あっぱれ!拙者、戦国配信者なり~どうも皆の衆、生きた化石系配信者である~

龍威ユウ

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第一章:新人類

第8話:話をしよう。あれは今から(略)

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「――、それで結局こうなるのか」

 昼時、雷志は今日はじめてナデシコプロダクションの事務所――もとい部室に入った。

 子どもにはあまりにももったいない、そう思わずにはいられないほどの設備がとても充実している。

「ま、まぁまぁライシさん。私としても実は興味がありますし」

「それに、私のほうからもお願いをしたんですよライシさん」

 学院長直々の命とあれば、雷志はそれに従う他ない。

(まさか、上の人間も同じように知りたがっていたとはなぁ……)

 カナエの実験には、ヒメコも大いに乗り気であった。

 是非ともその謎を解明してみたい。こういわれてしまってはもう、どうしようもなかった。

 居候の身であるがため、雷志は渋々と従った。

「それで、具体的には俺は何をすればいいんだ?」

「調べるのは主に君の身体能力、そしてその武器についてだねぇ」と、カナエがいった。

 話している間にも彼女の手は、絶え間なく機械の操作をしている。

「まずは武器の性能テストといこうか。ライシくん、まずは目の前にあるそれを斬ってみてはくれないかい?」

「これか?」と、抜刀をする傍らで雷志はそれをジッといぶかし気に見やる。

 台座の上にちょこんと鎮座するのは、奇妙な球体だった。

 特にこれといって注目すべきことはない。見かけだけならばごくごく普通の丸い球だ。
 強いて言うのであれば緑色をしていた。目には、あまり優しい色合いではなかった。

「それは我々ヴァルキュリアの力に反応する特別製でね。これでその者の力量をあらかた測定することができるんだ」

「なるほど。先に言っておく――壊してしまっても、弁償はせんからな」

 雷志は念を押した。無一文の身で弁償しろ、などと宣われてはたまったものではなかった。

「そこは問題ないですよ」と、ヒメコが返答する。

 学院長からの言葉ならば、信用してもきっと大丈夫だろう。雷志はそっと息を吐いた。

 実験はもう、始まっている。息を整え、心身に気を巡らせる。

 そして太刀をゆっくりと振りかざし――

「はっ!」

 と、振るった。

 ざんっ、という小気味良い音が鳴った。球体は真っ二つになっていた。

 当然すぎる結果だけに雷志の表情はひどく怪訝なものだった――驚くほど手応えがなさすぎる。

 これでどうこうときちんと測定できるかさえ怪しい。雷志はちらり、とカナエに視線をやる。

 カナエの目は、ぎょっと大きく丸くなっていた。言葉こそ発していないものの、その顔には確かに驚愕の感情が色濃く滲んでいた。

「おいおい、今更弁償しろなんて言うんじゃないぞ?」

「……そんなことを言うつもりは毛頭ないさ。君は実に興味深い!」

 カナエの顔にぱっと笑みが湧いた。ただし、アイドルがしてよい笑みとはお世辞にも言い難かった。

 狂気を孕んだ笑みは心底恐ろしい、この一言に尽きよう。

「これはヴァルキュリアじゃなければ壊すことはできない。並大抵のものであってもヒビが入るのが精いっぱいだ。それを君は……ははははははっ!」

「おい、こいつは大丈夫なのか?」と、思わずユウカに助けを求めた。

「カナエちゃん、いつも以上に楽しそうですよ」と、さらりとカナエが言った。

「楽しそう、ね……」

 これ以上はあえて何も言うまい。

「それで、結局そいつを真っ二つにしてしまったわけだが、そんなことでなにかわかったのか?」

「ライシくん。君の肉体は、まずこの世界の男子よりも遥かに上だ。もっといえばヴァルキュリアよりも上かもしれない」

「そ、そうなの!?」と、ユウカが大いに驚いた。

「筋肉量や骨格の太さ、どれをとってもすべて超人的だ。ライシくん、君は以前の時代でどんなことをしていたんだい?」

「どんなことって言われてもだな……」

 しばし沈思して「あっ」と、雷志はハッとした。

 心当たりがないわけではなかったが、果たしてあの時の出来事がそうだったのか。

 自問して、しかしいまいち踏ん切りがつかずうんうんと唸る。

「ライシさん。どんな情報でも構いませんので、我々に教えていただけませんか?」

 ヒメコが真剣みを帯びた顔を示した。

 雷志は「本当に自信はない」と、一言前振りを入れた。

 彼女たちがどんな反応を示すか、わからないだけに不安も大きかった。

「……昔、雷に打たれたことがある」と、雷志は懐古の情に浸った。

 元服を迎えたばかりのころである。

 成人を迎えるという記念すべき日に、天候はひどくどんよりとしていた。

 鉛色の雲では雷鳴が轟き、ついには雨がしとしとと降り始める。

 そんな憂鬱になるはずの気分も、当時の雷志はまったく気にしていなかった。

 元服祝いに一振りの太刀をもらった。大人になったとはいえ、ついさっきまでは子どもだったのだ。

 大いに喜び、いざ刀を抜いた途端――そこに雷が落ちた。

 耳をつんざく雷鳴ががつんと響き、眩い稲光が一瞬にして視界を白に染める。

 同時に、凄まじい衝撃が雷志を襲った。どうやら自分は、雷に打たれたようだ。そう理解するのに時間はいらなかった。

「――、とまぁそんなことがあってだな。だが、俺は雷に打たれたけど五体満足だった。傷がちょっと身体には残ったがな」

 雷志は上を開けた。

 露わになった裸体に、痛々しい傷跡が確かに残っていた。

 雷が全身を通じた、その跡である。医者はよくぞ無事だったと、心底不可思議そうにしていた。

 死してもおかしくなかった。だが事実、雷志はこうして生きている。

 雷をも克服した男として、雷志は名実共にその名を我が物にした――元となった雷師とは、雷神の別称である。

「それから俺は人よりもなんだか成長したっていうか、身体がいつもより軽く感じるようなったというか……」

「……ふむ。君のその話が事実だとするならば、可能性としては極めて高いね」

 まっすぐと目を見据えるカナエの言霊もまたまっすぐだった。

「雷に打たれたことで全身の筋組織や細胞が活性化したか、あるいはなにかしらの変化が彼の中で生じたか。いずれも雷に打たれてぴんぴんとしている人間なんておそらく君ぐらいなものだろう!」

「ライシさん、雷神様にきっと愛されているんですよ!」

「雷神様ねぇ……」と、雷志は苦笑いを浮かべる。

「レギオンを倒せたのも、もしかするとそれが原因かもしれないねぇ。そして武器のほうだが……今検査をかけたら、単なる鉄しか用いられていないよ」

「え? それじゃあ、どうして……」

 ユウカの疑問は至極当然の反応である。

 モンスターやレギオンは、ヴァルキュリアとその力がなければ効果が発揮しない特別な武器でしか倒せない。

 一方で雷志の愛刀――無銘一文字は造りや素材こそ、それこそごくごく普通の日本刀だ。

 素材も玉鋼と、これも特になんの変哲もない。とはいえ実際に雷志はレギオンを斬っている。

「あ、そういえば」と、雷志が口火を切った。

 大切な話をまだ、彼女たちにしていなかった。

 今からする話は、雷に打たれた話よりももっと信憑性が皆無である。

「なにか思い出したのかい!?」と、嬉々とした表情を示すカナエ。

 異性に対する免疫、もとい気恥ずかしさがないのか。鼻先同士が今にも触れそうな距離まで、ずいっと距離を縮めてきた。

 これに異を唱えたのがユウカだった。興奮状態にあるカナエを「ちょっと落ち着いて!」と、強引に引き離す。

「ふぅ……こいつなんだが、確かに使っているものは普通の玉鋼だろう。だが、こいつを打ってくれた刀匠はこうも言っていたんだ――俺が打つ刀は等しく妖刀になる、とな」

 曰く、その老人が打つ刀は天下五剣に匹敵するほどの大業物である。

 ただし、これを手にした者は皆決まって凄惨な結末を辿っていった。

 あれの刀は呪われている。その噂を耳にした雷志は、早速件の刀匠の元を尋ねた。

「あの時の俺は、自分にしっくりくる刀を探している最中だったんだ。数打だと一振りしただけで使い物にならなくなるし、真打でもそう簡単に手に入らない。そこでその刀匠の噂を聞いてこう思ったんだ――ここならきっと、俺にぴったりな刀がある、とな」

 雷志の思惑通り、妖刀は彼に大変馴染んだ。

 己の半身であるかのように、失われた部分が戻ったかのように。

 手中にくる感触はおそろしいほどしっくりときた。当時の感動は今でも、彼の脳裏に鮮明に焼き付いている。

「お前なら大丈夫だって言ってくれてな、タダでもらったんだ。それ以降、俺はこいつ以外の刀を使ったことがない」

「それぐらい大切なものなんですね」

「あぁ、こいつは俺の半身だからな」と、雷志はにっと笑った。

 心なしかユウカの頬がほんのりと紅潮した。すぐにさっと顔を背けられてしまった。

「う~ん。ますます興味深い! ライシくん、当面の間はいろいろと実験に付き合ってもらうからね!」

「断る」と、雷志はそうとだけきっぱりと返した。

 実験動物になるつもりは金輪際ない。
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