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抗争の夜から三日後。
組の空気は凍りついたままだった。
幹部会議が続き、誰もが互いを疑っている。
そして、その中心に立つのは――若頭・神代颯。
藤堂蓮は、その背中を見つめながら息を詰めた。
颯の肩の傷はまだ完全には癒えていない。
だが彼は、何事もなかったように冷静に指揮をとっていた。
その姿に、蓮は誇りと同時に、恐怖を覚える。
――颯さんは強すぎる。
どこまでが本音で、どこまでが“若頭”としての仮面なのか、もうわからない。
「藤堂、会議が終わったら来い」
短くそう告げると、颯は幹部たちと部屋へ消えた。
その声が、何故かいつもより遠く感じられた。
蓮は廊下の壁に背を預け、拳を握りしめる。
「……颯さん、あんたまで俺に何か隠してるのか?」
その夜、蓮は倉庫街でひとりの男と会う。
黒川隼人――裏切り者として拘束され、今は監視下にある。
だが、彼は不敵に笑っていた。
「なあ蓮。まだあの人を信じてるのか?」
「颯さんは俺のすべてだ。信じないわけがない」
「……だったら気をつけろ」
隼人は煙草に火をつけ、煙を吐き出す。
「“裏切り者”を作ったのは、颯自身かもしれない」
「……何を言ってる?」
蓮の声が震える。
隼人の目は笑っていなかった。
「情報を漏らしたのは、俺じゃない。……でも誰かが俺に罪を着せた。その“誰か”は、あんたの信じる男だ」
胸が締めつけられる。
否定したい。
けれど、心のどこかで、あの夜の颯の冷たい瞳を思い出してしまう。
「……颯さんがそんなこと、するわけない」
「信じたいなら、勝手に信じろ。ただ――」
隼人は微笑み、最後に言葉を落とした。
「“信仰”は、愛よりも残酷だぞ」
事務所に戻ると、颯が待っていた。
薄暗い部屋の中、彼はソファに腰を下ろし、煙草を指先で弄んでいた。
「……どこに行ってた?」
低く響く声。
蓮は答えに詰まる。
「黒川に、会ってました」
沈黙。
颯の指先が一瞬止まる。
「そうか。で、何を聞いた?」
「颯さんが、裏で何か隠してるって」
その瞬間、空気が凍る。
颯はゆっくりと立ち上がり、蓮に近づく。
「……誰の言葉を信じる?」
「俺は――」
蓮は唇を噛み、涙を堪える。
「颯さんを信じたい。でも、怖いんです……」
颯は一歩近づき、蓮の頬に手を添える。
「……怖くても、俺を見ろ」
その声は、低く震えていた。
「俺が何者であっても、お前を守る。それが、真実だ」
蓮の視界が滲む。
痛みも疑いも、すべてを溶かすようなその言葉に、ただ頷くことしかできなかった。
「……俺、颯さんを信じる」
「それでいい」
颯は蓮の唇に触れ、静かに囁いた。
「信じることは、代償を伴う。覚悟しろ」
その夜、二人は初めて心と身体の距離をなくした。
愛なのか、執着なのか、誰にもわからない。
ただ、颯の腕の中で蓮は確かに生きていた。
だが――その裏で、誰かが再び動き始めていた。
黒川隼人の部屋に、組の印章を持つ封筒が滑り込む。
そこにはただ一言、赤いインクで書かれていた。
「次は、お前の番だ」
組の空気は凍りついたままだった。
幹部会議が続き、誰もが互いを疑っている。
そして、その中心に立つのは――若頭・神代颯。
藤堂蓮は、その背中を見つめながら息を詰めた。
颯の肩の傷はまだ完全には癒えていない。
だが彼は、何事もなかったように冷静に指揮をとっていた。
その姿に、蓮は誇りと同時に、恐怖を覚える。
――颯さんは強すぎる。
どこまでが本音で、どこまでが“若頭”としての仮面なのか、もうわからない。
「藤堂、会議が終わったら来い」
短くそう告げると、颯は幹部たちと部屋へ消えた。
その声が、何故かいつもより遠く感じられた。
蓮は廊下の壁に背を預け、拳を握りしめる。
「……颯さん、あんたまで俺に何か隠してるのか?」
その夜、蓮は倉庫街でひとりの男と会う。
黒川隼人――裏切り者として拘束され、今は監視下にある。
だが、彼は不敵に笑っていた。
「なあ蓮。まだあの人を信じてるのか?」
「颯さんは俺のすべてだ。信じないわけがない」
「……だったら気をつけろ」
隼人は煙草に火をつけ、煙を吐き出す。
「“裏切り者”を作ったのは、颯自身かもしれない」
「……何を言ってる?」
蓮の声が震える。
隼人の目は笑っていなかった。
「情報を漏らしたのは、俺じゃない。……でも誰かが俺に罪を着せた。その“誰か”は、あんたの信じる男だ」
胸が締めつけられる。
否定したい。
けれど、心のどこかで、あの夜の颯の冷たい瞳を思い出してしまう。
「……颯さんがそんなこと、するわけない」
「信じたいなら、勝手に信じろ。ただ――」
隼人は微笑み、最後に言葉を落とした。
「“信仰”は、愛よりも残酷だぞ」
事務所に戻ると、颯が待っていた。
薄暗い部屋の中、彼はソファに腰を下ろし、煙草を指先で弄んでいた。
「……どこに行ってた?」
低く響く声。
蓮は答えに詰まる。
「黒川に、会ってました」
沈黙。
颯の指先が一瞬止まる。
「そうか。で、何を聞いた?」
「颯さんが、裏で何か隠してるって」
その瞬間、空気が凍る。
颯はゆっくりと立ち上がり、蓮に近づく。
「……誰の言葉を信じる?」
「俺は――」
蓮は唇を噛み、涙を堪える。
「颯さんを信じたい。でも、怖いんです……」
颯は一歩近づき、蓮の頬に手を添える。
「……怖くても、俺を見ろ」
その声は、低く震えていた。
「俺が何者であっても、お前を守る。それが、真実だ」
蓮の視界が滲む。
痛みも疑いも、すべてを溶かすようなその言葉に、ただ頷くことしかできなかった。
「……俺、颯さんを信じる」
「それでいい」
颯は蓮の唇に触れ、静かに囁いた。
「信じることは、代償を伴う。覚悟しろ」
その夜、二人は初めて心と身体の距離をなくした。
愛なのか、執着なのか、誰にもわからない。
ただ、颯の腕の中で蓮は確かに生きていた。
だが――その裏で、誰かが再び動き始めていた。
黒川隼人の部屋に、組の印章を持つ封筒が滑り込む。
そこにはただ一言、赤いインクで書かれていた。
「次は、お前の番だ」
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