229 / 360
第5章 2 背徳快感爆走中!
古参だけの、やばいファン
しおりを挟む
今日のホンアちゃんのライブは、俺とホンアちゃんが運命的に伝説的に邂逅した、あの広場の舞台で行われる。
ほんと、彼氏役なんて面倒なことをミライが引き受けなければ、いまごろ俺は引きこもっていたのになぁ。
アイドルファンなんて面倒なだけなんだよなぁ。
舞台の前には、すでにたくさんのアイドルファンが集まっていた。
あのとき俺に突っかかってきた大男――ホンアちゃんファンクラブ会長のキシャダ・マシイは今日も今日とて最前列を陣取っている。
ここに集まっているファンたちのほとんどが、ホンアちゃんファンクラブに入っているのだが、俺はファンクラブには入っていない。
なんなら、他のファンたちとは一切かかわりを持っていない。
だって、俺はまあ、一応、曲がりなりにもホンアちゃんの彼氏をやらせてもらってるわけで(だがホンアちゃんは男だ)。
ライブ中に俺だけにウインクしてくれるわけで(だがホンアちゃんは男だ)。
なにも知らないファンたちを見下しているわけではないけど、この状況がちょっと気持ちよくて、ホンアちゃんの背徳感を抱きたいという純粋な思いを理解しはじめてもいる(だがホンアちゃんは男だ)。
そんな感じで、なにも知らない憐れなファンとは線を引いておきたいという気持ちから、俺はホンアちゃんを全力で応援しているという共通点を持っているにもかかわらず、ボッチを貫いているというわけだ。
「みんなぁ(石川きゅん)!! 今日は、私のために集まってくれてありがとう!」
ホンアちゃんが舞台からファン(俺だけ)に向けて呼び掛けると、ファンから「「うぉおお」」と歓声が上がる。
ふっ、バカな奴らだ。
いまのはみんなじゃなくて、俺だけに向けて言ったんだぞ。
俺の耳には「みんなぁ」のところが「石川きゅん」に聞こえてるんだぞ。
「私もぉ、今日はみんな(石川きゅん)に会えて、嬉しいよぉ!!」
ホンアちゃんがウインクをすると、ファンの中には卒倒する人まで現れた。
だからバカか。
いまのウインクはお前らに向けてじゃねぇ。
俺だけに向けてなんだよ。
勘違い男たちは、本当に憐れだなぁ。
彼氏(役)がここにいるってのに。
その後も、俺はホンアちゃんが俺のためだけに行ってくれるライブをじっくりたっぷり堪能した。
「みんなぁ(石川きゅん)!! 今日もありがとう!!」
ホンアちゃんが舞台から去ると、俺は余韻を楽しんで一向にその場から動こうとしない勘違いオタクたちを置き去りにする。
さーて、今日の夜はホンアちゃんとどんな話をしようかなぁ、と考えながら少し歩いたところで。
「なぁ、ちょっといいか?」
「え?」
背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには長髪で出っ歯気味の、小太りな男が立っていた。
年齢は30代前半くらいに見える。
なぜかタキシードを着ており、顔には板垣退助ばりの髭を生やしていた。
「あの、俺になにか用ですか?」
変な輩に絡まれたと思いつつも、無視するわけにはいかないので返事をする。
「いやぁね、君は見所があると思ってね」
タキシード男はご自慢の髭をサワサワさせながらつづける。
「すまない。僕の名前はコジキー。またの名を杉田ことは忘れろ玄白と呼ぶ」
「本当に実在してたのかよそいつ! ってかコジキーって名前なら本居宣長の方をもじった名前にしろよ!」
「もと、おり?」
コジキーは髭を触りながら首を傾げる。
「ってかさっきから髭を触る動作むかつくなぁ! 杉田玄白には髭もないし髪もないだろうが! 杉田玄白はな、北条政子とザビエルと並んで、教科書の肖像画に髪の毛を一本だけ生やされる偉人三選のはずだろうが!」
「ほうじょう? ざびえる? 君がなにを言っているのかはわからないが、勢いでいろんなところに喧嘩を売っていることだけはわかったよ。でも、それも自由だ。僕は自由を推奨する」
「板垣退助みたいに言うな! 髭だけのくせに!」
「そう声を荒らげるな。暗殺されるぞ」
「それ板垣退助の最後だから!」
「コジキー死すとも自由は死せず」
「だから板垣退助だから!」
「とにかく、少し落ち着きたまえ。僕は君を評価してるんだ。向こうにいるクソにわかファン共とは違ってね」
コジキーが、舞台の前でざわざわしているホンアちゃんのファンたちに軽蔑の眼差しを向ける。
「あいつらが、ホンアちゃんをダメにしたんだ。僕が出会ったころのホンアちゃんが、いまのホンアちゃんを見たらなんて言うか。僕は悲しいよ。ホンアちゃんの最初のファンとしてね」
ああ、やっぱりこいつめちゃくちゃ面倒なやつだ。
普通であれば絶対にかかわりたくない。
「それに比べて、君はホンアちゃんをわかっているように見える。そもそも君はあのクソにわかファン共と喧嘩をしていたし、いつも彼らを見下したような目で見ている。それだけで僕はピンときたよ。君を認めたのさ。真のホンアちゃんファンだとね」
ああ、こいつめちゃくちゃ勘違いしてやがる。
俺はファン全員、つまりお前も見下してんだよ。
「なぁ、ホンアちゃんの真のファン同士、ちょっと話さないかい?」
「ごめんなさい用事があるので帰ります」
俺は速攻で頭を下げて速攻でその場を立ち去った。
ほんと、彼氏役なんて面倒なことをミライが引き受けなければ、いまごろ俺は引きこもっていたのになぁ。
アイドルファンなんて面倒なだけなんだよなぁ。
舞台の前には、すでにたくさんのアイドルファンが集まっていた。
あのとき俺に突っかかってきた大男――ホンアちゃんファンクラブ会長のキシャダ・マシイは今日も今日とて最前列を陣取っている。
ここに集まっているファンたちのほとんどが、ホンアちゃんファンクラブに入っているのだが、俺はファンクラブには入っていない。
なんなら、他のファンたちとは一切かかわりを持っていない。
だって、俺はまあ、一応、曲がりなりにもホンアちゃんの彼氏をやらせてもらってるわけで(だがホンアちゃんは男だ)。
ライブ中に俺だけにウインクしてくれるわけで(だがホンアちゃんは男だ)。
なにも知らないファンたちを見下しているわけではないけど、この状況がちょっと気持ちよくて、ホンアちゃんの背徳感を抱きたいという純粋な思いを理解しはじめてもいる(だがホンアちゃんは男だ)。
そんな感じで、なにも知らない憐れなファンとは線を引いておきたいという気持ちから、俺はホンアちゃんを全力で応援しているという共通点を持っているにもかかわらず、ボッチを貫いているというわけだ。
「みんなぁ(石川きゅん)!! 今日は、私のために集まってくれてありがとう!」
ホンアちゃんが舞台からファン(俺だけ)に向けて呼び掛けると、ファンから「「うぉおお」」と歓声が上がる。
ふっ、バカな奴らだ。
いまのはみんなじゃなくて、俺だけに向けて言ったんだぞ。
俺の耳には「みんなぁ」のところが「石川きゅん」に聞こえてるんだぞ。
「私もぉ、今日はみんな(石川きゅん)に会えて、嬉しいよぉ!!」
ホンアちゃんがウインクをすると、ファンの中には卒倒する人まで現れた。
だからバカか。
いまのウインクはお前らに向けてじゃねぇ。
俺だけに向けてなんだよ。
勘違い男たちは、本当に憐れだなぁ。
彼氏(役)がここにいるってのに。
その後も、俺はホンアちゃんが俺のためだけに行ってくれるライブをじっくりたっぷり堪能した。
「みんなぁ(石川きゅん)!! 今日もありがとう!!」
ホンアちゃんが舞台から去ると、俺は余韻を楽しんで一向にその場から動こうとしない勘違いオタクたちを置き去りにする。
さーて、今日の夜はホンアちゃんとどんな話をしようかなぁ、と考えながら少し歩いたところで。
「なぁ、ちょっといいか?」
「え?」
背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには長髪で出っ歯気味の、小太りな男が立っていた。
年齢は30代前半くらいに見える。
なぜかタキシードを着ており、顔には板垣退助ばりの髭を生やしていた。
「あの、俺になにか用ですか?」
変な輩に絡まれたと思いつつも、無視するわけにはいかないので返事をする。
「いやぁね、君は見所があると思ってね」
タキシード男はご自慢の髭をサワサワさせながらつづける。
「すまない。僕の名前はコジキー。またの名を杉田ことは忘れろ玄白と呼ぶ」
「本当に実在してたのかよそいつ! ってかコジキーって名前なら本居宣長の方をもじった名前にしろよ!」
「もと、おり?」
コジキーは髭を触りながら首を傾げる。
「ってかさっきから髭を触る動作むかつくなぁ! 杉田玄白には髭もないし髪もないだろうが! 杉田玄白はな、北条政子とザビエルと並んで、教科書の肖像画に髪の毛を一本だけ生やされる偉人三選のはずだろうが!」
「ほうじょう? ざびえる? 君がなにを言っているのかはわからないが、勢いでいろんなところに喧嘩を売っていることだけはわかったよ。でも、それも自由だ。僕は自由を推奨する」
「板垣退助みたいに言うな! 髭だけのくせに!」
「そう声を荒らげるな。暗殺されるぞ」
「それ板垣退助の最後だから!」
「コジキー死すとも自由は死せず」
「だから板垣退助だから!」
「とにかく、少し落ち着きたまえ。僕は君を評価してるんだ。向こうにいるクソにわかファン共とは違ってね」
コジキーが、舞台の前でざわざわしているホンアちゃんのファンたちに軽蔑の眼差しを向ける。
「あいつらが、ホンアちゃんをダメにしたんだ。僕が出会ったころのホンアちゃんが、いまのホンアちゃんを見たらなんて言うか。僕は悲しいよ。ホンアちゃんの最初のファンとしてね」
ああ、やっぱりこいつめちゃくちゃ面倒なやつだ。
普通であれば絶対にかかわりたくない。
「それに比べて、君はホンアちゃんをわかっているように見える。そもそも君はあのクソにわかファン共と喧嘩をしていたし、いつも彼らを見下したような目で見ている。それだけで僕はピンときたよ。君を認めたのさ。真のホンアちゃんファンだとね」
ああ、こいつめちゃくちゃ勘違いしてやがる。
俺はファン全員、つまりお前も見下してんだよ。
「なぁ、ホンアちゃんの真のファン同士、ちょっと話さないかい?」
「ごめんなさい用事があるので帰ります」
俺は速攻で頭を下げて速攻でその場を立ち去った。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる