番になんてなりたくなかった──執着王太子に望まれた逃亡オメガ

春夜夢

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第三十話「告白と婚約──王家と民の狭間で」

王宮にて、急遽開かれた記者会見。
 貴族たちの席、民間報道員たちの視線、そして……注がれる無数の好奇と猜疑。

 壇上に立った王太子レイグラン・アストレイアの隣には、白の礼服に身を包んだ青年――セイル・ノアがいた。

 オメガが、王族の“伴侶”として公に並び立つ。
 それはこの国では、歴史的に例のない光景だった。

「本日、私は王家の後継者として、正式に“伴侶”を選んだことを、国民にご報告いたします」

 レイグランの声は澄んでいた。
 穏やかでいて、ひとつの揺るぎない決意を宿している。

「この者はオメガであり、また私の“番”でもある。だが、何よりも、私が生涯を共にしたいと心から願った“ひとりの人間”である」

 セイルの手が、わずかに震える。
 けれど隣に立つその背中は、ずっと彼の心を支え続けていた。

 会場の空気が揺れる。

 ざわめきの中、貴族のひとりが声を上げた。

「ですが殿下、“番”とはただの衝動であって、婚姻とは分けて考えるべきです! 国を継ぐお立場として、それは……!」

 別の貴族も続く。

「民の不安もございます。王族の血を引く後継者を望む声は根強く……」

 揺れる空気の中で、セイルが前に出た。

「……私は、王家にふさわしい存在ではないかもしれません」

 その声は小さくとも、しっかりと通った。

「けれど、王太子殿下が“この国の未来に必要だ”と言ってくださった。
 私はそれを、命を賭けて証明します。どんな疑いの目があっても、逃げません」

 その言葉に、静寂が落ちる。

 次の瞬間、レイグランがセイルの手を取り、口づけた。

「この命が尽きるときまで、私は君の味方だ」

 会場に立つひとりの女性記者が、涙ぐみながら呟く。

「……あれが、本当の愛……」

 やがて、その想いは会場全体にゆっくりと波紋を広げた。

 拍手が、ひとつ。
 またひとつ。

 反対の声をかき消すように、静かな賛同が満ちていく。

 その夜。

 セイルはレイグランの私室で、そっと肩を預けた。

「……怖かった。けど、今は……信じられる」

 レイグランは、静かにセイルの髪を撫でた。

「これで“ふたりの関係”は、もう誰にも壊せない」

「……でも、始まったばかりだよね。これからが、試されるんだ」

「そうだな。けれど、君となら乗り越えられる」

 ふたりの婚約は、世論を二分した。
 けれど、“愛で結ばれた王家の物語”として、人々の心に少しずつ根を下ろしていく。

 そしてそれが、思いもよらぬ“さらなる波紋”を呼ぶことになる。
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