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第四章 三匹が食う(ニャおニャールを)!
第五十一話 猫たちと反応
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「え……? か、かなみ……さん?」
思いがけないかなみさんの姿を、猫たちに踏みつぶされた格好で見上げながら、俺はポカンと口を開け、目をパチクリと瞬かせた。
「あ、あの……ど、どうして、こんな所に……?」
「あ、え、えーとですね……」
俺の問いかけに、かなみさんは恥ずかしそうに頬を掻く。
――と、その時、
「みゃあう!」
「ふみゅううう」
「にゃあ!」
俺の体の上で好き勝手に暴れていた三匹の猫が、三者三様の鳴き声を上げた。
「ん……? ど、どうした、お前た……痛っ!」
急に鳴き始めた猫たちを訝しんで上げた俺の声は、途中で短い悲鳴に変わる。背の上に乗っていた猫たちが、急に勢いをつけて地面へと飛び降りたからだ。
背中を踏み台代わりにされた俺は、その反動でアスファルトの地面の上に額を打ちつける。
「痛たたた……って、そんな事より!」
ぶつけた額を擦りながら、俺は慌てて顔を上げ、かなみさんの方に涙の滲んだ目を向けた。
そして、尻尾を高々と上げた三匹の猫たちに取り囲まれるかなみさんの姿を見て、ハッと息を呑む。
「か、かなみさんっ! 危ない――!」
さっきの自分のように彼女が猫たちに襲われると思った俺は、上ずった声で注意を促した。
そして、彼女に向かって爛々と目を輝かせる猫たちに声を荒げる。
「お、お前ら、やめろ! かなみさんには――!」
――だが、そんな俺の叫びなどお構いなしで、猫たちは一斉にかなみさんへ向けて地面を蹴った。
「わあああ! やめろ、バカ猫ども! だ、大丈夫ですか、かなみさ――」
「う……」
「お、おい、お前ら! 早くかなみさんから離れ――」
「うふ、うふふふ……あはははは! こらこら、くすぐったいってばぁ~」
「……ん?」
猫たちに飛び掛かられたかなみさんの口から上がった笑い声に、てっきり悲鳴が上がるかと思っていた俺は思わず首を傾げる。
「だ、大丈夫なんですか? ひ、引っ掻かれたり噛まれたりしてませんか?」
「え? 引っ掻かれたり噛まれたり? ……いや、全然大丈夫ですけ……うふふふ! ダメだってぇ、脚を舐めちゃ。君たちの舌はザラザラしてるんだから、舐められると何だかこしょばゆいんだってば!」
「……へ?」
俺は、なぜか楽しそうなかなみさんの返事に戸惑いながら、彼女の脚元に目を遣った。
「……は?」
そして、かなみさんが穿いている膝丈のスカートから覗くすらりとした脚に尻尾を絡みつかせるように体を擦りつけ、上機嫌でゴロゴロと喉を鳴らしている猫たちの姿を見て、ポカンと口を開ける。
「た……確かに大丈夫みたいっすね……」
「はい! 猫ちゃんたち、みんなとっても人懐っこくてかわいいんですよ~」
呆気にとられながらの俺の言葉に、かなみさんは満面の笑みを浮かべて頷いた。
そして、少し腰をかがめて猫たちの頭を優しく撫でる。
猫たちは、頭を撫でられると気持ちよさそうに目を細め、そのままゴロンと地面の上に仰向けに転がると、腹を無防備に晒した。
「うふふ、ほら、コチョコチョコチョ~!」
「みゃあああああ~う♪」
「ほれほれ~!」
「ぐるるるるみゃあああん♪」
リクエストに応えるようにかなみさんが十兵衛とルリ子さんの腹を撫でてあげると、彼らは嬉しそうに身を捩らせながら歓喜の声を上げる。
……完全な“甘えモード”だ。
さっきまでの、俺に対する敵意剥き出しの態度とは正反対もいいところ……。
「――三枝さんもどうですか? 猫ちゃんたちのお腹、フワフワして気持ちいいですよ」
「あ、そ、そうっすか……?」
かなみさんに誘われて、俺は少し逡巡したが、ほどよく脂肪が乗ってて、いかにも柔らかそうな寅次郎の腹をモフれるという誘惑には勝てず、
