番になんてなりたくなかった──執着王太子に望まれた逃亡オメガ

春夜夢

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第三十三話「炎に包まれる夜──裏切りと決意」

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その夜、王宮の一角から火の手が上がった。

「東廊下、第三資料庫――燃えています!」

 使用頻度の低い保管庫。そこにあったのは、十数年前に封印された実験記録、そして……セイルに関わる「番遺伝子制御計画」の一部だった。

 レイグランが現場に駆けつけた時、消火活動はほぼ終了していた。

「出入り記録の魔術印が壊されていました。内部の者による犯行の可能性が高いかと」

「内通者……」

 レイグランの顔に、深い影が差す。
 王宮の“中”に、明確な敵がいる。

 一方、セイルは自室で“ある報せ”を受けていた。

 届けられた手紙は、封印された王印付きの封筒。
 だが送り主は王家ではない。

 そこにはこう記されていた。

 “君の番遺伝子を設計したのは、まだ生きている。
 その者は、現在王都地下施設にて拘束中。
 彼は、君を「番から解放する方法」を知っている”

 ――“ただし、それを引き出すには、王太子を裏切れ”――

 震える指で、セイルは手紙を燃やした。

 選べるはずがなかった。
 過去より、記憶より、自由よりも――
 今、彼は“誰かのために在る”ことを知っていたから。

 だが夜が深まる頃。
 王妃の侍女に変装した影が、そっとセイルのもとに忍び寄る。

「……セイル・ノア様。どうかご同行を」

 声は穏やかだったが、背後には二人の男。
 抑え込まれそうになった瞬間――

「っ……来ると思ってた」

 セイルの声が、冷たく凍った。

 小型の警報石が、瞬時に作動。

「セイルッ!!」

 その瞬間、扉を蹴破って入ってきたのはレイグランだった。

 彼は即座に影たちを拘束し、セイルを抱き寄せた。

「遅れてすまない……怖かったか?」

「でも、来てくれるって……信じてた」

 事件後、拘束された内通者の口から“ある名”が出る。

「……アイン・ラグネス博士。十六年前、番遺伝子研究の中心人物。現在、消息不明のはずが……生きていた」

 それは、セイルを“作った”存在。

 そして彼の過去と、今を繋ぐ最後の鍵だった。

 夜明け。
 セイルはレイグランに囁く。

「俺、自分の過去を見に行くよ。……怖くても、逃げない」

 レイグランは頷いた。

「ならば、俺も一緒に行く。すべてを共に背負うって決めたからな」

 闇に包まれた地下へ――
 ふたりは、過去を終わらせるための旅に出る。
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