国王親子に迫られているんだが

クリム

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六章 国王陛下代理の仕事

35 不審死の村

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「殿下、クレバスの統べるイチイ市だけではありません。王都も含め不審死が増えています」

 グレゴリーはクレバスが出ていき全ての謁見者が終了した夕方、そう切り出した。

「どれくらいなのですか?そもそも不審死とはなんなのです?」

 シャルスとグレゴリーの二人の沈黙を僕はただ見ていた。正直、不審死なんて普通だろう?いろんなとこで、誰かがなんらかの死に方で死んでいる、ただそれだけなんだから。でも、終戦し停戦協定が結ばれた中での、不審な死に方の死者は問題がある。

「グレゴリー、知っていることは教えてください。私は代理ですが、国王の仕事を任されているのです」

「し、しかし、あれとの接点が重なります」

 グレゴリーの『あれ』は、アーネストだ。名前を呼んではいけないって奴かよ。しかしシャルスは顔を青ざめさせてから握り拳をぐっと握って、まるで吐き気でもこらえるかのようにした。

「ーーかまいません、教えてください。グレゴリー、王都でも不審死があるのですか?」

 グレゴリーは部下であった近衛兵を呼ぶと資料を数点持ってこさせた。それをソファテーブルに並べると退出させる。

「この一、二年の資料となります。ーー共通するのは斬られたり噛まれた傷もなく、いきなり吐血し体内が溶け落ちるような死に方です。クレバスの話していたイチイ市の砂漠の村辺りから広がり、王都の一部でも出ています」

 シャルスは険しい顔をして息を呑むと、

「疫病対策は出来ていますか?王都でも流行っているのですか?」

と震える声でページを捲るが、すぐに閉じてしまう。オーガスタのことが十五年前の資料に書いてあるのかなと思ったが、よく考えたらオーガスタはアリシア王国の民じゃなかった。アーネストに散々『国民になれ』と言われていたのにオーガスタ時代、なかなか首を縦に振らなかったっけ。

「疫病ではありません、殿下」

 グレゴリーが動揺するシャルスに告げると、

「そ、そうなんですね。ノリン、どうしました?」

僕がもう一度資料を捲るのを見て、シャルスが聞いてきた。

「あ、はい、シャルス様。あのぅ、グレゴリー宰相、こうして見ると、原因不明の不審死について、原因不明の印字マークしかないです。どのように亡くなったか、調べたのですか?」 

 そう言いながら僕はグレゴリーを見上げた。

「わしが医局から知らされているのは、原因不明の死人が出ているとのことだけだ。毒も検出されない、斬られてもない、ただ体内が溶けてぐずぐずになっている。解剖するためにメスを入れたら、そこらはぜてどろどろの内臓のカスが流れ出したらしい。あとは骨と皮だけになってしまったとのことだけだ」

 グレゴリーの言葉に僕は首を捻る。溶解する毒はいくつかあり、でも、体内に残るから、毒死だと判明するのだ。斬られたわけでも噛まれたわけでもない、ましてや刺されたわけでもないなら、経口摂取しかないわけなんだけど。

「何が決め手か分からないから、不審死なんですね。溶解系の毒物は魔の森にもありますよ」

「馬鹿者、毒物反応がないのに、死因が毒だと言えるか。ーーああ、殿下、すみません」

 うわ、グレゴリーに怒られた。僕が首をすくめると、シャルスが

「ーー先程、少し見ましたが、不審死の人の年齢や性別も異なります。それが不自然に感じます。調べてください、グレゴリー」

 不審死が増えているイチイ市の砂漠に面した村へは、近衛兵と医局の医師が派遣されることなり、午後の業務は終わった。





 夕方になりノリンが、ノリンの兄上と御用伺い見習いの子供と帰っていく。廊下を歩いて一番北の貴族学舎門に歩いていくノリンとお付きメイドを手を振って見送り、シャルスはふと頬に感じる涙に気づいた。

「この気持ちはなんだろう」

 シャルスには幼児前の記憶がない。グレゴリーは父のせいだと話していたが、死んだ母は無論、目の前の父すら記憶に不明瞭なのだ。だが、父と呼ばなくてはならない人を見ると震えた。心底から恐怖がやってくる。そしてーー

 忘れてしまっている人がいた、大切な人。

『いつかえってくる?ーーーー、かえったらおよめさんにしてくれる?』

 覚えている言葉がある。王宮に自由に出入りしていて、仕事のため出ていく大切な人にそう話していたこと。好きだった、大好きだった。それが誰か分からない。

 記憶にあるのはグレゴリーの頭の深い傷を治療した包帯と、身体が動かなかった数ヶ月。オドもマナも尽きたシャルスは、魔法師の治療により治療され少しばかり復活したが、元の力は戻らないらしい。王族直系にしてはマナが少ないのは、オドが少ないのをマナで補充しているからだと聞いた。

「殿下は王族でなければ亡くなっていました」

 グレゴリーは毎年中庭最奥の墓地へ連れていってくれた。事故からシャルスを守って死んだ兵士の碑がある。シャルスを守った傷の証の色濃いグレゴリーに連れられていった時、金髪の幽鬼のような男を見た。

 それが『父』だと知った時、恐怖がまさって気を失った。

 父親は強い王だったらしいが、重大な問題を起こしマナを封印されている。だが、溢れんばかりのマナは封印から漏れ出しているらしい。

 父親であるアーネストは何かを探していて、そのために王宮を抜け出していると聞いている。それを誰も教えてはくれなかった。父にとって大切な何かであることは分かったが、父の姿を見るのが怖かった。小さな頃は何度も気を失うほどに。

 グレゴリーに見よう見まねでいいから政務に着くように諭されたのは、父に政務が任せられないからだと聞いたからだ。幼いからずっとマナ文字を書くだけの政務が変わったのは成人年齢を過ぎ貴族学舎に入学した頃からで、ノリンと出会ってからは政務が煩わしいとは思わなくなってきた。

 ノリンに会いたい、出来れば良い格好をしたい、ノリンと話したい。

 そればかりが先行していたが、ノリンの目の付け所に感心しシャルスは政務と向き合い始めていた。

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