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第四章
第四十九話 告白
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「……え?」
青井さんの言葉を聞いた僕は、自分の耳が信じられず、思わず訊き返した。
「あ、あの……今、なんて……?」
「ふ……」
うろたえる僕の問いかけに対し、僅かに口の端を上げながら、青井さんは答える。
「――僕と北斗くんは付き合っていたんだよ。恋人としてね」
「……ッ!」
『恋人として』――決定的な一言を聞いた僕は、思わず息を呑んだ。
左胸の奥で、心臓が軋んだような鼓動を鳴らし始めるのが分かる。
思わず両耳を手で塞ぎたい衝動に駆られる……が、その気持ちとは裏腹に、体が石にでもなったかのようにピクリとも動かなかった。
そんな僕の動揺を知ってか知らずか、青井さんは更に話を続ける。
「北斗くんは、高校に入ってからウチでバイトし始めたんだけど、私たちが恋人同士になったのは結構最近のことで……そう、大体三ヶ月くらい前だったかな」
「……」
「私が先だったよ。彼の落ち着いた物腰や明るい性格に惹かれたんだ。――君も同じだろ?」
そう言った青井さんにニコリと微笑みかけられたが、僕はそれに反応することもできず、ただただ呆然としていた。
反応が返ってこないことに苦笑しながら、青井さんは言葉を継ぐ。
「そんな彼の居場所になれて、頼られて、嬉しかったよ。だんだん大きくなる気持ちが抑えられなくて、何度も私の方からそれとなくアプローチはしてたんだけど、なかなか伝わらなくて。正直自信をなくした時期もあった。『そんなに私は魅力が無いのかな……』って」
と、冗談めかして言った青井さんは、僕の顔をじっと見つめて、「……でも」と続けた。
「今なら、北斗くんが僕になびかなかった理由も分かるよ。――彼の心の中に、ずっと君がいたからだったんだ」
「……っ」
“いた”――過去形だ。
つまり――。
「……それでも、私が懲りずに彼に気持ちを伝え続けていたら、ようやく三ヶ月前に彼から良い返事をもらえたんだ。――ようやく私の方を向いてくれた、君への気持ちを裁ち切ったんだって――。」
――痛い。
胸の奥が……心が痛い。
僕は……北斗にあきらめられてしまった……。
「だから……ね」
呆然としている僕の肩に、青井さんは優しく手を置いた。
「さっきも言った通り、君が北斗くん以外のことを好きになったとしても、君が罪悪感を抱いたり、負い目に感じたりする必要は無いんだよ」
「で……も……」
「じゃあ……同じことを逆の方向で言い変えようか」
そう言うと、青井さんはふるふると首を横に振った僕に顔を近づけ、耳元に囁きかける。
「君が誰を好きになろうとも、北斗くんには文句を言う資格も権利も無いんだよ。……だって、彼にとって君はもう過去なんだから」
「や……やめ……」
「そもそも、北斗くんはもうこの世にいないんだ。死人に操を立ててもしょうがないんじゃないか?」
「やめて下さいッ!」
僕が思わず上げた金切り声と同時に、パァンという乾いた音が店に響いた。
その破裂音に似た音でハッと我に返った僕の目に、顔を横に背けた青井さんが映る。
少し遅れて、左手にジンジンとした痛みを感じた僕は、自分が無我夢中で青井さんの頬を張ったんだと気づいた。
「あ……す、すみません! お、思わず……」
「……すまない」
慌てて謝る僕に対し、青井さんの方が静かな声で謝る。
平手打ちの衝撃でズレたメガネを直した彼は、僕に向けておもむろに頭を下げた。
「つい気が昂って、やるせなくて……最低なことを言ってしまった。本当に申し訳ない」
「そんな……」
青井さんの謝罪に、慌てて「そんなことはないです」と首を横に振ろうとした僕だったが、彼が北斗に対してひどいことを言った事は間違いないと思い直して、途中でやめる。
そして、彼の頬を打った余韻が残る掌をじっと見つめながら、「……それでも」と言い直した。
「たとえそうだとしても、いきなり青井さんの頬をぶつなんて、決してやってはいけないことです。……すみませんでした」
「……ふふ」
僕の謝罪の言葉に対して返ってきたのは、青井さんがこらえきれずに漏らした笑い声だった。
それを聞いて当惑する僕の顔に穏やかな笑顔を向けた彼は、しみじみと言う。
「いやはや、君は本当に素直でピュアな心を持った子なんだね」
「……バカにしてます?」
「とんでもない」
さすがにムッとする僕をなだめるように、青井さんはかぶりを振った。
「さっきも言っただろ? 君のそういうところを好ましく思うって。あれは、嘘偽りない僕の本心だよ」
「……」
彼の言葉を額面通りに受け取っていいのか分からず、僕は無言を貫く。
……と、
「……ねえ、昴くん」
青井さんが、改まった口調で僕に呼びかけた。
距離を詰めてくる青井さんに、少し訝しみながら、僕は応じる。
「……はい? なんでしょうか」
「その……これは、あくまで提案なんだけどね……」
珍しく一瞬躊躇するようなそぶりを見せながら、青井さんは続ける。
ますます不思議に思いながら、僕は訊き返す。
「提案……ですか?」
「まあ……提案ともちょっと違うかもしれないけどね。ちょっと前向きに考えてみてほしいなと思って」
僕の問いかけに対し、そう答える青井さんの瞳の奥には、大人の艶めかしさすら感じる。
そして、まっすぐな眼差しで僕を見つめながら、“提案”の内容を口にする。
「昴くん……私たちは出会ってまだ間もないけど、私はね、君のことをもっと知りたいって思っているんだ。君があの男――望月宙に惹かれているのはわかっているけど、少しでもいい、私のことを……どうか考えてみてくれないか」
青井さんの言葉を聞いた僕は、自分の耳が信じられず、思わず訊き返した。
「あ、あの……今、なんて……?」
「ふ……」
うろたえる僕の問いかけに対し、僅かに口の端を上げながら、青井さんは答える。
「――僕と北斗くんは付き合っていたんだよ。恋人としてね」
「……ッ!」
『恋人として』――決定的な一言を聞いた僕は、思わず息を呑んだ。
左胸の奥で、心臓が軋んだような鼓動を鳴らし始めるのが分かる。
思わず両耳を手で塞ぎたい衝動に駆られる……が、その気持ちとは裏腹に、体が石にでもなったかのようにピクリとも動かなかった。
そんな僕の動揺を知ってか知らずか、青井さんは更に話を続ける。
「北斗くんは、高校に入ってからウチでバイトし始めたんだけど、私たちが恋人同士になったのは結構最近のことで……そう、大体三ヶ月くらい前だったかな」
「……」
「私が先だったよ。彼の落ち着いた物腰や明るい性格に惹かれたんだ。――君も同じだろ?」
そう言った青井さんにニコリと微笑みかけられたが、僕はそれに反応することもできず、ただただ呆然としていた。
反応が返ってこないことに苦笑しながら、青井さんは言葉を継ぐ。
「そんな彼の居場所になれて、頼られて、嬉しかったよ。だんだん大きくなる気持ちが抑えられなくて、何度も私の方からそれとなくアプローチはしてたんだけど、なかなか伝わらなくて。正直自信をなくした時期もあった。『そんなに私は魅力が無いのかな……』って」
と、冗談めかして言った青井さんは、僕の顔をじっと見つめて、「……でも」と続けた。
「今なら、北斗くんが僕になびかなかった理由も分かるよ。――彼の心の中に、ずっと君がいたからだったんだ」
「……っ」
“いた”――過去形だ。
つまり――。
「……それでも、私が懲りずに彼に気持ちを伝え続けていたら、ようやく三ヶ月前に彼から良い返事をもらえたんだ。――ようやく私の方を向いてくれた、君への気持ちを裁ち切ったんだって――。」
――痛い。
胸の奥が……心が痛い。
僕は……北斗にあきらめられてしまった……。
「だから……ね」
呆然としている僕の肩に、青井さんは優しく手を置いた。
「さっきも言った通り、君が北斗くん以外のことを好きになったとしても、君が罪悪感を抱いたり、負い目に感じたりする必要は無いんだよ」
「で……も……」
「じゃあ……同じことを逆の方向で言い変えようか」
そう言うと、青井さんはふるふると首を横に振った僕に顔を近づけ、耳元に囁きかける。
「君が誰を好きになろうとも、北斗くんには文句を言う資格も権利も無いんだよ。……だって、彼にとって君はもう過去なんだから」
「や……やめ……」
「そもそも、北斗くんはもうこの世にいないんだ。死人に操を立ててもしょうがないんじゃないか?」
「やめて下さいッ!」
僕が思わず上げた金切り声と同時に、パァンという乾いた音が店に響いた。
その破裂音に似た音でハッと我に返った僕の目に、顔を横に背けた青井さんが映る。
少し遅れて、左手にジンジンとした痛みを感じた僕は、自分が無我夢中で青井さんの頬を張ったんだと気づいた。
「あ……す、すみません! お、思わず……」
「……すまない」
慌てて謝る僕に対し、青井さんの方が静かな声で謝る。
平手打ちの衝撃でズレたメガネを直した彼は、僕に向けておもむろに頭を下げた。
「つい気が昂って、やるせなくて……最低なことを言ってしまった。本当に申し訳ない」
「そんな……」
青井さんの謝罪に、慌てて「そんなことはないです」と首を横に振ろうとした僕だったが、彼が北斗に対してひどいことを言った事は間違いないと思い直して、途中でやめる。
そして、彼の頬を打った余韻が残る掌をじっと見つめながら、「……それでも」と言い直した。
「たとえそうだとしても、いきなり青井さんの頬をぶつなんて、決してやってはいけないことです。……すみませんでした」
「……ふふ」
僕の謝罪の言葉に対して返ってきたのは、青井さんがこらえきれずに漏らした笑い声だった。
それを聞いて当惑する僕の顔に穏やかな笑顔を向けた彼は、しみじみと言う。
「いやはや、君は本当に素直でピュアな心を持った子なんだね」
「……バカにしてます?」
「とんでもない」
さすがにムッとする僕をなだめるように、青井さんはかぶりを振った。
「さっきも言っただろ? 君のそういうところを好ましく思うって。あれは、嘘偽りない僕の本心だよ」
「……」
彼の言葉を額面通りに受け取っていいのか分からず、僕は無言を貫く。
……と、
「……ねえ、昴くん」
青井さんが、改まった口調で僕に呼びかけた。
距離を詰めてくる青井さんに、少し訝しみながら、僕は応じる。
「……はい? なんでしょうか」
「その……これは、あくまで提案なんだけどね……」
珍しく一瞬躊躇するようなそぶりを見せながら、青井さんは続ける。
ますます不思議に思いながら、僕は訊き返す。
「提案……ですか?」
「まあ……提案ともちょっと違うかもしれないけどね。ちょっと前向きに考えてみてほしいなと思って」
僕の問いかけに対し、そう答える青井さんの瞳の奥には、大人の艶めかしさすら感じる。
そして、まっすぐな眼差しで僕を見つめながら、“提案”の内容を口にする。
「昴くん……私たちは出会ってまだ間もないけど、私はね、君のことをもっと知りたいって思っているんだ。君があの男――望月宙に惹かれているのはわかっているけど、少しでもいい、私のことを……どうか考えてみてくれないか」
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