あっぱれ!拙者、戦国配信者なり~どうも皆の衆、生きた化石系配信者である~

龍威ユウ

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第一章:新人類

第7話:怪しげな人物

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 空がまだ東雲色の頃から、雷志は外へと出た。

 学院全体は未だ微睡の中にあり、そのため人気は皆無である。

 寮の外に出ればほんのりと冷たい朝風がひゅうっと吹いた。

 頬をそっと優しく撫でていく感触は、意識を完全に目覚めさせる。

「今日もいい天気になりそうだな」

 学院の裏には森があった。

 森を包む静寂は穏やかそのもので、近くには川があるのだろう。

 さらさらと流れるせせらぎの音色はとても心地良い。

 開けた場所にて、雷志はそっと座した。目前には立派な大木が力強く生えている。

 刀礼をさっと済ませたところで、雷志は静かに立ちあがると腰の愛刀をすらりと抜いた。

「――、ふっ!」と、鋭く呼気をする。

 それと同時に鋭い風切音がびゅんと鳴った。白刃が虚空を切り裂いた。

 構え、振る――いわゆる素振りを毎朝必ず百本振る。それは雷志はずっと欠かさずしてきた日課だった。

 身体もすっかり温まってきた時――

「おや、君は……」

 と、見知らぬ顔がやってきた。ここは女学院である、ならばここの生徒なのは言うまでもない。

「誰だ?」と、雷志は手を止めた。

 紫という極めて稀有なミニボブカットに、うっすらと青みがかった瞳。

 アイドルというだけあってか、ユウカだけでなく女子生徒はみなかわいい。

 そう言う意味では目前にいる少女も例外にもれることはない。

 強いて言うならば、他の生徒にはない独特な雰囲気をかもし出していた――それをうまく形容する術は、ないが。

 学院指定の制服の上に白衣を着こなす彼女が――

「君は確か今噂になっている古代人くんだったね」

 と、不敵な笑みを浮かべた。

「……俺になにか用か?」と、雷志は鋭く見据える。

 敵意は微塵もなかった。とはいえ、人を試すような視線は快いものではない。

「まぁまぁ、そう警戒しないでくれたまえよ。自己紹介がまだだったね――私の名前は白善寺びゃくぜんじカナエ、ユウカと同じくナデシコプロダクションの十一期生だよ」

「クラスは違うがね」と、少女――カナエがいった。

「そうか。そのカナエとやらが俺になんの用だ?」

「おや、随分嫌われてしまったみたいだねぇ。そう警戒しないでほしいんだが……まぁいい。単刀直入に言おう、君を少しばかり調べさせてもらってもいいかい?」

「はぁ?」と、雷志は素っ頓狂な声をあげた。

 カナエの突拍子もない要望は、当然すんなりと承諾できるものではない。

 彼女という素性をまた、雷志はなにもわかっていない状態だ。

 敵ではないが、けれども気を許してもよさそうな相手ではない。雷志はそう判断する。

「どうしてそんなことをする必要がある?」

「それはもちろん。君のことが実に興味深い存在だからだよ!」

 意気揚々と答えるカナエ。

「モンスターやレギオン、これらの存在を討伐してきたのはすべて女性だった。女性だけに宿る神秘……その力を行使できる存在ヴァルキュリア。私たちが使っている装備だって、神秘があってこそはじめてその真価を発揮するもの――だが君は、それらをなしであのレギオンをたった一人で倒してしまっている」

 あの時の配信を見ていたのだろう。

 演説するかのように語るカナエが徐々に、どんどん高揚していく。

「私は思った! この世界にはまだまだ面白いことがたくさんある、と! 私たちの遥か祖先にあたる旧人類、それがなんの因果かこの時代に突如として現れた! 君は、そう正に生きた化石そのものなんだよ! これに興奮するなという方が無理というものだとは思わないかね!」

