『加工アプリの女』

春夜夢

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第13話『君の顔を、もう一度見せて』

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夜。

ユイの部屋には、スマホの画面だけがぼんやりと光を灯していた。
ベッドの上で毛布にくるまりながら、彼女は何度も「@noname_000」のアカウントを確認した。

──『最初に見たあなたの顔、いただきます。』

たったそれだけの言葉が、背中に氷を這わせた。

(ただのイタズラ……だよね?)

自分の“盛れた顔”にいいねをつけたアカウント。
でも──そのアイコンには、顔がなかった。
人型のシルエットに、目も鼻も、何もない。

そして、フォローされて以降──ユイのスマホに異変が起き始めていた。

・勝手にカメラが起動する
・保存していないはずの写真が増える
・その写真すべてに、“ほんの少しだけ違う自分”が写っている

髪の分け目。目の形。口角の角度。
それは加工では説明できない、“別の誰か”に近づいている変化だった。

(私……こんな顔だったっけ……?)

鏡を覗くと、少しだけ違和感を覚える。

まるで、自分の顔が誰かの記憶で構築されているような──そんな感覚。

そのとき。

スマホが震えた。

> 『RefeCamが新しいフィルターを提案しています』
『“君の理想”にもっと近づけるように』



「……勝手に……しないでよ……!」

声を荒げて通知を消そうとする。
しかし、画面は勝手に切り替わった。

新しいフィルター:“Memory Mirror”

説明文にはこう書かれていた。

> 『あなたが“最初に憧れた顔”を再現します』
『その顔は、あなたの“原点”』



──ぴくっ。

ユイの指が止まる。

(最初に憧れた顔……)

それは、たしか──昔フォローしていたインフルエンサー。
“理想の顔”として、スマホの壁紙にしていた。
無意識に、自分の顔の基準になっていた。

(……でも、その人の名前、なんだったっけ?)

思い出せない。なのに、その顔のイメージだけが、鮮明に残っている。

次の瞬間、スマホのインカメラが起動。

──カシャ。

画面に映ったのは、“インフルエンサーそっくり”の自分の顔だった。

ユイは、言葉を失った。

「……うそ……こんなに……似てる……?」

目を大きく開く。
すると、画面の中の自分が、微かに笑った。

だが、それはユイが笑ったからではない。
ユイ自身は、無表情のまま。

鏡を見たくなかった。
でも、視線をそらした瞬間、どこからか囁きが聞こえた。

> 「ねぇ……君の顔を、もう一度、見せてよ……」



ゾクリ、と背中をなぞられる感覚。

部屋の隅。勉強机に置いてあった小さな鏡が──勝手にこちらを向いていた。

そこに映っていたのは、ユイではない“女”だった。

顔はユイそっくりなのに、目だけが真っ黒に染まっている。

女は、鏡の中でゆっくりと口を動かす。

> 「この顔、気に入ったの」
「ねぇ、君はどんな顔だったか──思い出せる?」



その言葉が、ユイの心に突き刺さる。

(……私の顔……?)

そう思った瞬間、スマホの通知が立て続けに鳴り響いた。

> 『あなたの“顔履歴”を初期化します』
『バックアップが存在しません』



「まって、なにそれ……」

その瞬間、スマホの画面が真っ黒になった。
そして──映ったのは“目も鼻もない、自分の顔”。

ユイは、思わず叫んだ。

「ちがう! それは私じゃない!!」

だが、スマホは動きを止めない。

> 『新しい顔、記録しました』
『ようこそ、“あなた自身ではない何か”へ』
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