落ちこぼれ予言者と、世界を救うただの少年

春夜夢

文字の大きさ
12 / 20

第一試練・記憶と決意の幻影

しおりを挟む
白い光に包まれた瞬間、フィノとレントは、それぞれ別の空間にいた。

 ──ここは、どこ?

 フィノの目の前に広がっていたのは、懐かしい“あの家”だった。
 名家エルカ家。予言者の名門。幼い頃、自分が“未来視”の力に目覚めたその場所。

 けれどそこにいるのは、かつての自分──
 まだ希望を信じ、予言を誇りにしていた少女の姿だった。

「“未来は見えるもの”であって、“変えるものじゃない”。
 それを壊したから、あなたは追放されたのよ?」

 鏡のように語りかける“過去の自分”。

「どうしてあなたは、見えている未来を否定するの?」

 フィノは立ち尽くす。言葉が出ない。
 でも──

「……否定してるんじゃない。変えたいって思っただけ」

 「不幸になる未来」が見えたら、誰だって手を伸ばす。
 それが“正しいかどうか”じゃなく、ただ“放っておけなかった”から。

「それが、私が私である理由。……たとえ世界中が否定しても」

 幻影の家が、光とともに崩れ落ちた。
 フィノは、白い空間の中で、前を向いた。

 一方、レントの前に現れたのは──“誰もいない村”。

 かつて彼が育った、記憶の中の村。
 けれど人々は影のように消え、声も届かない。

 「僕のせいで……」

 思わずそう呟いた瞬間、炎のような幻影が襲いかかる。

『お前が器だから、村は滅びた』

『存在そのものが呪いだ』

『生まれてきたことが、間違いだった』

 レントは、崩れ落ちそうになる自分を両腕で支える。
 視界が揺れて、声が頭を貫く──

 でも、思い出す。

 「違う……僕は……“選ばれた”んじゃない」

 「“選んだ”んだ。生きるって。誰かと歩くって。未来を、変えるって」

 その瞬間、幻影の村は光となって霧散する。
 レントは、強く目を開けた。

 二人は、それぞれの空間を超え、中央の間へと導かれていた。
 再び出会うと、そこには試練の声が響いた。

『選択を終えし者たちよ。
 第一試練、通過を認める。
 塔の第二層への扉、開放──』

 ──ゴゴゴ……

 塔が再び揺れ、上層へ続く階段が出現する。

 フィノとレントは顔を見合わせ、そして微笑んだ。

「怖かったけど……ちゃんと向き合えた」

「うん。過去も、未来も、僕たちの中にある。だから進める」

 二人は、次の階層へと足を踏み出す。

 その先に待つのは──真なる“神の意志”との邂逅。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

処理中です...