32 / 57
束の間の幸せ6
しおりを挟む
式場に着き、僕と樹くんは別々の控室に案内された。
「じゃあ、後でね」
「うん。後で」
控室で準備と言われても、メイクで顔色を整えて、髪をセットして着替えたら終わり。これが女性なら大変なんだろうけれど、男の僕はトータル三十分もあれば準備完了。
準備が終わって、式が始まるまで後十五分くらい残っているので、スマホを見ていると父が入ってきた。思ったよりも早く来たな、という印象だ。早く来たって、何を話すでもない。子供の頃から遠い存在の人だったんだ。今さら親子ごっこは演じられない。
「いいか。先方に嫁いだらとにかく早く子供を産め。加賀美のオメガに求められているのはそれだ。跡継ぎにアルファを産め。間違えてもお前みたいなベータは産むな。わかったな」
最後の日まで、子供、子供。早く子供を産め。言われなくてもわかっている。そして、僕みたいなベータは産むなって。でも産むのはそんなベータだった僕なんだから皮肉だ。
最後までこんなことを聞かされるのなら、来なくてもいいのに。まぁ、父も来たくはなかっただろうけれど、加賀美の長として出ないわけにはいかないんだろう。何しろ、長であり戸籍上の父親なのだから。
でも、これで子供が産まれたときに性別を報告すれば済むので、あまり会うこともない。それは親子としての祝いの報告ではなく、事務的な報告だ。ここでベータだったなんて言ったら、それこそまた出来損ない・役立たずと言われるのだろう。そう考えると気が滅入ってくる。
そうしたところで、樹くんのお義父さんとお義母さんが入ってくる。
「おぉ。優斗くんの優しい雰囲気に良く似合っているね」
「えぇ、本当に。もう、優斗くんも如月の人間なのね。加賀美さん、ありがとうございます」
「いいえ。これが役に立つといいんですが」
「そんなこと。優斗くんが来てくれるだけで十分ですよ」
役に立つ、と僕を物扱いする父ときちんと人間扱いしてくれるお義父さんとお義母さん。すごい違いだ。
「優斗くん。これからなんでも言ってくれ。遠慮はいらないからね」
お義父さん、お義母さんは本当に優しい。
「ありがとうございます」
「何かあったら、私の方に連絡を下さい。加賀美として対処します」
父はこの場では浮くくらいにビジネスライクだ。普段、結婚式に出席するときもこんな調子なんだろうか。僕達は物じゃないのに、父にとっては物としか見えてないのだろうな、と思うと悲しくなった。
「それでは式が始まりますので、ご家族の方はチャペルの方へ移動して下さい。新郎はドアの前で待機して下さい」
「じゃあ優斗くんまた後で」
そう言って、父たちは控室を出て行った。
「じゃあ、後でね」
「うん。後で」
控室で準備と言われても、メイクで顔色を整えて、髪をセットして着替えたら終わり。これが女性なら大変なんだろうけれど、男の僕はトータル三十分もあれば準備完了。
準備が終わって、式が始まるまで後十五分くらい残っているので、スマホを見ていると父が入ってきた。思ったよりも早く来たな、という印象だ。早く来たって、何を話すでもない。子供の頃から遠い存在の人だったんだ。今さら親子ごっこは演じられない。
「いいか。先方に嫁いだらとにかく早く子供を産め。加賀美のオメガに求められているのはそれだ。跡継ぎにアルファを産め。間違えてもお前みたいなベータは産むな。わかったな」
最後の日まで、子供、子供。早く子供を産め。言われなくてもわかっている。そして、僕みたいなベータは産むなって。でも産むのはそんなベータだった僕なんだから皮肉だ。
最後までこんなことを聞かされるのなら、来なくてもいいのに。まぁ、父も来たくはなかっただろうけれど、加賀美の長として出ないわけにはいかないんだろう。何しろ、長であり戸籍上の父親なのだから。
でも、これで子供が産まれたときに性別を報告すれば済むので、あまり会うこともない。それは親子としての祝いの報告ではなく、事務的な報告だ。ここでベータだったなんて言ったら、それこそまた出来損ない・役立たずと言われるのだろう。そう考えると気が滅入ってくる。
そうしたところで、樹くんのお義父さんとお義母さんが入ってくる。
「おぉ。優斗くんの優しい雰囲気に良く似合っているね」
「えぇ、本当に。もう、優斗くんも如月の人間なのね。加賀美さん、ありがとうございます」
「いいえ。これが役に立つといいんですが」
「そんなこと。優斗くんが来てくれるだけで十分ですよ」
役に立つ、と僕を物扱いする父ときちんと人間扱いしてくれるお義父さんとお義母さん。すごい違いだ。
「優斗くん。これからなんでも言ってくれ。遠慮はいらないからね」
お義父さん、お義母さんは本当に優しい。
「ありがとうございます」
「何かあったら、私の方に連絡を下さい。加賀美として対処します」
父はこの場では浮くくらいにビジネスライクだ。普段、結婚式に出席するときもこんな調子なんだろうか。僕達は物じゃないのに、父にとっては物としか見えてないのだろうな、と思うと悲しくなった。
「それでは式が始まりますので、ご家族の方はチャペルの方へ移動して下さい。新郎はドアの前で待機して下さい」
「じゃあ優斗くんまた後で」
そう言って、父たちは控室を出て行った。
40
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
両片思いのI LOVE YOU
大波小波
BL
相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。
両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。
そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。
洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。
お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。
富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。
少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。
サクラメント300
朝顔
BL
アルファの佐倉は、過去に恋人を傷つけたことで、贖罪のための人生を送ってきた。
ある日不運な偶然が重なって、勤務先のビルのエレベーターに閉じ込められてしまった。
そこで一緒に閉じ込められたアルファの男と仲良くなる。
お互い複雑なバース性であったため、事故のように体を重ねてしまう。
ただの偶然の出会いのように見えたが、それぞれが赦しを求めて生きてきた。
贖罪の人生を選んだ佐倉が、その先に見つける幸せとは……
春らしく桜が思い浮かぶようなお話を目指して、赦しをテーマに書いてみました。
全28話 完結済み
⭐︎規格外フェロモンα×元攻めα
⭐︎主人公受けですが、攻め視点もあり。
※オメガバースの設定をお借りして、オリジナル要素を入れています。
半分だけ特別なあいつと僕の、遠まわりな十年間。
深嶋(深嶋つづみ)
BL
ヒート事故により大きく人生が変わってしまったオメガ性の水元佑月。
いつか自由な未来を取り戻せることを信じて、番解消のための治療に通いながら、明るく前向きに生活していた。
佑月が初めての恋に夢中になっていたある日、ヒート事故で半つがいとなってしまった相手・夏原と再会して――。
色々ありながらも佑月が成長し、運命の恋に落ちて、幸せになるまでの十年間を描いた物語です。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる