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番外編:本編完結後
★ make a pickoff throw:後編
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その日から三日間、巽はカイトの仕事が終わる頃を見計らい迎えに行った。
カイトは仕事が忙しいだろうからと断ったが、巽の強引さは今に始まった事ではなく結局流されるように三日間迎えにきてもらっている。
そして迎えた本日、日曜日。
巽は仕事をいつもより随分早く終わらせ、カイトが仕事を終えるよりもずっと早く到着した。
いつもの様に倉庫に車を置き、心なしかいつもより上質のスーツとネクタイに身を包んだそのままで、歩いてずんずんと花屋を目指す。
この姿をリトが見ていたら言うだろう。
──────あんた、闘いに行くわけ?
だが確かにそう、巽は闘いに行くのだ。
嫉妬する姿なんて格好悪い?だからどうした。それだけカイトにどっぷり惚れ込んでいるのだ。仕方がない。
開き直った巽は強かった。
店の外まで客を見送った俊哉が、そんな開き直った巽を見つけた。
「藤?」
「俺はなァ、心が狭い男なんだよォ」
「なるほど。なんでもいいけど、客足が遠のくコトはしないでね」
爽やかに笑った俊哉は先に店に戻る。
その背中を巽は追いかけ、ついでに空になっていた何も入っていないラックを二つ手に取り店内へ。
店には数人の女性客。カイトに向ける視線に巽は彼女達を敵と認識した。
大袈裟であるが、彼は本気だ。
敵と認識された客の一人がカイトにするする近寄り、その腕に触れようとしたのを見て巽は口を開ける。
「カイト」
俊哉以外の人間の動きが止まる。
カイトは俊哉が花束を作る時に出したものを仕舞っていた手を止め、声の方へ振り向いた。
「巽さん、仕事は?」
「おう、今日は早く上がったから」
「そっか。お疲れ様」
ゆるく上がる口元と、少し垂れる目尻。
微笑んでいる程度のカイトの表情だが、雰囲気は微笑み以上の感情を載せている。
巽はその自分に向けられた顔を堪能し、ラックを片手でまとめて持ち、そのままカイトに近寄ると大きな手でカイトの頭を優しく撫でた。
そしてバックヤードから戻ってきた俊哉にラックを渡し、
「俊哉、花束作ってくれ」
ラックを受け取りながらも俊哉が首を傾げ先を促すと
「赤と白のアネモネと、かすみ草を」
「なるほど」
「カイトに渡したいんだよ、だからとびきり豪華にな」
にやりと笑う巽ににっこり笑い返した俊哉は花を手に取っていく。
「俺に?」
ワンテンポ遅れての反応はカイト。きょとんとした顔で聞けば巽はカイトの耳元に口を寄せる。
「俺の気持ちを花に託すなんつーらしくない事をしてみたくなったんだよ」
小声で吹き込めば、それだけでカイトは耳を赤く染めた。
巽は知っているのだ。手伝いを始めてすぐ、カイトが花言葉について詳しく書いてある本を姉から借り読んでいる事を。
だから選んだ花が何を伝えるべく咲き誇っているか、カイトには理解されるだろうと。
顔を離した巽はカイトの頭を優しく触り
「薔薇の花束でやってやろうかと思ったが、ここで本数言ってみても俊哉が『そんなの突然言わないでよ』って文句言いそうだからなァ」
「そりゃそうでしょ。藤の事だからね、200は用意しろとか言いかねない」
「組み合わせは1と99と100な」
「藤のマンション、薔薇だらけになるよ」
「上等」
カイトを置き去りにしている会話に、カイトは口を挟まない。いや、挟めない。
だってカイトは知っている。薔薇が本数で意味を変える事を、本で勉強したのだ。
何も言えず顔を真っ赤にしたままのカイトは、手持ち無沙汰だし客の前での発言だしでもうどうしたらいいか解らなくなりかけている。
思わず店内を見渡したカイトが、客が息を潜めるようにして三人をジッと見ているのに気がついたから益々だ。
巽は、カイトがぎこちないまま巽に背を向け動き出した事と、カイト目当ての敵だと判断した客が耳を傾けている事を確認して、挑発的な笑顔を作ってカイトの背中に愛をぶつける。
「なァ、カイト。今日の夕飯、何作ってくれンの?」
目を剥いた客を見ないフリして巽は続ける。
「久し振りに、お前のメンチが食いたいんだけどなァ」
俊哉は花束をラッピングしつつ
「藤、カイトくんの事になると、本当に子供みたいだね」
と、巽が態々“カイトが日々巽の夕飯を作っている”と思わせる──今は実際そうだけれど──発言に笑う。
おかしくて仕方がない。あの藤春巽が、年下の恋人がバイト先でナンパ紛いの事をされていると知って、女を敵だと判定し必死に牽制するなんて、笑わないでどうしたらいいのかと。そして巽も可愛いところがあるじゃないかと、微笑んでやりたくもなる。
「本当に藤は子供だね」
「はん、ガキで結構。相手に本気ならその分、欲も嫉妬心もでかくなるし、つまらねぇ事にまで目ェ光らせちまうんだよ」
言葉遣いに反した穏やかな顔で動き回るカイトを見る巽は、カイトの顔が赤から変わらないのを見て取って悦に浸った。
カイトはぎこちないまま動き回り、ついにやる事もなくなって居心地悪いままカウンターに戻ってくる。
「ほら、藤。花束出来たよ。カイトくん、今日はここで上がっていいから。あとは俺がやっておくよ」
「え、でも」
店内に客がいるのにと言葉に出さず目で訴えると、俊哉はパチリとウインクした。
「大丈夫。それにこのまま藤を待たせたら何を言いだすか解らないし、それに対して恐怖を感じてるお兄ちゃんのためを思って、お願い」
「つーわけだ。帰ろうぜ」
「藤ってすごい性格してるよ。カイトくん、色んな意味でお疲れ様」
花束を受け取った巽は、財布から言われた通りの代金を俊哉に渡し、若干納得していないカイトをバックヤードに押し込む。
可愛い小さな牽制をし終え満足そうな巽は、呆然とした女性客の視線に満ち足りた気持ちになる。
あいつは俺のもので、俺だけがあいつの表情をたまらなく魅力的に変えられるのだと知らしめる事に成功したに違いない。
その達成感に酔いしれてしまう。
本当はもっと直接的な言葉と行動で牽制したかったのを我慢した巽は、むしろ褒めてほしいほどだと本気で考えていた。
「巽さん、ああいうの、お店ではやめてよ」
案の定車の中で言われた言葉に、巽は平然と言う。
「はァ?俺は心が狭いんだよ。そりゃ、カイトがいい男で魅力的だってのは自慢したくてたまらねぇが、言い寄られてるって知って笑ってられる気持ちにはまだなれねぇ。牽制してなんぼだろうが」
「……真顔で、そんなこと、言う?」
「ああ、言うね」
駐車場に車を止め、カイトの荷物も花束とともに持った巽は助手席から降りたカイトの腰を抱いて歩き出す。
エントランスを抜け、エレベーターが指定の階に止まり、部屋に入っても巽の腕はカイトの腰から離れない。
リビングに入ったところでカイトの荷物をソファに置いた巽は、真面目な顔のままカイトに花束を向ける。
「カイト、俺の気持ちは花にだって語り尽くす事は出来ない。なにせ俺だってお前に伝えきれる自信がないんだ」
カイトはほぼ反射的に花束を受けった。
二種類の花だけで作ったとは思えない豪華な花束。
「その上俺はいつの間にか、随分情けねぇ奴になった。情けねぇ俺は、お前に媚を売ってる奴を見るとどうにも黙っていられねぇ。過去の俺が指差して笑うほど、牽制してもしたりないんだ」
言っている事と、決意の篭った強い視線に捕らわれてカイトは瞬きすら忘れてしまう。
「だから、許せ。俺はガキみたいに歯をむき出しにして追っ払う。女にゃ多少紳士に今日の程度で許してやれるが、男には無理だな。だから許せ、カイト」
「許せって、巽さん、改める気はないみたい」
でも、悪い気はしないかも。と控えめに、けれど嬉しそうに言うカイトに巽は破顔し
「そんな風に言われちゃ、ジジイになるまでこんな俺でいるべきか?カイトが喜ぶなら、俺は嫉妬と牽制で地球だってぶっ壊してやるぜ?」
バカな事、言わないでよ。巽さん、バカじゃないの。
花束に顔を埋めるようにしたカイトは、大きな体に抱き締められ頭頂部に降りたキスに目を閉じる。
「巽さん、口にも、キスしてほしい」
「喜んで」
翌日、アネモネとかすみ草が飾られた花瓶にピンクのバラが五本混ざりこんだ。
それを花瓶に挿したカイトは、これの意味を巽がどう取るのかと楽しそうな顔で、帰ってきた巽を出迎えた。
カイトは仕事が忙しいだろうからと断ったが、巽の強引さは今に始まった事ではなく結局流されるように三日間迎えにきてもらっている。
そして迎えた本日、日曜日。
巽は仕事をいつもより随分早く終わらせ、カイトが仕事を終えるよりもずっと早く到着した。
いつもの様に倉庫に車を置き、心なしかいつもより上質のスーツとネクタイに身を包んだそのままで、歩いてずんずんと花屋を目指す。
この姿をリトが見ていたら言うだろう。
──────あんた、闘いに行くわけ?
だが確かにそう、巽は闘いに行くのだ。
嫉妬する姿なんて格好悪い?だからどうした。それだけカイトにどっぷり惚れ込んでいるのだ。仕方がない。
開き直った巽は強かった。
店の外まで客を見送った俊哉が、そんな開き直った巽を見つけた。
「藤?」
「俺はなァ、心が狭い男なんだよォ」
「なるほど。なんでもいいけど、客足が遠のくコトはしないでね」
爽やかに笑った俊哉は先に店に戻る。
その背中を巽は追いかけ、ついでに空になっていた何も入っていないラックを二つ手に取り店内へ。
店には数人の女性客。カイトに向ける視線に巽は彼女達を敵と認識した。
大袈裟であるが、彼は本気だ。
敵と認識された客の一人がカイトにするする近寄り、その腕に触れようとしたのを見て巽は口を開ける。
「カイト」
俊哉以外の人間の動きが止まる。
カイトは俊哉が花束を作る時に出したものを仕舞っていた手を止め、声の方へ振り向いた。
「巽さん、仕事は?」
「おう、今日は早く上がったから」
「そっか。お疲れ様」
ゆるく上がる口元と、少し垂れる目尻。
微笑んでいる程度のカイトの表情だが、雰囲気は微笑み以上の感情を載せている。
巽はその自分に向けられた顔を堪能し、ラックを片手でまとめて持ち、そのままカイトに近寄ると大きな手でカイトの頭を優しく撫でた。
そしてバックヤードから戻ってきた俊哉にラックを渡し、
「俊哉、花束作ってくれ」
ラックを受け取りながらも俊哉が首を傾げ先を促すと
「赤と白のアネモネと、かすみ草を」
「なるほど」
「カイトに渡したいんだよ、だからとびきり豪華にな」
にやりと笑う巽ににっこり笑い返した俊哉は花を手に取っていく。
「俺に?」
ワンテンポ遅れての反応はカイト。きょとんとした顔で聞けば巽はカイトの耳元に口を寄せる。
「俺の気持ちを花に託すなんつーらしくない事をしてみたくなったんだよ」
小声で吹き込めば、それだけでカイトは耳を赤く染めた。
巽は知っているのだ。手伝いを始めてすぐ、カイトが花言葉について詳しく書いてある本を姉から借り読んでいる事を。
だから選んだ花が何を伝えるべく咲き誇っているか、カイトには理解されるだろうと。
顔を離した巽はカイトの頭を優しく触り
「薔薇の花束でやってやろうかと思ったが、ここで本数言ってみても俊哉が『そんなの突然言わないでよ』って文句言いそうだからなァ」
「そりゃそうでしょ。藤の事だからね、200は用意しろとか言いかねない」
「組み合わせは1と99と100な」
「藤のマンション、薔薇だらけになるよ」
「上等」
カイトを置き去りにしている会話に、カイトは口を挟まない。いや、挟めない。
だってカイトは知っている。薔薇が本数で意味を変える事を、本で勉強したのだ。
何も言えず顔を真っ赤にしたままのカイトは、手持ち無沙汰だし客の前での発言だしでもうどうしたらいいか解らなくなりかけている。
思わず店内を見渡したカイトが、客が息を潜めるようにして三人をジッと見ているのに気がついたから益々だ。
巽は、カイトがぎこちないまま巽に背を向け動き出した事と、カイト目当ての敵だと判断した客が耳を傾けている事を確認して、挑発的な笑顔を作ってカイトの背中に愛をぶつける。
「なァ、カイト。今日の夕飯、何作ってくれンの?」
目を剥いた客を見ないフリして巽は続ける。
「久し振りに、お前のメンチが食いたいんだけどなァ」
俊哉は花束をラッピングしつつ
「藤、カイトくんの事になると、本当に子供みたいだね」
と、巽が態々“カイトが日々巽の夕飯を作っている”と思わせる──今は実際そうだけれど──発言に笑う。
おかしくて仕方がない。あの藤春巽が、年下の恋人がバイト先でナンパ紛いの事をされていると知って、女を敵だと判定し必死に牽制するなんて、笑わないでどうしたらいいのかと。そして巽も可愛いところがあるじゃないかと、微笑んでやりたくもなる。
「本当に藤は子供だね」
「はん、ガキで結構。相手に本気ならその分、欲も嫉妬心もでかくなるし、つまらねぇ事にまで目ェ光らせちまうんだよ」
言葉遣いに反した穏やかな顔で動き回るカイトを見る巽は、カイトの顔が赤から変わらないのを見て取って悦に浸った。
カイトはぎこちないまま動き回り、ついにやる事もなくなって居心地悪いままカウンターに戻ってくる。
「ほら、藤。花束出来たよ。カイトくん、今日はここで上がっていいから。あとは俺がやっておくよ」
「え、でも」
店内に客がいるのにと言葉に出さず目で訴えると、俊哉はパチリとウインクした。
「大丈夫。それにこのまま藤を待たせたら何を言いだすか解らないし、それに対して恐怖を感じてるお兄ちゃんのためを思って、お願い」
「つーわけだ。帰ろうぜ」
「藤ってすごい性格してるよ。カイトくん、色んな意味でお疲れ様」
花束を受け取った巽は、財布から言われた通りの代金を俊哉に渡し、若干納得していないカイトをバックヤードに押し込む。
可愛い小さな牽制をし終え満足そうな巽は、呆然とした女性客の視線に満ち足りた気持ちになる。
あいつは俺のもので、俺だけがあいつの表情をたまらなく魅力的に変えられるのだと知らしめる事に成功したに違いない。
その達成感に酔いしれてしまう。
本当はもっと直接的な言葉と行動で牽制したかったのを我慢した巽は、むしろ褒めてほしいほどだと本気で考えていた。
「巽さん、ああいうの、お店ではやめてよ」
案の定車の中で言われた言葉に、巽は平然と言う。
「はァ?俺は心が狭いんだよ。そりゃ、カイトがいい男で魅力的だってのは自慢したくてたまらねぇが、言い寄られてるって知って笑ってられる気持ちにはまだなれねぇ。牽制してなんぼだろうが」
「……真顔で、そんなこと、言う?」
「ああ、言うね」
駐車場に車を止め、カイトの荷物も花束とともに持った巽は助手席から降りたカイトの腰を抱いて歩き出す。
エントランスを抜け、エレベーターが指定の階に止まり、部屋に入っても巽の腕はカイトの腰から離れない。
リビングに入ったところでカイトの荷物をソファに置いた巽は、真面目な顔のままカイトに花束を向ける。
「カイト、俺の気持ちは花にだって語り尽くす事は出来ない。なにせ俺だってお前に伝えきれる自信がないんだ」
カイトはほぼ反射的に花束を受けった。
二種類の花だけで作ったとは思えない豪華な花束。
「その上俺はいつの間にか、随分情けねぇ奴になった。情けねぇ俺は、お前に媚を売ってる奴を見るとどうにも黙っていられねぇ。過去の俺が指差して笑うほど、牽制してもしたりないんだ」
言っている事と、決意の篭った強い視線に捕らわれてカイトは瞬きすら忘れてしまう。
「だから、許せ。俺はガキみたいに歯をむき出しにして追っ払う。女にゃ多少紳士に今日の程度で許してやれるが、男には無理だな。だから許せ、カイト」
「許せって、巽さん、改める気はないみたい」
でも、悪い気はしないかも。と控えめに、けれど嬉しそうに言うカイトに巽は破顔し
「そんな風に言われちゃ、ジジイになるまでこんな俺でいるべきか?カイトが喜ぶなら、俺は嫉妬と牽制で地球だってぶっ壊してやるぜ?」
バカな事、言わないでよ。巽さん、バカじゃないの。
花束に顔を埋めるようにしたカイトは、大きな体に抱き締められ頭頂部に降りたキスに目を閉じる。
「巽さん、口にも、キスしてほしい」
「喜んで」
翌日、アネモネとかすみ草が飾られた花瓶にピンクのバラが五本混ざりこんだ。
それを花瓶に挿したカイトは、これの意味を巽がどう取るのかと楽しそうな顔で、帰ってきた巽を出迎えた。
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