After story/under the snow

黒羽 雪音来

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12.1-4  北の大陸唯一の国

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 北の大陸は、他の大陸より面積が小さい。
 そして、そのほとんどが山や森、平原などの自然だ。
 そこに村や町などの小さな人の営みが、点々と存在している。
 
 昔。大勢の人が住める大きな場所を作ろうとした人達がいたが、自然の脅威によってあっけなく壊された。
 この大陸こそ自然の所有物だと言わんばかりに。
 人が自然に敵うわけがないと叫ぶかのように。
 何度も何度も、人は自然に敗北した。
 
 その中で抗い、勝ったぞと自然に見せつけるように、多くの人が住める場所ができあがり、今なお存在している。

 北の大陸の最大権力者がいる王都。
 その左右に位置するふたつの領地。
 高い山の上から見れば、翼を広げた巨鳥のように見えるこの場所が──北の大陸唯一の国だ。



 巨鳥の頭部分に、この大陸でもっとも偉い王様がいる城がある。
 この大陸の人間なら、口を揃えてこう評価する。
 この城は美しい。これ以上の美しさは地上に存在しない、と。
 それもそうだ。
 聳える城は、全てクリスタルでできているのだ。
 この大陸で最も美しい鉱石を使っているのだから、その感想しか出てこないのは当たり前だった。

 半年以上前に暗殺者の襲撃があったが、その時の騒動などなかったかのように修繕されている。
 そして、クリスタルを惜しみなく使った城壁まで建てられた。
 噂によると、大賢者が魔法を駆使して一晩で建てたらしい。
 これには妃も大喜び。その日だけはしかめっ面の顔が笑顔になっていたという。

 巨鳥の胴体部分には、王族派の貴族たちの屋敷が並んでいる。
 無論、屋敷だけでなく、貴族御用達の店や、娯楽を提供する施設も充実している。

 巨鳥の尾羽部分は王都から切り離されたように、一面の雪しかない。
 だが、その先端に古びた塔が横一列に並んでいる。
 全てが監獄塔だ。
 罪を犯した罪人を捕らえ、牢屋の中でその罪を悔やみ、刑務作業という労働で償う場所。
 刑期を終えれば出してもらえる。
 罪人たちは、囚人服という薄い襤褸切れのような服を着させられる。魔法を使わせないための枷を付けられる。
 監獄の中は体の芯まで凍るように寒い。それでも、罪人が凍死しないように塔そのものに魔法がかけられている。
 そこから脱獄すれば、柔らかい雪に足を取られる。裸足で直に触れる雪に体温を奪われる。
 寒さで死に、その死体は雪に覆い隠される。
 脱獄があっても、看守が探しに来ることはない。
 獄中死という扱いで処理されてしまうからだ。

 だが、右端の塔だけは少し違う。
 
 そこに収監されるのは死刑囚。
 死をもって償うことしかできない、最悪な罪人を閉じ込める場所。
 脱獄を許さないために、罪人の牢は狭い。
 体を折りたたまないと入らない長方形の穴に無理やり押し込まれ、僅かな光すら入らない頑丈の扉で蓋をされる。
 他の塔みたいに魔法はかけられていない。
 死刑執行は数日後に行われるからだ。
 ここから護送の馬車に乗せられて、北の果ての死刑場へ連れていかれる。
 数日間生きていればいい。罪深い罪人に、魔法という温情はいらない。

 この尾羽以外の部分を守るように、クリスタルでできた壁によって王都は守られている。
 罪人よ。お前たちは誰ひとり入らせない。そう、拒むかのように。
 ただひとり。
 見せしめとして、城から処刑場行きの護送の馬車まで長い長い距離を歩かされた、大陸の裏切り者を除いて。


 王都には直接入ることはできない。
 行商や、王都に用事のある貴族達は、左右の領地から入国する。
 領地から王都に入るには手形が必要。
 手形がなければ、一度入った領土を出て、反対側の領土に行かないといけない。

 貴族以下の人が住まう住宅街。様々なものを加工し量産する工場。売り手と買い手で賑わう店が並んでいる。
 その両翼の領主が、勇者一行の仲間の騎士と魔法使い。
 魔神討伐後の豊かな平和は彼らがもたらしたものだとして、今なお人々から支持されている。
 
 だが、豊かなのは領主の屋敷を中心とした富裕層だけだ。

 領主の屋敷から離れていくと治安は悪くなっていく。
 名もなき村や町の方がまだ和気藹々とした雰囲気があった。


 外側の貧困層では、窃盗など日常と化している。
 富裕層の人間で構成されている警察から見れば、犬猫の喧嘩のようなものだ。

 だが、貧困層が富裕層に手を出したら、どんな細やかな事件であっても死刑になる。

 処刑場は、騎士が管理する領地の中にある。
 7年と半年前に、新たに設けられた処刑場だ。
 処刑の内容は変わらない。
 人々は、処刑という娯楽を得たのだ。
 大陸の裏切り者の処刑を見れなかった。その後悔と鬱憤を晴らすように、熱狂的に多くの人が見に来ている。




 拾った1枚布で作ったマントで身を隠して、自分は歩いていた。
 たまたまそこを通りかかった。
 磔台から下ろされる死刑囚だったそれらを見た。

 もう息はない。心臓は鼓動を止め、言葉を発することはないのに口は開いていた。
 運ばれていく死体に、人々は石と罵詈雑音を投げつける。
 その顔達は、醜い笑みを浮かべていた。
 ざまあみろ。そう嗤っていた。

 その死体に、処刑された自分が重なった。
 この身に張り付く、冷たい不快感だけがあった。
 濡れ雪が降っているせいだと言い聞かせ、その場から立ち去った。

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