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貴族
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紆余曲折を経て無事に入店することができた優達は定員に席を案内されて全員が収まる木製の机に腰を落ち着けた。
意外なことに外装と比べて小綺麗な内装の店内には様々な人々が存在していた。
下卑た表情で女性の店員に話しかける下心丸出しの薄汚い男。
身なりに気を遣っていることがわかる品のある妙齢の女性。
レーネ達と同様に剣や杖などの装備を身につけた冒険者。
彼等彼女らは肴をつまみにそれぞれが思い思いに話をしている。
「すごいな‥」
ひと目見ただけで明らかに姿格好が人間ではない者達に驚愕の表情を浮かべる優。
そんな彼の様子に微笑みを浮かべるエダは楽しげな表情を浮かべて言う。
「そんなに亜人の方が珍しいですか?もしかして優様のいらしたところでは存在していなかったのでしょうか?」
好奇心旺盛な表情で問うてくるエダに優は自身の居た世界を思い浮かべた。
機械のように同じ日常を生きる人々は資源は満ち溢れている社会での生活をしているが心を病む人間が後を絶たない。
「うーん‥僕たちのところにはいなかったかな‥」
続く言葉を躊躇う優だがエダは瞳に強い好奇心の光を浮かべて言った。
「そうなんですかッ!じゃあ人族だけってことですよね?それじゃあ皆平等ってことじゃないですかッ。それってすごいことですよねッ」
興奮した面持ちを晒して大声で語るエダにレーネは辟易とした様子で優の表情を伺っている。
先程の件もあり優の機嫌が気になる彼女である。
「ねぇ‥あなたは彼女の言う通り本当に神様なの?」
レーネはエダの言葉を全て鵜呑みにする気はなかったが強ち間違いでもないと考えていた。
あれ程の重症を負った状態から生き延びるなど最早神の御業ではないか。
改めて優を観察してみると傷は完全に塞がっている様子が窺えた。
それは皮膚の表面だけの応急処置ではなく痛みを感じている様子が伺えないという事実を鑑みるに傷は身体の内部まで修復されていることが理解できる。
「‥まさか‥僕はそんな敬われるべき存在ではないよ‥むしろ雪音の方が‥」
そこまで言いかけて優は口を閉じて黙り込む。
レーネは視線を雪音に向けた。
直接手合わせした感覚では魔術師の技量という面においては己より数段格上に位置する強者であることは理解できる。
しかし、優の異常な奇跡を目の当たりにしたらその印象も霞む。
レーネにとっては雪音よりも優の方が余程興味を惹く存在であった。
「そう‥神様ではないとはいえ先程は申し訳ないことをしたわ。改めて謝罪させて頂戴」
初対面の時とは打って変わって殊勝にも深々と優に頭を下げる様子は傲慢さを一切感じることができない。
「贖罪として‥あなたが望むなら私のできうる範囲でなんでも言うことを聞くわ」
初めて見るレーネの謙る様子にグラドは驚愕の表情でレーネを見つめていた。
「それなら‥リーナという冒険者が居る迷宮まで僕たちのことを連れて行ってもらえると助かる」
畏まったレーネの態度に穏やかな面持ちで言う優。
リーナという人物の名前に心当たりのあるレーネは耳を小さく動かして反応する。
「リーナ‥確か早朝に数名の冒険者と共にこの街から出るのを見かけたわ」
レーネ記憶を辿るような言葉に優は驚きの表情を浮かべていった。
「行き先はわかるかな?」
優の祈るような問いにレーネは迷うことなく頷いた。
「ええ私はエルフだから耳が良いの。だから会話は全て聴こえていたわ。‥確か‥水の迷宮と呼ばれているところに行ったわ」
思わぬ収穫を得られたことによって事態が良い方向に進展したことに喜びの表情を浮かべる優。
「そうか‥とても役に立つ情報をありがとう‥」
本心から感謝の言葉を述べていることが優の表情から理解することができたレーネは上機嫌に応えてみせる。
「いいえ。少しでもあなたのお役に立てて光栄よ」
上品な笑みで言葉を返すレーネの姿はその怜悧な美貌も相まり他者の目にはとても絵になって映る。
