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第一章:美少女怪盗集団、その名もヴァイスローゼン!
第三話:怪盗系アイドル配信者ってなんか流行りそう
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赤々とした夕日が、空を茜色へと染めていく。
住宅街から漂う香りは等しく、食欲をそそる匂いばかりである。
もうすぐ夕餉時なのだろう。匂いに応えるかのように仁からくぅくぅと腹の虫が鳴いた。
大通りに抜けると、相変わらずの人でごった返していた。
ここは天下タカマガハラである。日夜問わず、多くの人でにぎわう様子はさながら祭りのよう。
毎日が祭りのようににぎやかというのも、ある意味考えものだが。仁は小さく鼻で笑った。
「さて、ここがそうか」
仁は目前にある建物をじっと見やった。
一棟のオフィスビルだが、その外観は見事という他ない。
豪華絢爛……この一言に尽きようビルの中へと入れば、そこもまた然り。
いったいどれだけの費用をかけたんだ? 少なくとも億でもきっと足りないと思う。
それはさておき。
「それにしても、また辺鄙な場所に作ったもんだな……」
タカマガハラの郊外に位置するそこは、明らかに立地条件がよろしくない。
周囲は木々が生い茂っているばかりで、特にこれといって目立ったものはなし。
交通についても非常に不便なのは、仁がここにくるまでに徒歩で二時間以上も費やしているのがいい証拠だ。
到着したころには、すっかりあたりは暗くなっていた。人気のない森の中というだけあって、しんとした静寂はどこか不気味ですらある。
「――、よくぞお越しくださいました」
しばらくして、一人の女性がやってきた。とても美しい女性だ。腰まで届く鮮やかな濡羽色の髪が大変よく似合う。
上下を黒のスーツで固め、凛とした佇まいは女性でありながらもどこか雄々しくもあった。
この女性が、自分に文を寄こしてきたとみて違いないだろう。仁は静かに頭を下げた。
「はじめまして、わたくしの名前は天光カスミと申します。此度はわたくし共の依頼を引き受けてくださり、誠にありがとうございます」
「勘違いしているようだが、俺はまだ依頼を引き受けたわけじゃない」
「と、いいますと?」
どうして、と今にもそう尋ねそうな顔をするカスミ。
実にわざとらしい。わかっていてわざとそう反応するカスミを、仁は静かに見据えた。
「まず、あんたの依頼には具体的な内容が一切記載されていなかった。それだけじゃない、あんた……あの怪盗集団ヴァイスローゼンから狙われているんだってな?」
カスミという女性はどうもきな臭い。仁がそう判断したのにはむろん理由があるからに他ならない。
これまでにヴァイスローゼンが犯行声明を出した相手は等しく犯罪者ばかりである。
すなわち、カスミという女性もなにか悪事に手を染めている可能性は極めて高い。
ここまではこれまでの傾向と考察にすぎず。そうであると裏付けるだけの確固たる証拠はどこにもない。
だが、きっと間違いないと見ていいだろう。ヴァイスローゼンをこれまでに何度も追跡と逃走を繰り返した間柄こそ、わかるなにかが仁にはあった。
しいて言うならば、それは直感である。そしてその直感に仁は過去幾度となく窮地を脱してきた。
「えっと……もしかしなくてもだけど、わたくし疑われちゃったりしてます?」
「まぁ有体に言えばそうだな」
「なんでぇぇぇぇぇ!?」
カスミが大げさに驚いた。
「これまでの傾向を見ていたらそう思ってしまうのも当然だろう。それで、あんたはどんな悪事を働いたんだ?」
「え? もうわたくし犯罪者扱いされてる!? ちょ、ちょっとお待ちになってください! わたくしはなにもしていませんよ!?」
