45 / 51
第三章
第四十四話 “好き”
しおりを挟む
「僕の……北斗への……気持ち……」
宙の一言に、僕は思わず動揺した。
「ぼ、僕は……」
言い淀む僕の頭の中に、北斗との思い出がフラッシュバックのように蘇る。
……あいつと最後に会った、中学校の卒業式での事を。
『北斗――僕、お前のことが好きなんだ』
――そうだよ。
僕は、北斗のことが好きなんだ。
親友としてはもちろんだけど……それ以上の、かけがえのない存在として。
……あいつが違う世界へ行ってしまった、今でも。
「……」
でも……その気持ちを、尋ねた宙へ正直に打ち明けることはためらわれた。
男の僕が、同じ男である北斗に恋愛感情を抱いていると知ったら、彼が気持ち悪がって離れていってしまうのではないか――そんな不安が胸をよぎったからだ。
……もちろん、そうじゃない可能性もある。
(宙なら、たとえ僕の北斗への気持ちを知ったとしても態度を変えず、今までと変わらず接してくれるんじゃないかな……?)
ふと、そんな期待が頭をよぎった。
でも……それは、あくまでも僕が勝手に考えた楽観的な予想に過ぎない。
もし、そうじゃなかったとしたら、彼はもう二度と今日までのように接してくれなくなるだろう。
こんな風に、僕のことを優しく抱きしめてはくれなくなるだろう。
――それは、それだけは嫌だった。
「……どうした?」
僕の心の葛藤を感じ取ったのか、宙が気遣うように声をかけてきた。
でも、僕は彼の気遣いの声に応えることもできず、ただ無言で体を強張らせる。
――と、
「……じゃあ、言い出しっぺのオレの方からぶちまけようか」
そう、宙がボソリと言った。
「えっ……?」
それを聞いた僕は、思わず彼の顔を見返した。
「ぶちまけるって……なにを?」
「……」
僕の問いかけに一瞬だけ間を置いてから、宙は照れ笑いとも緊張の面持ちともつかない表情を浮かべる。
そして、意を決したように息を吸ってから、「……実はさ」と切り出した。
「オレ……ホクトのことが好きだったんだよ。その……『友達として好き』っていうのとは違う意味で……」
「え……?」
宙の言葉を聞いた僕は、思わず上ずった声を漏らす。
「それって……恋愛的な意味で……?」
「……ああ」
僕の問いかけに、彼は頭を掻きながらおずおずと頷いた。
そして、頭上に広がる満天の夜空に目を向け、話を続ける。
「……オレが自分の気持ちに気づいたのは、高校三年のはじめごろだったかな。最初の頃はなにかとオレに絡んでくるアイツをウザいとしか思ってなかったんだけど、友達付き合いしているうちに……いつの間に自分の中でかけがえのない大切な存在になってた」
「……」
「でも……オレは、その気持ちをホクトに伝えることはしなかった……いや、できなかった」
そう言うと、彼は上を向いたまま小さく息を吐いた。
「オレは臆病者だからさ……怖かったんだよ」
「怖かった……?」
「ああ」
僕の声に小さく頷いて、宙は言葉を継ぐ。
「もし、オレがホクトのことが好きだって知られたら、アイツがオレから離れていってしまうんじゃないか……そう考えたら、どうしても自分の気持ちを告げることができなかったんだ」
「……っ!」
彼の言葉を聞いて、僕はハッとした。
――今の僕と同じじゃないか……。
……と、
「……それに」
ズキリと痛んだ胸を押さえて俯いた僕の耳に、少し沈んだ宙の声が届く。
「たとえ、勇気を振り絞ってアイツに告白しても、フラれるのは分かり切ってたしな……」
「でも……そうと決まった訳じゃ――」
「あるさ」
僕の言葉を遮った宙の声には、あきらめとやるせなさが入り混じっていた。
その声の重さに返す言葉を失った僕に向け、彼は淡々とした声で「だって……」と続ける。
「アイツには、ずっと好きだった奴がいたからさ」
「……えっ?」
思いもかけぬ宙の言葉に、僕は思わず驚きの声を上げ、彼の顔を見上げた。
「ほ、北斗に……好きな人がいたの?」
「いたよ」
僕の問いかけにこくりと頷いた宙は、唐突に僕の鼻を指でつつく。
「へっ? な、何するん……」
「ここにな」
「…………え?」
いきなり鼻を押されたことに戸惑った僕は、続けて宙が口にした言葉の意味がすぐに分からなかった。
でも、数秒経って、ようやく理解し――、
「……えっ?」
と声を漏らして、ポカンとする。
「ど……どういうこと……?」
「だから……」
宙は、上ずった声で尋ねる僕に苦笑しながら答えた。
「この前も言ったじゃないか。――スバルだよ。ホクトがずっと好きだった奴っていうのは」
「で、でも……その好きは、多分……恋愛的な意味での“好き”じゃなくて……」
「そういう意味だよ、絶対にな」
「……っ」
確信を込めてキッパリと言い切った彼の言葉を聞いた瞬間、僕の心臓の鼓動が一際大きく鳴る。
(北斗が……僕のことを……?)