「ありがとう‥そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」
しかし、対面に座する優はそんなレーネという絶世の美女を前にしても一切心を揺らがせることなく答えて見せた。
「‥」
そんな優とレーネの何処か異様な会話に完全な蚊帳の外であったグラドは沈黙を保つ。
「優‥何か注文するのです‥わたしはそろそろお腹が空いて限界なのです」
しかし、何事にも動じることのない我が道をゆく雪音の言葉によって二人の会話は終止符を打たれた。
「あ‥そういえば‥そうだね‥僕もお腹空いたから何か頼もうか‥それじゃあグラドさん‥何かおすすめの品があったら教えて欲しいのですが」
雪音に改めて言われることによって自身も空腹感を感じていたことに気がついた優は食欲を満たすべくグラドに尋ねた。
「あー‥そうだな‥ちと値は張るがここのワインは特別美味なんだ‥どうだ酒はいける口か?」
グラドの提案を謹んで遠慮させてもらおうと考えた優であったが隣に座る雪音を見て思い直す。
「ああ‥すみません‥僕はどうにも弱くて遠慮させていただきます。でも雪音にはもらえますか?」
罪悪感を滲ませた表情で謝罪する優を意外そうな表情で見るグラド。
「そうなのか?てっきり貴族様は質の良い高級なワインばっかり飲んでるから飲み慣れていると思ったんだが‥当てが外れたな」
驚きの表情を浮かべるグラドの言葉を聞いて背筋に冷や汗をかく。
早くも貴族ではないという事実が露呈してしまうのではないか。
そんな危惧を表情に出さないように努めて表に出さないように微笑みで覆い隠す優は雪音の様子を伺う。
「‥」
彼女は無言で優の瞳を見返すだけでなんの反応も示すことはなかった。
そのことから致命的な失言ではなかったことに思わず安堵の表情を浮かべる優に訝しげな視線を向けるレーネ。
「どうかしたのかしら?」
今のやりとりから聡明な彼女は優が貴族の立場を名乗っていることに疑念を覚えた。
確かに服装や身につけているものは平民では一生手にすることのできない上等なものではある。
しかし、あまりにも常識に疎すぎる。
そして何よりレーネ達冒険者や娼婦に対して寛容だ。
それらは優達を疑う要素としては充分なものだった。
「いや、なんでもないよ‥ただ‥そう‥僕は何を頼もうか悩んでいたんだ。せっかくグラドさんのおすすめのお店に連れてきてもらったんだから何も頼まないのは失礼だからね」
取り繕うような優の表情に内心で苦笑を浮かべるレーネは呆れの感情を微塵も表に出すことなく言った。
「私からは炒り豆のスープをおすすめするわ」
レーネから出された助け船に優はこれ幸いといった表情で頷いた。
「じゃあ僕はそれにします」
続けて雪音も静かな声で言った。
「わたしも優と同じものを所望します」
二人の注文にグラドは頷いてレーネを見遣る。
「おまえはどうする?」
グラドの言葉にレーネは優に視線を向けて微笑を送る。
「私も優と同じのをお願い」
グラドはレーネの態度に怪訝な表情を向けたものの頷いて店員を呼ぶ。
今にも潰れそうな店には不釣り合いな美貌美しい顔立ちの少女が注文内容をグラドに尋ねる。
承ったことを言い残して足速にこの場を去る彼女の様子は優達と関わり合いになりたくないという心中が窺える。
しかし、怯えを含ませたその瞳からは同時に好奇心の色も見てとれる。
「‥彼女はこの店の看板娘なんだぜ‥可愛いだろ」
店員に熱い視線を送り頬を弛緩させて見惚れた表情を晒すグラドに冷たい眼差しを向ける女性陣。
「ええ‥そうですね‥」
優は曖昧な笑みを浮かべて頷いた。
恐る恐る雪音の様子を伺った優は頬を引き攣らせて冷や汗を流す。
「優はあのような女が好みなのですか?」
嫉妬の表情を浮かべた雪音の質問に対してうまい言葉を返すことができない優は即座に話題を切り替えることにした。
「それはさておき‥じゃあ明日の早朝この店の前で合流して迷宮に向かうという段取りでどうでしょう?」
露骨に話を逸らしたことに不満の表情を浮かべる雪音を横目にレーネ達に提案する優。
「ええ、私たちはそれで構わないわ」
頷くレーネに優は話がようやく纏まったことに安堵のため息を吐く。
レーナはその様子を見て苦笑を浮かべる。
