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追われる少年と、嘘をつく少女
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「お、おい、大丈夫? ねぇ、聞こえてる?」
丘の上に倒れ込んだ少年を、フィノは慌てて抱き起こした。
顔は青白く、呼吸は浅い。服のあちこちが破れ、泥だらけ。
それでも、どこか貴族っぽい──いや、それ以上に“場違いな”雰囲気があった。
「村の診療所、空いてたよね……っ。とにかく連れていかなきゃ!」
重さに呻きつつも、フィノは少年の腕を肩に回し、村へと足を向けた。
──そして、その背後。森の中で何かが動いたことに、彼女はまだ気づいていなかった。
* * *
診療所のベッドで寝かされた少年は、幸いにもすぐ意識を取り戻した。
フィノは、医師には「いとこの子で道に迷っていた」と説明し、なんとか疑われずに済んだ。
「……助かった」
少年──レントと名乗った彼は、フィノと二人きりになった部屋の中で、ぽつりとつぶやいた。
「ありがとう。君がいなかったら、僕、たぶんもう……」
「そんな顔してたもんね。こっちこそ、助けられる“未来”でよかったよ」
「未来?」
「ううん、なんでもない」
レントの顔をまっすぐ見つめながら、フィノは“ひとつの嘘”をついた。
(──本当は、君がこの村に来たことで、未来が“大きく揺れた”のに)
(でも、それを言ってしまったら……きっと、君は逃げるのをやめる)
だから、言わない。
自分の予知が当たってるか外れてるかなんて、もうどうでもよかった。
ただ、この少年の未来が「悲しくなければいい」と、それだけを願った。
……そのとき、扉がノックされた。
「フィノ、いるか? ──見慣れない旅人が来てる。王都の者だって」
村の警備団の男の声に、フィノとレントの表情が同時に強張る。
「……バレたかも」
「逃げる? でも、この村、もう……」
「逃げなくていい。──私が、“未来を変える”から」
嘘をついた予言者と、名もなき少年の“選択”が、静かに始まりを告げた。
丘の上に倒れ込んだ少年を、フィノは慌てて抱き起こした。
顔は青白く、呼吸は浅い。服のあちこちが破れ、泥だらけ。
それでも、どこか貴族っぽい──いや、それ以上に“場違いな”雰囲気があった。
「村の診療所、空いてたよね……っ。とにかく連れていかなきゃ!」
重さに呻きつつも、フィノは少年の腕を肩に回し、村へと足を向けた。
──そして、その背後。森の中で何かが動いたことに、彼女はまだ気づいていなかった。
* * *
診療所のベッドで寝かされた少年は、幸いにもすぐ意識を取り戻した。
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「そんな顔してたもんね。こっちこそ、助けられる“未来”でよかったよ」
「未来?」
「ううん、なんでもない」
レントの顔をまっすぐ見つめながら、フィノは“ひとつの嘘”をついた。
(──本当は、君がこの村に来たことで、未来が“大きく揺れた”のに)
(でも、それを言ってしまったら……きっと、君は逃げるのをやめる)
だから、言わない。
自分の予知が当たってるか外れてるかなんて、もうどうでもよかった。
ただ、この少年の未来が「悲しくなければいい」と、それだけを願った。
……そのとき、扉がノックされた。
「フィノ、いるか? ──見慣れない旅人が来てる。王都の者だって」
村の警備団の男の声に、フィノとレントの表情が同時に強張る。
「……バレたかも」
「逃げる? でも、この村、もう……」
「逃げなくていい。──私が、“未来を変える”から」
嘘をついた予言者と、名もなき少年の“選択”が、静かに始まりを告げた。
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