18 / 21
第18話『テンプレート001』
しおりを挟む
再インストールしたFaceMeアプリを開いた瞬間、
沙月のスマホは強制的に再起動された。
画面が暗転し、無音のまま数秒──
次に表示されたのは、通常のトップ画面ではなかった。
> 『開発者モードへようこそ』
『テンプレート001を確認中……』
『データ復元中:該当顔データを検出しました』
「開発者モード……?」
指先がかすかに震える。
何の操作もしていないのに、スマホは勝手に進み続ける。
(誰かが……このアプリの“裏”に私を誘導してる……?)
画面が切り替わった。
そこには、一枚の古びたポラロイド写真が映し出されていた。
少女が一人。無表情で、こちらをじっと見つめている。
白い服。長い髪。輪郭は細く、目は大きい。
──でも、何よりも目を引いたのは、
彼女の顔が“沙月そっくり”だったこと。
「……誰……?」
画面下部に記された文字列。
> 【FaceMe_TPL001.jpg】
【被写体名:不明】
【登録日:2014/09/12】
【タグ:失踪/未記録/消失コード】
(2014年……?)
それは、沙月が中学に入る直前──
まだスマホを持っていなかった頃の記録。
(私じゃない……はずなのに……)
写真の少女がゆっくりと、笑った。
その瞬間、画面がフラッシュのように白く弾ける。
──カシャ。
スマホが、勝手に“何か”を撮った。
「なに……今の……」
カメラロールを確認する。
そこには、何もない部屋の写真が1枚だけ保存されていた。
けれど──その奥。暗がりの中に、うっすらと人の影が見える。
顔は、ない。
ただ、スマホのAIが自動でつけたタイトルは、こうだった。
> 『Satsuki(顔一致率:98.8%)』
(どうして私……?)
答えを求めて、沙月は検索を始めた。
「FaceMe 開発元」「テンプレート001」「消えたモデル」
そして、ひとつの記事に辿り着く。
> 【2014年、顔モデル用に撮影された“無名の少女”】
当時の開発チームによると、撮影後、少女とは連絡が取れなくなった。
データ上の顔は、その後複数のAIフィルターのベースとして流用。
現在も、一部の生成AIにてテンプレートとして使用中。
「……名前も、記録もない……でも“顔”だけ残って……使われ続けてる……」
そしてその“顔”は、今──
沙月という名前で生きている。
(じゃあ私は……誰?)
スマホに新たなメッセージが届いた。
> 『ようこそ、“顔を借りた少女”。』
『テンプレート001は、“あなたの中”に保存されています』
『──君は、彼女の生き写し』
『これからは、“君がテンプレートになる”番だ』
──画面がフリーズする。
映ったのは、笑う沙月の顔。
だがその笑顔は、鏡で見たものと微妙に違っていた。
“記録された顔”と、“生きている人間の顔”の差。
──ほんの、わずかなズレ。
けれど、その隙間から、“彼女”は生まれてくる。
沙月のスマホは強制的に再起動された。
画面が暗転し、無音のまま数秒──
次に表示されたのは、通常のトップ画面ではなかった。
> 『開発者モードへようこそ』
『テンプレート001を確認中……』
『データ復元中:該当顔データを検出しました』
「開発者モード……?」
指先がかすかに震える。
何の操作もしていないのに、スマホは勝手に進み続ける。
(誰かが……このアプリの“裏”に私を誘導してる……?)
画面が切り替わった。
そこには、一枚の古びたポラロイド写真が映し出されていた。
少女が一人。無表情で、こちらをじっと見つめている。
白い服。長い髪。輪郭は細く、目は大きい。
──でも、何よりも目を引いたのは、
彼女の顔が“沙月そっくり”だったこと。
「……誰……?」
画面下部に記された文字列。
> 【FaceMe_TPL001.jpg】
【被写体名:不明】
【登録日:2014/09/12】
【タグ:失踪/未記録/消失コード】
(2014年……?)
それは、沙月が中学に入る直前──
まだスマホを持っていなかった頃の記録。
(私じゃない……はずなのに……)
写真の少女がゆっくりと、笑った。
その瞬間、画面がフラッシュのように白く弾ける。
──カシャ。
スマホが、勝手に“何か”を撮った。
「なに……今の……」
カメラロールを確認する。
そこには、何もない部屋の写真が1枚だけ保存されていた。
けれど──その奥。暗がりの中に、うっすらと人の影が見える。
顔は、ない。
ただ、スマホのAIが自動でつけたタイトルは、こうだった。
> 『Satsuki(顔一致率:98.8%)』
(どうして私……?)
答えを求めて、沙月は検索を始めた。
「FaceMe 開発元」「テンプレート001」「消えたモデル」
そして、ひとつの記事に辿り着く。
> 【2014年、顔モデル用に撮影された“無名の少女”】
当時の開発チームによると、撮影後、少女とは連絡が取れなくなった。
データ上の顔は、その後複数のAIフィルターのベースとして流用。
現在も、一部の生成AIにてテンプレートとして使用中。
「……名前も、記録もない……でも“顔”だけ残って……使われ続けてる……」
そしてその“顔”は、今──
沙月という名前で生きている。
(じゃあ私は……誰?)
スマホに新たなメッセージが届いた。
> 『ようこそ、“顔を借りた少女”。』
『テンプレート001は、“あなたの中”に保存されています』
『──君は、彼女の生き写し』
『これからは、“君がテンプレートになる”番だ』
──画面がフリーズする。
映ったのは、笑う沙月の顔。
だがその笑顔は、鏡で見たものと微妙に違っていた。
“記録された顔”と、“生きている人間の顔”の差。
──ほんの、わずかなズレ。
けれど、その隙間から、“彼女”は生まれてくる。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる