番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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第17話「運命を超える愛」

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王都の中心、王城正門前に設けられた仮設広場。
 そこに設えられた壇上に、レイグラン王太子とセイルの姿があった。

 この日、王太子は“国民への発表”として、大々的な演説の場を設けた。

 だがその実態は、“番制度に代わる未来”を提言する、重大な日となる予定だった。

「……緊張してる?」

 セイルがそっと問うと、レイグランはわずかに笑みを見せる。

「いいや。君が隣にいてくれるからな。何も怖くない」

 それは、誰の命令でもない、“彼自身の意志”だった。

 そして、時刻が満ちる。
 見渡すかぎりの人々が集まり、ざわめきが静まりはじめる。

 壇上に立ったレイグランが、一歩前に出て語り始めた。

「……民よ。今日は、王家の未来について話すため、ここに立っている」

 彼の声は堂々としていて、揺るぎがない。

「まず第一に、私は“番制度”の在り方について、根本から問い直すべきだと考えている」

 広場が、ざわりと揺れた。

「私は、番ではない者を伴侶に選んだ。
 制度による選定ではなく、“意志”で――“心”で選んだのだ」

 その告白に、一部からは驚きの声、また一部からは拍手が上がる。

 王族として初めて、“番ではない者との契り”を公に認めた瞬間だった。

「彼の名は、セイル・アーデル。平民の出自だが、真実を以て我が隣に立つに相応しい者だ」

 セイルが一歩前へ出ると、その胸元に浮かぶ“契約の印”が、柔らかな光を放った。

 それは民に、“言葉ではない証”として届いた。

 だが──貴族たちの間に走る、ざわめきは鋭いものだった。

「王太子が……番以外と?」

「制度を否定するつもりか? それは王政そのものの崩壊に繋がる……!」

 その最中、一人の老貴族が立ち上がり、壇上に向かって声を放った。

「王太子殿下、その御決断が国を危うくすることをお忘れか!
 番制度は、魔族との戦を終結させた神聖な基盤なのですぞ!」

 レイグランは、その言葉にも臆さず、きっぱりと答える。

「制度が過ちであったとは言わぬ。だが、それを盾に人の“意志”を踏みにじるならば――
 もはや守るべきは“制度”ではない。“心”なのだ」

 民衆は、その言葉に息を飲んだ。

 そして、どこからともなく、拍手が巻き起こる。

「……王太子殿下、万歳!」

「新しい時代の幕開けだ!」

 セイルはその様子を見て、息を吐いた。
 長い間、抑え込まれていた何かが、ようやく解き放たれていくような感覚だった。

 横に立つレイグランの手を、そっと握る。

「……ありがとう、レイグラン。
 あなたが僕を選んでくれたから、ここまで来られた」

「違うさ。俺はただ、“お前とならどこまででも行ける”と信じただけだ」

 だがこの発表は、王都だけで終わる話ではなかった。
 “番制度の否定”という一石は、他国との関係、魔族との盟約、そして王政の根幹を揺るがす。

 その波紋が、ふたりの絆に影を落とし始めるのは、そう遠くない未来だった──。
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