うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

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最終章 2 フェニックスハイランドはきっと貸し切り

傾向傾向コケコッコー

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 俺たちが次にやってきたのは、スクリーンに映ったカラスにリアルタイムで愚痴を聞いてもらったりお悩み相談できたりする、観客参加型アトラクションだ。

 本来は、多くの客でごった返すはずの座席も、今は俺とミライの二人きり。

 スクリーンが一番よく見える、中段の中央の席に陣取り、開演を待つ。

「なんか、古びた映画館のミッドナイトシアターに来たような気分だな。俺たちのためだけに上映されるみたいで、ちょっとそわそわする」

 隣に座るミライにそう語りかけると、ミライは上品に口に手を添えながら笑った。

「なにを言ってるんですか。引きこもりが映画館に行ったことがあるわけないでしょう。知ったかぶりはやめてください」

「上品に言えばなんでも許されると思ったら大間違いだからな」

「嘘はついてませんよね?」

「……お、もうすぐ始まるみたいだな」

 タイミングよく場内が暗くなってくれて助かった。

 スクリーンが朧げに光りはじめ、灰色の輝きを放ちはじめる。

 空き缶やたばこの吸い殻が転がっている陰湿なゴミ捨て場が現れ、そこへ一羽のカラスが飛んできた。

「いや背景もっと考えろよ! そこにリアルさ追求すんな!」

 こんなの見せられてワクワクがダダ下がりだよ!

 海って最高の舞台設定だったんですねぇ!

「お客さん、静かにしてもらわないと困りますよ」

 スクリーンの方から意外と幼い感じの女性の声が聞こえてくる……ってこいつ性別はメスだったのか。

 スクリーンに目を移すと、カラスが俺をじっと見ながら羽をバサバサさせていた。

「そもそも、このゴミ捨て場よりも、引きこもり場所であるあなたの家の方が汚いのではないですか? どうせカップラーメンやペットボトルが散乱しているのでしょうから」

「なんで俺がバカにされてんのかなぁ! 観客を楽しませないでどうする!」

「そうですよ!」

 俺がキレると、ミライもつづいて声を張り上げた。

 さすがのミライもご主人様をバカにされては、黙っていられなかったらしい。

「ドMの誠道さんを責めていいのは私だけです! ですよね、誠道さん」

 ミライが得意げに俺を見て、親指をぐって立てる。

「なに言ってやりました! 的な顔してんだよ!」

「でも本当ですよね?」

「本当なわけがねぇ!」

「そこの二人、いいかげんにしろ」

 またカラスに注意される。

 ってか……あれ?

 このカラスの声、どこかで聞いたことある気がするんだよなぁ。

 なんかこう、無理して大人びようとしている幼い子みたいな感じの……。

 ……ああ、全然思い出せない。

「さて、それでは、私に質問がある人間は手を上げよ」

 咳払いをしたカラスが、座席を見渡しながら告げる。

 手を上げろって、俺たち以外いないんだから、そんな必要はないだろうに。

 でもまあそこはプログラムされた質問なのだろうし、素直に従ってやろう。

「はい!」

 俺は真っすぐ手を上げた。

 俺たちしかいないから選ばれるのは確定なんだけど、こういう時ってなんかワクワクするよね。

 ああ、どんな質問しようかなぁ。

「じゃあ、その引きこもり」

「引きこもりって呼ぶな! ……ってかそうじゃん! なんでお前は俺が引きこもりってこと知ってんだよ!」

「の二つ後ろにいる女性」

「だから貸し切りぃ! いや、もう傾向的にちょっとわかってたけどさ! なんで他の客がいるんだよ!」

「え、わわわ、私ですか?」

 カラスに指名された女性が、動揺と喜びが混ざった声を出す。

 振り返ってみると、猫耳をひょこひょこさせている女の子、コハクちゃんがそこにいた。

「そうだ。お前だ」

「ああ、はいっ! えっと……」

 その場で勢いよく立ち上がったコハクちゃんは、猫耳をぴくぴく、しっぽをフリフリさせながら、質問を考えている。

「早くしろ。次が待っているんだからな」

 カラスが俺にアイコンタクトを送ってくる。

 よかった。

 次が俺の番か。

 じゃあ質問を前もって考えておかないと。

「と思ったが、引きこもりなんかいくらでも待たせていいな」

「よくねぇよ!」

「あのっ! 私」

 コハクちゃんが意を決したように声を出す。

「私、誰かに必要とされたいんですが、どうしたらいいですか?」

「必要、か」

 言葉を止めたカラスが少しだけ頭を垂れて、考えるようなしぐさを見せる。

 なにを言うのだろうと、期待感が高まっていくが。

「ちょっと待て! この俺! 心出皇帝はコハクさんを必要としている!」

「だから傾向的にわかってたけど、なんでお前までいるんだよ!」

 コハクちゃんの質問に答えたのは、スクリーンに映るカラスではなく、座席の最奥にいた心出だった。

 館内が暗いせいで、心出がいることに気づけなかったのだ。

 立ち上がっている心出は、コハクちゃんに向けて笑みを向ける、

「だからコハクさん。心配しなくても大丈夫です。俺が君を必要としている。つき合ってほしい」

「すみません。質問を変えます。心出さん以外から必要とされたいんですが、どうしたらいいですか?」

 嫌悪の目をしたコハクちゃんに華麗にフラれた心出は、がっくりと肩を落とす。

 そして、嫌悪の目が出たということは当然。

「ああ、コハクちゃん! 私にも! 私にもその嫌悪の目をちょうだい!」

 場内の左奥にある非常口から表れたマーズが、コハクちゃんに詰め寄っていくも。

「無理です。恩人であるマーズさんにそんな目を向けるなんてできません」

「そんなぁ」

 座席と座席の間の通路でうなだれるマーズはもう放っておくとして。

「皇帝さん、いつまでも落ち込まないでくださいよ」

 落ち込む心出の肩を抱くようにして支えたのは、茶髪長髪男の五升・リマク・李男だった。

「俺、皇帝さんの勇気に感動しているんです」

「五升、お前……」

「だって絶対にフラれることがわかっているのに告白するなんて、そんな馬鹿な真似……じゃなくて勇気ある行動を俺は取ることができませんから。皇帝さんの男気にどこまでもついていきます!」

「五升、……ありがとう! 俺の心の友よ!」

 心出と五升はがっしりと抱き合う。

「そんな、心の友なんて暑苦し……嬉しい限りです。俺だってバカイザー……じゃなくて皇帝さんのことを都合のいい……じゃなくて心の友だと思ってますよ」

 もはやわざとだと思われても仕方ないくらい言い間違えている五升が、なぜかちらっと俺を見て。

「世の中には成功確定なのに告白できないヘタレもいる中で、本当に尊敬します!」

 おい、今なんで俺を見たのかな?

 なんかものすごくバカにされたような気がするんだけどなぁ!

「あ、でも心出さん。あの賭けは守ってもらいますよ。俺は心出さんがフラれるに賭けていて、心出さんは告白が成功するに賭けていた。賭けは俺の勝ちです。お金のやり取りはきちんとしておかないと、友情が壊れる原因になっちゃいますからね」

「そうだな。心の友とはいえ、お金はきちんとしておかないとな」

 心出がポケットから財布を取り出し、五升にお金を渡しているが……なんかここまで騙されていたらそれはそれで幸せな気がするんだよなぁ。

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