シリウスをさがして

朽縄咲良

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第三章

第四十四話 “好き”

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 「僕の……北斗への……気持ち……」

 宙の一言に、僕は思わず動揺した。

「ぼ、僕は……」

 言い淀む僕の頭の中に、北斗との思い出がフラッシュバックのように蘇る。
 ……あいつと最後に会った、中学校の卒業式での事を。

『北斗――僕、お前のことが好きなんだ』

 ――そうだよ。
 僕は、北斗のことが好きなんだ。
 親友としてはもちろんだけど……それ以上の、かけがえのない存在として。
 ……あいつが違う世界へ行ってしまった、今でも。

「……」

 でも……その気持ちを、尋ねた宙へ正直に打ち明けることはためらわれた。
 男の僕が、同じ男である北斗に恋愛感情を抱いていると知ったら、彼が気持ち悪がって離れていってしまうのではないか――そんな不安が胸をよぎったからだ。
 ……もちろん、そうじゃない可能性もある。

(宙なら、たとえ僕の北斗への気持ちを知ったとしても態度を変えず、今までと変わらず接してくれるんじゃないかな……?)

 ふと、そんな期待が頭をよぎった。
 でも……それは、あくまでも僕が勝手に考えた楽観的な予想に過ぎない。
 もし、そうじゃなかったとしたら、彼はもう二度と今日までのように接してくれなくなるだろう。
 こんな風に、僕のことを優しく抱きしめてはくれなくなるだろう。
 ――それは、それだけは嫌だった。

「……どうした?」

 僕の心の葛藤を感じ取ったのか、宙が気遣うように声をかけてきた。
 でも、僕は彼の気遣いの声に応えることもできず、ただ無言で体を強張らせる。
 ――と、

「……じゃあ、言い出しっぺのオレの方からぶちまけようか」

 そう、宙がボソリと言った。

「えっ……?」

 それを聞いた僕は、思わず彼の顔を見返した。

「ぶちまけるって……なにを?」
「……」

 僕の問いかけに一瞬だけ間を置いてから、宙は照れ笑いとも緊張の面持ちともつかない表情を浮かべる。
 そして、意を決したように息を吸ってから、「……実はさ」と切り出した。

「オレ……ホクトのことが好きだったんだよ。その……『友達として好き』っていうのとは違う意味で……」
「え……?」

 宙の言葉を聞いた僕は、思わず上ずった声を漏らす。

「それって……恋愛的な意味で……?」
「……ああ」

 僕の問いかけに、彼は頭を掻きながらおずおずと頷いた。
 そして、頭上に広がる満天の夜空に目を向け、話を続ける。

「……オレが自分の気持ちに気づいたのは、高校三年のはじめごろだったかな。最初の頃はなにかとオレに絡んでくるアイツをウザいとしか思ってなかったんだけど、友達付き合いしているうちに……いつの間に自分の中でかけがえのない大切な存在になってた」
「……」
「でも……オレは、その気持ちをホクトに伝えることはしなかった……いや、できなかった」

 そう言うと、彼は上を向いたまま小さく息を吐いた。

「オレは臆病者だからさ……怖かったんだよ」
「怖かった……?」
「ああ」

 僕の声に小さく頷いて、宙は言葉を継ぐ。

「もし、オレがホクトのことが好きだって知られたら、アイツがオレから離れていってしまうんじゃないか……そう考えたら、どうしても自分の気持ちを告げることができなかったんだ」
「……っ!」

 彼の言葉を聞いて、僕はハッとした。
 ――今の僕と同じじゃないか……。
 ……と、

「……それに」

 ズキリと痛んだ胸を押さえて俯いた僕の耳に、少し沈んだ宙の声が届く。

「たとえ、勇気を振り絞ってアイツに告白しても、フラれるのは分かり切ってたしな……」
「でも……そうと決まった訳じゃ――」
「あるさ」

 僕の言葉を遮った宙の声には、あきらめとやるせなさが入り混じっていた。
 その声の重さに返す言葉を失った僕に向け、彼は淡々とした声で「だって……」と続ける。

「アイツには、ずっと好きだった奴がいたからさ」
「……えっ?」

 思いもかけぬ宙の言葉に、僕は思わず驚きの声を上げ、彼の顔を見上げた。

「ほ、北斗に……好きな人がいたの?」
「いたよ」

 僕の問いかけにこくりと頷いた宙は、唐突に僕の鼻を指でつつく。

「へっ? な、何するん……」
な」
「…………え?」

 いきなり鼻を押されたことに戸惑った僕は、続けて宙が口にした言葉の意味がすぐに分からなかった。
 でも、数秒経って、ようやく理解し――、

「……えっ?」

 と声を漏らして、ポカンとする。

「ど……どういうこと……?」
「だから……」

 宙は、上ずった声で尋ねる僕に苦笑しながら答えた。

「この前も言ったじゃないか。――スバルお前だよ。ホクトがずっと好きだった奴っていうのは」
「で、でも……その好きは、多分……恋愛的なそういう意味での“好き”じゃなくて……」
「そういう意味だよ、絶対にな」
「……っ」

 確信を込めてキッパリと言い切った彼の言葉を聞いた瞬間、僕の心臓の鼓動が一際大きく鳴る。

(北斗が……僕のことを……?)

 そう考えると同時に、体がカッと熱くなるのを感じた。
 ……でも、

「そ……そんなはずないよっ!」

 僕は、宙の言葉と自分の感情に逆らうように激しく首を左右に振る。

「ほ、北斗が僕のことをそんな風に想ってたはずなんて……」
「……やっぱり、そうだったんだな」

 力無い僕のかすれ声に、宙が静かに言った。

「喫茶店で話した時に、ぼそりと漏らしてたよな。『卒業式の日にあんな返事をするはずがない』って……。あれは、お前がホクトに告げた告白に対する返事のことだったんだな」
「……」

 宙の問いかけに、僕は肯定も否定もできず、俯いたまま沈黙する。
 でも、彼はそれを“消極的な肯定”ととらえたようだ。

「スバル……」

 宙は、そう呼びかけながら、僕の肩にそっと手を置く。
 そして、ハッとして顔を上げた僕の目をじっと見つめながら、静かな声で言った。

「多分、アイツが……北斗が本当にお前へ告げたかったのは、違う言葉だよ」

 ――と。
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