「な、なんなんだこいつは……」と、さしもの雷志も思わず後退った。

 明らかに普通ではない。異常と言う他ないカナエの様子は狂気そのものといってもよかろう。

 あまり関わるべきではない。雷志がそう思ってくるりと踵を返した。

「どこへ行こうとしているんだい? 話はまだ途中だよ」と、カナエがそれを制止する。

 逃がすつもりはないようだ。雷志は再びカナエと対峙する。

「……なんのつもりかは知らんが、人のことをあれこれ詮索しようとするのはやめておけ。すぎた好奇心は身を亡ぼすぞ」

「それが怖くて探求はできないものだよライシくん。私はね、調べたい、知りたいと思ったものにはとことん追求していく性分なんだ。私は、君を諦めるつもりは毛頭ないよ」

 そういうと、カナエが今度はくるりと背を向けた。

「今日は挨拶だけ。もうすぐ朝食もあるからねぇ、あぁここの朝食は美味だから期待しておくといい。それじゃあライシくん、また後程」

「…………」

 視界から完全にカナエが消えたのと同時に――

「なんだかとんでもない奴に目を付けられてしまったなぁ……」

 と、雷志は深い溜息を吐いた。

(よくよく思えば、俺の周りには何かと面倒な奴がいたなぁ)

 昔を思い出し、雷志は力なく笑った。

 午前七時――この頃になると眠りについていた学院にも活気が現れる。

 女子生徒たちがあくせくと準備をして、食堂へと一目散に向かう。

 雷志は、そんな彼女たちとはあえて時間をずらしていた。

 さすがに女ばかりの空間で食事は落ち着けない。

「悪いな料理長」と、雷志は頭をそっと下げた。

「いいんだよ、そんなこと気にしないで」と、料理長がからからと笑った。

 初老の女性であるが、容姿はとても若々しい。どこか母親のような妙な安心感があった。

 食事を堪能していると――

「おやおや、早速また会ったようだねライシくん」

 と、朝に耳にしたばかりの声がした。カナエが隣にすっと何食わぬ顔で座った。

「……どうしてお前がここにいるんだ?」

「もちろん、私も朝食を取るためさ」

「わざわざ、俺が時間をずらしたのと同じ時間にか?」

「偶然さ。たまたま遅れてきたら君がいたというだけだよ」

 実にわざとらしい。黙々と食事をするカナエを雷志は横目に見据える。

「……馳走になった」と、雷志はさっさと食事を済ませた。

 この少女がいるとゆっくりと食事を堪能することもできそうになかった。

 さっさと食堂を後にしようとして、ふと雷志は振り返った。

 カナエがじっと、こちらを見つめている。捕食者を彷彿とする視線は、どこか熱くてどろりとしていた。

「――、それで? あいつはいったいなんなんだ?」

 教室について早々に雷志はユウカに相談した。

「あ、あはは……で、でもカナエちゃんは悪い子じゃないんですよ!?」

 そう口にしたのは彼女なりの優しさがあってだろう。

 とはいえ、どうしてもそれをすんなりと信用することができない。

「人をまるで実験動物のような目を向けてくるような奴だったぞ?」

「カナエちゃんは、人よりもちょーっとだけ好奇心旺盛なんですよ」

「ちょっと、ねぇ……」と、雷志は小さく溜息を吐いた。

「とりあえず、警戒しておくに越したことはなさそうだな」

「もう、大丈夫ですって。私だってカナエちゃんには色々と助けられてますから」

「例えば?」と、雷志は尋ねた。ただしユウカに送る視線は、期待していないと言わんばかりである。

「カナエちゃんは元々、ファンタジア工房っていうグループの一員だったんです。物作りが得意で、私たちの装備なんかもあの子が担っている部分が多いんです」

「この学校にはいろんな団体があるのか?」と、雷志は意外そうな顔をした。

 ナデシコプロダクションだけしかないとばかり思っていた。実際はそうではないらしい。

「ありますよ。歌や踊りをメインにしたカグラ倶楽部、ゲームとかをメインにしたムゲン遊技団……生徒の得手不得手をちゃんと把握して、それぞれグループに割り当てられるんです」

「そんなに細かく分けられていくのか」と、雷志は関心した。

「高等部に入るまでから一年生の間はとにかく下積み。二年生になってからようやくグループに配属されますけど、でもそこで正式なアイドルになれるかどうかは実力次第ではありますけどね」

 その時、騒がしかった教室がしんと静まり返る出来事が起きた。

 一時間目の教師――本日は朝から数学の座学で、雷志は頭を悩ませていた。

 その教師ではなく――

「やぁやぁ、ごきげんよう。ここにライシくんはいるかな? ちょっと君の脳波を調べるためにこの装置をつけてほしんだが」

 と、カナエが我が物顔でやってきた。

「……俺一生、あいつにこうやって付きまとわれるのか?」

 雷志の何気ない一言にユウカが「あはは……」と、苦笑いを浮かべた。
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