うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

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第3章 1 ポストに謎のプレゼント

ミライの作戦?

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 ミライがそそくさと部屋から出ていくと、俺はソファに座って大きく背伸びをした。

 階段を登っていく音が聞こえたので、どうやらミライは自室に向かったようだ。

 いったいなにを持ってくるのだろう。

「借金じゃない悩み……ってなんだよ。ってかやっぱり借金のことで悩めよ」

 自分が人形であることの悩みが再燃したのだろうか。

 そんな様子は見受けられなかったが。

「お待たせしました」

 一分もたたずにミライが戻ってくる。

「悩みというのは、これなんです」

「これ、って」

 俺はミライが持ってきたものを見る。

 ミライは右手と左手で別の物を持っていた。

「ええっと、A4サイズくらいの紙と、丸い……それはなんだ?」

「これはゴブリンの睾丸です」

 おおう。

 久しぶりに聞いたな、ゴブリンの睾丸。

 でも、ゴブリンの睾丸が悩みにどう関係してるの?

 右手で持っている紙となにか関係あるのかな……ん、紙になにか書いてあるぞ。

「じゃあそっちの紙は……ええっと、なになに――――借用書」

「はい。しかもご丁寧に誠道さんの名前を書いていて、あとは実印を押すだけです」

「ただの借金の催促じゃねぇか! また懲りずに俺にも借金を背負わせようとして」

「違います」

 ピシャリと否定される。

 いやいや、ミライさん。

 すぐばれる嘘はよくないよ。

「今回の借用書は私ではありません。朝起きたら家のポストに入っていたんです。しかも連日です」

「そんなの信じられるか」

 子供でももっとマシな言いわけするわ!

「私は誠道さんを支援するメイドです。この優秀な私が、誠道さんが一度嫌だと言ったことを、何度も繰り返してしまうようなバカに見えますか」

「うん。見える」

「即答ひどいですぅ」

 ミライが眉間を押さえてうなだれるが……いや、当然の反応でしょ。

「ああ、どうしてそんな誤った印象がついてしまったのでしょうか。誠に遺憾です」

 だったらこれまでの自分の言動を振り返ってはいかがでしょうか。

「やっぱり誠道さんは引きこもりだから、物事をうがった見方でしかとらえられないのでしょうか」

「ミライの自己肯定感は青天井なんですか? 他責思考の鬼ですか?」

「とにかく! これは私の借用書ではありません。ゴブリンの睾丸と一緒に家のポストに入っていたんです! これが一体誰の仕業なのかというのがもっぱらの悩みなんです」

 ミライが俺が座っているソファの前にあるローテーブルに睾丸と借用書を叩きつけるようにして置く。

 ……あ、睾丸潰れた。

 股の間が吊り橋渡っている時みたいにひゅんっ! ってなった。

「一緒に入ってたって……」

 ミライの言っていることが本当だとするならば、たしかに不気味だ。

 睾丸と借用書……って、謎の組み合わせだ。俺、

 友達いなかったから謎ときカフェとか行ったことないんだけど。

「睾丸と借用書……睾丸、借用書…………。関連性は皆無だな。でもとりあえずわかるのは、これをポストに入れたやつは俺たちに嫌がらせをしたいってことだよな」

「え? 嫌がらせ? 好意を持っているの間違いでは?」

「なわけあるか! こんな謎の組み合わせ……しかも片方は借用書だぞ!」

「謎なんかじゃありません! これは私たちの好きなものじゃないですか! つまりこれをポストに入れた人は私たちに好意を抱いているのです」

「ゴブリンの睾丸も借用書も、ミライが好きなものだろ!」

 俺がツッコむと、ミライは「なるほど」と腕を組んで考え込みはじめる。

「ってことは、私に好意を寄せている人がポストに入れている…………はっ! もしかしてこれは誠道さんが感謝を示すために行っている、私に対するサプライズでは?」

「なわけあるか!」

「なるほど、だから私の好きなものがポストに。面と向かって渡すのは恥ずかしいからって、そんな、う、嬉しいです」

「勝手に結論出すな! なんで俺がそんな回りくどいことしなきゃならないんだよ! 普通に直接言えるわ!」

「じゃあいまここで、直接感謝を言ってください」

 頬を赤らめたミライにじいっと見つめられる。

 なにかを期待するキラキラとした目が眩しい。

 これ、誘導された感すごいな。

 ポストに睾丸借用書事件、実はミライの自作自演では?

「……まあ、その、なんだ」

 ってかさっきのは勢いで言ってしまっただけだから、感謝を直接伝えるのは普通に恥ずかしい。

 でも……ええい、こんなのはやけくそだ。

 感謝しているのは本当なので、それを伝えればいいだけ。

「……ミライ、その、毎日、あ、あ、ありがとな」

 最後には目を逸らしてしまったが、まあいいだろう。

「誠道さん。嬉しいです。こちらこそありがとうございます」

 ミライの屈託のない笑みに目が引き寄せられた。

 恥ずかしさでいっぱいだった心には、いまは別の感情があふれている。

 ミライの幸せそうなふにゃけ顔を見ることができて、俺まで幸せな気分になった。
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