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第2章 2 男として、俺は先にいくよ
善悪の区別
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「イツモフさんに、ジツハフくんも。久しぶり」
俺たちに声をかけてきたのは、ザケテイル姉弟だった。
「誠道お兄ちゃんにミライお姉ちゃん。こんにちは」
ジツハフくんが丁寧に挨拶してくれる。
「こちらこそ。イツモフさん、ジツハフさん、お久しぶりです」
最後にミライがぺこりとお辞儀して、ようやく挨拶ターンは終了した。
「……で、ミライさん、誠道くん」
イツモフさんが怪訝そうに俺たちを見ている。
「改めて聞きますけど、こんな人気のないところでなにをしていたんですか」
「え、それは……その」
俺が視線をさまよわせながら答えあぐねていると。
「とても人には言えない行為です!」
ミライが自信満々に、だけどスカートの裾を握り締めて恥じらいながら言った。
「おいミライ言い方!」
「人には言えない行為……まさかっ」
イツモフさんが急に焦ったような表情を浮かべる。
「二人も私たちと同じで、このあたりに生えているユニコーンの角によく似たユニコーソの角を採集して、それをユニコーンの角だと偽って販売し、大儲けしようとしてたんじゃ」
「ちげぇよ! そんなことするのはお前らだけだよ!」
「え? そんなお金の稼ぎ方があるんですか?」
「ミライは食いつかないで! 借金返したいのはわかるけど、まっとうな方法で返そうな」
「ちっ」
「また舌打ちしたぞこのメイド!」
ミライさんはどんだけ腹黒いのかな。
「それで、ミライさんたちはユニコーソの角を採集しにきた敵なんですか? どうなんですか?」
鬼の形相のイツモフさんに詰め寄られる。
この人金の亡者すぎなんですけどー。
お金のことになると目の色が変わりすぎなんですけどー。
「だから違うって。なぁ、ミライ」
あまりの圧に後ずさりつつ、ミライに助けを求める。
「はい。私たちはいっさいやましいことはしておりません。イツモフさん。正直に申し上げますと、私たちはこの人目のつかない野外でひとつになって、気持ちよくなろうとしていたんです」
「だから語弊がある言い方すんなよ!」
「どうしてですか? 一緒に気持ちよくなろうって言ってたじゃないですか! それなのに直前でビビッてやめたのは誠道さんじゃないですか!」
「だから語弊が!」
「うわぁ」
気がつけばイツモフさんに軽蔑の眼差しを向けられていた。
「野外でえっちなことをしようとするなんて。誠道くんって変態……いや、ゴミのような人なんですね」
「なわけあるか!」
「ゴミのような人ではないとするということは……人のようなゴミってことですか」
「前にもこの流れあったぞ! だからそれだと人じゃなくてゴミになってるからね」
「お姉ちゃん。僕、こんな人の心を持たないゴミにだけはならないようにするよ」
「ジツハフが一番ひどいこと言ってるんですけどー」
「偉いなぁ我が弟は。善悪の区別がしっかりつけられるなんて」
「いや、つけられてないから! ザケテイル姉弟はつねに泥棒のこと考えてるじゃん! ユニコーソの角をユニコーンの角と偽って販売しようとしているのはどこのどいつだよ!」
これまでの数々の蛮行を忘れたとは言わせないぞ!
「いいか二人とも。ちゃんと説明するとだな。俺はただ新必殺技、【目からビーム】を試そうと」
「えっ? 【目からビーム】?」
俺が技名を言った瞬間、ジツハフくんが目を輝かせた。
やっぱりか。
男の子なら誰しも妄想したことあるよな。
【目からビーム】の格好よさを。
素晴らしさを。
俺は実はジツハフくんの前でしゃがみ、その頭をポンポンする。
「ああそうだ。俺は【目からビーム】が出せるんだ。どうだ? すごいだろう」
「うん! 僕も将来は【目からビーム】が出せるような格好いい誠道お兄ちゃんみたいになりた――引きこもりだからやっぱり嫌だ!」
「なんで年端もいかない子供から二度も傷つけられなきゃいけないんだよ!」
「偉いなぁ我が弟は。善悪の区別がしっかりつけられるなんて」
「これにツッコめない自分の境遇が憎い! なんてことだ!」
俺が頭を抱えて嘆いていると、先程と同じ言葉で弟を褒めたイツモフさんがちらちらと俺を見て。
「でも【目からビーム】って。くふふっ、あは、あはは! ちょっと面白すぎです! 目から、【目からビーム】って」
死にそうなほど大爆笑しはじめた。
ああ、どんどんみじめになっていくよう。
「はい。大爆笑ものですよね。しかも一回打つと十分間失明しちゃうんですよ」
「ミライは余計なことを言うな!」
「し、失明っ……ははっ、もうだめ、無理、これ以上笑わせないでくださいっ。死んじゃいますからぁ」
地面の上を転がり回りながら笑うイツモフさん。
あのぉ……ムカつくからこの人殴っていいですか?