「お疲れのようね。そこまであのリーナという冒険者に執着するのは何か理由があるのかしら?」
慮るような声音を出しながらレーネの瞳には探るような色合いが含まれていた。
レーナの鋭い眼差しに射抜かれた優は躊躇いの表情を見せて続く言葉を失って口籠る。
「それとも別れた恋人とかそういう痴情のもつれかしら?」
揶揄うような表情を冷たい美貌に浮かべて言うレーネ。
恋人という単語に思わず動揺を表に出してしまう優。
長年共に生活をしてきたリーナには情と呼べるものが存在していたのは事実である。
「ふふ、わかりやすいわね‥そういう関係だったの?」
私情に首を突っ込むことになんら躊躇う様子がないレーネは優に顔を寄せて問うてみせる。
「えッ‥えーと‥そういう関係とは?」
とぼけた表情で誤魔化そうと抵抗の意思を示す優に追撃の手を止めることなくレーネは言い放つ。
「それは勿論肉体関係があったのか無かったのかって話よ」
なんら臆する様子もなく言ってのけるレーネだが羞恥心というものは多少なりとも存在しているようで言った本人も頬を紅潮させていた。
「なッ‥まさか‥そんなわけ」
語気も強く否定してみせる優だが図星であるのはその動揺した表情から明らかだった。
「その女性が羨ましいです‥」
すると唐突にエダが優に向かってつぶやいた。
「羨ましいって何が?」
エダに嫉妬の感情を向けられる覚えのない優は困惑の表情で答えた。
「優様に愛されるリーナという女性が羨ましいです」
続けて言葉を重ねるエダの声音は確かな妬みの感情が含まれていた。
「え、でも僕と君はさっきあったばかりじゃないか」
エダの暗い表情を見て優は驚いた表情を浮かべる。
エダは首を振って優の手を自身の両手で包み込んだ。
「あなたはわたしのことを救ってくれました。わたしにとってそれで充分でした」
それだけで尊敬する理由たり得ることを微笑をたたえて言うエダ。
純粋な尊敬の眼差しを向けられれた優は胸中に照れ臭さを感じて顔を逸らす。
初心な反応をみせる優に喜悦が己の背筋を走り抜けるのを感じたエダはその快感に身を震わせる。
「優様。わたしは本気です」
エダは狂信にも似た感情を瞳の奥に垣間見せて優の手を両手で包み込んだ。
彼女の痩せ細り骨張った手は貧しい生活を送っていることを優に理解させた。
「‥そ、そうか‥」
哀れみが優の胸中を満たして憐憫の感情が貴族の演技を忘れさせた。
「わたしを優さんのそばに置いて欲しいんです」
真剣な表情を浮かべて懇願の言葉を述べるエダに優は驚愕する。
「何を言って‥」
唖然とした表情でエダを見つめる優。
「どのようなことでもします。雑用でもなんでも申し付けてもらって構いません。何でどうか優の傍らにいさせてください」
一心に頭を下げて懇願するエダからは嘘偽りを感じることはできない。
「あなたは何を言っているのですか?今日会ったばかりの相手にそのようなことを言うなど頭が沸いているのです」
健気にも必死に優に取り縋るエダに軽蔑の眼差しを向けて言い捨てる雪音。
あまりに残酷で無慈悲な言葉にエダの表情が悲しみに歪む。
「それは‥でもわたしは本当に‥助けてもらった時に感じたんです。ああ‥この人について行きたいって」
冷たい瞳を向ける雪音に気丈にも反論してみせるエダ。
その声音には盲信とも呼べるほどの尊敬の念が込められていた。
優が彼女に及ぼした心理的作用それほどに劇的なものだった。
「それはあなたの一時の感情にすぎないのです。時間が経つにつれて今あなたが感じている熱は冷めていくはずなのです。それで手のひらを返されても迷惑なのです」
しかし、なんらエダの一生懸命に紡ぐ言葉に聞く耳を持たない雪音は無情にも一蹴した。
「ふざけないでください。わたしは本当に優様に仕えたいと思ってます」
冷酷な言葉に動じることなくエダは雪音を睨みつけて言い切った。
「見苦しいわね。そこまでにしておきなさい」
視線を交差させて険悪な雰囲気を放つ彼女たち。
この場に居る男二人は彼女たちの言い合いに介入する勇気を持ち合わせてはいなかった。
しかし、ため息を吐いたレーネは躊躇いなく言い争う二人に冷たい声音で言い放つ。
「ひッ」
