番になんてなりたくなかった──執着王太子に望まれた逃亡オメガ

春夜夢

文字の大きさ
34 / 37

第三十四話「番を創った男──始まりの檻へ」

しおりを挟む
王都の地下、立ち入りが禁じられた旧研究棟。
 そこは、長く王家の闇を封じてきた“始まりの檻”だった。

 セイルとレイグランは、最小限の護衛を連れて、その鉄扉の前に立つ。

 地下深くにまで届く冷気が、ひたりと肌を撫でた。

「ここに……俺を“創った”人がいるのか」

 セイルは、自分でも驚くほど冷静だった。
 恐怖はある。だがそれより、確かめたいという想いの方が勝っていた。

「一緒に行こう」

 レイグランがその手を握った。
 扉の魔術封印が解かれ、音もなく開く。

 研究室の中央に、ひとりの男が拘束されていた。

 痩せ細った体、白髪混じりの髪、血走った瞳。
 だが、その眼差しには異様な熱が宿っていた。

「セイル・ノア……いや、“実験体046-A”。ようやく会えたな」

 男――アイン・ラグネス博士は、口元にゆがんだ笑みを浮かべる。

「君は“番”を象徴する究極のオメガとして調整された存在だ。君の存在自体が、“番の証明”だよ」

 セイルの喉が、ひとつ鳴った。

「どうして……そんなもの、作ろうとした」

「王家の依頼だ。『番という制度を完全に制御できる個体』を求めていた。
 私たちはそれを達成した。“君”によってな」

 衝撃と嫌悪に、セイルの指先が震える。

「……だったら、俺は……お前の“失敗作”だ」

「ほう?」

「俺は“誰かを支配する番”じゃない。
 愛されて、守られて、自分で“選ばれた”んだ」

 その言葉に、アインは薄く笑った。

「では――証明してみせろ。“番ではない愛”が、本当に存在するというなら」

 その瞬間、研究室に仕込まれていた古い魔術装置が起動する。
 拘束が弾け、男が突進してくる。

「セイル!!」

 レイグランが盾となり、男を地に叩きつけた。

「実験で命を弄び、“番”を呪いに変えたお前に、彼を語る資格はない」

 研究棟は封鎖され、アインは再び幽閉された。
 その際、セイルの出生に関するすべての記録も押収され、王家の直轄管理下に移された。

 夜。
 レイグランの寝室で、セイルは小さく囁いた。

「……俺、壊れてなかったかな」

 レイグランは優しく髪を撫でた。

「君は創られたかもしれない。でも、今こうして隣にいるのは、“君が君であるから”だ」

 セイルはその言葉に、ようやく泣くことができた。

 長い間、塞いでいた涙が、静かに頬を伝って落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記

天田れおぽん
BL
 ボク、アイリス・ロックハートは愛しい番であるオズワルドと出会った。  だけどオズワルドには初恋の人がいる。  でもボクは負けない。  ボクは愛しいオズワルドの唯一になるため、番のオメガであることに甘えることなく頑張るんだっ! ※「可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない」のオズワルド君の番の物語です。 ※他サイトでも連載中

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

処理中です...