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第9話『残された写真たち』
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──「じゃあ、あなたは“その顔”を本当に覚えてるの?」
誰かの声が、頭の奥でぐるぐると響いていた。
(私の、顔……?)
沙月は、壁にもたれたまま目を閉じた。
どんなに目を凝らしても、自分の“本当の顔”が思い出せない。
鏡の中にはいつも、**加工された“完璧な仮面”**が映っていたから。
「……こんなのおかしい……」
スマホの中にも、アルバムにも、SNSのアーカイブにも──本来の自分は、どこにもいない。
全部、どこか“他人っぽい”顔ばかり。
八重が言っていた。
「顔って、自分のものみたいで、みんな他人の目を通してしか見てない」
本当の顔を覚えていないまま、彼女に“乗っ取られる”──それが何を意味するのか、沙月にはもうわかっていた。
自分という存在そのものが、“盛られた誰か”に書き換えられていくこと。
そんな時だった。
スマホの電源を落としていたはずの机の上に、一冊のアルバムが置かれているのに気づいた。
(こんなの、なかった……)
ページをめくる。
中には、数年前に使っていたインスタントカメラで撮ったプリント写真が並んでいた。
「……これ……小学生のとき……?」
まだアプリなんて知らなかった頃、校庭で笑っていた自分。
友達と変顔をしながらピースした自分。
家族旅行で、おでこに蚊に刺された跡があるのに笑っていた自分。
どの顔も、少し歪んでいて、少し不格好で、でもちゃんと“自分”だった。
思わず涙がにじむ。
(……これが、私……)
ページの一番最後。裏表紙の裏にだけ、異質な写真が1枚貼られていた。
──真っ白な顔。穴のような黒い目。
何も描かれていないはずのその顔が、じわりと笑った。
裏に、こう書かれていた。
『この顔、誰のだったか覚えてる?』
その瞬間、部屋の蛍光灯がチカチカと明滅し始めた。
──パチ、パチ、パチ。
スマホの電源が、勝手に入る。
通知がいくつも届く。
『保存されました』
『保存されました』
『保存されました』
何十件、何百件。
保存されたのは全部──沙月の顔。
SNSのタイムラインが、沙月の“顔”で埋め尽くされていた。
でも、そこにあるのは、全部少しずつ違う“別人”のような沙月だった。
「……こんなの、私じゃない!!」
思わず叫び、スマホを床に叩きつける。
その瞬間、画面が真っ赤に染まり、音が鳴った。
──カシャッ。
カメラが、勝手に起動した。
画面には、ひとりでに開いたドアの隙間が映し出されていた。
そこに──“無数の顔”を貼りつけた女の姿があった。
一つ一つの顔はどれも少しだけ似ていて、少しだけ違う。
だけど、どの顔にも共通するのは“感情がない”こと。
ただ“誰かの顔”を、貼って、生きている。
沙月のスマホに、最後の通知が届いた。
『あなたの顔、最終確認中です』
誰かの声が、頭の奥でぐるぐると響いていた。
(私の、顔……?)
沙月は、壁にもたれたまま目を閉じた。
どんなに目を凝らしても、自分の“本当の顔”が思い出せない。
鏡の中にはいつも、**加工された“完璧な仮面”**が映っていたから。
「……こんなのおかしい……」
スマホの中にも、アルバムにも、SNSのアーカイブにも──本来の自分は、どこにもいない。
全部、どこか“他人っぽい”顔ばかり。
八重が言っていた。
「顔って、自分のものみたいで、みんな他人の目を通してしか見てない」
本当の顔を覚えていないまま、彼女に“乗っ取られる”──それが何を意味するのか、沙月にはもうわかっていた。
自分という存在そのものが、“盛られた誰か”に書き換えられていくこと。
そんな時だった。
スマホの電源を落としていたはずの机の上に、一冊のアルバムが置かれているのに気づいた。
(こんなの、なかった……)
ページをめくる。
中には、数年前に使っていたインスタントカメラで撮ったプリント写真が並んでいた。
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友達と変顔をしながらピースした自分。
家族旅行で、おでこに蚊に刺された跡があるのに笑っていた自分。
どの顔も、少し歪んでいて、少し不格好で、でもちゃんと“自分”だった。
思わず涙がにじむ。
(……これが、私……)
ページの一番最後。裏表紙の裏にだけ、異質な写真が1枚貼られていた。
──真っ白な顔。穴のような黒い目。
何も描かれていないはずのその顔が、じわりと笑った。
裏に、こう書かれていた。
『この顔、誰のだったか覚えてる?』
その瞬間、部屋の蛍光灯がチカチカと明滅し始めた。
──パチ、パチ、パチ。
スマホの電源が、勝手に入る。
通知がいくつも届く。
『保存されました』
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何十件、何百件。
保存されたのは全部──沙月の顔。
SNSのタイムラインが、沙月の“顔”で埋め尽くされていた。
でも、そこにあるのは、全部少しずつ違う“別人”のような沙月だった。
「……こんなの、私じゃない!!」
思わず叫び、スマホを床に叩きつける。
その瞬間、画面が真っ赤に染まり、音が鳴った。
──カシャッ。
カメラが、勝手に起動した。
画面には、ひとりでに開いたドアの隙間が映し出されていた。
そこに──“無数の顔”を貼りつけた女の姿があった。
一つ一つの顔はどれも少しだけ似ていて、少しだけ違う。
だけど、どの顔にも共通するのは“感情がない”こと。
ただ“誰かの顔”を、貼って、生きている。
沙月のスマホに、最後の通知が届いた。
『あなたの顔、最終確認中です』
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