冷酷な瞳を向けられて怯えた表情を見せるエダとは対照的に雪音も態度を改めることなく挑むような調子で応じて見せた。
「あなたには関係のないことです。首を突っ込まないでほしいのです」
強気な態度で言い放ってみせる彼女にレーネは嘲笑の笑みで答えた。
「ええ、確かに私には関係のないことだわ。でも優は困っているようだけど」
唐突に水を向けられた彼は辟易とした表情を浮かべた。
嘲笑うレーネの声音に雪音は眉間に皺を寄せて端正な顔立ちを苛立ちによって歪めた。
「今日あったばかりのあなたに優の何がわかるというのです?」
得意げな表情で知ったような口をきくレーネに雪音は腸が煮えくりかえるような怒りと不快感を感じた。
レーネを見つめる雪音の視線はどこか危険な色合いを帯びていた。
言葉の論争を繰り広げる彼女達を仲裁に入るべく優は口を開いた。
「やめるんだ雪音‥これから行動を共にする彼女にそんなことを言っては失礼だろう」
優の窘めの言葉に雪音は不満の表情を浮かべて抗議の声を上げる。
「しかし彼女はわたしのことを侮辱したのです」
事実優のことについて言及された雪音はそれほどに強い不快感を感じていた。
レーネはそんな雪音になんら構う様子を見せずに両の口端を吊り上げた。
「あら?私は本当のことを言っただけよ。あなたもそう思うからそれほどに怒りを感じているのではないかしら」
まるで火に油を注ぎ込むような挑発的な物言いに雪音は憤りの表情を浮かべて冷気をあたりに漂わせた。
「雪音ッそれはだめだ」
強い口調で静止の言葉を叫んだ優は雪音を正気に取り戻すべく彼女の唇に口付けた。
「ッ」
唐突な優の行動に目を見開いて身体を硬直させる雪音。
レーネも同様に唖然とした表情で口を開けてその光景を眺めていた。
隣では脅威が去ったことに対して安堵の表情を浮かべたグラドは店員が注文の品を机に此方に向かって運んでくる様子を見ていた。
「お待たせしました」
優と雪音の人目を憚らない行為に頬を羞恥心から紅潮させて店員の少女は料理の入った器を机に並べた。
慌てて唇を離した優は取り繕った笑顔で礼を言う。
「ありがとう。少しそこで待っててくれ」
優は放心状態の雪音に囁くような声で耳打ちした。
「外国だと店員にお金を渡さないといけないと聞いたことがあるけど雪音は何か持ってる?」
その言葉にようやく我を取り戻した雪音は一枚の光輝く硬貨を取り出した。
「僕らからの感謝の気持ちだ」
優は雪音から得た金色の眩い光を放つ硬貨を店員に手渡した。
感謝の気持ちを示すお金は受け取った彼女は驚愕の表情を露わにした。
「これって金貨ッ?こんなにいただけませんッ」
手に乗せられた金貨を凝視して店員の少女は目を見開いて言った。
その様子に面食らった優は自身が適切ではない対処をしたことを理解した。
「雪音‥どういうこと?」
訝しげな表情で雪音に問うた優に雪音はなんら構うことなく語って見せる。
「わたしたちは貴族の生まれなのです。故に金に困ってはいないのです。遠慮せずに受け取って構わないのです」
堂々と毅然とした表情で言い放つ雪音の姿に臆した様子で店員の少女は頭を下げた。
「ありがとうございますッ貴族様ッこれからもどうかこの店をご贔屓にしてください」
少女の平身低頭した姿は貴族の権力がどれだけ強力なのかを優に理解させた。
「構わないのです」
雪音は平坦な声音で大金に対してなんら執着心をみせることなく料理に手をつけた。
それを皮切り各々が食事を開始した。
店員の少女はもう一度頭を深く下げてこの場を去って行った。
「流石‥」
雪音の堂に入った演技に賞賛心からの賞賛の言葉を送る優。
しかし、雪音は当然と言わんばかりの態度で応じてみせる。
「あのくらい優にもできてもらわないと困るのです」
ため息を吐きながら返された指摘に苦い顔で応じる優。
「それは‥僕には無理だよ」
弱気な態度で首を振る優の姿に呆れた表情を滲ませる雪音は目の前にの料理に手をつけた。
「‥美味しいのです」
具材を煮込んだだけの単純な料理であるにも関わらず口の中に心地よい豆の甘さが広がった。
料理に舌鼓を打って頬を綻ばせる雪音を見て安堵の表情を受かべる優。
怒りを鎮火させて平静な心を取り戻した雪音を尻目に自身も食事を開始した。
