勇者の拳士様

星村直樹

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ここは剣と魔法の世界だった

この世界の一般常識を教えてもらう

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 今日は村長が、一般常識を教えてくれる。

「さて、世間知らずのユウに、社会の勉強だ。あまり世間知らず過ぎると、町じゃあやっていけないぞ。ミワも一緒に学びなさい」

 ミワが、はーいとおれの横に座った。

「本当に冒険者学校に入学するのかい?そりゃ入るのは、たいしてお金は掛からないけどねぇ」

 おかみさんは、心配していたけど、おばあちゃんはニコニコ顔だ。


 村長は、今朝おばあちゃんから、おれが、冒険者学校に入りたいということを聞いた。魔物を倒すために修行していたのだからそうだろうなと、村長も賛成してくれた。「それなら、一般常識も知っていないとまずいぞ」と、ずっと山に籠っていたおれを心配して、いろいろ質問してきた。おれは、全く、この世界の事を知らなかった。


「まず、これを見てくれ。アストラル大陸の地図だ。南の大陸のムーマ大陸は、ちょこっとしか書いていないが、あっちは魔族の大陸だ。まず、行くことはないだろう。そして、ここが、ノイ村だ」

 ノイ村は、アストラル大陸の東端に有った。地図を見ると、山を3つ超えるだけで、海だとわかる。港町サザンは、そこから少し南に下った所にある。ここが、城下町になる。

「大きな港町が近所に有ったんですね。おれ北の山にばっかり行っていました」

「そっちは死ぬほど険しい山じゃないか。獰猛な獣も多い。グリズリーの毛皮があるのは、それでか。昨晩毛皮を仕分けしていて、グリズリーの大きな毛皮があるから、びっくりしたよ。ユウは、素手でクマに勝つんだな。そんなの、人じゃないと思われるから、学校に居る間は、目立つな。魔法士を専攻するんだろ。魔法士は、なよっちい奴ばかりだぞ」

「気をつけます」

「お父さん、北の山って?」

「人が入ったことが無い山だよ。狼も、そっちから来たんだ。狼は、ユウが、やっつけてくれたから、当分は安心だ。だけど、行ってはいけないよ。本当に危ないから」

「行かない」

「偉いぞ」

「狼が出たら、又、ユウが退治してくれる?」

「そうするよ。ミワにこれをあげる。北の奥の山脈の谷川で見つけた石だよ。ほら、少し魔力を込めると、もう片方も光るだろ。村が狼に襲われるようなことがあったら、これに念じるんだ。駆け付けるから」

「うん、綺麗な石」

「すまんな。さて、わしらがいるアストラル大陸には、五つの大国がある。残念ながら、わしらノイ村は、これら大国の周辺小国の中の辺境村だ。港町サザンと内陸側が、城下町になる。そんな大したものではないがね。ただ、我がサザン王国は、魔法士を輩出することで有名なんだ。それで、他国が一目置いている。冒険者学校があるのはそのためだよ」

 港町と国の名前が同じだ。本当に小さな国なのだろうなと思う。アストラル大陸は、いびつなハート形をしていた。北に、内陸に深くくいこんだ海があり、左右のこぶのような所を海が隔てている。逆に内陸は、中央に巨大な山脈が東西を分けた格好となっている。南の広大な平野部は、これら、東西の地域を結ぶ陸路。その辺が栄えているというのは、地政学上、地図を見るだけで分かることだった。

「じゃあ、アストラル大陸北東にある大国から時計回りに名前を言うぞ。ここアイスランドは、我が国の北にある。寒いところだ。北の平野部は、冬になると雪に閉ざされる。だけど鉱物資源が豊富な国でな、寒いのを我慢できるなら豊かな国だよ。それから、小王国群を経て東のイスタル王国。南のサザ―帝国。サザ―帝国が、ムーマ大陸から来る魔物を食い止めてくれている。そして、西のウエストランド。北西に戻ってノイエ法国だ」

「村長!」
「なんだ、ユウ」
「大国って言っていましたけど、王国と名前が付いているのが1国しかないんですけど」

「いい質問だ」
「いい質問だ!」
「こら、ミワも教えてもらっている方だぞ」
「ごめんなさい」

「国名の最後にランドと付いているのは、同盟国だ。大小の国が集まって国の態を成している。アイスランドはそうなのだが、ウエストランドは、あれは群雄割拠だな。力の均衡で成り立っている。中央山脈に異民族がたくさんいるのだが、弾圧されていると聞く。法国とは、宗教によって統一された国。王国というのは、文字通り王国だ。王家が国をまとめている。問題は、サザ―帝国だが、ちょっと変わった形態の国だな。サザ―帝国の、国の北側は、交易で栄えている。南は、軍事で栄えている。この二つの勢力を評議会が仕切っている国だ」

