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影の中で眠る。
繰り返されるは2つの光景。そのもう片方の記憶。
北の魔神さえ倒せば終わる。
その想いで、北の魔神に聖剣を振るう。
北の魔神は後ろへ飛びように躱す。長い尾で氷の床を強く叩く。
美しい針地獄のように、先端が鋭利な氷柱に床が変わる。
魔力を纏わせた聖剣で、それらを砕き切り裂き足場を作る。
聖剣を振るうたびに、手枷を繋ぐ鎖がうるさく響く。
互いに睨みあう。
次はどう出るのかと、探りあう。
氷の洞窟に、冷たい沈黙が降りる。
聖剣に魔力を流す。
聖剣の力を借りて、自身の身体能力を強くする
柱と柱の合間を縫うようにして、一気に距離を詰める。
北の魔神は口から氷の礫を吐き出し、こちらを押し潰そうとする。
魔力を纏った聖剣で叩き割り、人の動きではないほどの速い回避で、攻撃を受けないようにしながら接近し続ける。
この戦い方しか、自分は知らない。
聖剣で斬り倒すか、突き殺すかの方法しか、自分は知らない。
それが通じるまで、何度も何度も接近して剣を振るい続ける。
この戦いに時間制限など存在しない。
自分が死ぬか。
魔神が消滅するか。
決着でしか終わらせることができない戦いなのだ。
氷の床に転がっていた自分の体が、痛みという悲鳴を上げた。
少しだけ、気を失っていたらしい。
冷たい沈黙はなく、全てが終わったような冷たい静寂を感じた。
最後に覚えているのは、北の魔神に聖剣を突き立て、振り落とされたところまで。
倒れた北の魔神の眉間に聖剣が突き刺さっているのを見て、自分が勝ったのだとようやく気付いた。
勝ったことへの歓喜はない。
全てが終わったのだという、安堵があった。
無理矢理体を起こす。ふらつかせ、時には倒れて、北の魔神の側に行った。
聖剣を抜こうと手を伸ばす。
自分の体を治すには、聖剣を握らなければいけない。
それだけのはずだった。
「──・・・・・・君は、大丈、夫?」
そう、北の魔神が声をかけてきた。
今にも死にそうな弱々しい声音。
しかし、自分はその声を知っていた。
他の同行者に目を向けずに、自分に声をかけてきた花売りの女性。
金を持っている誰かが断るも、金を持っていない奴隷のような自分に語り続ける、不思議な女性。
自分1人にだけに、北の魔神の居場所を伝えて、逃がしてくれた女性の声だ。
「──・・・・・・心配で──声、かけちゃった・・・・・・──」
北の魔神の体が消滅を始める。
美しい氷の彫像が溶けていくかのように、消えていく。
「──・・・・・・戦利品、持っていけば・・・・・・──」
負けたことへの恨み言ではない。
自分がこれからどうするべきかを、弱々しい声で伝えていく。
「──・・・・・・君は、勇者から解放・・・・・・される、よ・・・・・・──」
こんなの知らない。こんなの聞いていない。
北の魔神は、この大陸を脅かす悪い存在ではなかったのか。
これは・・・・・・このヒトは、ただの優しいヒトではないか。
自分の心の中で、自分はまた過ちを犯したのではないか。そう怖くなった。
「──・・・・・・幸せに、なりな、さい・・・・・・──」
鉱山の町で見かけた、我が子の身を案じる母親のように、心配と優しさの満ちた声。
ある魔物を殺したときの記憶が、頭の中で勝手に再生される。
自分は、また同じ過ちをしてしまったのだ。
こんな自分に、優しくしてくれたあのヒト達を殺めた──悪魔の所業のような最悪な罪。
北の魔神は消えた。
溶けていく様子が嘘だったかのように、大半の部分が一瞬で消えた。
2つの水晶玉と、北の聖剣が氷の床に落ちた。
氷が溶けだし、本来の土の洞窟へと戻っていく。
溶けた氷に土が混ざって、降り注ぐ。
溶けた氷に土が混ざって、ぬかるんでいく。
あのヒトの血のように、自分を濡らしていく。
自分は水晶玉を抱えた。
目から、涙が止めどなく流れて落ちていく。
言葉になっていない大声を出し、何度も喉を詰まらせる。
自分は、涙と声が枯れるまで謝り泣き喚いた。
許されないとわかっていても、罪を犯した自分はそれだけしかできなかった。
ここにいたのは、勇者ではなく愚かな罪人だった。
繰り返されるは2つの光景。そのもう片方の記憶。
北の魔神さえ倒せば終わる。
その想いで、北の魔神に聖剣を振るう。
北の魔神は後ろへ飛びように躱す。長い尾で氷の床を強く叩く。
美しい針地獄のように、先端が鋭利な氷柱に床が変わる。
魔力を纏わせた聖剣で、それらを砕き切り裂き足場を作る。
聖剣を振るうたびに、手枷を繋ぐ鎖がうるさく響く。
互いに睨みあう。
次はどう出るのかと、探りあう。
氷の洞窟に、冷たい沈黙が降りる。
聖剣に魔力を流す。
聖剣の力を借りて、自身の身体能力を強くする
柱と柱の合間を縫うようにして、一気に距離を詰める。
北の魔神は口から氷の礫を吐き出し、こちらを押し潰そうとする。
魔力を纏った聖剣で叩き割り、人の動きではないほどの速い回避で、攻撃を受けないようにしながら接近し続ける。
この戦い方しか、自分は知らない。
聖剣で斬り倒すか、突き殺すかの方法しか、自分は知らない。
それが通じるまで、何度も何度も接近して剣を振るい続ける。
この戦いに時間制限など存在しない。
自分が死ぬか。
魔神が消滅するか。
決着でしか終わらせることができない戦いなのだ。
氷の床に転がっていた自分の体が、痛みという悲鳴を上げた。
少しだけ、気を失っていたらしい。
冷たい沈黙はなく、全てが終わったような冷たい静寂を感じた。
最後に覚えているのは、北の魔神に聖剣を突き立て、振り落とされたところまで。
倒れた北の魔神の眉間に聖剣が突き刺さっているのを見て、自分が勝ったのだとようやく気付いた。
勝ったことへの歓喜はない。
全てが終わったのだという、安堵があった。
無理矢理体を起こす。ふらつかせ、時には倒れて、北の魔神の側に行った。
聖剣を抜こうと手を伸ばす。
自分の体を治すには、聖剣を握らなければいけない。
それだけのはずだった。
「──・・・・・・君は、大丈、夫?」
そう、北の魔神が声をかけてきた。
今にも死にそうな弱々しい声音。
しかし、自分はその声を知っていた。
他の同行者に目を向けずに、自分に声をかけてきた花売りの女性。
金を持っている誰かが断るも、金を持っていない奴隷のような自分に語り続ける、不思議な女性。
自分1人にだけに、北の魔神の居場所を伝えて、逃がしてくれた女性の声だ。
「──・・・・・・心配で──声、かけちゃった・・・・・・──」
北の魔神の体が消滅を始める。
美しい氷の彫像が溶けていくかのように、消えていく。
「──・・・・・・戦利品、持っていけば・・・・・・──」
負けたことへの恨み言ではない。
自分がこれからどうするべきかを、弱々しい声で伝えていく。
「──・・・・・・君は、勇者から解放・・・・・・される、よ・・・・・・──」
こんなの知らない。こんなの聞いていない。
北の魔神は、この大陸を脅かす悪い存在ではなかったのか。
これは・・・・・・このヒトは、ただの優しいヒトではないか。
自分の心の中で、自分はまた過ちを犯したのではないか。そう怖くなった。
「──・・・・・・幸せに、なりな、さい・・・・・・──」
鉱山の町で見かけた、我が子の身を案じる母親のように、心配と優しさの満ちた声。
ある魔物を殺したときの記憶が、頭の中で勝手に再生される。
自分は、また同じ過ちをしてしまったのだ。
こんな自分に、優しくしてくれたあのヒト達を殺めた──悪魔の所業のような最悪な罪。
北の魔神は消えた。
溶けていく様子が嘘だったかのように、大半の部分が一瞬で消えた。
2つの水晶玉と、北の聖剣が氷の床に落ちた。
氷が溶けだし、本来の土の洞窟へと戻っていく。
溶けた氷に土が混ざって、降り注ぐ。
溶けた氷に土が混ざって、ぬかるんでいく。
あのヒトの血のように、自分を濡らしていく。
自分は水晶玉を抱えた。
目から、涙が止めどなく流れて落ちていく。
言葉になっていない大声を出し、何度も喉を詰まらせる。
自分は、涙と声が枯れるまで謝り泣き喚いた。
許されないとわかっていても、罪を犯した自分はそれだけしかできなかった。
ここにいたのは、勇者ではなく愚かな罪人だった。
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