42 / 57
失踪6
しおりを挟む
樹くんは僕を探すだろうか。付き合い始めた頃、樹くんは言っていた。いなくなったら僕を探す、と。でも、今はどうだろう。結婚して三年経っても妊娠もしない妻。もう用はない、と探しもしないだろうか。如月に自分の居場所はないと思い家を出てきたのに、探して欲しいと思う自分も少しいる。
甘ったれていると思う。樹くんと付き合う前は一人でもなんとも思わなかった。人見知りが激しくて、友達は数少なかった。だから一人で学食で食事をすることはあったけれど、特に何を思うもなく、普通に食事をしていた。休日は家で一人でいることも多かったけれど、寂しいと思うこともなかった。だって、僕は子供の頃から一人だったから。
加賀美の家で、母と二人暮らしだったけれど、出来損ないのベータの僕のことを毛嫌いしていた母と仲がいいわけもなく、当然一人だった。
僕の人生は、樹くんと出会うまでは一人ぼっちだったのだ。それが僕だった。でも、樹くんと出会って、一緒にいるようになって結婚して、一人で過ごす時間なんてすっかり忘れてしまった。人のぬくもりを、人の愛情を知ってしまった。人は、愛情を知ると強くなると思っていたけれど、弱くもなるのかもしれない。
ただ、万が一、樹くんが僕を探すとしたら、携帯と会社はチェックすると思う。加賀美の家はチェックしないだろうか。とすると携帯は夜は切るようにしよう。会社は休んでいるから、もし会社に行かれたとしても大丈夫だ。ただ、いつまでも会社を休むわけにはいかないから、辞めるようになるんだろうか。オメガ枠のある貴重な会社だったけれど仕方がない。またオメガ枠で探すしかない。そのときはここから離れたところでもいいのかもしれない。
とりあえず、今日から泊まるところを探さないと。そう思いスマートフォンをカバンから出して宿泊予約サイトを表示させる前に、待受にしている樹くんの顔を見た。
これは二人で温泉に行ったときの写真だ。樹くんがすごく楽しそうで思わず撮ったんだ。その写真を見て、涙が出てきた。好きなんだ。こうなっても、好きなんだ。いや、好きだから家を出たんだ。でも、好きなのに別れなくちゃいけないのはすごく辛いことだな、と思う。
樹くんと付き合い始めたころは、いつでも身を引けるように心づもりをしていたのに。時間がたつにつれ、オメガになったからずっと一緒にいられるって思って、別れるなんて考えもしなくなってた。本当に最近の僕は甘ったれてた。結局それは樹くんが好きだからだ。別れを考えなくなったのは、樹くんが好きだから。だから、今、こうして写真を見るだけで涙が出てしまうんだ。
甘ったれていると思う。樹くんと付き合う前は一人でもなんとも思わなかった。人見知りが激しくて、友達は数少なかった。だから一人で学食で食事をすることはあったけれど、特に何を思うもなく、普通に食事をしていた。休日は家で一人でいることも多かったけれど、寂しいと思うこともなかった。だって、僕は子供の頃から一人だったから。
加賀美の家で、母と二人暮らしだったけれど、出来損ないのベータの僕のことを毛嫌いしていた母と仲がいいわけもなく、当然一人だった。
僕の人生は、樹くんと出会うまでは一人ぼっちだったのだ。それが僕だった。でも、樹くんと出会って、一緒にいるようになって結婚して、一人で過ごす時間なんてすっかり忘れてしまった。人のぬくもりを、人の愛情を知ってしまった。人は、愛情を知ると強くなると思っていたけれど、弱くもなるのかもしれない。
ただ、万が一、樹くんが僕を探すとしたら、携帯と会社はチェックすると思う。加賀美の家はチェックしないだろうか。とすると携帯は夜は切るようにしよう。会社は休んでいるから、もし会社に行かれたとしても大丈夫だ。ただ、いつまでも会社を休むわけにはいかないから、辞めるようになるんだろうか。オメガ枠のある貴重な会社だったけれど仕方がない。またオメガ枠で探すしかない。そのときはここから離れたところでもいいのかもしれない。
とりあえず、今日から泊まるところを探さないと。そう思いスマートフォンをカバンから出して宿泊予約サイトを表示させる前に、待受にしている樹くんの顔を見た。
これは二人で温泉に行ったときの写真だ。樹くんがすごく楽しそうで思わず撮ったんだ。その写真を見て、涙が出てきた。好きなんだ。こうなっても、好きなんだ。いや、好きだから家を出たんだ。でも、好きなのに別れなくちゃいけないのはすごく辛いことだな、と思う。
樹くんと付き合い始めたころは、いつでも身を引けるように心づもりをしていたのに。時間がたつにつれ、オメガになったからずっと一緒にいられるって思って、別れるなんて考えもしなくなってた。本当に最近の僕は甘ったれてた。結局それは樹くんが好きだからだ。別れを考えなくなったのは、樹くんが好きだから。だから、今、こうして写真を見るだけで涙が出てしまうんだ。
41
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
サクラメント300
朝顔
BL
アルファの佐倉は、過去に恋人を傷つけたことで、贖罪のための人生を送ってきた。
ある日不運な偶然が重なって、勤務先のビルのエレベーターに閉じ込められてしまった。
そこで一緒に閉じ込められたアルファの男と仲良くなる。
お互い複雑なバース性であったため、事故のように体を重ねてしまう。
ただの偶然の出会いのように見えたが、それぞれが赦しを求めて生きてきた。
贖罪の人生を選んだ佐倉が、その先に見つける幸せとは……
春らしく桜が思い浮かぶようなお話を目指して、赦しをテーマに書いてみました。
全28話 完結済み
⭐︎規格外フェロモンα×元攻めα
⭐︎主人公受けですが、攻め視点もあり。
※オメガバースの設定をお借りして、オリジナル要素を入れています。
獣人王と番の寵妃
沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――
テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~
ちろる
BL
美貌の恋人、一華 由貴(いっか ゆき)を持つ風早 颯(かざはや はやて)は
何故か一途に愛されず、奔放に他に女や男を作るバイセクシャルの由貴に
それでも執着にまみれて耐え忍びながら捕まえておくことを選んでいた。
素直になれない自分に嫌気が差していた頃――。
表紙画はミカスケ様(https://www.instagram.com/mikasuke.free/)の
フリーイラストを拝借させて頂いています。
両片思いのI LOVE YOU
大波小波
BL
相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。
両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。
そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。
洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。
お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。
富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。
少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる