シリウスをさがして

朽縄咲良

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第三章

第四十六話 予定

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 「……ごめん、宙」

 駐車場に戻ってきた僕は、隣を歩く宙に謝った。
 急な僕の謝罪に、宙はキョトンとした顔をしながら首を傾げる。

「? なんでいきなり謝られたんだ、オレ?」
「いや……」

 宙に訊き返された僕は、泣き腫らした目を夜空に向けた。

「せっかく星を見に来たのに、結局僕のせいでほとんど見れなかったから……」

 ――あの後、
 ずっと一人で抱え込んでいた北斗への想いを口に出すことが出来た僕は、再び昂った感情のせいで、まるで子どものように泣きじゃくってしまった。
 宙は、僕が落ち着くまで、何も言わず優しく抱きしめてくれていたのだが、そのせいで星空観賞どころではなくなってしまったという訳だ……。

「星を見に行こうって誘ったのは僕の方だったのに……。だから……ごめん」
「ははは、そんなことか」

 もう一度僕が謝ると、宙は愉快そうな笑い声を上げながらかぶりを振った。

「謝ることなんかないさ。星なんていつでも見れるし」

 そう言うと、彼はふっと真顔になり、「そんなことより……」と言いながら、僕の顔を覗き込む。

「……ぶちまけたら、少しは楽になれたか?」
「……うん」

 宙の問いかけに、僕はぎこちない笑みを浮かべながら、小さく頷いた。

「おかげで、だいぶ気持ちが軽くなったよ。ずっと抱えてた胸につかえてたものを発散できたからね」
「そっか……」

 僕の答えを聞いた宙は、ホッとしたように口元を綻ばせながら、自分の胸元を指さす。

「それなら何よりだ。上着をぐっしょり濡らした甲斐があったよ」
「あっ……!」

 彼が着ている上着の胸のあたりの色が変わっているのに、僕はようやく気がついた。
 そして、彼の上着に染みているのがさっき自分が流した涙だと悟るや、大慌てて頭を下げる。

「そ、それはホントにゴメンっ!」
「ははは、気にすんなって」

 平謝りする僕を笑いながら許してくれた宙は、しみじみとした声で言葉を継いだ。

「……スバルが元気になれたんなら、オレは本望だよ」
「宙……」

 彼の優しい声を聞いた瞬間、なぜか胸の奥がきゅっと苦しくなった。
 思わずびっくりして胸を押さえた僕を見て、宙が怪訝な顔をする。

「ん、どうした? どこか痛むのか?」
「あ……いや」

 自分でも不思議に思ったことを宙に尋ねられた僕は、当惑しながらふるふると首を横に振った。

「なんでもない……と思う。だいじょうぶだよ……多分」
「……本当にだいじょうぶなのか?」

 僕の曖昧な返答を聞いた宙が、心配そうな表情を浮かべながら、僕の顔を覗き込もうとする。

「だ……だいじょうぶだって!」

 咄嗟にそう叫びながら、僕は顔を近づいてくる宙から半歩距離を取った。
 そして、上ずった声で「そ、そうだ!」と叫ぶ。

「またここに来ようよ! 今度は、思いつきじゃなくて、ちゃんと準備してさ!」
「また来るって……星を見に?」
「そう!」

 宙の問いかけに、僕は大きく頷いた。

「今日は何も持ってこなかったけど、次は天体望遠鏡も持ってきて、本格的な天体観測をするんだ。お腹も空くだろうから、おやつとか軽食も持ってさ」
「……そりゃいいな」

 僕の言葉を聞いた宙が、目を輝かせる。

「じゃあ、テントを張るのもいいかもな。途中で眠くなったら寝れるように」
「あ、いや、ここはテント張っちゃダメみたいだから、それはちょっと……」

 宙のワクワクした顔を見て申し訳なく思いながら、僕は駐車場の入り口に立っていた看板に書かれていた『テント禁止』の文字を指さした。
 案の定、彼はみるみる表情を曇らせる。
 それを見た僕は、慌てて「あ……でも!」と続けた。

「レジャーシートとクッションを持ち込んで、地面に敷くくらいならだいじょうぶだと思うよ。まあ、真冬に比べればだいぶ温かくなってきたけど、まだ夜は冷えるから防寒の準備は必要だろうけど」
「……そうだな!」

 僕の言葉を聞いた宙は、嬉しそうな顔になって大きく頷く。

「あとは……星座早見盤も必要だよな! オレん家にあるから、持ってくるよ!」
「うん、頼むよ」

 彼の笑顔につられて、僕も微笑んだ。
 と、

「そうと決まれば、いつにする? 天体観測」

 と、宙が尋ねる。
 それに対し、「そうだなぁ……」と呟いた僕は、ふと夜空を見上げた。
 そして、星がチカチカと瞬く空の真ん中で一際大きく明るく輝く半月を指さす。

「……今日は半月だから、あと一週間で新月だ。天体観測するなら、その日がいいんじゃないかな」
「あぁ、確かに!」

 僕の提案に、宙はポンと手を打った。

「月の光は、天体観測するには邪魔だからな」

 そう言って、満面の笑みを浮かべた彼は、グッと親指を立てる。

「じゃあ決まりだ。一週間後にここで天体観測な」
「うん、分かった」

 僕も、宙と同じように親指を立ててみせた。

「楽しみにしてるよ」
「オレもすげー楽しみ!」

 そう言ってニカリと笑った宙は、冗談めかして言葉を継ぐ。

「……バイトにかまけて忘れたりするなよ?」
「忘れないって」

 宙の言葉に苦笑しながら、僕はかぶりを振り、逆に言い返した。

「宙の方こそ、忘れちゃダメだよ。ちゃんとスケジュールに入れておくんだよ」
「いや、そこまでしなくても忘れたりしないって!」

 僕の忠告に心外そうな顔をした宙は、眉根を寄せる。

「スバル……ひょっとして、オレのことをバカだと思ってる?」
「ふふ……いやぁ、別に?」
「ウソつけぇ!」

 とぼける僕の顔を見た宙が、大げさに声を荒げた。

「絶対バカだと思ってるだろ、お前ぇっ!」
「あはは、思ってないってば!」

 宙が伸ばしてきた手を咄嗟に躱した僕は、そのまま身を翻して駆け出す。

「おいコラ! 逃げんなーっ!」
「ははは、捕まえてみなよっ!」

 そう叫び合いながら、ガランとした広い駐車場で追いかけっこし始める僕と宙。
 初春の夜風を切って駆け回る僕の心は、久しぶりに軽く晴れやかになっていた――。
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