料理を口に運んでいる間は誰一人として口を開くことなく場を沈黙が支配した。
意外なことに外装と比べて小綺麗な内装の店内には様々な人々が存在していた。
下卑た表情で女性の店員に話しかける下心丸出しの薄汚い男。
身なりに気を遣っていることがわかる品のある妙齢の女性。
レーネ達と同様に剣や杖などの装備を身につけた冒険者。
彼等彼女らは肴をつまみにそれぞれが思い思いに話をしている。
「すごいな‥」
ひと目見ただけで明らかに姿格好が人間ではない者達に驚愕の表情を浮かべる優。
そんな彼の様子に微笑みを浮かべるエダは楽しげな表情を浮かべて言う。
「そんなに亜人の方が珍しいですか?もしかして優様のいらしたところでは存在していなかったのでしょうか?」
好奇心旺盛な表情で問うてくるエダに優は自身の居た世界を思い浮かべた。
機械のように同じ日常を生きる人々は資源は満ち溢れている社会での生活をしているが心を病む人間が後を絶たない。
「うーん‥僕たちのところにはいなかったかな‥」
続く言葉を躊躇う優だがエダは瞳に強い好奇心の光を浮かべて言った。
「そうなんですかッ!じゃあ人族だけってことですよね?それじゃあ皆平等ってことじゃないですかッ。それってすごいことですよねッ」
興奮した面持ちを晒して大声で語るエダにレーネは辟易とした様子で優の表情を伺っている。
先程の件もあり優の機嫌が気になる彼女である。
「ねぇ‥あなたは彼女の言う通り本当に神様なの?」
レーネはエダの言葉を全て鵜呑みにする気はなかったが強ち間違いでもないと考えていた。
あれ程の重症を負った状態から生き延びるなど最早神の御業ではないか。
改めて優を観察してみると傷は完全に塞がっている様子が窺えた。
それは皮膚の表面だけの応急処置ではなく痛みを感じている様子が伺えないという事実を鑑みるに傷は身体の内部まで修復されていることが理解できる。
「‥まさか‥僕はそんな敬われるべき存在ではないよ‥むしろ雪音の方が‥」
そこまで言いかけて優は口を閉じて黙り込む。
レーネは視線を雪音に向けた。
直接手合わせした感覚では魔術師の技量という面においては己より数段格上に位置する強者であることは理解できる。
しかし、優の異常な奇跡を目の当たりにしたらその印象も霞む。
レーネにとっては雪音よりも優の方が余程興味を惹く存在であった。
「そう‥神様ではないとはいえ先程は申し訳ないことをしたわ。改めて謝罪させて頂戴」
初対面の時とは打って変わって殊勝にも深々と優に頭を下げる様子は傲慢さを一切感じることができない。
「贖罪として‥あなたが望むなら私のできうる範囲でなんでも言うことを聞くわ」
初めて見るレーネの謙る様子にグラドは驚愕の表情でレーネを見つめていた。
「それなら‥リーナという冒険者が居る迷宮まで僕たちのことを連れて行ってもらえると助かる」
畏まったレーネの態度に穏やかな面持ちで言う優。
リーナという人物の名前に心当たりのあるレーネは耳を小さく動かして反応する。
「リーナ‥確か早朝に数名の冒険者と共にこの街から出るのを見かけたわ」
レーネ記憶を辿るような言葉に優は驚きの表情を浮かべていった。
「行き先はわかるかな?」
優の祈るような問いにレーネは迷うことなく頷いた。
「ええ私はエルフだから耳が良いの。だから会話は全て聴こえていたわ。‥確か‥水の迷宮と呼ばれているところに行ったわ」
思わぬ収穫を得られたことによって事態が良い方向に進展したことに喜びの表情を浮かべる優。
「そうか‥とても役に立つ情報をありがとう‥」
本心から感謝の言葉を述べていることが優の表情から理解することができたレーネは上機嫌に応えてみせる。
「いいえ。少しでもあなたのお役に立てて光栄よ」
上品な笑みで言葉を返すレーネの姿はその怜悧な美貌も相まり他者の目にはとても絵になって映る。
「ありがとう‥そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」
しかし、対面に座する優はそんなレーネという絶世の美女を前にしても一切心を揺らがせることなく答えて見せた。
「‥」