そう考えると同時に、体がカッと熱くなるのを感じた。
……でも、
「そ……そんなはずないよっ!」
僕は、宙の言葉と自分の感情に逆らうように激しく首を左右に振る。
「ほ、北斗が僕のことをそんな風に想ってたはずなんて……」
「……やっぱり、そうだったんだな」
力無い僕のかすれ声に、宙が静かに言った。
「喫茶店で話した時に、ぼそりと漏らしてたよな。『卒業式の日にあんな返事をするはずがない』って……。あれは、お前がホクトに告げた告白に対する返事のことだったんだな」
「……」
宙の問いかけに、僕は肯定も否定もできず、俯いたまま沈黙する。
でも、彼はそれを“消極的な肯定”ととらえたようだ。
「スバル……」
宙は、そう呼びかけながら、僕の肩にそっと手を置く。
そして、ハッとして顔を上げた僕の目をじっと見つめながら、静かな声で言った。
「多分、アイツが……北斗が本当にお前へ告げたかったのは、違う言葉だよ」
――と。
宙の一言に、僕は思わず動揺した。
「ぼ、僕は……」
言い淀む僕の頭の中に、北斗との思い出がフラッシュバックのように蘇る。
……あいつと最後に会った、中学校の卒業式での事を。
『北斗――僕、お前のことが好きなんだ』
――そうだよ。
僕は、北斗のことが好きなんだ。
親友としてはもちろんだけど……それ以上の、かけがえのない存在として。
……あいつが違う世界へ行ってしまった、今でも。
「……」
でも……その気持ちを、尋ねた宙へ正直に打ち明けることはためらわれた。
男の僕が、同じ男である北斗に恋愛感情を抱いていると知ったら、彼が気持ち悪がって離れていってしまうのではないか――そんな不安が胸をよぎったからだ。
……もちろん、そうじゃない可能性もある。
(宙なら、たとえ僕の北斗への気持ちを知ったとしても態度を変えず、今までと変わらず接してくれるんじゃないかな……?)
ふと、そんな期待が頭をよぎった。
でも……それは、あくまでも僕が勝手に考えた楽観的な予想に過ぎない。
もし、そうじゃなかったとしたら、彼はもう二度と今日までのように接してくれなくなるだろう。
こんな風に、僕のことを優しく抱きしめてはくれなくなるだろう。
――それは、それだけは嫌だった。
「……どうした?」
僕の心の葛藤を感じ取ったのか、宙が気遣うように声をかけてきた。
でも、僕は彼の気遣いの声に応えることもできず、ただ無言で体を強張らせる。
――と、
「……じゃあ、言い出しっぺのオレの方からぶちまけようか」
そう、宙がボソリと言った。
「えっ……?」
それを聞いた僕は、思わず彼の顔を見返した。
「ぶちまけるって……なにを?」
「……」
僕の問いかけに一瞬だけ間を置いてから、宙は照れ笑いとも緊張の面持ちともつかない表情を浮かべる。
そして、意を決したように息を吸ってから、「……実はさ」と切り出した。
「オレ……ホクトのことが好きだったんだよ。その……『友達として好き』っていうのとは違う意味で……」
「え……?」
宙の言葉を聞いた僕は、思わず上ずった声を漏らす。
「それって……恋愛的な意味で……?」
「……ああ」
僕の問いかけに、彼は頭を掻きながらおずおずと頷いた。
そして、頭上に広がる満天の夜空に目を向け、話を続ける。
「……オレが自分の気持ちに気づいたのは、高校三年のはじめごろだったかな。最初の頃はなにかとオレに絡んでくるアイツをウザいとしか思ってなかったんだけど、友達付き合いしているうちに……いつの間に自分の中でかけがえのない大切な存在になってた」
「……」
「でも……オレは、その気持ちをホクトに伝えることはしなかった……いや、できなかった」
そう言うと、彼は上を向いたまま小さく息を吐いた。
「オレは臆病者だからさ……怖かったんだよ」
「怖かった……?」
「ああ」
僕の声に小さく頷いて、宙は言葉を継ぐ。
「もし、オレがホクトのことが好きだって知られたら、アイツがオレから離れていってしまうんじゃないか……そう考えたら、どうしても自分の気持ちを告げることができなかったんだ」
「……っ!」
彼の言葉を聞いて、僕はハッとした。
――今の僕と同じじゃないか……。
……と、
「……それに」
ズキリと痛んだ胸を押さえて俯いた僕の耳に、少し沈んだ宙の声が届く。
「たとえ、勇気を振り絞ってアイツに告白しても、フラれるのは分かり切ってたしな……」
