『加工アプリの女』

春夜夢

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第15話『ログイン履歴:沙月』

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朝。

アラームが鳴るよりも先に、沙月は目を覚ました。
最近はよく眠れる。顔の女を退けてから、ようやく取り戻した“普通の日常”。

だけど──

今日はなぜか、胸騒ぎがした。

起き上がってスマホを手に取る。
いつも通り、通知を確認しようとしたその時。

> 『RefeCamへログインしました(使用端末:不明)』



「……は?」

思わず声が漏れた。

そのアプリは、すでにアンインストールしているはずだった。
端末の中には、もう存在しない。再インストールした記憶もない。

(何これ……ハッキング?)

不安に駆られてアカウント情報を確認すると、そこにはさらに不可解な履歴が残っていた。

> 最終ログイン:午前2:33
使用端末:Satsuki (2nd device)
IP:不明
使用者:不明
撮影枚数:3枚
位置情報:自室



「……誰が、勝手に……私の部屋で……?」

その時、背中にぞわりと冷たいものが這い上がる。

(……もしかして、寝ている間に……)

アルバムを開くと、“保存日時:2:33”のフォルダが存在していた。
中を確認する。

1枚目──寝顔の自分。
2枚目──寝ている自分を斜め上から撮った写真。
3枚目──ベッドの傍らに立つ“何か”の影。

それは人のような形をしていた。
だが、顔が潰れていた。白くて、のっぺらぼうで、無音の圧力だけを放っていた。

「うそ……うそ、また……?」

終わったはずだった。あれは、もう乗り越えたはずだった。
でも、“彼女”はまだ、どこかに残っていた。

スマホの通知が再び鳴る。

> 『“彼女”は新しい顔を探しています』
『この顔でログインしますか?』



表示された画像には、沙月の顔が写っていた。
──でも、それは“少し若い沙月”だった。

目の光が薄く、笑っていない。
今よりも無垢で、脆くて、何かに憧れていた頃の“昔の自分”。

> 「この顔、気に入ってたでしょ? あの頃の“理想”」



画面の中で、誰かの声が語りかけてくる。

「やめて……私、もう……戻らない」

> 『でも、あなたは“過去の自分”を一番よく覚えてる』
『その顔で、もう一度“始めませんか?”』



その瞬間、スマホが真っ黒になり、まるで鏡のように反射した。

そこに映ったのは──

“高校時代の沙月”の顔をした女だった。
だが、その目は、完全に他人のものだった。

──ギィィ……。

どこからともなく、ドアのきしむ音が聞こえる。

(いや、そんなはず……家には誰もいないのに……)

スマホが最後に表示した通知は、こうだった。

> 『この顔にログインします。──ようこそ、再接続完了』
『現在のユーザー名:satsuki_0000』



(“私”が、私じゃなくなっていく……)

沙月はスマホを握りしめ、呟いた。

「まだ……終わってなかったんだね」
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