そんな優とレーネの何処か異様な会話に完全な蚊帳の外であったグラドは沈黙を保つ。
「優‥何か注文するのです‥わたしはそろそろお腹が空いて限界なのです」
しかし、何事にも動じることのない我が道をゆく雪音の言葉によって二人の会話は終止符を打たれた。
「あ‥そういえば‥そうだね‥僕もお腹空いたから何か頼もうか‥それじゃあグラドさん‥何かおすすめの品があったら教えて欲しいのですが」
雪音に改めて言われることによって自身も空腹感を感じていたことに気がついた優は食欲を満たすべくグラドに尋ねた。
「あー‥そうだな‥ちと値は張るがここのワインは特別美味なんだ‥どうだ酒はいける口か?」
グラドの提案を謹んで遠慮させてもらおうと考えた優であったが隣に座る雪音を見て思い直す。
「ああ‥すみません‥僕はどうにも弱くて遠慮させていただきます。でも雪音にはもらえますか?」
罪悪感を滲ませた表情で謝罪する優を意外そうな表情で見るグラド。
「そうなのか?てっきり貴族様は質の良い高級なワインばっかり飲んでるから飲み慣れていると思ったんだが‥当てが外れたな」
驚きの表情を浮かべるグラドの言葉を聞いて背筋に冷や汗をかく。
早くも貴族ではないという事実が露呈してしまうのではないか。
そんな危惧を表情に出さないように努めて表に出さないように微笑みで覆い隠す優は雪音の様子を伺う。
「‥」
彼女は無言で優の瞳を見返すだけでなんの反応も示すことはなかった。
そのことから致命的な失言ではなかったことに思わず安堵の表情を浮かべる優に訝しげな視線を向けるレーネ。
「どうかしたのかしら?」
今のやりとりから聡明な彼女は優が貴族の立場を名乗っていることに疑念を覚えた。
確かに服装や身につけているものは平民では一生手にすることのできない上等なものではある。
しかし、あまりにも常識に疎すぎる。
そして何よりレーネ達冒険者や娼婦に対して寛容だ。
それらは優達を疑う要素としては充分なものだった。
「いや、なんでもないよ‥ただ‥そう‥僕は何を頼もうか悩んでいたんだ。せっかくグラドさんのおすすめのお店に連れてきてもらったんだから何も頼まないのは失礼だからね」
取り繕うような優の表情に内心で苦笑を浮かべるレーネは呆れの感情を微塵も表に出すことなく言った。
「私からは炒り豆のスープをおすすめするわ」
レーネから出された助け船に優はこれ幸いといった表情で頷いた。
「じゃあ僕はそれにします」
続けて雪音も静かな声で言った。
「わたしも優と同じものを所望します」
二人の注文にグラドは頷いてレーネを見遣る。
「おまえはどうする?」
グラドの言葉にレーネは優に視線を向けて微笑を送る。
「私も優と同じのをお願い」
グラドはレーネの態度に怪訝な表情を向けたものの頷いて店員を呼ぶ。
今にも潰れそうな店には不釣り合いな美貌美しい顔立ちの少女が注文内容をグラドに尋ねる。
承ったことを言い残して足速にこの場を去る彼女の様子は優達と関わり合いになりたくないという心中が窺える。
しかし、怯えを含ませたその瞳からは同時に好奇心の色も見てとれる。
「‥彼女はこの店の看板娘なんだぜ‥可愛いだろ」
店員に熱い視線を送り頬を弛緩させて見惚れた表情を晒すグラドに冷たい眼差しを向ける女性陣。
「ええ‥そうですね‥」
優は曖昧な笑みを浮かべて頷いた。
恐る恐る雪音の様子を伺った優は頬を引き攣らせて冷や汗を流す。
「優はあのような女が好みなのですか?」
嫉妬の表情を浮かべた雪音の質問に対してうまい言葉を返すことができない優は即座に話題を切り替えることにした。
「それはさておき‥じゃあ明日の早朝この店の前で合流して迷宮に向かうという段取りでどうでしょう?」
露骨に話を逸らしたことに不満の表情を浮かべる雪音を横目にレーネ達に提案する優。
「ええ、私たちはそれで構わないわ」
頷くレーネに優は話がようやく纏まったことに安堵のため息を吐く。
レーナはその様子を見て苦笑を浮かべる。
「お疲れのようね。そこまであのリーナという冒険者に執着するのは何か理由があるのかしら?」
慮るような声音を出しながらレーネの瞳には探るような色合いが含まれていた。
レーナの鋭い眼差しに射抜かれた優は躊躇いの表情を見せて続く言葉を失って口籠る。
「それとも別れた恋人とかそういう痴情のもつれかしら?」
揶揄うような表情を冷たい美貌に浮かべて言うレーネ。
恋人という単語に思わず動揺を表に出してしまう優。
長年共に生活をしてきたリーナには情と呼べるものが存在していたのは事実である。
「ふふ、わかりやすいわね‥そういう関係だったの?」
私情に首を突っ込むことになんら躊躇う様子がないレーネは優に顔を寄せて問うてみせる。
「えッ‥えーと‥そういう関係とは?」
とぼけた表情で誤魔化そうと抵抗の意思を示す優に追撃の手を止めることなくレーネは言い放つ。
「それは勿論肉体関係があったのか無かったのかって話よ」
なんら臆する様子もなく言ってのけるレーネだが羞恥心というものは多少なりとも存在しているようで言った本人も頬を紅潮させていた。
「なッ‥まさか‥そんなわけ」
語気も強く否定してみせる優だが図星であるのはその動揺した表情から明らかだった。
「その女性が羨ましいです‥」
すると唐突にエダが優に向かってつぶやいた。
「羨ましいって何が?」
エダに嫉妬の感情を向けられる覚えのない優は困惑の表情で答えた。
「優様に愛されるリーナという女性が羨ましいです」
続けて言葉を重ねるエダの声音は確かな妬みの感情が含まれていた。
「え、でも僕と君はさっきあったばかりじゃないか」
エダの暗い表情を見て優は驚いた表情を浮かべる。
エダは首を振って優の手を自身の両手で包み込んだ。
「あなたはわたしのことを救ってくれました。わたしにとってそれで充分でした」
それだけで尊敬する理由たり得ることを微笑をたたえて言うエダ。
純粋な尊敬の眼差しを向けられれた優は胸中に照れ臭さを感じて顔を逸らす。
初心な反応をみせる優に喜悦が己の背筋を走り抜けるのを感じたエダはその快感に身を震わせる。
「優様。わたしは本気です」
エダは狂信にも似た感情を瞳の奥に垣間見せて優の手を両手で包み込んだ。
彼女の痩せ細り骨張った手は貧しい生活を送っていることを優に理解させた。
「‥そ、そうか‥」
哀れみが優の胸中を満たして憐憫の感情が貴族の演技を忘れさせた。
「わたしを優さんのそばに置いて欲しいんです」
真剣な表情を浮かべて懇願の言葉を述べるエダに優は驚愕する。
「何を言って‥」
唖然とした表情でエダを見つめる優。
「どのようなことでもします。雑用でもなんでも申し付けてもらって構いません。何でどうか優の傍らにいさせてください」
一心に頭を下げて懇願するエダからは嘘偽りを感じることはできない。
「あなたは何を言っているのですか?今日会ったばかりの相手にそのようなことを言うなど頭が沸いているのです」
健気にも必死に優に取り縋るエダに軽蔑の眼差しを向けて言い捨てる雪音。
あまりに残酷で無慈悲な言葉にエダの表情が悲しみに歪む。
「それは‥でもわたしは本当に‥助けてもらった時に感じたんです。ああ‥この人について行きたいって」
冷たい瞳を向ける雪音に気丈にも反論してみせるエダ。
その声音には盲信とも呼べるほどの尊敬の念が込められていた。
優が彼女に及ぼした心理的作用それほどに劇的なものだった。
「それはあなたの一時の感情にすぎないのです。時間が経つにつれて今あなたが感じている熱は冷めていくはずなのです。それで手のひらを返されても迷惑なのです」
しかし、なんらエダの一生懸命に紡ぐ言葉に聞く耳を持たない雪音は無情にも一蹴した。
「ふざけないでください。わたしは本当に優様に仕えたいと思ってます」
冷酷な言葉に動じることなくエダは雪音を睨みつけて言い切った。
「見苦しいわね。そこまでにしておきなさい」
視線を交差させて険悪な雰囲気を放つ彼女たち。
この場に居る男二人は彼女たちの言い合いに介入する勇気を持ち合わせてはいなかった。
しかし、ため息を吐いたレーネは躊躇いなく言い争う二人に冷たい声音で言い放つ。
「ひッ」
冷酷な瞳を向けられて怯えた表情を見せるエダとは対照的に雪音も態度を改めることなく挑むような調子で応じて見せた。
「あなたには関係のないことです。首を突っ込まないでほしいのです」
強気な態度で言い放ってみせる彼女にレーネは嘲笑の笑みで答えた。
「ええ、確かに私には関係のないことだわ。でも優は困っているようだけど」
唐突に水を向けられた彼は辟易とした表情を浮かべた。
嘲笑うレーネの声音に雪音は眉間に皺を寄せて端正な顔立ちを苛立ちによって歪めた。
「今日あったばかりのあなたに優の何がわかるというのです?」
得意げな表情で知ったような口をきくレーネに雪音は腸が煮えくりかえるような怒りと不快感を感じた。
レーネを見つめる雪音の視線はどこか危険な色合いを帯びていた。
言葉の論争を繰り広げる彼女達を仲裁に入るべく優は口を開いた。
「やめるんだ雪音‥これから行動を共にする彼女にそんなことを言っては失礼だろう」
優の窘めの言葉に雪音は不満の表情を浮かべて抗議の声を上げる。
「しかし彼女はわたしのことを侮辱したのです」
事実優のことについて言及された雪音はそれほどに強い不快感を感じていた。
レーネはそんな雪音になんら構う様子を見せずに両の口端を吊り上げた。
「あら?私は本当のことを言っただけよ。あなたもそう思うからそれほどに怒りを感じているのではないかしら」
まるで火に油を注ぎ込むような挑発的な物言いに雪音は憤りの表情を浮かべて冷気をあたりに漂わせた。
「雪音ッそれはだめだ」
強い口調で静止の言葉を叫んだ優は雪音を正気に取り戻すべく彼女の唇に口付けた。
「ッ」
唐突な優の行動に目を見開いて身体を硬直させる雪音。
レーネも同様に唖然とした表情で口を開けてその光景を眺めていた。
隣では脅威が去ったことに対して安堵の表情を浮かべたグラドは店員が注文の品を机に此方に向かって運んでくる様子を見ていた。
「お待たせしました」
優と雪音の人目を憚らない行為に頬を羞恥心から紅潮させて店員の少女は料理の入った器を机に並べた。
慌てて唇を離した優は取り繕った笑顔で礼を言う。
「ありがとう。少しそこで待っててくれ」
優は放心状態の雪音に囁くような声で耳打ちした。
「外国だと店員にお金を渡さないといけないと聞いたことがあるけど雪音は何か持ってる?」
その言葉にようやく我を取り戻した雪音は一枚の光輝く硬貨を取り出した。
「僕らからの感謝の気持ちだ」
優は雪音から得た金色の眩い光を放つ硬貨を店員に手渡した。
感謝の気持ちを示すお金は受け取った彼女は驚愕の表情を露わにした。
「これって金貨ッ?こんなにいただけませんッ」
手に乗せられた金貨を凝視して店員の少女は目を見開いて言った。
その様子に面食らった優は自身が適切ではない対処をしたことを理解した。
「雪音‥どういうこと?」
訝しげな表情で雪音に問うた優に雪音はなんら構うことなく語って見せる。
「わたしたちは貴族の生まれなのです。故に金に困ってはいないのです。遠慮せずに受け取って構わないのです」
堂々と毅然とした表情で言い放つ雪音の姿に臆した様子で店員の少女は頭を下げた。
「ありがとうございますッ貴族様ッこれからもどうかこの店をご贔屓にしてください」
少女の平身低頭した姿は貴族の権力がどれだけ強力なのかを優に理解させた。
「構わないのです」
雪音は平坦な声音で大金に対してなんら執着心をみせることなく料理に手をつけた。
それを皮切り各々が食事を開始した。
店員の少女はもう一度頭を深く下げてこの場を去って行った。
「流石‥」
雪音の堂に入った演技に賞賛心からの賞賛の言葉を送る優。
しかし、雪音は当然と言わんばかりの態度で応じてみせる。
「あのくらい優にもできてもらわないと困るのです」
ため息を吐きながら返された指摘に苦い顔で応じる優。
「それは‥僕には無理だよ」
弱気な態度で首を振る優の姿に呆れた表情を滲ませる雪音は目の前にの料理に手をつけた。
「‥美味しいのです」
具材を煮込んだだけの単純な料理であるにも関わらず口の中に心地よい豆の甘さが広がった。
料理に舌鼓を打って頬を綻ばせる雪音を見て安堵の表情を受かべる優。
怒りを鎮火させて平静な心を取り戻した雪音を尻目に自身も食事を開始した。
料理を口に運んでいる間は誰一人として口を開くことなく場を沈黙が支配した。
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