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二章
8、神社への道
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山道の下で、俺たちは荷車を降りた。
そこからは坂道を歩いて登る。参道だから石段になっているが。雨で濡れた石段には腐った葉がへばりついて、たいそう滑りやすい。
傘を差すことは出来ないので、二人して合羽に身を包む。
俺はお嬢さんの手を引いて、神社へと続く石段を登って行った。
二人とも無言で。いつまでもこの階段が続けばええと俺も、多分お嬢さんも思とった。
けど、手に手を取って逃げることが出来なかったのは、周囲の景色にこの地の現状を思い知らされたからや。
木々が倒れて山道を塞ぎ、俺はそれをまたいでから、お嬢さんを抱え上げて移動させた。
「ひどい……土砂崩れがあったのね」
お嬢さんの視線の先を見ると、少し離れた山が何筋も抉れていた。
巨大な化け物が爪で引っ掻いたみたいに、緑の山のあちこちから赤土が覗いとう。
その下にある集落に達するぎりぎりの所で、土砂やなぎ倒された木は止まっとうみたいやけど。
このまま雨が降り続いたら、もっと酷いことになる。
生贄やなんて、時代錯誤も甚だしいと思とったけど。多分、これはぎりぎりの選択やったんやろ。
俺は覚悟を決めた。
いや、旦那さまの話を聞いてから、心に秘めとったことや。
こっちももうぎりぎりなんや。
◇◇◇
足場の悪い参道を進み、わたくしは息が上がり、石段から外れて山道の脇の木の幹に背をもたれさせました。
その時です。
ぐらりと木が揺れたと思うと、根元を覆っていた土の塊が斜面を落ちていったの。
「え? きゃあ」
「お嬢さんっ」
濡れた合羽の裾が翻り、わたくしは慌てて静生に手を伸ばします。
足下の土はゆるく、さらに体を持っていかれます。
「しっかり掴まってください」
そう声を上げると、静生はわたくしの手首を掴みました。片手だけでわたくしの体を引き上げて、そして抱きしめてくれたの。
「怪我はないですか?」
「え、ええ」
「それなら良かったです」
小さい頃から静生に担がれたり、腕に抱えてもらったりしたことはあるけれど。こんな風に真正面から抱きしめられるのは、本当に数えるほど。
合羽や服を通しても、彼の心臓の鼓動が聞こえてきて。
わたくしは逞しいその胸に、そっと手を添えました。
好きよ……こんなにも。
ねぇ、あなたも同じ気持ちでいてくれるのでしょう?
長い石段を登り、最終的には疲れ果てたわたくしは静生に手を引いてもらって神社へとたどり着きました。
そこはとても寂しい処で。色褪せた鳥居は、かつては朱色だった名残が少しある程度。
鳥居の前で一礼して、境内に入ると。まるで異界のように感じられました。
降り続く雨の所為なのか、或いは山の陰になっているからなのか。辺りには色がなく、水墨画で描いたような景色です。
聞こえるのは、ただ玉砂利と木々の葉を打つ雨の音ばかり。
静生に手を引かれて奥へ進むと、ぬっと黒い影が出て来ました。
「お待ちしておりました、山藤のお嬢さま」
わたくし達の前に現れたのは、和傘を差したお若い神職の方でした。
浅葱色の袴だから、宮司ではなく禰宜でしょう。
その男性は「遠い所をお疲れでしたでしょう。ゆっくりお休みください」と声を掛けてくださいますが。わたくしとも静生とも目を合わせようとなさいません。
「儀式はいつなんですか?」
「これはまた唐突ですね」
男性は苦い笑みを浮かべました。
ええ、挨拶もそこそこですもの。唐突で性急よ。でもわたくし達は遊びに来たわけでもないし、お参りに来たわけでもないの。
儀式は崖から突き落とされるのか、或いは埋められるのか分からないし、誰が手を下すのかも知らないけれど。どのみちこの神社の誰かが、わたくしを殺すのでしょう?
そして人身御供だから、お咎めもなしで。そう、人を一人殺しても何の罪悪感もなく、生きていけるのね。
そんな人達に、どうして愛想よくご挨拶なんてできて?
差しかけられた傘を、わたくしは手で払いのけました。
そこからは坂道を歩いて登る。参道だから石段になっているが。雨で濡れた石段には腐った葉がへばりついて、たいそう滑りやすい。
傘を差すことは出来ないので、二人して合羽に身を包む。
俺はお嬢さんの手を引いて、神社へと続く石段を登って行った。
二人とも無言で。いつまでもこの階段が続けばええと俺も、多分お嬢さんも思とった。
けど、手に手を取って逃げることが出来なかったのは、周囲の景色にこの地の現状を思い知らされたからや。
木々が倒れて山道を塞ぎ、俺はそれをまたいでから、お嬢さんを抱え上げて移動させた。
「ひどい……土砂崩れがあったのね」
お嬢さんの視線の先を見ると、少し離れた山が何筋も抉れていた。
巨大な化け物が爪で引っ掻いたみたいに、緑の山のあちこちから赤土が覗いとう。
その下にある集落に達するぎりぎりの所で、土砂やなぎ倒された木は止まっとうみたいやけど。
このまま雨が降り続いたら、もっと酷いことになる。
生贄やなんて、時代錯誤も甚だしいと思とったけど。多分、これはぎりぎりの選択やったんやろ。
俺は覚悟を決めた。
いや、旦那さまの話を聞いてから、心に秘めとったことや。
こっちももうぎりぎりなんや。
◇◇◇
足場の悪い参道を進み、わたくしは息が上がり、石段から外れて山道の脇の木の幹に背をもたれさせました。
その時です。
ぐらりと木が揺れたと思うと、根元を覆っていた土の塊が斜面を落ちていったの。
「え? きゃあ」
「お嬢さんっ」
濡れた合羽の裾が翻り、わたくしは慌てて静生に手を伸ばします。
足下の土はゆるく、さらに体を持っていかれます。
「しっかり掴まってください」
そう声を上げると、静生はわたくしの手首を掴みました。片手だけでわたくしの体を引き上げて、そして抱きしめてくれたの。
「怪我はないですか?」
「え、ええ」
「それなら良かったです」
小さい頃から静生に担がれたり、腕に抱えてもらったりしたことはあるけれど。こんな風に真正面から抱きしめられるのは、本当に数えるほど。
合羽や服を通しても、彼の心臓の鼓動が聞こえてきて。
わたくしは逞しいその胸に、そっと手を添えました。
好きよ……こんなにも。
ねぇ、あなたも同じ気持ちでいてくれるのでしょう?
長い石段を登り、最終的には疲れ果てたわたくしは静生に手を引いてもらって神社へとたどり着きました。
そこはとても寂しい処で。色褪せた鳥居は、かつては朱色だった名残が少しある程度。
鳥居の前で一礼して、境内に入ると。まるで異界のように感じられました。
降り続く雨の所為なのか、或いは山の陰になっているからなのか。辺りには色がなく、水墨画で描いたような景色です。
聞こえるのは、ただ玉砂利と木々の葉を打つ雨の音ばかり。
静生に手を引かれて奥へ進むと、ぬっと黒い影が出て来ました。
「お待ちしておりました、山藤のお嬢さま」
わたくし達の前に現れたのは、和傘を差したお若い神職の方でした。
浅葱色の袴だから、宮司ではなく禰宜でしょう。
その男性は「遠い所をお疲れでしたでしょう。ゆっくりお休みください」と声を掛けてくださいますが。わたくしとも静生とも目を合わせようとなさいません。
「儀式はいつなんですか?」
「これはまた唐突ですね」
男性は苦い笑みを浮かべました。
ええ、挨拶もそこそこですもの。唐突で性急よ。でもわたくし達は遊びに来たわけでもないし、お参りに来たわけでもないの。
儀式は崖から突き落とされるのか、或いは埋められるのか分からないし、誰が手を下すのかも知らないけれど。どのみちこの神社の誰かが、わたくしを殺すのでしょう?
そして人身御供だから、お咎めもなしで。そう、人を一人殺しても何の罪悪感もなく、生きていけるのね。
そんな人達に、どうして愛想よくご挨拶なんてできて?
差しかけられた傘を、わたくしは手で払いのけました。
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