病弱令嬢の戦略

二合 富由美(ふあい ふゆみ)

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13 蜥蜴の尻尾

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 暗殺ギルドのガズズ(ガーランド)の提案は、どうやら功を奏したようで、奴隷商人は街道から外れた廃村で野盗と会っていた。
 野盗は幾つかの班に別れていた様で、集合には何日か掛かるらしいと報告が有ったのだ。

 ただ、都合が悪い事に【御嬢様】が到着するまでには間に合わない様子だ。

「どうする?先に取り引きが終わってしまうぞ」
「主要な人間だけ『殺さない』でおけば、良いんじゃないか?生きているザコに用は無いだろう?」
「そうだな。先に【御嬢様】に連絡を入れてから、首領と仲買人だけ縛りつけておけば大丈夫だろう」

 そう暗殺ギルドでは決まって、バルド邸にガズズが走って行った。
 奴隷取引の現場には、他の暗殺ギルドチームが馬を飛ばしている。

 その日の昼食後、エリーシアは父親を驚かせる頼み事をした。

「御父様、御母様の実家に行ってみたいのですけど?」
「それは日帰りは無理じゃないか?」
「マリアナも一緒ですし、気の知れた者も同行させます。身体もかなり丈夫になっていましたから、そろそろ外泊にも慣れはじめませんと」

 エリーシアに言われた言葉に、父親であるフェラルドは難色を示した。
 最近は馬車で出歩ける様になったと聞いているが、ついこの間まで寝た切りの娘だったのだ。無理をさせたくはなかった。

「御主人様、成人式には国王陛下への謁見に加えて社交界も有り、王都のタウンハウスに外泊する事にもなります。それまでには何回か身内の所に移動と外泊をさせて、慣れる事が必要ては?私も同行致しますので」
「オーベル先生も、この様に仰っていますので」

 主治医のオーベルと、メイド長のマリアナに言われフェラルドは渋い顔で頷いた。

「では、我も一緒に・・・」
「旦那様、業務が滞ってしまいます。外出は御遠慮ください」
「・・・・・・・・」

 侍従長ダニエルの制止に、フェラルドはデスクに頭をぶつけざるを得なかった。

 権力者とは、意外と事由の無い者なのだ。
 行きたい所に行けず、やりたい事ができない。
 交遊関係も限定されてしまうし、嫌な奴でも一緒に食事をしなくてはならない事もある。

 底辺の者は、高みに昇れば何でもできると妄想しがちだが、実際には逆なのだ。

 数日後、【エリーシア】を乗せた馬車の隊列はバルド邸を後にして、母セリナの実家へと向かった。


◆◆◆◆◆


「こんなに急がせて大丈夫なのか?【病弱】なんだろう?」

 その頃、とある地方領へ走る急行馬車と数騎の馬があった。

「へばっても良いから、急げとの御達しだ」
「それは【御嬢様】の話か?【馬】の話か?」
「両方だそうだ」

 急行馬車の馬は、一定距離ごとに交換されて速度を保つ。
 その馬車に乗っていた者こそエリーシア本人だった。

「実家に向かったマリアナ達は大丈夫かしら?」
「喋ると舌を噛みますよ。先方はエリーシア様のお顔を知りませんし、替玉のララーシャも居ますので問題ないかと。ただ、婿養子候補の二人も同行させましたがよろしかったのですか?」
「体調保全の為に、到着までは誰にも会わない様に言ってあるから大丈夫でしょ。到着してからは考えも有るから、この馬車を急がせているのよ」
「お考えが有るのでしたらよろしいのですが・・・」

 父親に外泊の許可をとった当日に、エリーシアは既に旅立っていた。
 顔を見せると無理矢理にでもついて来るからと、侍従長にはフェラルドの箱詰めを頼んだので、替玉も問題なく旅立てたのだ。

 その甲斐あって、暗殺ギルドの報告から数日後には目的地に近づいていた。

「馬車で寝るなんて、初めての体験だわ」
「その為に馬車の中はソファだらけでございますが、揺れは致し方ありませんわね」

 付添いはシンシアだ。
 既にエリーシアの食事やトイレの世話まで修得している。
 基本的に貴族のトイレは、箱型のトイレに慣れていなくてはならないので、馬車に積み込む事もできる。
 貴族と言えども毎日は入浴せず、濡らしたタオルで髪や体を拭く程度だ。
 馬の交換をする時に、廃棄や補給等を行った。

「【影】や【暗殺ギルド】の者は大丈夫なの?」
「彼等は二三日休まなくとも死にはしません。交代ではありますが数人は別の馬車で寝ています。現地にはギルドの先発隊も居ますから」

 エリーシアに同行している者は、道中の安全さえ確保できれば、現地で寝込んでしまっても問題ない様に準備されていたのだ。

 そうやって到着した現地には、死臭が漂っていた。
 遺体は全て埋めようかとの話もあったのだが、【確認したい】というエリーシアの意に添う為に、生首だけは残していた為だ。

 奴隷達は拐われた者も含めて、皆を解放した。
 中には口減らしの為に売られた者も居たので、数人が途方にくれて残っていたが。

「随分と悲惨な状況ね」
「仕方ないでしょ!逃げられてしまうんですから」

 奴隷には食事を与えられていたが、野盗の首領と仲買人は縛られ、猿ぐつわをされたまま放置していたので、排泄した汚物まみれとなっていたからだ。
 加えて血まみれの頭が並び、これを【悲惨】と言わずしてどうしようか?

 【御嬢様】が到着した事により首領と仲買人は、ようやく猿ぐつわを外された。

「テメエ等、こんな事をしてどうなるか、分かってるんだろうな?俺等の後ろには御偉いさんが付いてるんだぞ。賞金稼ぎ風情でどうにかなると思ってるのか?」

 数日の放置に、くたびれながらも首領が睨みつけながら叫び、仲買人も口角を上げた。
 人拐いは村長から通報され、一応は捜査依頼が出ていたので賞金稼ぎと判断したのだろう。

 馬車は平民用だし、エリーシアはフードをかぶったまま後ろに控えているので、首領達には認識されていない。
 今の所は【賞金稼ぎの増援が来た】くらいにしか思われてはいなかった。

「それはおっかないな!御詫びに行きたいが、どちらの御方なんだい?」
「御貴族様だぞ!名前なんて口にできるか!知れば殺されるし、言えば俺も殺されるからな」

 なかなか口を割りそうにはない。

「それでは『言うから殺してくれ』と懇願するまで、可愛がってやろうかのう?」

 そう口にしながら、エリーシアが前に出てきた。
 羽織っているコートには、バルド・ノウルの紋章が刺繍されている。

「まさか、バルドなのか?いや、本物か?」
クス伯爵バルド公爵。どちらの名を騙り、どちらの名を隠す方がヤバイか理解できるよな?」

 コートの主が小柄な為に疑った首領だが、ガズズの言葉に本物だと言う核心をもった。

「済まない。貴族の後ろ楯が有るのは本当らしいが、俺は名前までは知らないんだ。本当だ」
「私もです。幾つかの野盗が話を聞いて拐い、一人の名も知らぬ盗賊に利益を渡しているだけです」
「今さら、知らぬ存ぜぬで通らぬじゃろう?その身体に真偽を問い質すだけじゃ」

 首領達の告白に、エリーシアの対応は厳しかった。

 【影】達の詰問。いや、拷問は無言で続いた。

 先ずは首領に再び猿ぐつわをされ、手足の末端から針を一本づつ刺していき、グリグリと掻き回しては、塩や辛子を刷り込んでいく。
 悲鳴を上げて気絶や麻痺をしだすと、覚醒剤の様な薬を少量射って痛みを再発させる。
 目は血走り叫びすぎで声は枯れ、貧血で青ざめて手足がミンチになった頃には精神がボロボロになっていた。

「本当は知ってるんだろう?まだ喋るなよ。もう少し楽しませろよな」

 野盗達の為に強行軍でろくに寝ずにやって来た彼等は、かなりのストレスが溜まっていた様だ。
 また、【影】の後発増援が到着まで起きていなくてはならないので、眠気覚ましなのかも知れない。

 ソレを見させられていた仲買人も、青ざめて震えている。

「ほ、本当に知らない、知ら・・・・」

 脊髄を下から順に針で刺していくと、ついにはピクリとも動かなくなった。
 ガズズが呆れた顔で【影】達を見ている。

「コイツは、本当に知らなかった様だな」
「私も本当に、本当に知らないんです、許して下さい」

 首領がコト切れたのを見て、仲買人も悲鳴に近く叫んだ。

「いや、お前は他の野盗や貴族に繋がる男を知っているだろう?この男の様な最後を迎えたくなかったら、我々の指示通りにしろ」
「わ、分かりました。何でもしますから」

 ガズズ達は仲買人に同行し、次の野盗との合流先へと向かう事になった。

「結局は【蜥蜴の尻尾切り】じゃったのう?その貴族の名が分かるまで、ソナタ等に任せるゆえ、善きに計らえ」
「承知いたしました」
「任されたぜ、【御嬢様】よ」

 【影】とガズズがめいを受け、エリーシアは報告待ちにする事となった。

「とんだ無駄足になってしもうたわ」

 口元をハンカチで覆いながら、エリーシアは馬車に戻るのだった。
    
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