殺し屋に拾われました。

さゆまー

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第2話(裏)~私と《男》

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私の《家》は貧乏だった。
《家》とか言っても、《家》と呼べる場所なんてなくて、寝る場所だって毎日違う。私は安眠なんて言葉を知らなかった。
そもそも私は望まれながら生まれたわけじゃなかった。
私の母と父は結婚していた訳でも付き合っていた訳でもなく、ただのセフレだった。最初はゴムはしていたのだが、そのうち面倒くさくなり、ゴムを使わなくなった。結果、こうなった。
母は《父である男》に見捨てられ、中絶するお金もなく、そのまま流されるように私を生んだ。母は精神的に追い詰められ、私が12歳になったときに入院した。
入院している間、お金が必要になる。だから私はこの大人っぽい容姿を生かして、性に飢えた男達を釣って釣って釣りまくった。どんどんお金を巻き上げて、毎日母の入院代に使っていた。そして母は私が16歳になった夏に死んだ。
私は、荒れた。
母を失った悲しみではなく、逆に母が死んだというのに驚くほど冷静な自分に。
私は母に死んでほしかったのだろうか?そんなこと思っていたはずがない。思いたくもない。
私はこんな商売をしているうちに、人として大事な何かを失ってしまった。本当はこんな仕事はもうしたくなかった。でもやめられるはずがない。こうしていないと生きられないのだから。
……………生きる?
私が生きていたところでどうする?
私はこれからどうする?
男に媚び売って股を広げて生きるの?
そんなの嫌だ。
私の好きなことをしたい。
ほかの子のように自由に生きたい。
でも私は許されなかった。
誰にも望まれなかった。
こんな人生もう嫌だ。
あぁ………母もこんな気持ちだったのだろうか?
私のせいで人生が台無しになった母。
私なんか生まれてこなきゃ良かったのかしら?
あぁ………顔が熱い。泣きそうになったのはいつぶりかしら?
なんとなく外に出てみる。夜とは言えど今は夏。暑い。
そういえば、今日も《約束》があったわ。そろそろいかなくては。
ゆっくり歩きながら、じんわりと熱い頬に手を当てた。
外はやはり人気がなく、世界が止まってしまったようで、怖かったが幻想的にも見えた。
誰も通っていないというのに信号機は元気に活動中で、私は車の通らない赤信号に止まった。
「ねぇ」
後ろから声をかけられた。驚きすぎて思わず大声を出してしまうところだった。
振り向くと、一人の《男》が立っていた。
「な、何よ」
《約束》した男ではない。父親だろうか?もしそうだとしても若すぎる。誰だ?こいつ。
「君、こんな時間に何してるの?」
《男》は表情を変えずに、じっとこちらを見つめてくる。その瞳は吸い込まれそうなほど奥行きのある緑。思わず見惚れてしまう。
「……もしもーし?君、聞こえてるー?」
我に返ると、《男》が私の目を覗きこみながら手をパタパタさせている。
「あ……いや、別に。今から帰るところよ。ほっといてちょうだい」
私が急いでこの場を離れようとする。すると《男》が手首を掴んできた。
「ちょっと!!何するのよ!!」
振り払おうとしたが、《男》の力は強く、なかなか離してくれない。
「……こんな時間まで、外で何してたの?」
《男》は真っ直ぐ見てくる。痛い。その視線が私の心を叩いてくる。やめて。気付くと私はなぜか泣いていて、《男》への抵抗をやめていた。《男》はそんな私を見て、そっと手を離した。
「…………事情を話してくれないか?こんな時、知らない人の方が話しやすいんじゃない?」
《男》は驚くほど優しい声で私に話しかけた。私は抵抗する気力は残っておらず、小さな声で事情を話した。
「………そうか」
《男》は少し俯くと、私と目線を合わせるためにしゃがんだ。
「ボクのとこに来ないか?」
しばらくの沈黙。彼の言っていることがわからなかった。
「……え?」 
「実はボク、正義の殺し屋をしているんだ」
「ころ………しや?」
「そう!悪い殺し屋じゃない。正義だよ、正義!」
「正義………」
「殺しをしろとは言わない。ボクのとこの寮に来ないか?」
「寮………」
「いざとなれば仕事も探してあげるから、ね?」
「………」
私は怖かった。でもこの《男》なら信じてもいいような気がして、ついていこうかなとも思っていた。
「ちょうど昨日、君と同じくらいの少年も入ってきたんだ。彼、殺し屋になりたいって。だけど、殺し屋ばかり増えても困る。だから、寮のお手伝いさんになってくれない?」
私がしばらく黙っていると、《男》は名刺を差し出した。
「これなら信じてもらえるかな!」
そこには、会社の名前が書いてあった。しかし、彼の名前は手で隠されていた。
「…………ボクのことは、ボスって呼んで」
彼が微笑む。その笑顔を見て、ついて行ってもいいかな、と思った。
「………ちゃんと雇ってよ、ボス」
これが、私、レベッカの人生が変わったきっかけだった。
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