「評議会が一番偉い所なんですか」

「評議会議長がね。議長は、評議会によって選出される」

 ふうん、帝国が一番民主的な国なのかな。

「帝国は、常に魔物の脅威にさらされている国だ。軍事を発展させるために、交易の関税がきつい国だ。だけど、サザ―帝国の北にあるイスタル王国もウエストランドも、帝国の高い税金は、アストラル大陸に入る魔物の侵攻を防いでくれている安心税だと思って、支払っているんだ。持ちつ持たれつだということだね」

 そうなんだ。
「それで、ノイ村の北の山岳地帯なんですけど、修行にちょくちょく行っていたんですが、全く人に会いませんでした」

「ユウは、運が良かったよ。あそこは、魔物より怖い聖獣様の住処なんだ。だから、誰も住んでいない。北のアイスランドとイスタル王国の境に小王国が、未だに、いっぱい淘汰されないで残っているのは、ここ辺りで戦争をすると、聖獣様が出てきて、双方を全滅させてしまうからなんだ。人の縄張りではないんだよ」

「聖獣って竜ですか」

「おっ、旅人から聞いたな。4大竜と言って、わしらがいるところが風竜様、中央山脈が火竜、北西の山脈地帯が地竜の縄張りだ。アストラル大陸の北にある大きな内海に、水竜が住んでいる」

 やっぱり、あの時出会った風竜が聖獣様か。その風竜を倒したから、修行が終わったと思ったんだ。クマに擬態して遊び半分に襲ってきたところを返り討ち。じゃあ、あの時の話も本当なんだろうな。神を名乗ったやつも竜族。そいつがおれをこの異世界イスカに転移させた。風竜は、現在、龍玉をおれに宿して、おれの魔力を吸いながら休んでいる。おれは、普段息をするだけで、内陽功という気を練っている。輝玉流空手の呼吸法の一つだ。この世界に来て分かったことは、気=魔力だってことだ。シップウが言うには、おれの中に意識を置いて休むのが、最適なんだそうだ。聖獣を倒した責任上、仕方ないか。

「ここまではいいか」

「はい」
「はーい」

「ミワは、後で復習するからな」

「えー」

「ははっ、次は、我がサザン王国、周辺国の話だ。アストラル大陸はハート形だが、北東だけはへこんでいるだろ。この内湾半分と山岳地帯が、サザン王国だ。東の内湾から吹き込む風が温かいから、適度に雨も降るし、こんなに豊かな実りをくれる。風竜様に感謝だな」

 まずいなー、来年も豊作になるかな。

「我が国と同じように小国だが、海に接している南のセイドン王国は、海洋漁業が盛ん国だ。水竜の加護があるからな。軍艦もいっぱい持っているが、それを殆ど遠洋漁業に使っている。ここも我が国同様ムーマ大陸に商船を送っているぞ。南の平野部は、ドワンゴ王国。穀倉地帯だ。ここは、いつも豊作なので、イスタル王国が狙っているが、土竜の加護があって手が出せない。いつも手を出すと、やられた上、イスタル王国の穀倉地帯が、その戦の度に不作になるから、もう、ここ何年も戦争を仕掛けてこない。そして、中央山脈にあるホームラ王国は、火竜の加護がある。元々険しい山岳地帯だから、どの国も攻めようとは思わないがね。ここは、どんな国かよくわからん。交易も少ないし。でも、火竜の加護があるんだ。住みやすいところなのだろうな」

「山岳地帯なんでしょう。たぶん木の実とか、農業しなくても採取で食べていけるんじゃないですかね」

「そういえば、ホームラ産の桃を食べたことがあるが、絶品だったな」
「私も食べたい」
「ユウが、これだけ毛皮を持って来てくれたんだ。なんとかしよう」
「やった」

「四小王国とも、竜の加護を貰っているんですね。すごいじゃないですか。四小王国で交易するだけで、いろいろなものが食べられる」

「そう思うだろ。なぜかそうなっていないんだ。セイドン王国の魚とドワンゴ王国の穀物は、イスタル王国が買い取ってしまう。ホームラ王国は、交易をしないだろ。わが国だけだ、交易をやろうやろうと言っているのは。結局、人的資源が出稼ぎに行くことになる」

「もったいない」

「そうなのだが、そのおかげで、冒険者ギルドが強い。サザン王国のギルドカードがあれば、大陸の、どの国にも行けるぞ」

「それはいいですね」

「今の話で分かったと思うが、国内ならいいが、国外で活動するときは、報酬の一割が、サザン王国に入る仕組みになっている。いつまでも冒険者家業を続けられないからな。年金を払っていると思ってあきらめろ。わしを見ろ、片手しかないのに村長だぞ。冒険者をやっていたという実績と信頼。引退した後の国からの支給。村のみんなが、持ち上げてくれたから村長をやっているんだ」

「問題ないです。頑張ります」

「朝は、ここまでにしよう。昼からは、魔物と魔王の話をする」

 そう聞いて背筋が伸びた。
「よろしくお願いします」
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