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人形

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 そしてわたしは反論することも許されないままに、アナスタシア様にされるがまま、飾り付けられる他にありませんでした。



「‥あなたの着ていたこれ、凄く可愛らしいわね。けれど実際にこうして見てみると、なんだか不思議な感じがするわ。わたしも書物ではこういう物があることには及んでいたけれど、やっぱり生で見ると違うものね。とても良いわ。こんな素敵な服がどうして今まで作られなかったのか甚だ疑問だわ。早速仕立て屋にこれと同様の物を誂えさせるから、とても楽しみね」



 そして今にアナスタシア様と場を共に致しますのは、同邸宅において特段豪奢と思しき装飾が施されている一室に御座います。


 そうです。

 今し方にもアナスタシア様に翻弄されるばかりのわたしはいうと、その手中にて、弄ばれる限りなのでした。



 それ故巨大な鏡面の前に佇む羽目となりましたわたしは、あまりに大きなその姿見に対して驚愕を禁じ得ない感は否めません。




 その大きさは特段驚きに値するまでに、天井高く聳え立ち、その存在を屹立させています。



 ですからそんな些細な所に否が応にも驚嘆させられてしまうわたしはといえば、酷く恐れ慄いてしまい、アナスタシア様の仰せのままに身を委ねる他にありませんでした。



 ですのでそんな有様を晒すわたしは、今し方に与えられましたアナスタシア様からの御言葉に対して、漸く我に帰った次第に御座います。



「あ‥の‥下着はわたしっ‥」



 ところが自身が続けようと試みた言葉も次第に尻すぼみとなります。


 そうなのです。


 自ずと自らが語る所の失礼に当たるかもしれないその内容に対して、声を挙げてから及んだ次第です。


 しかしながらそれも致し方なく、自身と同い年の少女が着古したショーツをわたしが履くというのは、如何なものでしょうか。



 ですからそんな風に不敬ながら愚考を巡らせましたわたしの発言も、時既に遅しとなりました所存に御座います。


 といいますのも、今に喉元まで出掛けて、遂には口としてしまった申し立ては、どうやらアナスタシア様の耳へと聞き届けられていた様なのです。



 それ故切長の眼光称えた鋭い眦の瞳が、わたしの露呈させてしまっている、露わとされたそれを見咎めて、



「大丈夫よ。あなたは何処から見てもれっきとした女の子にしか見えないから。けれどまさかお兄様もそうして勘違いしているなんて、あまりに滑稽な話よね。だから躊躇う必要はないの」



