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第十八話「交わされる誓い──すべてを与える覚悟」
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「第一王子殿下に、外政局より通達が届いております」
文官の言葉に、レイグランは視線を上げた。
差し出された文書の封には、異国の紋章が押されている。
(まさか、また――)
開封した瞬間、レイグランの眉がわずかに動いた。
「“南海同盟国王女との縁談、継続希望”……か」
政略の道具として扱われるのは、王族の常。
それを拒絶するだけの力と意志が、彼にはあったはずだ。
けれど――
(今の俺に、その“意志”があるか? ……セイルを守るためなら、何でもできると思っていたのに)
ふと、窓の外を見る。
そこには、庭園で書類を抱えるセイルの姿。
柔らかく風になびく髪。まっすぐ歩く背。
あの姿が、今の自分の世界そのものだった。
その夜。
ふたりは久々に、王太子私室で食事を共にしていた。
セイルはよく食べ、よく笑うようになってきた。
だがレイグランは、まだ言えない“知らせ”を飲み込みながら、彼を見つめていた。
「……何か、あった?」
セイルが気づくのは、いつだって早い。
「いや。……ただ、見とれてただけだ」
「うそ。何かを言わない顔してる」
そう言って、セイルは箸を置く。
「俺、逃げないから。今の俺は、ちゃんとここにいる。だから言って」
……甘えることは許されない。
そう思っていたのは、むしろレイグランのほうだった。
「縁談が……再び舞い込んだ。国外との政略のために」
沈黙。
だがセイルは、少し考えるようにしてから口を開いた。
「……断れるの?」
「ああ。だが、その代償は俺自身が支払うことになる」
「なら、俺にできること、ある?」
レイグランの目が見開かれる。
「……どうして、そんなふうに言える」
「政略結婚なんて、俺だって嫌だよ。でも、あなたが王になるために必要なら、俺も……一緒に、戦う」
手を伸ばしてくるセイルの指は、震えていなかった。
「“ただの番のふり”をしてた頃より、ずっとマシ。今の俺は、自分の意志でここにいるから」
レイグランは、その手を握り返した。
「……なら、俺も決めた。明日、王に直接話をつける。
セイルを正式に、“公的な隣に立たせる”許可を求める」
「……本当に?」
「ああ。俺の“番”ではなく、“生涯の伴侶”として」
その言葉に、セイルの目に熱が滲んだ。
「……それ、ずるいよ。演技でもなんでもない言葉、今さらそんな風に言われたら」
「もう、演技は終わっただろう?」
唇が触れ合う。
交わされたのは、番の印ではない。
けれど、それよりも強く確かな、ふたりだけの“誓い”だった。
翌朝。
レイグランは正式に、父王との謁見の場を求める。
その後ろには、式典用の正装を身に纏ったセイルの姿があった。
文官の言葉に、レイグランは視線を上げた。
差し出された文書の封には、異国の紋章が押されている。
(まさか、また――)
開封した瞬間、レイグランの眉がわずかに動いた。
「“南海同盟国王女との縁談、継続希望”……か」
政略の道具として扱われるのは、王族の常。
それを拒絶するだけの力と意志が、彼にはあったはずだ。
けれど――
(今の俺に、その“意志”があるか? ……セイルを守るためなら、何でもできると思っていたのに)
ふと、窓の外を見る。
そこには、庭園で書類を抱えるセイルの姿。
柔らかく風になびく髪。まっすぐ歩く背。
あの姿が、今の自分の世界そのものだった。
その夜。
ふたりは久々に、王太子私室で食事を共にしていた。
セイルはよく食べ、よく笑うようになってきた。
だがレイグランは、まだ言えない“知らせ”を飲み込みながら、彼を見つめていた。
「……何か、あった?」
セイルが気づくのは、いつだって早い。
「いや。……ただ、見とれてただけだ」
「うそ。何かを言わない顔してる」
そう言って、セイルは箸を置く。
「俺、逃げないから。今の俺は、ちゃんとここにいる。だから言って」
……甘えることは許されない。
そう思っていたのは、むしろレイグランのほうだった。
「縁談が……再び舞い込んだ。国外との政略のために」
沈黙。
だがセイルは、少し考えるようにしてから口を開いた。
「……断れるの?」
「ああ。だが、その代償は俺自身が支払うことになる」
「なら、俺にできること、ある?」
レイグランの目が見開かれる。
「……どうして、そんなふうに言える」
「政略結婚なんて、俺だって嫌だよ。でも、あなたが王になるために必要なら、俺も……一緒に、戦う」
手を伸ばしてくるセイルの指は、震えていなかった。
「“ただの番のふり”をしてた頃より、ずっとマシ。今の俺は、自分の意志でここにいるから」
レイグランは、その手を握り返した。
「……なら、俺も決めた。明日、王に直接話をつける。
セイルを正式に、“公的な隣に立たせる”許可を求める」
「……本当に?」
「ああ。俺の“番”ではなく、“生涯の伴侶”として」
その言葉に、セイルの目に熱が滲んだ。
「……それ、ずるいよ。演技でもなんでもない言葉、今さらそんな風に言われたら」
「もう、演技は終わっただろう?」
唇が触れ合う。
交わされたのは、番の印ではない。
けれど、それよりも強く確かな、ふたりだけの“誓い”だった。
翌朝。
レイグランは正式に、父王との謁見の場を求める。
その後ろには、式典用の正装を身に纏ったセイルの姿があった。
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