19 / 21
第19話『顔を消す方法』
しおりを挟む
──テンプレート001は、あなたの中に保存されています。
その通知が届いてから、沙月の中にずっと残っている違和感。
誰かが自分を覗いているような、
自分という存在が「誰かの記録」でしかないような──そんな感覚。
(“あの顔”を、消さないと。私自身が、私であるために)
だが、どうやって?
スマホの中から削除する?
アカウントを消す?
アプリを破壊する?
……違う。“顔”そのものを消すしかない。
でも、それはつまり──
自分自身を消すことと、紙一重だった。
* * *
沙月は、再びFaceMeを開いた。
トップに表示される“おすすめテンプレート001”。
それは、あの無表情の少女の顔だった。
今や数百万人がそのフィルターを使い、「理想の顔」として拡散している。
> 「この顔があれば、誰だって人気者になれる」
「この顔で、人生変わった」
「整形しなくていい時代、最高!」
そんなコメントが並ぶ中、沙月の目には、その笑顔たちが**どれも同じ“仮面”**に見えた。
「……このままじゃ、“彼女”は増殖し続ける……」
止めなきゃ。
でも、私に何ができる?
そのとき、ふと思い出す。
──八重の言葉。
> 「“本当の顔”を覚えてる限り、“彼女”は中に入りきれない」
「でも逆に、“誰も覚えていない顔”になったら……完全に取り込まれる」
(なら……“誰の記憶にも残ってない”顔にすれば……この呪いは終わる?)
つまり、“顔を消す”とは──
誰の記憶にも残らない存在になること。
それは、恐ろしい選択だった。
写真も、動画も、SNSも、思い出も──
「沙月」という顔の痕跡を、完全にこの世界から削除する。
(私が、“私”を消す……)
けれど、決意は揺るがなかった。
沙月はまず、すべてのSNSアカウントを削除。
フォルダに保存された顔写真、映像、タグ、すべてを消去。
スマホの設定から、FaceIDも、ロック画面の画像も変更。
──最後に、姿見の前に立つ。
ゆっくりと、自分の顔を見つめる。
加工もされていない。
誰の理想でもない、自分だけの顔。
「……さよなら」
鏡を布で覆い、その上からガムテープで封をした。
そして、スマホのカメラレンズにも黒テープを貼り、再起動。
もう一度、FaceMeを開く。
> 『テンプレート001が削除されました』
『記録なし』
『ログ参照不可』
その瞬間、画面がゆっくりと揺れ、ブラックアウト。
そこに映ったのは、何もない、完全な“空白”。
──シャリ……
部屋の奥から、最後の音が聞こえた。
誰かが、這ってくるような音。
だけど、もう怖くなかった。
沙月は目を閉じ、深く息を吐く。
> 「君の顔は、もうここにいない。
だから、もうどこへも行けないよ──“彼女”」
* * *
翌朝。
沙月は、目覚めた。
そして気づく。
──スマホが、真っさらになっていた。
連絡帳も、写真も、履歴も、何もない。
だが、胸の中には確かに、“自分”だけが残っていた。
(誰のテンプレートでもない。誰の代わりでもない。
やっと……私になれた気がする)
ふと、画面にひとつだけ通知が浮かんだ。
> 『記録されていない顔、1件確認』
でもそれは、もう“誰かのため”じゃなかった。
それは、自分が自分であることを証明する、たったひとつの“痕跡”。
その通知が届いてから、沙月の中にずっと残っている違和感。
誰かが自分を覗いているような、
自分という存在が「誰かの記録」でしかないような──そんな感覚。
(“あの顔”を、消さないと。私自身が、私であるために)
だが、どうやって?
スマホの中から削除する?
アカウントを消す?
アプリを破壊する?
……違う。“顔”そのものを消すしかない。
でも、それはつまり──
自分自身を消すことと、紙一重だった。
* * *
沙月は、再びFaceMeを開いた。
トップに表示される“おすすめテンプレート001”。
それは、あの無表情の少女の顔だった。
今や数百万人がそのフィルターを使い、「理想の顔」として拡散している。
> 「この顔があれば、誰だって人気者になれる」
「この顔で、人生変わった」
「整形しなくていい時代、最高!」
そんなコメントが並ぶ中、沙月の目には、その笑顔たちが**どれも同じ“仮面”**に見えた。
「……このままじゃ、“彼女”は増殖し続ける……」
止めなきゃ。
でも、私に何ができる?
そのとき、ふと思い出す。
──八重の言葉。
> 「“本当の顔”を覚えてる限り、“彼女”は中に入りきれない」
「でも逆に、“誰も覚えていない顔”になったら……完全に取り込まれる」
(なら……“誰の記憶にも残ってない”顔にすれば……この呪いは終わる?)
つまり、“顔を消す”とは──
誰の記憶にも残らない存在になること。
それは、恐ろしい選択だった。
写真も、動画も、SNSも、思い出も──
「沙月」という顔の痕跡を、完全にこの世界から削除する。
(私が、“私”を消す……)
けれど、決意は揺るがなかった。
沙月はまず、すべてのSNSアカウントを削除。
フォルダに保存された顔写真、映像、タグ、すべてを消去。
スマホの設定から、FaceIDも、ロック画面の画像も変更。
──最後に、姿見の前に立つ。
ゆっくりと、自分の顔を見つめる。
加工もされていない。
誰の理想でもない、自分だけの顔。
「……さよなら」
鏡を布で覆い、その上からガムテープで封をした。
そして、スマホのカメラレンズにも黒テープを貼り、再起動。
もう一度、FaceMeを開く。
> 『テンプレート001が削除されました』
『記録なし』
『ログ参照不可』
その瞬間、画面がゆっくりと揺れ、ブラックアウト。
そこに映ったのは、何もない、完全な“空白”。
──シャリ……
部屋の奥から、最後の音が聞こえた。
誰かが、這ってくるような音。
だけど、もう怖くなかった。
沙月は目を閉じ、深く息を吐く。
> 「君の顔は、もうここにいない。
だから、もうどこへも行けないよ──“彼女”」
* * *
翌朝。
沙月は、目覚めた。
そして気づく。
──スマホが、真っさらになっていた。
連絡帳も、写真も、履歴も、何もない。
だが、胸の中には確かに、“自分”だけが残っていた。
(誰のテンプレートでもない。誰の代わりでもない。
やっと……私になれた気がする)
ふと、画面にひとつだけ通知が浮かんだ。
> 『記録されていない顔、1件確認』
でもそれは、もう“誰かのため”じゃなかった。
それは、自分が自分であることを証明する、たったひとつの“痕跡”。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる