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第三十二話「命を狙う影──愛する者を守る覚悟」
それは、何の前触れもなく起こった。
セイルが庭園の一角を歩いていた午後。
ふいに、草陰から――鈍く光るナイフが跳ねた。
「っ――危ない!!」
間一髪で飛び込んできた護衛の男が、セイルを庇って倒れ込む。
すぐに他の警備兵たちが襲撃者を取り押さえるが、その刃はセイルのすぐ眼前まで迫っていた。
「まさか……ここまで……!」
犯人の口からは、血混じりの嘲笑が漏れた。
「番の……くせに……王族の隣に立つなんて、おこがましい……!」
その報せを受けたレイグランは、激しい怒りを露わにした。
「すぐに全周囲の監視を強化しろ。特に、セイルの動線には二重の護衛を」
その声は凍てつくように冷たい。
怒りの奥には、深い恐怖があった。
――また、守れなかったらどうする。
彼の手の中には、セイルが落としたハンカチが握られていた。
小さく、血が滲んでいた。
怪我こそなかったものの、セイルは王宮の離れに移された。
だが、彼は拒んだ。
「……俺は、逃げない」
「セイル。君の命が狙われているんだ。今は隠れるべきだ」
「俺を狙ってる奴らは、“オメガ”という存在を憎んでる。
でも、それ以上に“あんたと一緒にいる俺”を憎んでる」
セイルの瞳は、まっすぐだった。
「だから俺は、隠れるんじゃなくて――“ここに立ってる”って、見せなきゃいけない」
その覚悟に、レイグランは言葉を失った。
静かに彼を抱き寄せると、囁いた。
「ならば、俺も決意を示そう」
数日後。王宮前で、再び発表が行われた。
王太子レイグランは、すべての前提を覆す“告白”をしたのだ。
「かつて、王家は“番遺伝子の操作”に関与した。
だが、私はそれを否定する。この国に生まれたすべての者が、“誰を愛するか”を選ぶ自由があるべきだ」
その声に、広場に集まった民衆が息を飲む。
「私は、セイル・ノアを“番”としてではなく、“愛する人間”として選んだ。
それが、この命に代えても守りたい、俺の真実だ」
その日から、王宮の中も外も――静かに動き出していた。
支持派と反対派の分断は、ますます深く。
そして“アレク派”の影は、着実に牙を研いでいた。
「番は呪いだ。……お前は、呪いの象徴にすぎない」
その囁きが、王都の地下で響いていた。
だがセイルは知っていた。
その声が届かぬほど、今の自分は“ひとりじゃない”と。
セイルが庭園の一角を歩いていた午後。
ふいに、草陰から――鈍く光るナイフが跳ねた。
「っ――危ない!!」
間一髪で飛び込んできた護衛の男が、セイルを庇って倒れ込む。
すぐに他の警備兵たちが襲撃者を取り押さえるが、その刃はセイルのすぐ眼前まで迫っていた。
「まさか……ここまで……!」
犯人の口からは、血混じりの嘲笑が漏れた。
「番の……くせに……王族の隣に立つなんて、おこがましい……!」
その報せを受けたレイグランは、激しい怒りを露わにした。
「すぐに全周囲の監視を強化しろ。特に、セイルの動線には二重の護衛を」
その声は凍てつくように冷たい。
怒りの奥には、深い恐怖があった。
――また、守れなかったらどうする。
彼の手の中には、セイルが落としたハンカチが握られていた。
小さく、血が滲んでいた。
怪我こそなかったものの、セイルは王宮の離れに移された。
だが、彼は拒んだ。
「……俺は、逃げない」
「セイル。君の命が狙われているんだ。今は隠れるべきだ」
「俺を狙ってる奴らは、“オメガ”という存在を憎んでる。
でも、それ以上に“あんたと一緒にいる俺”を憎んでる」
セイルの瞳は、まっすぐだった。
「だから俺は、隠れるんじゃなくて――“ここに立ってる”って、見せなきゃいけない」
その覚悟に、レイグランは言葉を失った。
静かに彼を抱き寄せると、囁いた。
「ならば、俺も決意を示そう」
数日後。王宮前で、再び発表が行われた。
王太子レイグランは、すべての前提を覆す“告白”をしたのだ。
「かつて、王家は“番遺伝子の操作”に関与した。
だが、私はそれを否定する。この国に生まれたすべての者が、“誰を愛するか”を選ぶ自由があるべきだ」
その声に、広場に集まった民衆が息を飲む。
「私は、セイル・ノアを“番”としてではなく、“愛する人間”として選んだ。
それが、この命に代えても守りたい、俺の真実だ」
その日から、王宮の中も外も――静かに動き出していた。
支持派と反対派の分断は、ますます深く。
そして“アレク派”の影は、着実に牙を研いでいた。
「番は呪いだ。……お前は、呪いの象徴にすぎない」
その囁きが、王都の地下で響いていた。
だがセイルは知っていた。
その声が届かぬほど、今の自分は“ひとりじゃない”と。
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