12 / 21
第12話『#盛れるアプリを試してみた』
しおりを挟む
「ねえ、ユイ。これ見て。めっちゃ盛れてない?」
放課後、ファストフード店の角席。
親友のカナがスマホを見せてきた。
画面に映るのは、現実とは少し違う、完璧な笑顔のカナの自撮りだった。
「……あー、またそれ? 加工しすぎじゃない?」
「は? 盛ってなんぼでしょ、今どき。
てか、これさ、“RefeCam”ってやつ。めっちゃバズってるんだよ。
AIが勝手に盛ってくれて、しかも美肌フィルターとかやばいし!」
「Refe……?」
どこかで聞いたような名前だった。
いや、聞いた気がするのに、なぜか頭の中が霧がかかったように思い出せない。
「アンタも入れてよ。絶対可愛くなるって」
カナは悪気なく言った。
“加工は当たり前”の世代にとって、それは何の疑問もない行為なのだ。
ユイは一度だけためらった。
けれど──その場の空気と、“試してみたい”という軽い興味が勝った。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
スマホを取り出し、アプリストアで「RefeCam」を検索。
レビューは星4.8。コメントには「盛れる」「神アプリ」「違和感ない」「彼氏できた」など、絶賛の嵐。
(ま、たしかに人気はあるっぽいし……)
──インストール完了。
アプリを起動すると、スマホの画面いっぱいに黒い鏡のようなUIが映し出された。
まるで水面をのぞき込んでいるような、不気味な反射。
(ちょっと……普通のカメラっぽくない……?)
違和感はあった。けれど、指は自然と“撮影”ボタンに触れていた。
──カシャ。
スマホが、勝手に写真を撮った。
「えっ、ちょっと……勝手に……」
画面に表示されたのは、ユイの顔。
でも──見たことのないほど、整った自分だった。
「……なにこれ……やば……」
目が大きく、輪郭はシャープ。肌は白く、髪の色もワントーン明るく見える。
まるで“理想の自分”そのもの。
その写真をカナに見せると、彼女は目を見開いた。
「……うわ。誰かわかんなかった。てか……アンタ、可愛すぎ」
「……だよね。やば……」
まるで魔法みたいだった。
すぐにその写真をSNSに投稿する。
> 「#盛れるアプリを試してみた」
最初の「いいね」は、数秒でついた。
> 「かわいすぎ」
「モデルみたい」
「加工どこのアプリ?」
だが、コメントの中に一件だけ異質なものがあった。
> 「この顔、誰かと同じじゃない?」
「……え?」
誰かと、同じ──?
ふと、自分の顔をもう一度見る。
けれど、それはまぎれもなく自分。
そう信じたい。
その夜。
自室でシャワーから上がったユイは、鏡の前でふと違和感を覚えた。
(なんか……目が、違う?)
鏡の中の自分が、じっとこちらを見ている。
……いや、普通に見てるだけだ。
でも、ほんの少しだけ、**“誰かに似ている”**気がした。
「気のせい、でしょ……」
そう呟いたとき、スマホから通知音が鳴った。
> 『@noname_000があなたをフォローしました』
タップすると、画面には顔のないシルエットのアイコン。
そのアカウントの投稿は、たった一つ。
> 「“最初に見たあなたの顔”、いただきます。」
ユイはスマホをベッドに投げ、震える声でつぶやいた。
「なに……これ……?」
その瞬間、電気がふっと落ち、真っ暗な部屋の中で──
鏡の奥から、シャリ……シャリ……と、何かを引きずる音が、聞こえ始めた。
放課後、ファストフード店の角席。
親友のカナがスマホを見せてきた。
画面に映るのは、現実とは少し違う、完璧な笑顔のカナの自撮りだった。
「……あー、またそれ? 加工しすぎじゃない?」
「は? 盛ってなんぼでしょ、今どき。
てか、これさ、“RefeCam”ってやつ。めっちゃバズってるんだよ。
AIが勝手に盛ってくれて、しかも美肌フィルターとかやばいし!」
「Refe……?」
どこかで聞いたような名前だった。
いや、聞いた気がするのに、なぜか頭の中が霧がかかったように思い出せない。
「アンタも入れてよ。絶対可愛くなるって」
カナは悪気なく言った。
“加工は当たり前”の世代にとって、それは何の疑問もない行為なのだ。
ユイは一度だけためらった。
けれど──その場の空気と、“試してみたい”という軽い興味が勝った。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
スマホを取り出し、アプリストアで「RefeCam」を検索。
レビューは星4.8。コメントには「盛れる」「神アプリ」「違和感ない」「彼氏できた」など、絶賛の嵐。
(ま、たしかに人気はあるっぽいし……)
──インストール完了。
アプリを起動すると、スマホの画面いっぱいに黒い鏡のようなUIが映し出された。
まるで水面をのぞき込んでいるような、不気味な反射。
(ちょっと……普通のカメラっぽくない……?)
違和感はあった。けれど、指は自然と“撮影”ボタンに触れていた。
──カシャ。
スマホが、勝手に写真を撮った。
「えっ、ちょっと……勝手に……」
画面に表示されたのは、ユイの顔。
でも──見たことのないほど、整った自分だった。
「……なにこれ……やば……」
目が大きく、輪郭はシャープ。肌は白く、髪の色もワントーン明るく見える。
まるで“理想の自分”そのもの。
その写真をカナに見せると、彼女は目を見開いた。
「……うわ。誰かわかんなかった。てか……アンタ、可愛すぎ」
「……だよね。やば……」
まるで魔法みたいだった。
すぐにその写真をSNSに投稿する。
> 「#盛れるアプリを試してみた」
最初の「いいね」は、数秒でついた。
> 「かわいすぎ」
「モデルみたい」
「加工どこのアプリ?」
だが、コメントの中に一件だけ異質なものがあった。
> 「この顔、誰かと同じじゃない?」
「……え?」
誰かと、同じ──?
ふと、自分の顔をもう一度見る。
けれど、それはまぎれもなく自分。
そう信じたい。
その夜。
自室でシャワーから上がったユイは、鏡の前でふと違和感を覚えた。
(なんか……目が、違う?)
鏡の中の自分が、じっとこちらを見ている。
……いや、普通に見てるだけだ。
でも、ほんの少しだけ、**“誰かに似ている”**気がした。
「気のせい、でしょ……」
そう呟いたとき、スマホから通知音が鳴った。
> 『@noname_000があなたをフォローしました』
タップすると、画面には顔のないシルエットのアイコン。
そのアカウントの投稿は、たった一つ。
> 「“最初に見たあなたの顔”、いただきます。」
ユイはスマホをベッドに投げ、震える声でつぶやいた。
「なに……これ……?」
その瞬間、電気がふっと落ち、真っ暗な部屋の中で──
鏡の奥から、シャリ……シャリ……と、何かを引きずる音が、聞こえ始めた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる