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第1章 パンドラの箱に囚われた少女
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蝉の鳴き声が夏を誇張する。
夏本番と言わんばかりの陽が汗を誘う。
最近は目覚ましより先に日差しで照り映えた部屋の明るみで目が覚める。
18回目の夏。心のどこかでそわそわしていた。
特に何かあるわけでもない。
ただ胸の高鳴りが部屋に響きそうだった。
ーーーそう、たしかにそこには、
夏の魔物がいたーーー
2週間後にはこの町の風物詩の青音祭が開かれる。毎年私は家柄の影響で、この町を一望できる位置に建てられた神社の巫女として、古くから伝わる青音舞を町民の前で発表する役割がある。そんな舞を思い出す作業を始める頃であった。
いつもの日々に夏が加わる。
暑いという文字が通り過ぎる人の頭の上に浮かんでいるように見えた。まぁ私自身もしかりだが。
ぽつりぽつりと足を学校へ進める。
照りはえた太陽の光が肌を刺してくる。滲んだ汗が制服につくのが気持ち悪くて、襟元をばたつかせる。
「あっつ…」とつい心の声が漏れる。
期末テストも終わり、終業式までのあるもないも等しい1週間。昨日渡された志望調査書の紙は空白のまんま。
大学進学か就職かなんて考えは存在しない。
そもそも私は巫女なのだから、この町の人々を見守り治めるという、それはそれは大事な役割がある。こう見えてもしっかりと仕事はサボることもなく、ここまで巫女人生を全うしてきたつもりだ。もちろんこれからもそのつもりだし、大変なことは多いけど辞めてしまいたいと思ったこともないーーーはずだ。
でも最近、そこはかとなく黒い塊が気持ちの中で漂っている気がしている。
この空に飲み込まれるかのごとく、はたまたあの青々しい海に流されるかのごとく生きたい。
文字で表すならこんな形だろうか。そんな自暴自棄の片鱗を歩んでしまっているのは、自分の「存在」がわからなくなってしまい、麻痺しているからなのだろう。存在がわからないくせに、これだけははっきりと自覚していた。
青音高校までの道のりは海沿いをひたすら歩く。
あの海の遥か先には何があるんだろう。
あの海の遥か底には何があるんだろう。
そんな能天気なことを考えながら、今はただ鉄板のように熱くなったアスファルトの上でコツコツとローファーの音を鳴らすしかない。うまくは言えないけど、心は少し満ちているようで、でも少し穴が開いていたようにも思えた。
友達がいないわけではない。むしろクラスの中心にいる気がする。先生にも友達にも頼られ、それに応えて頑張る。そんな正義感を振り回していたらいつのまにかクラスの中心になっていた。でも同時に自分の存在を自分で否定してる気持ちにもなった。
正門をくぐると「青音ーファイトッ!」と掛け声を出しながらグラウンドを一周するサッカー部の姿があった。1年生は大きな声で、2年生はそれに被すようにちゃっかり小さな声でことを済ませ、3年生は逆に最後の大会へのモチベーションからか空回りするくらい元気だった。
朝から部活とはお盛んなことだとサッカー部を横目に校舎に入った。
夏の死角である昇降口に入れば私の勝利。暑すぎる太陽を浴び続けた後の校舎は、クーラーがかかってないのに涼しく感じる。
ほっと一息ついていると「透夏おはよー!」と後ろから元気な声をかけられた。
一方で私は「おはよー」とヒューマノイドな笑顔で返す。
このクラスの人とは大体は会話できる。二次元オタクとも天真爛漫な目の前のような人とも。唯一話せないとすれば彼女ーーー
彼女、花火さんはまさしく名前を全うしたような容姿端麗、おまけに知力抜群ときたもんだ。神様のバグなのか、万物を与えられすぎたような彼女は、普通ならどう考えてもクラスの中心人物。しかし、実際は彼女自身が他人から一歩距離を置いていたので、そうはなっていない。そんな彼女のことを私はどこか羨ましく、そして何故か懐かしく感じていた。
「...透夏!」
「...え?どしたの?」
「どーしたも何も何回も声かけたのにぼーっとして全然反応してくれないんだもん…」
ぷくっと頬を膨らましている天真爛漫でちっちゃな子は幼馴染のさくら。それなりに仲良くしている。巷で言えば親友みたいなものだ。絶対に口には出さないけど。
私は「早く本題に入ろっか?」と言うとさくらのほっぺたをつまんで伸ばした。日に日に伸びるようになってきているようにも感じた。
「さてはさくら変態だな?」
「変態!?変態じゃないもん!!」
さくらはやっぱ天真爛漫で可愛らしい子だ。
「変態だとか変態じゃないとかどーでもいいが早く席座れー。今日の授業は生物の変態についてだ」
「……」
知らない間にチャイムが鳴っていたらしい。とりあえずそこはかとない空気があったことは理解できた。
私も席につく。
隣には彼女が座っていた。
どこか一点を眺める彼女は何を考えているのか私には見当もつかなかった。
空の青さがこの町を見下ろすように、高台に建っているこの青音高校からは商店街の賑やかさを覗き込むことができた。人口も少ないからこそ、ほとんどの人と知り合いで、この町では巫女である私にはわからないことは「ほとんど」ないと断言できるほどだった。
わからないことは彼女と自分のことだけ。
ただ、それだけだったーーー
夏本番と言わんばかりの陽が汗を誘う。
最近は目覚ましより先に日差しで照り映えた部屋の明るみで目が覚める。
18回目の夏。心のどこかでそわそわしていた。
特に何かあるわけでもない。
ただ胸の高鳴りが部屋に響きそうだった。
ーーーそう、たしかにそこには、
夏の魔物がいたーーー
2週間後にはこの町の風物詩の青音祭が開かれる。毎年私は家柄の影響で、この町を一望できる位置に建てられた神社の巫女として、古くから伝わる青音舞を町民の前で発表する役割がある。そんな舞を思い出す作業を始める頃であった。
いつもの日々に夏が加わる。
暑いという文字が通り過ぎる人の頭の上に浮かんでいるように見えた。まぁ私自身もしかりだが。
ぽつりぽつりと足を学校へ進める。
照りはえた太陽の光が肌を刺してくる。滲んだ汗が制服につくのが気持ち悪くて、襟元をばたつかせる。
「あっつ…」とつい心の声が漏れる。
期末テストも終わり、終業式までのあるもないも等しい1週間。昨日渡された志望調査書の紙は空白のまんま。
大学進学か就職かなんて考えは存在しない。
そもそも私は巫女なのだから、この町の人々を見守り治めるという、それはそれは大事な役割がある。こう見えてもしっかりと仕事はサボることもなく、ここまで巫女人生を全うしてきたつもりだ。もちろんこれからもそのつもりだし、大変なことは多いけど辞めてしまいたいと思ったこともないーーーはずだ。
でも最近、そこはかとなく黒い塊が気持ちの中で漂っている気がしている。
この空に飲み込まれるかのごとく、はたまたあの青々しい海に流されるかのごとく生きたい。
文字で表すならこんな形だろうか。そんな自暴自棄の片鱗を歩んでしまっているのは、自分の「存在」がわからなくなってしまい、麻痺しているからなのだろう。存在がわからないくせに、これだけははっきりと自覚していた。
青音高校までの道のりは海沿いをひたすら歩く。
あの海の遥か先には何があるんだろう。
あの海の遥か底には何があるんだろう。
そんな能天気なことを考えながら、今はただ鉄板のように熱くなったアスファルトの上でコツコツとローファーの音を鳴らすしかない。うまくは言えないけど、心は少し満ちているようで、でも少し穴が開いていたようにも思えた。
友達がいないわけではない。むしろクラスの中心にいる気がする。先生にも友達にも頼られ、それに応えて頑張る。そんな正義感を振り回していたらいつのまにかクラスの中心になっていた。でも同時に自分の存在を自分で否定してる気持ちにもなった。
正門をくぐると「青音ーファイトッ!」と掛け声を出しながらグラウンドを一周するサッカー部の姿があった。1年生は大きな声で、2年生はそれに被すようにちゃっかり小さな声でことを済ませ、3年生は逆に最後の大会へのモチベーションからか空回りするくらい元気だった。
朝から部活とはお盛んなことだとサッカー部を横目に校舎に入った。
夏の死角である昇降口に入れば私の勝利。暑すぎる太陽を浴び続けた後の校舎は、クーラーがかかってないのに涼しく感じる。
ほっと一息ついていると「透夏おはよー!」と後ろから元気な声をかけられた。
一方で私は「おはよー」とヒューマノイドな笑顔で返す。
このクラスの人とは大体は会話できる。二次元オタクとも天真爛漫な目の前のような人とも。唯一話せないとすれば彼女ーーー
彼女、花火さんはまさしく名前を全うしたような容姿端麗、おまけに知力抜群ときたもんだ。神様のバグなのか、万物を与えられすぎたような彼女は、普通ならどう考えてもクラスの中心人物。しかし、実際は彼女自身が他人から一歩距離を置いていたので、そうはなっていない。そんな彼女のことを私はどこか羨ましく、そして何故か懐かしく感じていた。
「...透夏!」
「...え?どしたの?」
「どーしたも何も何回も声かけたのにぼーっとして全然反応してくれないんだもん…」
ぷくっと頬を膨らましている天真爛漫でちっちゃな子は幼馴染のさくら。それなりに仲良くしている。巷で言えば親友みたいなものだ。絶対に口には出さないけど。
私は「早く本題に入ろっか?」と言うとさくらのほっぺたをつまんで伸ばした。日に日に伸びるようになってきているようにも感じた。
「さてはさくら変態だな?」
「変態!?変態じゃないもん!!」
さくらはやっぱ天真爛漫で可愛らしい子だ。
「変態だとか変態じゃないとかどーでもいいが早く席座れー。今日の授業は生物の変態についてだ」
「……」
知らない間にチャイムが鳴っていたらしい。とりあえずそこはかとない空気があったことは理解できた。
私も席につく。
隣には彼女が座っていた。
どこか一点を眺める彼女は何を考えているのか私には見当もつかなかった。
空の青さがこの町を見下ろすように、高台に建っているこの青音高校からは商店街の賑やかさを覗き込むことができた。人口も少ないからこそ、ほとんどの人と知り合いで、この町では巫女である私にはわからないことは「ほとんど」ないと断言できるほどだった。
わからないことは彼女と自分のことだけ。
ただ、それだけだったーーー
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