番になんてなりたくなかった──執着王太子に望まれた逃亡オメガ

春夜夢

文字の大きさ
32 / 37

第三十二話「命を狙う影──愛する者を守る覚悟」

それは、何の前触れもなく起こった。

 セイルが庭園の一角を歩いていた午後。
 ふいに、草陰から――鈍く光るナイフが跳ねた。

「っ――危ない!!」

 間一髪で飛び込んできた護衛の男が、セイルを庇って倒れ込む。
 すぐに他の警備兵たちが襲撃者を取り押さえるが、その刃はセイルのすぐ眼前まで迫っていた。

「まさか……ここまで……!」

 犯人の口からは、血混じりの嘲笑が漏れた。

「番の……くせに……王族の隣に立つなんて、おこがましい……!」

 その報せを受けたレイグランは、激しい怒りを露わにした。

「すぐに全周囲の監視を強化しろ。特に、セイルの動線には二重の護衛を」

 その声は凍てつくように冷たい。
 怒りの奥には、深い恐怖があった。

 ――また、守れなかったらどうする。

 彼の手の中には、セイルが落としたハンカチが握られていた。
 小さく、血が滲んでいた。

 怪我こそなかったものの、セイルは王宮の離れに移された。

 だが、彼は拒んだ。

「……俺は、逃げない」

「セイル。君の命が狙われているんだ。今は隠れるべきだ」

「俺を狙ってる奴らは、“オメガ”という存在を憎んでる。
 でも、それ以上に“あんたと一緒にいる俺”を憎んでる」

 セイルの瞳は、まっすぐだった。

「だから俺は、隠れるんじゃなくて――“ここに立ってる”って、見せなきゃいけない」

 その覚悟に、レイグランは言葉を失った。

 静かに彼を抱き寄せると、囁いた。

「ならば、俺も決意を示そう」

 数日後。王宮前で、再び発表が行われた。

 王太子レイグランは、すべての前提を覆す“告白”をしたのだ。

「かつて、王家は“番遺伝子の操作”に関与した。
 だが、私はそれを否定する。この国に生まれたすべての者が、“誰を愛するか”を選ぶ自由があるべきだ」

 その声に、広場に集まった民衆が息を飲む。

「私は、セイル・ノアを“番”としてではなく、“愛する人間”として選んだ。
 それが、この命に代えても守りたい、俺の真実だ」

 その日から、王宮の中も外も――静かに動き出していた。

 支持派と反対派の分断は、ますます深く。
 そして“アレク派”の影は、着実に牙を研いでいた。

「番は呪いだ。……お前は、呪いの象徴にすぎない」

 その囁きが、王都の地下で響いていた。

 だがセイルは知っていた。

 その声が届かぬほど、今の自分は“ひとりじゃない”と。
感想 0

あなたにおすすめの小説

オメガなのにムキムキに成長したんだが?

未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。 なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。 お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。 発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。 ※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。 同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり

兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語

サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。 ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。 兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。 受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。 攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。 ※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

既成事実さえあれば大丈夫

ふじの
BL
名家出身のオメガであるサミュエルは、第三王子に婚約を一方的に破棄された。名家とはいえ貧乏な家のためにも新しく誰かと番う必要がある。だがサミュエルは行き遅れなので、もはや選んでいる立場ではない。そうだ、既成事実さえあればどこかに嫁げるだろう。そう考えたサミュエルは、ヒート誘発薬を持って夜会に乗り込んだ。そこで出会った美丈夫のアルファ、ハリムと意気投合したが───。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです ※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。