俺、真の紳士なんで、男女平等なんで。
「十分もっ、はははっ、しつ、失明っって…………ん? 失明?」
笑い転げていたイツモフさんが突然その動きを止める。
あれ? この流れ、ほんの少し前に経験したような気がするんだけど、気のせいかな。
そそくさと立ち上がったイツモフさんはコホンと咳払いをして、場の空気を整えた。
「誠道くん」
「なんだ」
「失明とは目が見えなくなること、であってますか?」
「ああ。そうだけど」
どこかの国会議員みたいに当たり前のこと聞かないでよ。
「本当ですか?」
「何度も聞くなよ。さっき試したから間違いない」
俺がそう伝えると、イツモフさんは隣のジツハフくんと目を合わせ、狡猾ににやりと笑った。
ジツハフくんが一歩前に出て、得意げに胸をぽんとたたいた。
「ってことはだよ、誠道お兄ちゃん。【目からビーム】を打った後に視界を失った誠道お兄ちゃんを援助する人が必要ってことだよね。それ僕たちに任せてよ! 【目からビーム】を打つときは、僕たちが一緒にいてあげるよ」
「お前らなんかに頼むわけねぇだろうが!」
なぁジツハフくんや。
子供補正をかけたって無駄だよ。
「どうしてそんなこと言うの?」
「そんなの失明中に身ぐるみはがされるからに決まってるだろ。所持品全部盗まれるからに決まってるだろ」
「そんなひどいこと僕はしないよ。だってお姉ちゃんから、悪い人のお金以外は盗んじゃだめだって言われてるからね」
きっぱりと言ったジツハフくんが、姉の方を振り返る。
今度はイツモフさんが一歩前に出た。
「そうですよ! 私たちは物を盗んだりしない! ただちょっと視界を失って動けないカモみち――誠道くんをグランダラまで運ぶ輸送費として、10秒1000リスズくらいいただこうかなと」
「やっぱり考えることがあくど過ぎるじゃねぇかよ!」
「イツモフさん。緊急時には利用したいのですが、料金は後払いでも大丈夫ですか?」
「なんでミライさんは検討してんの?」
「利息はつきますがもちろん大丈夫です!」
「もう俺の力じゃ収拾つかないよー」
誰かみんなの暴走止めてー。
俺たちに声をかけてきたのは、ザケテイル姉弟だった。
「誠道お兄ちゃんにミライお姉ちゃん。こんにちは」
ジツハフくんが丁寧に挨拶してくれる。
「こちらこそ。イツモフさん、ジツハフさん、お久しぶりです」
最後にミライがぺこりとお辞儀して、ようやく挨拶ターンは終了した。
「……で、ミライさん、誠道くん」
イツモフさんが怪訝そうに俺たちを見ている。
「改めて聞きますけど、こんな人気のないところでなにをしていたんですか」
「え、それは……その」
俺が視線をさまよわせながら答えあぐねていると。
「とても人には言えない行為です!」
ミライが自信満々に、だけどスカートの裾を握り締めて恥じらいながら言った。
「おいミライ言い方!」
「人には言えない行為……まさかっ」
イツモフさんが急に焦ったような表情を浮かべる。
「二人も私たちと同じで、このあたりに生えているユニコーンの角によく似たユニコーソの角を採集して、それをユニコーンの角だと偽って販売し、大儲けしようとしてたんじゃ」
「ちげぇよ! そんなことするのはお前らだけだよ!」
「え? そんなお金の稼ぎ方があるんですか?」
「ミライは食いつかないで! 借金返したいのはわかるけど、まっとうな方法で返そうな」
「ちっ」
「また舌打ちしたぞこのメイド!」
ミライさんはどんだけ腹黒いのかな。
「それで、ミライさんたちはユニコーソの角を採集しにきた敵なんですか? どうなんですか?」
鬼の形相のイツモフさんに詰め寄られる。
この人金の亡者すぎなんですけどー。
お金のことになると目の色が変わりすぎなんですけどー。
「だから違うって。なぁ、ミライ」
あまりの圧に後ずさりつつ、ミライに助けを求める。
「はい。私たちはいっさいやましいことはしておりません。イツモフさん。正直に申し上げますと、私たちはこの人目のつかない野外でひとつになって、気持ちよくなろうとしていたんです」
「だから語弊がある言い方すんなよ!」
「どうしてですか? 一緒に気持ちよくなろうって言ってたじゃないですか! それなのに直前でビビッてやめたのは誠道さんじゃないですか!」
「だから語弊が!」
「うわぁ」
気がつけばイツモフさんに軽蔑の眼差しを向けられていた。
「野外でえっちなことをしようとするなんて。誠道くんって変態……いや、ゴミのような人なんですね」
「なわけあるか!」
「ゴミのような人ではないとするということは……人のようなゴミってことですか」
「前にもこの流れあったぞ! だからそれだと人じゃなくてゴミになってるからね」
「お姉ちゃん。僕、こんな人の心を持たないゴミにだけはならないようにするよ」
「ジツハフが一番ひどいこと言ってるんですけどー」
「偉いなぁ我が弟は。善悪の区別がしっかりつけられるなんて」
「いや、つけられてないから! ザケテイル姉弟はつねに泥棒のこと考えてるじゃん! ユニコーソの角をユニコーンの角と偽って販売しようとしているのはどこのどいつだよ!」
これまでの数々の蛮行を忘れたとは言わせないぞ!