 と仰られましたアナスタシア様はといえば、至極淡々とした手付きで、それでも流れる様に洗練されたそれは、わたしの太腿へと纏わりつくかの如く這い回るのでした。



 どうやらそれはわたしの身体の大きさの程を測定している様です。


 それ故自ずとむず痒くて仕方がありません。


 その為自然に、どうしても内股にならざるを得ないわたしの太腿の付け根辺りにショーツの布地が触れることとなります。



「ちょっと‥アイリスさん、あなた大人しくしていないと、お兄様に言い付けるわよ」



 しかしながらそんな始末なわたしの反応に対して、薄っすらと酷薄な笑みを浮かべたアナスタシア様は、何処か弾んだ声色にて言葉を紡ぎます。



 ですのでその様な無体を働かれるわたしはというと、そんなアナスタシア様の繊細な五指に与えられる感触に身悶えてしまうこととなりました。



 そしてそんな塩梅にわたしが覚束ない体勢となりますと、アナスタシア様のひんやりとした冷たい五指が途端に動きを見せます。



 すると突如としてわたしのお尻のを手中にて納められたアナスタシア様は、ギュッとそれを握ります。



「お・と・な・し・く・し・な・さ・い」



 そうして唐突言い含める様にしてわたしに対して険のある眼差しを注ぐアナスタシア様の研ぎ澄まされた刃の如き眦が吊り上がります。



「‥はい」



 ですからそんな風に言いつけられてしまっては、わたしとしても従う他にありません。



 何故ならそれは、本来のわたしの立ち位置としては、あくまで居候の身のために他なりません。


 それ故アナスタシア様の温情から一応食客としての立場に位置ずくわたしですが、曲がりなりにも同所へと身を置くのですから、否が応にも従順になる他ないのです。



 ですのでそんな風に感じているわたしの羞恥を一蹴されてしまう運びとなった次第なのです。



 その為その可愛らしい臼桃色のショーツを履かされるがままに恥辱から俯きます。


 無論真正面にあります姿見からは視線を逸らすわたしですが、生憎前とした代物はあまりに大きくそれすらも叶いません。



 つまるところ向けた眼差しの先にもわたしのあまりに惨め極まる恥ずかしい姿が晒されていたのです。


 ですから否が応にも視界へと映す羽目となるわたしは、それに対して羞恥心を露わとするばかりで御座います。


 加えてそうして見てみると、自分でも理解できる程に色白いわたしの肌色は、あまりの屈辱からほんのり紅に染まっているのが見て取れます。



 それが更に恥ずかしく思えてしまって、やはり如何しても蹲りたくなる衝動に駆られてしまいます。



 ですのでそんな初々しい姿を晒すことになってしまうわたしです。


 それ故そんな有様となるわたしに対してその心中を知ってか知らずか、アナスタシア様からお声がけが成されます。



「あら、これなら特段採寸をする必要性もないわね。ちょっとだけ小さいかもしれないけれどとってもセクシーで素敵よ。これならわたしの好みにも応えられるわね」


 ところがです。


 そうして与えられた口上の意味する所はといえば、全く嬉しくないお話しでした。



 そうです。


 気がつけばお花を模した柄が誂えられている薄桃色の可愛らしいショーツを身につけている自身の姿に及びましたわたしです。



 それに加えて少しどころかとてもサイズの合っていないせいで、やっぱりお尻にショーツの布地が食い込んでしまうのです。



 そのお陰でまるでわたしの臀部の程が大きいかの様な錯覚に陥る他にないのです。


 ですが。


 ですがわたしとしてはその様な事がないのは心得ているので、それは間違いに相違ありません。


 そうに違い無いのです。


 そう巨大な姿見に映されています意図せず面持ちを紅に染められたわたしの双眸は理解できる程に、揺れています。



 どうやらわたし自身及ばない所であったのですが、知らず知らずのうちに涙を浮かべていたみたいです。



 その為眦から今にも溢れてしまいそうな球の粒は、如何にか堪えることができそうです。



 ですのでその情けない無様な姿を晒すことも憚られましたので、密やかに涙を拭います。


 するとわたしの身動きに気づきましたアナスタシア様は、何故か手中に納めたスカートを持ち上げたままに、視線を此方へと注ぎます。



「言っているでしょう?動くと見定めることができないと。だからあまりわたしの手を煩わせないで欲しいのだけれど‥。それとも女中を呼んで数人掛かりで着せなくてはいけないの?」


 その様にして語られたアナスタシア様の面持ちは、至極艶やかな微笑みに彩られているのです。


 ですがそうした口上に含まれる所の意味合いは、酷く残酷な物言いとして響いては聞き取れます。



 その為否が応にも幾度となくかぶりを左右に拒絶を示す他にありませんでしたわたしなのでした。


「そう‥それなら大人しくしてもらえるわよね?」


 ですからこの様にして与えられた慈悲と称して差し支えないアナスタシア様の確認に対しては、幾度となく頷きを返すに至ります。


 そうして首肯を呈したわたしの肯定の意に対しては、アナスタシア様も凄くお喜びになられました。



 そんな風にまるで人形の如く弄ばれるままに身を委ねる他にありませんわたしはといえば、アナスタシア様のお下がりである下着を身に付けるがままに、スカートとを穿かされる羽目となったのです。


 際してはそのヒラヒラとした未知の感触を太腿に与えられて、思わず頬が引き攣るのが姿見において見て取れます。



 そんな風なわたし自身が晒す無様に過ぎた装いに及んで、なんだかとても切ない気持ちとなりました。


 そうして思わず自身が境遇を恥ずかしくも憂いてしまったわたしは、これから待ち受ける玩具の様な扱いに対して思いを馳せたのです。


 それ故瞼を伏せて自らの屈辱的な姿を認識することがない様に無心に徹したのでした。
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