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第16話『記録されなかった顔』
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──私は、いつから“私”じゃなくなったんだろう。
ベッドの上で膝を抱えながら、沙月はスマホの電源を落とした。
だが、画面を閉じても“あの顔”は焼きついたままだった。
高校時代の自分。
誰かに憧れ、誰かを真似て、加工アプリを使い始めた頃の自分。
──あの頃から、私は自分の“本当の顔”を撮っていなかった。
「……そっか……“記録”がないんだ……」
何百枚とあるはずの写真の中に、加工されていない顔は一枚もなかった。
思い出の中の自分すら、“理想”で上書きされている。
沙月はアルバムアプリを開き、ひとつずつ写真を遡っていった。
友達と笑い合う写真。
文化祭、修学旅行、卒業式──
どれも完璧な角度とフィルターが施されていて、現実の顔とは違っていた。
(本当に……私の顔、どこにもない)
──その時だった。
1枚の写真が、不意に画面いっぱいに拡大表示された。
保存日時:2018年4月9日
場所:中学校の体育館裏
それは、旧式のガラケーで撮られたような画質の悪い写真だった。
でも、その中に写っていた少女──それが、“加工されていない、本当の沙月”だった。
少しあどけなくて、前髪が不揃いで、ニキビ跡が残っていた。
でもその目は、まっすぐだった。真正面から、カメラを見つめていた。
「……私だ……」
思わず涙がにじむ。
その瞬間、スマホがブルッと震え、強制的にカメラが起動する。
(また勝手に……!)
でも──今度は、カメラに映った自分の顔に、違和感はなかった。
ほんの少しだけむくんだ目。
疲れがにじむ肌。
でも、それは“作られていない、今の私”だった。
(……これが、私)
そのとき、スマホ画面にメッセージが浮かび上がる。
> 『記録されていない“あなたの顔”を確認しました』
『最終ログインユーザーとの接続が解除されました』
『@satsuki_0000は削除されました』
「……やっと……」
スマホをそっと伏せて、深く息を吐いた。
でも──気になったのは、画面に残されたたった一行の小さな注釈だった。
> 『※ログインユーザーの記憶には残ります』
「……どういう……こと……?」
沙月がふと顔を上げると、部屋の壁にかけてあった姿見の鏡に、誰かが映っていた。
自分と同じ制服。
同じ髪型。
でも──笑っている“あの頃の沙月”。
> 「私のこと、忘れないでね。
あなたが“私”を作ってくれたんだから」
その幻影は、静かに微笑んで、スッと消えた。
──“顔の女”は、もしかすると、自分自身が捨てた“理想の自分”の亡霊だったのかもしれない。
* * *
数日後。
学校の掲示板で、ある一枚のビラが貼られているのを沙月は見つけた。
> 『#FaceMeアプリ 新登場』
『AIが“あなたに最も似合う顔”を自動生成します』
沙月は、そっとそのビラを破り捨てた。
ベッドの上で膝を抱えながら、沙月はスマホの電源を落とした。
だが、画面を閉じても“あの顔”は焼きついたままだった。
高校時代の自分。
誰かに憧れ、誰かを真似て、加工アプリを使い始めた頃の自分。
──あの頃から、私は自分の“本当の顔”を撮っていなかった。
「……そっか……“記録”がないんだ……」
何百枚とあるはずの写真の中に、加工されていない顔は一枚もなかった。
思い出の中の自分すら、“理想”で上書きされている。
沙月はアルバムアプリを開き、ひとつずつ写真を遡っていった。
友達と笑い合う写真。
文化祭、修学旅行、卒業式──
どれも完璧な角度とフィルターが施されていて、現実の顔とは違っていた。
(本当に……私の顔、どこにもない)
──その時だった。
1枚の写真が、不意に画面いっぱいに拡大表示された。
保存日時:2018年4月9日
場所:中学校の体育館裏
それは、旧式のガラケーで撮られたような画質の悪い写真だった。
でも、その中に写っていた少女──それが、“加工されていない、本当の沙月”だった。
少しあどけなくて、前髪が不揃いで、ニキビ跡が残っていた。
でもその目は、まっすぐだった。真正面から、カメラを見つめていた。
「……私だ……」
思わず涙がにじむ。
その瞬間、スマホがブルッと震え、強制的にカメラが起動する。
(また勝手に……!)
でも──今度は、カメラに映った自分の顔に、違和感はなかった。
ほんの少しだけむくんだ目。
疲れがにじむ肌。
でも、それは“作られていない、今の私”だった。
(……これが、私)
そのとき、スマホ画面にメッセージが浮かび上がる。
> 『記録されていない“あなたの顔”を確認しました』
『最終ログインユーザーとの接続が解除されました』
『@satsuki_0000は削除されました』
「……やっと……」
スマホをそっと伏せて、深く息を吐いた。
でも──気になったのは、画面に残されたたった一行の小さな注釈だった。
> 『※ログインユーザーの記憶には残ります』
「……どういう……こと……?」
沙月がふと顔を上げると、部屋の壁にかけてあった姿見の鏡に、誰かが映っていた。
自分と同じ制服。
同じ髪型。
でも──笑っている“あの頃の沙月”。
> 「私のこと、忘れないでね。
あなたが“私”を作ってくれたんだから」
その幻影は、静かに微笑んで、スッと消えた。
──“顔の女”は、もしかすると、自分自身が捨てた“理想の自分”の亡霊だったのかもしれない。
* * *
数日後。
学校の掲示板で、ある一枚のビラが貼られているのを沙月は見つけた。
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沙月は、そっとそのビラを破り捨てた。
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