「白い世界で」

夕霧

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フォーマとジークー獣人と竜人ー

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 ジーク…竜人ドラゴニュート
 討伐隊隊長。大太刀を使いこなす。
 クールだが人情に厚い。

 フォーマ…獣人ビースト
 討伐隊隊長。大槍を使いこなす。
 粗野で口が悪い。根は優しい。

 --------キリトリ線--------

 ジーク「かつて高度な文明が栄えていたこの世界は、未曾有の大災害によって文明の全てが消失し、僅かに機械などの技術が残った。それまで人類のみが地上を支配していたが、大災害の後、人類に匹敵する、獣人ビースト竜人ドラゴニュート吸血種バンプ、エルフなどの種族が現れるようになった。これらの種族は独立し、人類と敵対、領地を争うようになった。そしてどの種族にも属さない、およそ人と呼べない異形のもの、魔物イヴィルが蔓延り、これを退治する自警団や討伐隊が各種族に存在した」

 フォーマ「討伐隊の役割は主に二つ。領地に侵入する魔物イヴィルを倒すこと。そして、種族の長(おさ)の命令があった時、他種族の領地を強奪すること。名称のないこの世界だが、大災害の後、かつての文明で栄えた建造物が全て塩と化し、常時白く分厚い雲が空を覆い隠していることから、人々は「白い世界」と呼ぶようになった。これは「白い世界」で二つの種族の間に起こった戦争の、そのきっかけの物語である」

 +++(場面転換)

 白い世界・獣人と竜人の領地の境界の森
 (フォーマがいる所にジークが現れる)

 フォーマ「…竜人ドラゴニュートの隊長一人でお出ましとはね。…来てくれて嬉しいぜ」

 ジーク「獣人ビーストの討伐隊の、フォーマだったか。通信を寄越したのは貴殿であったか。隊長のガロデはどうした?」

 フォーマ「ああ、おやっさんか。あの人はもう戦えねぇよ。膝を壊しちまってな。変わってこの俺が来たってわけ」

 ジーク「ガロデが…。そうか、残念だ。彼との戦いはとても有意義で楽しいものだったのに」

 フォーマ「けっ!よく言うぜ!50年生きても見た目が変わんない竜人ドラゴニュートと一緒にすんじゃねぇよ」

 ジーク「…ガロデは今年で70だったか。共に魔物イヴィルを倒したり、領地争いで戦ったのはいい思い出だ」

 フォーマ「そのガロデのおやっさんから伝言だぜ、『俺は前線を退(しりぞ)いたが、新しい討伐隊長がお前の首を取りに行くから待っていろ』てな」

 ジーク「新しい隊長?」

 フォーマ「最強の魔物イヴィル、エインシェントドラゴンの牙から作られた首飾り。それを身につけるのが討伐隊隊長の証。つまり、新しい隊長はこの俺ってわけ。OK?」

 ジーク「事情はわかった。して、新しい隊長が竜人ドラゴニュートの領地まで何用か?」

 フォーマ「討伐隊隊長、ジーク・ブライア、お前を倒しに来た」

 ジーク「…正気か?」

 フォーマ「至って正気だ。ほかの討伐隊員連れてこられちゃ勝ち目はなかったかもしれねぇが、テメェ1人なら倒せる。そっちが納める東方領土・シグマも奪い取れるかもな?」

 ジーク「…舐められたものだな。私は竜人ドラゴニュートの戦士であり、エインシェントドラゴンを狩りとった者。甘く見ないで貰おうか」
 (ジーク、大太刀を構える)

 フォーマ「いいね、その気迫!やっば戦いはこうでなきゃ!」
 (フォーマ、大槍を構える)

 ジーク「後悔しても遅いぞ?」

 フォーマ「するかよ。テメェが倒されるんだから」

 +++(場面転換)

 (切り合うジークとフォーマ。しかし勝敗がつかない)

 フォーマ「(くそっ!こいつ、全然隙がねぇ!攻撃が全部受け流される!)」

 ジーク「(なるほど。ガロデが後継として選ぶだけはある。まだ荒削りだが、こちらの攻撃は全て避け、的確に懐に入り込もうとしてる。しかし…)」

 フォーマ「でやぁ!!」
 (フォーマ、ジークの脇腹に槍を突っ込む)

 ジーク「ふんっ!」
 (ジーク、槍を刀ではじき返す)

 フォーマ「ちっ!!」
 (フォーマ、後方に飛び退き槍を構える)
 (ジーク、刀を鞘に納める)

 フォーマ「っ!?なんのつもりだ!」

 ジーク「今の貴殿の力では私には敵(かな)わない。力の差は歴然だ。それが分からないほど、愚かでは無いはずだ」

 フォーマ「くっ…」
 (フォーマ、悔しげに唇を噛み締める)

 ジーク「勝負はお預けだ。次はもっと技を磨いて挑んでこい」

 フォーマ「テメェ…逃げる気か!?」

 ジーク「その槍の状態ではもう戦えまい」

 フォーマ「え…?(刃に細かい傷…それに持ち手のところにヒビが入ってる)…認めるよ、俺の負けだ」

 ジーク「…私の太刀も刃こぼれしている。これでは双方にとってよい戦いができるとは思えん」

 フォーマ「よい戦い?」

 ジーク「双方にとって良い状態で、血が騒ぐような戦いをする、不正は許さない。それが竜人ドラゴニュートの一騎打ちのルールだ」

 フォーマ「……(呆気に取られてる)」

 ジーク「若き獣人ビーストの隊長よ。ガロデに伝えてくれ。『いつかの戦いの決着が付けられぬのが残念だ』と」
 (ジーク、立ち去る)

 フォーマ「くそっ…!言いたいことだけ言いやがって!けど…」
 (フォーマ、懐から銃を取り出す)

 フォーマ「(戦場じゃ、敵に背を向けないことだぜ?隊長さん)」
 (バン!と銃を撃つ。しかし、ジークはそれを素早くかわす)

 フォーマ「かわした!?」

 ジーク「…ガロデといい、貴殿といい、獣人ービーストーは汚い手を使うな。美しくない」

 フォーマ「ちっ!」

 ジーク「…撃たないのか?」

 フォーマ「やめだよ!この調子じゃ全部かわされるのは目に見えてるしな」

 ジーク「そうか。なんにせよ、ガロデへ伝言を頼む。そして貴殿と再び会う時は容赦はしない」
 (ジーク、今度こそ去っていく)

 フォーマ「ジーク・ブライア…絶対、テメェを倒す!」

 +++(場面転換)

 フォーマ「獣人ビースト竜人ドラゴニュートは種族が誕生して間もない頃からいがみ合う関係であった。大災害が起こってから二百年余り。その間、両者は激しい領地争いを繰り広げていた。やがて種族間で争いは激化、他種族も巻き込んだ大きな戦争へと発展するのであった。この戦争を治めたのが創記510年、フォーマとジークの時代から実に三百年経とうとしていた時だった。人類が戦争の終止符を打ち、他種族の領地への不可侵を言い渡した。これにそれぞれの種族の長が合意。長く続いた戦争は幕を閉じ、その後の世界は他種族間での共生が求められるようになった。それでもなお、獣人ビースト竜人ドラゴニュートの間には確執が残り、戦争が終わった後の世でも両者の間には他種族狩りの風習が残り続けているという」

「完」


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