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」
そう言いながら、そろそろと手を伸ばす。
そして、もう少しで寅次郎の腹に生えた白い毛皮に掌が触れ――、
「シャアアアアアアアア――ッ!」
「痛ってえ!」
――ようとする寸前、さっきまでかなみさんに見せていたデレデレな態度から豹変した寅次郎に爪で引っかかれ、俺は慌てて手を引っ込めた。
「痛てててて……」
手の甲を見ると、引っかかれた爪の痕が赤い三本の真っ直ぐな線になって、くっきりと残っている。あ……これ、今はそれほどじゃなくても、後でじわじわ痛くなってくるやつだ。
「だ、大丈夫ですか、三枝さんッ!」
それを見たかなみさんが、慌てた様子で声を上げる。
そんな彼女に、俺はじんじんと痛む手の甲をもう一方の手で擦りながら苦笑いした。
「あ、大丈夫っす。ハジさんにもたまにやられるんで、引っかかれるのは慣れっこっす」
「で、でも……ばい菌が入っちゃったら大変ですよ!」
かなみさんは心配そうな顔をしながらそう言うと、俺の元に屈み込んで手を伸ばす。
「引っかかれたところを見せて下さい! 応急処置くらいはしとかないと……」
「え……? あ、いや、大丈夫で……」
俺の言葉も構わず、彼女は躊躇無く俺の手を取った。
「あひゃん……っ!」
突然のかなみさんの行動に驚き、俺は思わず変な声を上げる。
「あ、ごめんなさい……痛かったですか?」
「あっ、いえ……だ、大丈夫です……」
気遣うかなみさんの声に慌てて首を横に振った俺は、ドギマギしながら手を委ねた。
「うわぁ……引っかかれたところがみみずばれになっちゃってますね……痛そう……」
「い、いえ……」
俺の手の甲を覗き込みながら心配するかなみさんに、俺はぎこちなく首を横に振る。
そして、掌から伝わる彼女の指の温もりと柔らかさに恍惚としながら、夢見心地で答えた。
「と……とても……気持ちいいデス……」
「……えっ?」
「あ! い、いえ、何でもないっス!」
思わず本音を漏らしてしまった俺は、慌てて首を左右に振ってごまかすのだった……。
思いがけないかなみさんの姿を、猫たちに踏みつぶされた格好で見上げながら、俺はポカンと口を開け、目をパチクリと瞬かせた。
「あ、あの……ど、どうして、こんな所に……?」
「あ、え、えーとですね……」
俺の問いかけに、かなみさんは恥ずかしそうに頬を掻く。
――と、その時、
「みゃあう!」
「ふみゅううう」
「にゃあ!」
俺の体の上で好き勝手に暴れていた三匹の猫が、三者三様の鳴き声を上げた。
「ん……? ど、どうした、お前た……痛っ!」
急に鳴き始めた猫たちを訝しんで上げた俺の声は、途中で短い悲鳴に変わる。背の上に乗っていた猫たちが、急に勢いをつけて地面へと飛び降りたからだ。
背中を踏み台代わりにされた俺は、その反動でアスファルトの地面の上に額を打ちつける。
「痛たたた……って、そんな事より!」
ぶつけた額を擦りながら、俺は慌てて顔を上げ、かなみさんの方に涙の滲んだ目を向けた。
そして、尻尾を高々と上げた三匹の猫たちに取り囲まれるかなみさんの姿を見て、ハッと息を呑む。
「か、かなみさんっ! 危ない――!」
さっきの自分のように彼女が猫たちに襲われると思った俺は、上ずった声で注意を促した。
そして、彼女に向かって爛々と目を輝かせる猫たちに声を荒げる。
「お、お前ら、やめろ! かなみさんには――!」
――だが、そんな俺の叫びなどお構いなしで、猫たちは一斉にかなみさんへ向けて地面を蹴った。
「わあああ! やめろ、バカ猫ども! だ、大丈夫ですか、かなみさ――」
「う……」
「お、おい、お前ら! 早くかなみさんから離れ――」
「うふ、うふふふ……あはははは! こらこら、くすぐったいってばぁ~」
「……ん?」
猫たちに飛び掛かられたかなみさんの口から上がった笑い声に、てっきり悲鳴が上がるかと思っていた俺は思わず首を傾げる。
「だ、大丈夫なんですか? ひ、引っ掻かれたり噛まれたりしてませんか?」
「え? 引っ掻かれたり噛まれたり? ……いや、全然大丈夫ですけ……うふふふ! ダメだってぇ、脚を舐めちゃ。君たちの舌はザラザラしてるんだから、舐められると何だかこしょばゆいんだってば!」
「……へ?」
俺は、なぜか楽しそうなかなみさんの返事に戸惑いながら、彼女の脚元に目を遣った。
「……は?」
そして、かなみさんが穿いている膝丈のスカートから覗くすらりとした脚に尻尾を絡みつかせるように体を擦りつけ、上機嫌でゴロゴロと喉を鳴らしている猫たちの姿を見て、ポカンと口を開ける。
「た……確かに大丈夫みたいっすね……」
「はい! 猫ちゃんたち、みんなとっても人懐っこくてかわいいんですよ~」
呆気にとられながらの俺の言葉に、かなみさんは満面の笑みを浮かべて頷いた。
そして、少し腰をかがめて猫たちの頭を優しく撫でる。
猫たちは、頭を撫でられると気持ちよさそうに目を細め、そのままゴロンと地面の上に仰向けに転がると、腹を無防備に晒した。
「うふふ、ほら、コチョコチョコチョ~!」
「みゃあああああ~う♪」
「ほれほれ~!」
「ぐるるるるみゃあああん♪」
リクエストに応えるようにかなみさんが十兵衛とルリ子さんの腹を撫でてあげると、彼らは嬉しそうに身を捩らせながら歓喜の声を上げる。
……完全な“甘えモード”だ。
さっきまでの、俺に対する敵意剥き出しの態度とは正反対もいいところ……。
「――三枝さんもどうですか? 猫ちゃんたちのお腹、フワフワして気持ちいいですよ」
「あ、そ、そうっすか……?」
かなみさんに誘われて、俺は少し逡巡したが、ほどよく脂肪が乗ってて、いかにも柔らかそうな寅次郎の腹をモフれるという誘惑には勝てず、
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」
そう言いながら、そろそろと手を伸ばす。
そして、もう少しで寅次郎の腹に生えた白い毛皮に掌が触れ――、
「シャアアアアアアアア――ッ!」
「痛ってえ!」
――ようとする寸前、さっきまでかなみさんに見せていたデレデレな態度から豹変した寅次郎に爪で引っかかれ、俺は慌てて手を引っ込めた。
「痛てててて……」
手の甲を見ると、引っかかれた爪の痕が赤い三本の真っ直ぐな線になって、くっきりと残っている。あ……これ、今はそれほどじゃなくても、後でじわじわ痛くなってくるやつだ。
「だ、大丈夫ですか、三枝さんッ!」
それを見たかなみさんが、慌てた様子で声を上げる。
そんな彼女に、俺はじんじんと痛む手の甲をもう一方の手で擦りながら苦笑いした。
「あ、大丈夫っす。ハジさんにもたまにやられるんで、引っかかれるのは慣れっこっす」
「で、でも……ばい菌が入っちゃったら大変ですよ!」
かなみさんは心配そうな顔をしながらそう言うと、俺の元に屈み込んで手を伸ばす。
「引っかかれたところを見せて下さい! 応急処置くらいはしとかないと……」
「え……? あ、いや、大丈夫で……」
俺の言葉も構わず、彼女は躊躇無く俺の手を取った。
「あひゃん……っ!」
突然のかなみさんの行動に驚き、俺は思わず変な声を上げる。
「あ、ごめんなさい……痛かったですか?」
「あっ、いえ……だ、大丈夫です……」
気遣うかなみさんの声に慌てて首を横に振った俺は、ドギマギしながら手を委ねた。
「うわぁ……引っかかれたところがみみずばれになっちゃってますね……痛そう……」
「い、いえ……」
俺の手の甲を覗き込みながら心配するかなみさんに、俺はぎこちなく首を横に振る。
そして、掌から伝わる彼女の指の温もりと柔らかさに恍惚としながら、夢見心地で答えた。
「と……とても……気持ちいいデス……」
「……えっ?」
「あ! い、いえ、何でもないっス!」
思わず本音を漏らしてしまった俺は、慌てて首を左右に振ってごまかすのだった……。
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