「犯罪者はみんなそういうんだよ。今なら突き出すだけで勘弁しておいてやるから、な?」
「やるから、な? じゃないですわよ! どうしてこのわたくしが犯罪者なのですか!?」
「違うのか?」
仁はまだ、疑念の眼差しを送っている。
「……まぁ、嘘を吐いているようには見えないか。とりあえず白ってことでいいだろ」
カスミの目に、嘘はなかった。
今回ばかりは己の直感が外れてしまったらしい。
まだ気を許したわけではない。嘘が得意な人物にも、仁はこれまでの経験で数多く出くわしている。
彼らの巧みな技術は素直に称賛に値し、同時によい経験にもなった。
真に白であると見極めるのは、すべてが終わってからでも遅くはあるまい。仁はそう判断した。
「……なんだか納得できないけれど、とりあえず信じてもらえてなによりです」
「それじゃあ改めて聞かせてもらおうか。どうしてヴァイスローゼンに狙われる?」
「それが……彼女たちの狙いはどうやら、この王冠らしくて」
「王冠?」
仁ははて、と小首をひねった。
王冠は不自然なぐらいひどくきらきらとしている。装飾された宝石の種類も実に豊富で、これが安値でないのだけは確かだ――見た目だけで言えば、の話になるが。
なんだこれは? 仁は思わず眉をしかめた。
ひょいと手にしたその王冠は、ひどく軽い。それでいてとても脆弱な感触を憶える。
これは偽物だ。一般家庭やホームセンターで簡単に手に入る物で精巧に作られている。
「それは真っ赤な偽物です。というのも、それは以前会社のレクリエーションの際に作ったものですわ。さすがに本物を用意するとなると、費用がどれだけかかるか……」
「ヴァイスローゼンは、この偽物を狙っているというのか?」
にわかに信じがたい内容である。だが、カスミが提示した予告状がなによりの証拠だった。
あろうことかかのヴァイスローゼンは、学芸会レベルの代物を盗もうとしている。
ありえない。よもや、これが偽物と気付いていないのだろうか……。それこそ、ありえない話だろう。仁はますます、その顔を渋くさせた。
「たとえ偽物でも、これは大切な思い出がたくさん詰まっているんです。お願いですジンさん、どうか怪盗集団ヴァイスローゼンからこの王冠を守っていただけませんか?」
「……一応最後に尋ねておく。今回の一件、どうして防人じゃなく俺を選んだ?」
防人は、タカマガハラを守護する機関の一つだ。
一般市民を守ることを使命とする彼らの意気込みが鋼鉄よりも固く、そして炎のように熱い。
だが、悲しいかな。犯罪の数は防人たちを軽く圧倒し、日々対応に追われている。そこで仁のようなフリーランスの仕事人がいるのだ。
「防人は……当てになりませんわ。ヴァイスローゼンを未だに捕まえられていませんし。それに比べて、ジンさん。あなたのご活躍は耳にしておりますわよ」
「俺は、別にそこまですごくはないぞ。これまで対応してきた依頼だって、大したことのない連中ばかりだったからな」
「謙虚なお方なのですね。だからこそ今回の一件、あなたにぜひともお願いしたいのです」
「いいだろう。あんたからの依頼、俺が受けた」
「あ、ありがとうございます!」
カスミが勢いよく頭を下げた。
「よしてくれ。俺はあのヴァイスローゼンが絡んでいるのならそれでいい」
「……これもお聞きしたのですけど、ジンさんはどうしてヴァイスローゼンに拘るのですか? まさか……す、好きだとか?」
心なしかカスミの頬がほんのりと赤い。
言うまでもなく、彼女の見解は見当違いにもほどがある。
なにをもってすればそのような考えに至るのだろう。仁は苦笑いをわずかに浮かべた。
「いや全然違うぞ」
「あ、あら。そうなのですか……」
なぜかあからさまに落胆するカスミ。
彼女はどんな回答を期待していたのだろう。そうだ、とでも言えばよかったのか?
生憎と仁に、ヴァイスローゼンに対する恋愛感情というものは欠片さえもなかった。
確かにサクラはかわいいだろう。だからといってそれで好きになるなど一目惚れする以外にないだろう。
あれは、確かにかわいいがこの手で必ず捕らえる。仁は静かに拳を握った。
「――、では何故? なにか恨みがある、とか?」
カスミの瞳に強い好奇心が宿る。
仁は深い溜息を吐いた。別に答えられない内容でもないが、面倒臭くはある。
彼女との間にそこまで友好的な関係がないのは言うまでもない。
今日であったばかりの相手にぺらぺらと喋るつもりは毛頭ない。仁は「気にしなくていい」と、一言だけ残してその場を後にした。
住宅街から漂う香りは等しく、食欲をそそる匂いばかりである。
もうすぐ夕餉時なのだろう。匂いに応えるかのように仁からくぅくぅと腹の虫が鳴いた。
大通りに抜けると、相変わらずの人でごった返していた。
ここは天下タカマガハラである。日夜問わず、多くの人でにぎわう様子はさながら祭りのよう。
毎日が祭りのようににぎやかというのも、ある意味考えものだが。仁は小さく鼻で笑った。
「さて、ここがそうか」
仁は目前にある建物をじっと見やった。
一棟のオフィスビルだが、その外観は見事という他ない。
豪華絢爛……この一言に尽きようビルの中へと入れば、そこもまた然り。
いったいどれだけの費用をかけたんだ? 少なくとも億でもきっと足りないと思う。
それはさておき。
「それにしても、また辺鄙な場所に作ったもんだな……」
タカマガハラの郊外に位置するそこは、明らかに立地条件がよろしくない。
周囲は木々が生い茂っているばかりで、特にこれといって目立ったものはなし。
交通についても非常に不便なのは、仁がここにくるまでに徒歩で二時間以上も費やしているのがいい証拠だ。
到着したころには、すっかりあたりは暗くなっていた。人気のない森の中というだけあって、しんとした静寂はどこか不気味ですらある。
「――、よくぞお越しくださいました」
しばらくして、一人の女性がやってきた。とても美しい女性だ。腰まで届く鮮やかな濡羽色の髪が大変よく似合う。
上下を黒のスーツで固め、凛とした佇まいは女性でありながらもどこか雄々しくもあった。
この女性が、自分に文を寄こしてきたとみて違いないだろう。仁は静かに頭を下げた。
「はじめまして、わたくしの名前は天光カスミと申します。此度はわたくし共の依頼を引き受けてくださり、誠にありがとうございます」
「勘違いしているようだが、俺はまだ依頼を引き受けたわけじゃない」
「と、いいますと?」
どうして、と今にもそう尋ねそうな顔をするカスミ。
実にわざとらしい。わかっていてわざとそう反応するカスミを、仁は静かに見据えた。
「まず、あんたの依頼には具体的な内容が一切記載されていなかった。それだけじゃない、あんた……あの怪盗集団ヴァイスローゼンから狙われているんだってな?」
カスミという女性はどうもきな臭い。仁がそう判断したのにはむろん理由があるからに他ならない。
これまでにヴァイスローゼンが犯行声明を出した相手は等しく犯罪者ばかりである。
すなわち、カスミという女性もなにか悪事に手を染めている可能性は極めて高い。
ここまではこれまでの傾向と考察にすぎず。そうであると裏付けるだけの確固たる証拠はどこにもない。
だが、きっと間違いないと見ていいだろう。ヴァイスローゼンをこれまでに何度も追跡と逃走を繰り返した間柄こそ、わかるなにかが仁にはあった。
しいて言うならば、それは直感である。そしてその直感に仁は過去幾度となく窮地を脱してきた。
「えっと……もしかしなくてもだけど、わたくし疑われちゃったりしてます?」
「まぁ有体に言えばそうだな」
「なんでぇぇぇぇぇ!?」
カスミが大げさに驚いた。
「これまでの傾向を見ていたらそう思ってしまうのも当然だろう。それで、あんたはどんな悪事を働いたんだ?」
「え? もうわたくし犯罪者扱いされてる!? ちょ、ちょっとお待ちになってください! わたくしはなにもしていませんよ!?」
「犯罪者はみんなそういうんだよ。今なら突き出すだけで勘弁しておいてやるから、な?」
「やるから、な? じゃないですわよ! どうしてこのわたくしが犯罪者なのですか!?」
「違うのか?」
仁はまだ、疑念の眼差しを送っている。
「……まぁ、嘘を吐いているようには見えないか。とりあえず白ってことでいいだろ」
カスミの目に、嘘はなかった。
今回ばかりは己の直感が外れてしまったらしい。
まだ気を許したわけではない。嘘が得意な人物にも、仁はこれまでの経験で数多く出くわしている。
彼らの巧みな技術は素直に称賛に値し、同時によい経験にもなった。
真に白であると見極めるのは、すべてが終わってからでも遅くはあるまい。仁はそう判断した。
「……なんだか納得できないけれど、とりあえず信じてもらえてなによりです」
「それじゃあ改めて聞かせてもらおうか。どうしてヴァイスローゼンに狙われる?」
「それが……彼女たちの狙いはどうやら、この王冠らしくて」
「王冠?」
仁ははて、と小首をひねった。
王冠は不自然なぐらいひどくきらきらとしている。装飾された宝石の種類も実に豊富で、これが安値でないのだけは確かだ――見た目だけで言えば、の話になるが。
なんだこれは? 仁は思わず眉をしかめた。
ひょいと手にしたその王冠は、ひどく軽い。それでいてとても脆弱な感触を憶える。
これは偽物だ。一般家庭やホームセンターで簡単に手に入る物で精巧に作られている。
「それは真っ赤な偽物です。というのも、それは以前会社のレクリエーションの際に作ったものですわ。さすがに本物を用意するとなると、費用がどれだけかかるか……」
「ヴァイスローゼンは、この偽物を狙っているというのか?」
にわかに信じがたい内容である。だが、カスミが提示した予告状がなによりの証拠だった。
あろうことかかのヴァイスローゼンは、学芸会レベルの代物を盗もうとしている。
ありえない。よもや、これが偽物と気付いていないのだろうか……。それこそ、ありえない話だろう。仁はますます、その顔を渋くさせた。
「たとえ偽物でも、これは大切な思い出がたくさん詰まっているんです。お願いですジンさん、どうか怪盗集団ヴァイスローゼンからこの王冠を守っていただけませんか?」
「……一応最後に尋ねておく。今回の一件、どうして防人じゃなく俺を選んだ?」
防人は、タカマガハラを守護する機関の一つだ。
一般市民を守ることを使命とする彼らの意気込みが鋼鉄よりも固く、そして炎のように熱い。
だが、悲しいかな。犯罪の数は防人たちを軽く圧倒し、日々対応に追われている。そこで仁のようなフリーランスの仕事人がいるのだ。
「防人は……当てになりませんわ。ヴァイスローゼンを未だに捕まえられていませんし。それに比べて、ジンさん。あなたのご活躍は耳にしておりますわよ」
「俺は、別にそこまですごくはないぞ。これまで対応してきた依頼だって、大したことのない連中ばかりだったからな」
「謙虚なお方なのですね。だからこそ今回の一件、あなたにぜひともお願いしたいのです」
「いいだろう。あんたからの依頼、俺が受けた」
「あ、ありがとうございます!」
カスミが勢いよく頭を下げた。
「よしてくれ。俺はあのヴァイスローゼンが絡んでいるのならそれでいい」
「……これもお聞きしたのですけど、ジンさんはどうしてヴァイスローゼンに拘るのですか? まさか……す、好きだとか?」
心なしかカスミの頬がほんのりと赤い。
言うまでもなく、彼女の見解は見当違いにもほどがある。
なにをもってすればそのような考えに至るのだろう。仁は苦笑いをわずかに浮かべた。
「いや全然違うぞ」
「あ、あら。そうなのですか……」
なぜかあからさまに落胆するカスミ。
彼女はどんな回答を期待していたのだろう。そうだ、とでも言えばよかったのか?
生憎と仁に、ヴァイスローゼンに対する恋愛感情というものは欠片さえもなかった。
確かにサクラはかわいいだろう。だからといってそれで好きになるなど一目惚れする以外にないだろう。
あれは、確かにかわいいがこの手で必ず捕らえる。仁は静かに拳を握った。
「――、では何故? なにか恨みがある、とか?」
カスミの瞳に強い好奇心が宿る。
仁は深い溜息を吐いた。別に答えられない内容でもないが、面倒臭くはある。
彼女との間にそこまで友好的な関係がないのは言うまでもない。
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