「いいか二人とも。ちゃんと説明するとだな。俺はただ新必殺技、【目からビーム】を試そうと」
「えっ? 【目からビーム】?」
俺が技名を言った瞬間、ジツハフくんが目を輝かせた。
やっぱりか。
男の子なら誰しも妄想したことあるよな。
【目からビーム】の格好よさを。
素晴らしさを。
俺は実はジツハフくんの前でしゃがみ、その頭をポンポンする。
「ああそうだ。俺は【目からビーム】が出せるんだ。どうだ? すごいだろう」
「うん! 僕も将来は【目からビーム】が出せるような格好いい誠道お兄ちゃんみたいになりた――引きこもりだからやっぱり嫌だ!」
「なんで年端もいかない子供から二度も傷つけられなきゃいけないんだよ!」
「偉いなぁ我が弟は。善悪の区別がしっかりつけられるなんて」
「これにツッコめない自分の境遇が憎い! なんてことだ!」
俺が頭を抱えて嘆いていると、先程と同じ言葉で弟を褒めたイツモフさんがちらちらと俺を見て。
「でも【目からビーム】って。くふふっ、あは、あはは! ちょっと面白すぎです! 目から、【目からビーム】って」
死にそうなほど大爆笑しはじめた。
ああ、どんどんみじめになっていくよう。
「はい。大爆笑ものですよね。しかも一回打つと十分間失明しちゃうんですよ」
「ミライは余計なことを言うな!」
「し、失明っ……ははっ、もうだめ、無理、これ以上笑わせないでくださいっ。死んじゃいますからぁ」
地面の上を転がり回りながら笑うイツモフさん。
あのぉ……ムカつくからこの人殴っていいですか?
俺、真の紳士なんで、男女平等なんで。
「十分もっ、はははっ、しつ、失明っって…………ん? 失明?」
笑い転げていたイツモフさんが突然その動きを止める。
あれ? この流れ、ほんの少し前に経験したような気がするんだけど、気のせいかな。
そそくさと立ち上がったイツモフさんはコホンと咳払いをして、場の空気を整えた。
「誠道くん」
「なんだ」
「失明とは目が見えなくなること、であってますか?」
「ああ。そうだけど」
どこかの国会議員みたいに当たり前のこと聞かないでよ。
「本当ですか?」
「何度も聞くなよ。さっき試したから間違いない」
俺がそう伝えると、イツモフさんは隣のジツハフくんと目を合わせ、狡猾ににやりと笑った。
ジツハフくんが一歩前に出て、得意げに胸をぽんとたたいた。
「ってことはだよ、誠道お兄ちゃん。【目からビーム】を打った後に視界を失った誠道お兄ちゃんを援助する人が必要ってことだよね。それ僕たちに任せてよ! 【目からビーム】を打つときは、僕たちが一緒にいてあげるよ」
「お前らなんかに頼むわけねぇだろうが!」
なぁジツハフくんや。
子供補正をかけたって無駄だよ。
「どうしてそんなこと言うの?」
「そんなの失明中に身ぐるみはがされるからに決まってるだろ。所持品全部盗まれるからに決まってるだろ」
「そんなひどいこと僕はしないよ。だってお姉ちゃんから、悪い人のお金以外は盗んじゃだめだって言われてるからね」
きっぱりと言ったジツハフくんが、姉の方を振り返る。
今度はイツモフさんが一歩前に出た。
「そうですよ! 私たちは物を盗んだりしない! ただちょっと視界を失って動けないカモみち――誠道くんをグランダラまで運ぶ輸送費として、10秒1000リスズくらいいただこうかなと」
「やっぱり考えることがあくど過ぎるじゃねぇかよ!」
「イツモフさん。緊急時には利用したいのですが、料金は後払いでも大丈夫ですか?」
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