるかどうかなんて、もう関係ない。
 僕自身の意思で、レイグランの隣にいたいと……そう、思ってる)

 レイグランが、静かにセイルの手を握る。

「それが、お前の選んだ答えか?」

 セイルは、うなずいた。

「うん。僕は──番じゃなくても、あなたと生きたい」

 王妃は、ゆるやかに目を細めた。

「ならば、あなたの存在を公にする覚悟を持ちなさい。
 王家の血を引く者として、“番制度”と戦うことになるわ」

 セイルの表情が引き締まる。

 もう、ただの平民ではいられない。
 だが、それでも──

「僕は、逃げない。あなたがくれた愛に、報いたいから」

 その言葉に、レイグランははじめて微笑んだ。

「よく言った。……ならば、俺も覚悟を決めよう」

 王太子と、前王家の血を引く青年。
 ふたりの愛は、ついに“制度”そのものに牙を剥く。

 次の戦いは、民衆の前で始まろうとしていた──。
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