「でも……そうと決まった訳じゃ――」
「あるさ」
僕の言葉を遮った宙の声には、あきらめとやるせなさが入り混じっていた。
その声の重さに返す言葉を失った僕に向け、彼は淡々とした声で「だって……」と続ける。
「アイツには、ずっと好きだった奴がいたからさ」
「……えっ?」
思いもかけぬ宙の言葉に、僕は思わず驚きの声を上げ、彼の顔を見上げた。
「ほ、北斗に……好きな人がいたの?」
「いたよ」
僕の問いかけにこくりと頷いた宙は、唐突に僕の鼻を指でつつく。
「へっ? な、何するん……」
「ここにな」
「…………え?」
いきなり鼻を押されたことに戸惑った僕は、続けて宙が口にした言葉の意味がすぐに分からなかった。
でも、数秒経って、ようやく理解し――、
「……えっ?」
と声を漏らして、ポカンとする。
「ど……どういうこと……?」
「だから……」
宙は、上ずった声で尋ねる僕に苦笑しながら答えた。
「この前も言ったじゃないか。――スバルだよ。ホクトがずっと好きだった奴っていうのは」
「で、でも……その好きは、多分……恋愛的な意味での“好き”じゃなくて……」
「そういう意味だよ、絶対にな」
「……っ」
確信を込めてキッパリと言い切った彼の言葉を聞いた瞬間、僕の心臓の鼓動が一際大きく鳴る。
(北斗が……僕のことを……?)
そう考えると同時に、体がカッと熱くなるのを感じた。
……でも、
「そ……そんなはずないよっ!」
僕は、宙の言葉と自分の感情に逆らうように激しく首を左右に振る。
「ほ、北斗が僕のことをそんな風に想ってたはずなんて……」
「……やっぱり、そうだったんだな」
力無い僕のかすれ声に、宙が静かに言った。
「喫茶店で話した時に、ぼそりと漏らしてたよな。『卒業式の日にあんな返事をするはずがない』って……。あれは、お前がホクトに告げた告白に対する返事のことだったんだな」
「……」
宙の問いかけに、僕は肯定も否定もできず、俯いたまま沈黙する。
でも、彼はそれを“消極的な肯定”ととらえたようだ。
「スバル……」
宙は、そう呼びかけながら、僕の肩にそっと手を置く。
そして、ハッとして顔を上げた僕の目をじっと見つめながら、静かな声で言った。
「多分、アイツが……北斗が本当にお前へ告げたかったのは、違う言葉だよ」
――と。
1
あなたにおすすめの小説
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
だって、君は210日のポラリス
大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺
モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。
一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、
突然人生の岐路に立たされた。
――立春から210日、夏休みの終わる頃。
それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて――
📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。
エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。
📌本編モブ視点による、番外エピソード
「君はポラリス ― アンコール!:2年後の二人と俺と」を追加しました。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら
たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生
海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。
そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…?
※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。
※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる