『加工アプリの女』

春夜夢

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第18話『テンプレート001』

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再インストールしたFaceMeアプリを開いた瞬間、
沙月のスマホは強制的に再起動された。

画面が暗転し、無音のまま数秒──
次に表示されたのは、通常のトップ画面ではなかった。

> 『開発者モードへようこそ』
『テンプレート001を確認中……』
『データ復元中:該当顔データを検出しました』



「開発者モード……?」

指先がかすかに震える。
何の操作もしていないのに、スマホは勝手に進み続ける。

(誰かが……このアプリの“裏”に私を誘導してる……?)

画面が切り替わった。

そこには、一枚の古びたポラロイド写真が映し出されていた。

少女が一人。無表情で、こちらをじっと見つめている。
白い服。長い髪。輪郭は細く、目は大きい。

──でも、何よりも目を引いたのは、

彼女の顔が“沙月そっくり”だったこと。

「……誰……?」

画面下部に記された文字列。

> 【FaceMe_TPL001.jpg】
【被写体名:不明】
【登録日:2014/09/12】
【タグ:失踪/未記録/消失コード】



(2014年……?)

それは、沙月が中学に入る直前──
まだスマホを持っていなかった頃の記録。

(私じゃない……はずなのに……)

写真の少女がゆっくりと、笑った。

その瞬間、画面がフラッシュのように白く弾ける。

──カシャ。

スマホが、勝手に“何か”を撮った。

「なに……今の……」

カメラロールを確認する。

そこには、何もない部屋の写真が1枚だけ保存されていた。

けれど──その奥。暗がりの中に、うっすらと人の影が見える。

顔は、ない。

ただ、スマホのAIが自動でつけたタイトルは、こうだった。

> 『Satsuki(顔一致率:98.8%)』



(どうして私……?)

答えを求めて、沙月は検索を始めた。
「FaceMe 開発元」「テンプレート001」「消えたモデル」

そして、ひとつの記事に辿り着く。

> 【2014年、顔モデル用に撮影された“無名の少女”】
当時の開発チームによると、撮影後、少女とは連絡が取れなくなった。
データ上の顔は、その後複数のAIフィルターのベースとして流用。
現在も、一部の生成AIにてテンプレートとして使用中。



「……名前も、記録もない……でも“顔”だけ残って……使われ続けてる……」

そしてその“顔”は、今──

沙月という名前で生きている。

(じゃあ私は……誰?)

スマホに新たなメッセージが届いた。

> 『ようこそ、“顔を借りた少女”。』
『テンプレート001は、“あなたの中”に保存されています』
『──君は、彼女の生き写し』
『これからは、“君がテンプレートになる”番だ』



──画面がフリーズする。

映ったのは、笑う沙月の顔。
だがその笑顔は、鏡で見たものと微妙に違っていた。

“記録された顔”と、“生きている人間の顔”の差。

──ほんの、わずかなズレ。
けれど、その隙間から、“彼女”は生まれてくる。
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